生徒会の庶務   作:高坂遼

16 / 46
揺らぐ生徒会③

 二人のあいだに緊迫した空気が漂う。僕は思わず、唾をゴクリと飲み込んだ。

 しばらくの沈黙を経て・・・戦端を開いたのは紅葉先輩だった。そのトレードマークとも言うべき長い黒髪を手で梳き、満を持して彼女が反撃を開始する!

 

「並行世界より、時間跳躍の方が個人的に好みの展開です、先生」

「むむ。それは盲点だった。グッジョブだぞ、紅葉」

『何の話だぁああああああ!』

 

僕らは思わず全力でツッコンだ。二人はキョトンとしながら僕たちを見ている。

 

「なに騒いでるの、キー君、クッキー君。私はただ、満を持してSF談義に乗り出しただけだというのに・・・」

「そうだぞ杉崎、楠木。水を差すな」

「水も差したくなりますよ!なんでいきなりSF談義なんて初めてんですか!」

「今、生徒会存亡の危機なんですよねぇ!?真儀瑠先生VS現生徒会メンバーっていう構図なんですよねぇ!?」

「いや、杉崎。そこは、真儀瑠紗鳥VSモスラの方が良くないか?」

「何がですか!?」

「いえいえ、真儀瑠先生。そこはやっぱり、キー君VSアンブ○ラ社の方が・・・」

「知弦さんまで何言ってんの!?俺、バイオ○ザードの次回作主人公じゃないよ!?」

「あら、そう?なら、クッキー君VSイ・○ーの方がいいかしら?」

「僕は武偵じゃありませんよ!?」

「む、待てよ?紅葉よ、生徒会長VSメカ生徒会長も捨てがたいぞ」

「私をメカ化してどうするの!?」

「いえいえ、真儀瑠先生。それならば、深夏VS角川という手も」

「なんであたしだけリアル企業相手!?しかも立場上圧倒的に分が悪りぃ!」

「じゃあ、それでいこう、紅葉。決定」

「しかも決定した!一番やばそうな相手との対戦カードが決定した!」 

 

 ・・・さっきまでの緊迫した空気はあっさりと消え去ってしまい、何故か深夏さんが追い込まれていた。・・・うん、カオスだ。どうしようもなくカオスだ。真冬ちゃんのように気絶していればどれほど楽だっただろうか。別に僕は常にピリピリした空気の中で行きたいわけではないが、できれば今だけはシリアスな空気が欲しかった。

 この空気をどうにかしたかったので、鍵の方を見ると、何やら考え始めていた。「俺がツッコミ側に回ってるのが間違ってる」とか、「暴走するほうが楽なのか」とか聞こえているが、何を考えているのか全く理解できない。そして、何かを悟ったかのように突然、口を開いた。

 

「ふふふ・・・。真儀瑠先生、知弦さん、深夏VS角川より、真冬ちゃんVS・・・」

「さて、真儀瑠先生。この生徒会の存続のことですが・・・」

「紅葉よ。私は譲る気はないぞ」

「貴女に譲る気がなくても、譲ってもらいます。私には・・・ここしかないんですから」

「ふ・・・怖い目だな、紅葉。しかし、どんなに反抗的な目をしたところで、現状は変わるまい」

「それはどうでしょうかね、真儀瑠先生。こちらには・・・まだ、切り札があります」

「なんだと?」

 

 ・・・いきなりシリアスな空気が流れ始めていた。・・・いや、さっき欲しいって言ったけどさ、なにもこんな超展開な勢いでやらくても・・・。鍵の方を見ると椅子の上で体育座りのしながら微妙に泣いていた。・・・気にかけようにもこのいきなり漂い始めたシリアスな空気の中ではどうすることもできず・・・ただ無視していた。・・・別に声かけるのが面倒なわけじゃないぞ?

あまりにも急なシリアス展開にも関わらず、どういうわけか皆揃って・・・さっきまで気絶していたはずの真冬ちゃんも含めて・・・シリアスな表情に変化していた。・・・あれ、ついていけてない僕たちがおかしいのか?なんて言うか・・・すごい蚊帳の外だ。

 

「真儀瑠先生。確かに教師の力はとても大きいです。校長の許可も得ていて、更にPTAをも味方につけるとなれば、私達だけではとても対抗できない」

「だろうな」

「しかし先生。先生は学校の本質を忘れていませんか?」

「本質?」

「そうです。学校はあくまで『生徒のもの』です。そして、現生徒会・・・私達は、自分で言うのもなんですが、その『生徒達』に大変な支持を得ている」

「・・・なるほどな」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 紅葉先輩と真儀瑠先生の戦いをおとなしく聞いていたところ、突然会長が割り込んできた。あまりにも重たい空気が少し弛緩し、幾分か緊張の糸が緩むが、会長は一体何の要件で割り込んできたのだろうか?

