翌日。僕は何故か生徒会室にいた。いや、僕ではないか。正しくは「僕達」だ。
「はあ、全く。どういうつもりなのかしらね、真儀瑠先生は」
「帰り際に急に『生徒会室の掃除するから集まれ』ですからね。まあ、『立つ鳥あとを濁さず』って言いますし、自分達で出したゴミとかくらいは自分達で掃除しろ、っていうことですかね」
「だろうな」
そう、この生徒会室には今、会長・・・いや、今は桜野先輩と言うべきだろうか・・・と鍵が居るのだ。僕を含め三人とも、昨日までの定位置に座っていた。
「そういえば、深夏もなんか担任に呼ばれてたような・・・。真儀瑠先生がやりそうなことだ」
「そうね」
「・・・」
「?どうした、柊」
「あ、いや、なんでもない」
「そうか」
鍵と会話しながら・・・僕は昨日真儀瑠先生から言われた事を思い返していた。・・・逃げている、か・・・。僕はそんなつもりはない。けど・・・周りから見た僕は本当に「逃げていないように見える」のだろうか?いや、そもそも、本当に「逃げてない」と僕は言い切れるんだろうか?・・・分からない。なんであれだけのことで僕はこれほどまでに動揺してしまっているんだろうか?
「あ、深夏ー!やっほー!」
ふと桜野先輩の言葉に意識を現実に戻し、後ろを向くと、深夏さんがドアから入ってきていた。桜野先輩はすぐに立ち上がり、深夏さんに駆け寄っていく。鍵は何故か凹んでいるが、一体どうしたというのだろうか?
「あれ?会長さんと柊と鍵もいるのか?」
「真儀瑠先生に『掃除しろ』って呼ばれてね」
「へぇ・・・。ま、先生だしな。有り得なくはねぇか」
そうやって深夏さんも交えて会話をしていると、やがて真冬ちゃんも紅葉先輩もこの生徒会室にやってきて、昨日解散したはずの生徒会が勢揃いしていた。
真冬ちゃんは「真冬は感動ですぅー」と言い、生徒会室にいる僕たちを見ながらなんだか泣き始めてしまっていた。
一方、紅葉先輩は逆にそんなに驚いていなかった。どうやら、この状況をある程度予想していたようだ。とはいえ、まあ、なんとなくではあるが、表情は少し柔らかく感じた。
そうこうしながら、僕達はいつものように雑談をしながら、自分達の近況報告(まあ、解散して一日程度しか経ってないけど)をしていた。それが一段落した頃、ようやく真儀瑠先生がやってきた。人を呼び出しておいたくせに、20分も遅刻している。まあ、真儀瑠先生だしなぁ、と思った僕はきっと間違っていないはずだ。
「いやぁ、すまなかった。職員室からここに来るまで、妙にエンカウントが多くてな・・・」
「一体、何と戦って来たんですか・・・」
「生徒。わんさかいた」
「生徒を蹴散らして来ないで下さい!どんな先生ですかっ!」
「三年B組、無双先生」
「生徒達相手に無双しないで下さい!」
「仕方ないから、人の海を割ってきた」
「モーゼかっ!あんた、何しにここに来たんだっ!」
「勿論授業をしに来たに決まっているだろう。初めてこの学校で授業したんだが、今回の授業を受けた奴らは、他のクラスの生徒の五十倍は強くなっただろう。バ○テスでいうなれば、一日でFクラスからAクラスに行けるようになる程度だ」
「あなたはこの学校をどうするつもりですか!?」
「ゆくゆくは独立国家として自立させたいと思っている」
「何のためにっ!」
「えー、カレシのためっていうかぁー」
「そんなギャルみたいな動機で独立国家なんざ立ち上げないでくださいっ!」
「ま、本音はさて置き」
「冗談じゃなかった!」
本当なんなんだこの人。なんでこんな人が教員免許とれたんだ。人材としては優秀だろうが、人格に問題がありすぎる。
先生は昨日と同じく、僕の隣に座る。そして、ノートパソコンを机に置くと、次回の授業に使うためのものであろうプリントの作成を始めていた。・・・そういうのって生徒の前でやってもいいものなんだろうか。
その後、こちらを見ることなく、テキトーな感じで命令してきた。
「じゃ、そういう訳で掃除しろー、新生徒会の諸君ー」
「何がそういう訳ですか、ったく。掃除すればいいんでしょう」
僕がそう言いながら立ち上がると、皆も同様に立ち上がり椅子を畳んで壁に寄せる。ロッカーから箒や雑巾をだし、そのまま掃除を開始し・・・ん?