 

「二人だけ分かった風にしてないで、私達にもちゃんと説明してよ!」

「え、待ってください会長。『私達』って言ってますけど、俺は、意味わかってますよ?」

「え、え?」

「あたしもちゃんと察してるぜ?」

「み、深夏も?」

「真冬も、ちゃんと知弦さんの主張は分かりました」

「え、え、えぇ?」

 

 僕は何も言わないが、勿論紅葉先輩の言いたいことは理解している。それが分かったからか、一度僕の方を見たあと、会長はすっかり困り果てていた。

 

「分かってないのは、アカちゃんだけのようね」

「うっ!」

 

 そこに紅葉先輩が止めをさしに来た。会長は一瞬動揺するも、すぐに体制を取り直し、

 

「と、当然私も分かってるわよ?だ、だけど、ほら、杉崎達が分からないままじゃ可哀想かなーって思っただけで」

「でも、キー君達もちゃんと分かっていたみたいだけど?」

「そ、そうね」

「じゃあ、解説しないで話進めていいかしら、アカちゃん」

「・・・え、ええ」

 

 会長が目をそらす。・・・全く、分からないなら分からないとはっきり言ってくれればいいものの・・・。ふと、真儀瑠先生を見ると、先生も会長を見つめて恍惚とした表情になっていた。・・・やっぱりこの人もSか。この生徒会には所謂「美人系」って呼ばれる人は皆Sなのか。

仕方ないので、僕が助け舟を出すことにする。

 

「はは、会長は心配しすぎですよ」

「く、楠木?」

「真儀瑠先生がいくら権力を振りかざしてこようとも、生徒達自身の反発・・・まあ、例えて言うならば生徒たちの過半数の署名でも集めてしまえば、学校としても無視することはできない、ってことくらいすぐに理解できますよ。まあ、会長ほどすぐではないかもしれませんけどね」

「なるほどっ!・・・って、も、勿論理解できたけどね!」

 

 ・・・まあ、こんなところでいいだろうか?紅葉先輩にアイコンタクトを送る。すると紅葉先輩から了承した、って感じの視線が帰ってきたので、僕は再び真儀瑠先生の方を向き、話を元に戻す。

 

「いいぞ、紅葉知弦。私に真っ向から対抗するのではなく、後に逆転を狙う方にこの短時間で思考を切り替えたことは、評価に値する」

「それはどうも。内申書に書いて下さると光栄ですね」

「うむ。『紅葉知弦は油断ならない。気をつけろ』と書いてやろう」

「光栄です」

 

 光栄なんですか!そんな内申書でいいんですか!とツッコミたい気持ちはあったが、当の本人は何も言わずにサラリと流したし、状況的に他人が口を出すのが難しかったので、黙っておいた。

 

「しかしだな、紅葉。それは結局この場は退く、という選択を取るということだ。私は今日にもこの生徒会を解散させるが、その後署名活動をしようとなれば、逆転するのにもそれなりに時間がかかるだろう。その間、『新生徒会』が何もせずにただ黙っているだけだとても思っているのか?」

「・・・」

 

 真儀瑠先生の言葉に紅葉先輩が黙り込む。会長は今回も首を傾げていた。また理解できてない様子だ。仕方ないので、また僕が整理する。

 

「つまり、新生徒会は発足したらすぐに、生徒達からの支持を取れるような魅力的なパフォーマンスを行い、僕たちの署名活動の妨害をすると同時に生徒達の心を掴みにかかる・・・そう言いたいんですね、真儀瑠先生」

「ははぁ、なるほど・・・」

 

 ・・・会長・・・。取り敢えず、真儀瑠先生の方を向きながらではあったが会長に対する説明をしておいた。なんとか会長も理解してくれたようだった。

真儀瑠先生は僕の方に視線を向けた。

 

「そうだ、楠木。現生徒会の強さが『生徒達からの圧倒的支持』であることは、私の最初から重々理解しているからな。新生徒会を発足させただけで、油断すると思ったらそれは間違いだ。むしろ、そのままの勢いを利用して、お前達を叩きにかかるだろう」

「・・・僕たちに勝ち目は微塵にも無い、と?」

「そうは言わないさ。私はただの人間だ。神でもなければ超能力者でもない。想定外のことだっていずれは起こるだろう。『ば、馬鹿な・・・私が、この私が負けるはずがぁぁぁぁぁ!』と絶叫して消滅する日も、いずれはくるかもしれない」

「どこのラスボスですかっ!」

「だが、自信を問われれば、『確実に勝てる自信がある』とだけは言っておこう。私の見解では、現生徒会は今日で終わりだ」

『・・・』

 

 僕達は紅葉先輩に視線を送る。紅葉先輩は首を横に振っていた。今の言葉に対する否定の意ではない。これ以上は反論できない、そんな合図に見えた。

 生徒会を覆う絶望的な空気に、流石の会長も状況を察したのか、おとなしくしていた。

 ・・・別に全く勝てない相手ではないだろう。今の段階なら、署名活動をすれば、きっとかなりの生徒たちが支持してくれるだろう。だが・・・この先生のことだ。きっと僕たちを解散したあと明日から・・・いや、下手したら今日からでも、一気に活動を始めることだろう。

 ・・・?あれ、そういえば、新しい生徒会って散々言ってたけど、その基準は何だ?真儀瑠先生が言うには、先生は臨時の教師として、つい最近入ってきたらしい。それは裏返せば、この学校に来てからまだ日が浅いということだ。ということは、評価の基準もそれなりに絞られる。なら、その少ない基準のどれをとって生徒会役員を決めるつもりだ?

僕は今考えたことを聞いてみる。すると、

 

「確かに楠木の言いたいこともわからなくはない。私は外様だからな。だれか親しい人間がこの学校にいるわけでもない以上、生徒の情報として知っているのは精々成績に関する事と他の先生の評価くらいしかない。それだけで決めるとなれば、当然間違いが出てくる可能性も否めない」

 

「だが、自分で言うのもなんだが、人を見る目には十分自信はある。そして、そうやって判断した人間の情報を知るくらいなら、そんなに時間がかかることもあるまい。もし仮にそれによる障害が出たとしても、それならその人間を切り捨てて他に適当そうな人間を探して改めて生徒会を編成すればいいだけの話だ。なんら支障はないと私は判断している。」

 

「それに、私はお前達が思っている以上にお前達のことを知っているつもりだ」

「・・・それは、どう言う意味ですか?」

「そのままの意味さ。私はいろいろ情報を持っている、ということだよ。」

 

 ・・・最後の言葉はよく理解できないが、本人がこれほど自信があるのなら、間違いないのだろう。

 そして、非常に厄介だったのは、この人なら・・・この人なら、間違いなく、この学校をより良い方向に持ってけるだろう、と僕が思ってしまっていたことだった。僕たちがこの生徒会を解散することは、単なるワガママでしかない、そう思ってしまっていることだった。

 

「さて、もう反論はないのかな?」

 

 今度は少しつまらなさそうに言う真儀瑠先生に対し、会長と深夏さんが少しだけ何か言おうとしていたが・・・何も言わずにただ無言で時間が過ぎ去った。

先生は僕らの顔をもう一度じっくりと眺めると、「最後に」と僕達に問いかけてきた。

 

「お前達はなぜ今の生徒会を守りたい?」

「え?」

 

会長が顔を上げる。先生は視線を会長に定めた。

 

「桜野。お前は、何のために、この生徒会にこだわったんだ」

「そ、それは・・・」

 

 会長は僕達を順番に見ていく。紅葉先輩から始まり、鍵、深夏さん、真冬ちゃん、そして僕。全員を見て・・・そして、その全員が会長にきちんと目を合わせた。

会長は全てを受け入れた後・・・吹っ切れたかのような表情で先生の方に向き直り、そして穏やかな表情でこう告げた。

 