『・・・・』
皆の動きが一斉に止まる。はて、今この人は何と言ってただろうか?妙なワードが聞こえてきたような気がするが・・・。
取り敢えず、代表して鍵が先生に訪ねていた。
「え、ええと・・・真儀瑠先生?」
「何だ?」
真儀瑠先生はパソコンから目を離さず、購買で買ってきたであろうあんぱんを食しながら、鍵に聞き返していた。
「あ、あの・・・さっきの言葉、もう一度言ってもらえませんか?」
「ん?なんだっけか?ああ『杉崎・・・好きだ』だったか?」
「そんな嬉しい告白受けた覚えは有りませんよ!」
「ふむ。じゃあ・・・ああ、あれか。『問おう、貴方が私のマスターか?』」
「先生はいつからサーヴァントになったんですかっ!」
「すまんすまん。やっと思い出した。『まったく、小学生は最高だぜ!』だったな」
「それはむしろ鍵が言う台詞でしょう!っていうか違います!」
「さりげにひでぇ!」
「掃除しろって言ったやつのことですよ!」
「?その言葉がどうかしたか?」
「その後・・・俺たちのこと、なんて言いましたか?」
「新生徒会の諸君」
『・・・・・』
あまりにもサラッと言われたので、また聞き違いかと思い、今度は僕が訊ねる。
「ええと・・・?」
「だから、新生徒会の諸君」
「え、ええと・・・それって俺達のことですか?」
「そうだが?詳しく言えば、会長・桜野くりむ、書記・紅葉知弦、副会長・杉崎鍵、同じく副会長・椎名深夏、会計・椎名真冬、庶務・楠木柊。以上六名のことだ」
『・・・』
全員で、また顔を見合わせる。紅葉先輩ですら、驚いた表情だった。
完全に動揺した様子で、真冬ちゃんが訪ねた。
「えと、それって、つまり・・・。その、真冬達は、これからも生徒会役員って・・・ことですか?」
「?それ以外に斬新な受け取り方があるのか?」
「でも、生徒会は解散したって昨日・・・」
「ああ、解散したな。昨日までの生徒会は。今日からは、私の基準で選ばれたものによる、新たな生徒会だっ!」
「い、いや、だって生徒会は新しく編成するんじゃあ・・・」
「おかしな事を言うな、椎名(姉)は。これが、私が私の基準で編成した生徒会だぞ。だから今日呼び出したんじゃないか」
「ちょ、ちょっと整理させて下さい。ええと・・・つまり、旧メンバーと全く同じメンバーが、新生徒会メンバーに選出されたと?」
「驚くべき偶然だ」
「・・・貴女って人は・・・」
紅葉先輩が珍しく手玉にとられていた。
そういえば、昨日の話で新しいメンバー選出に関して情報が少なかろうが何ら影響はないって言ってたけど・・・まさかこういう意味だとはな・・・。
「えと・・・つまり、私達はこれからも・・・」
「生徒会だな。だからこそ今日、新生徒会の最初の仕事として、掃除を命令したんじゃないか。なんだと思ってたんだ?もぐもぐ」
先生は暢気にあんぱんを頬張っている。
『・・・・・』
再び全員で顔を見合わせる。そうしながら、黙考する。それを続けた結果。取り敢えず出たみんな共通であろう一つの結論。それは。
『人をからかうのもいい加減にしろぉ(して下さいっ)ーーーーーーー!』
「う、うわっ!なんだお前ら!あ、こら!あんぱん返せ!って全員でそのまま分けるなっ!そして食うなっ!こらぁ!」
こうしてこの日。
マイペースすぎる顧問を一人加え、新生徒会が発足したのだった。
あんぱんの甘味を感じながら思う。
この物語は・・・はたしてめでたしでいいんだろうか?と・・・。