「ごめんなさい、先生」

「?何がだ?」

「私達、本当は学校のことなんて二の次、三の次だったみたいです」

「ほう。そんなこと言ってもいいのか?」

「いいんです。事実だもの」

「生徒会を・・・大事なものを守ることを、諦めたのか?」

「いいえ。生徒会を明け渡すのは残念だけど・・・一番大事なものは、たとえ私達が生徒会じゃなくても失われないんだって、やっと、気付いたから」

「・・・参考までに。それは、何か訊いていいか?」

 

真儀瑠先生の問いに対し、会長はもう一回僕らを見た後、満面の笑みでこういった。

 

「今日の私の名言は、薄っぺらくないってこと」

 

 その言葉に・・・真儀瑠先生は一瞬キョトンとした後、何かに気づいたように「そうか」と頷いた後、快活に笑った。・・・こんな時だっていうのに、僕たちも笑っていた。

 

・・・そうして。

 

この日。生徒会は解散した。

 

 

 

 

 

---------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 僕は真儀瑠先生を探していた。あのあと、真儀瑠先生は「よし、新生徒会は私好みに染めてやるー!」と言いながら出て行ってしまった。生徒会・・・いや、元生徒会役員達は、あの後少しだけ・・・生徒会室ではなく、校門でだが・・・・話し合ってから解散した。僕は、あの時の先生の言っていたことが気になっていた。「僕たちが思っている以上に僕達の事をよく知っている」・・・それは、一体どういうことなんだろう?

 

「うん?どうした、楠木?まだ私に用があったのか?」

「ええ。どうしても知りたいことがあったので・・・」

「何だ?私のスリーサイズか?それとも私の好みか?」

「鍵じゃあるまいし・・・そんな事わざわざ聞きに来たりしませんよ」

「ふ、まあ、そうだな」

 

鍵が非道い言われようではあったが、別に否定できるわけではないので無視する。

 

「僕が聞きたいのは、勿論・・・」

「私がお前達以上にお前達のことをよく知っている、といったアレか?」

「そうです」

 

真儀瑠先生は「ふむ・・・」と少し考え込んだあと

 

「あの時も言ったが、そのままの意味だ。私はお前達が互いに知らない『自分達自身』のことを知っている、という意味だ」

「・・・例えば?」

「・・・本当に色々だ。お前のその『眼』の事や・・・」

 

真儀瑠先生は一拍おいてから

 

「お前のその『傷』の事もな」

「っ!?」

 

 僕は驚いた。僕はこの『傷』の事は眼の事以上にバレないように隠してきたはずなのに・・・どうして、この学校に来て数日しか経ってないこの人が知ってるんだ・・・?

 

「・・・お前は何故逃げている?」

「なっ!?」

「私からしてみれば、今のお前は周りから逃げながら生活しているようにしか見えない。周りの人間と合わせるフリをして、その実他人をそれとなく避けている。そういう風に私には見える」

「そ、そんな事!」

「本当にそうか?なら、何故お前はその過去を人に喋ることを怖がっているんだ?」

「そ、それは・・・」

「お前が、桜野が言ってた『友情』の輪に入っているのだとしたら・・・別に話しても問題無いだろう?まあ、話さないにしても、それを必要以上に隠す理由なんてどこにもない」

「う・・・」

「お前は怖いんだろう?『また』人に拒絶されることが」

「・・・言わないで下さい」

「?」

「それ以上、言わないで下さい!」

「ほう」

「僕は・・・この学校で、変わりたいって思ったんです。もう、過去から目を逸らしたくないって決めたんです。だから、家を出て、ここに来たんです。それを否定することは・・・たとえ誰でも、許したくありません」

「許して貰おうだなんて思っていない。私はただ、私が思ったことを言っただけだ。」

「・・・」

「さて、これで終わりか?私も少し忙しくてね、あまり長い間話していられない。済まないがな」

「・・・もう十分です。すみませんでした・・・」

 

僕はそう言って先生から離れていった。

 

 ・・・僕がまだ、逃げている・・・?そんなことない、絶対に。僕は・・・ただ、僕の罪に対する罰と贖罪を探している。ただ・・・それだけなんだ。逃げるなんてこと・・・絶対にしてない。

そうは思いながらも、先生の言葉が離れず・・・気づいたら家のベットで横になっていた。

 

「・・・明日からどうしようかな・・・」

 

僕は、そうつぶやき・・・そのまま眠ってしまった。

 

その日見た夢は・・・なんだか、とても懐かしく・・・とても寂しい感じのする夢だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。