生徒会の庶務   作:高坂遼

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私の生徒会①

「自分自身を信じなさい!さすれば道は開かれん!」

 

いつも通り会長が偉そうにどこかの本の受け売りを披露する。・・・しかし、今回の名言は・・・

 

「・・・なんか最近、名言が軽く宗教じみてきたわね・・・」

「あ、同感です」

「う・・・い、いいじゃない、宗教!威厳が出てきた証よ!」

「・・・いいけど」

 

 宗教の名言を用いることで威厳が出てくるのだったら「威厳」とやらは相当軽いものに違いない。

とはいえ、僕も椎名姉妹も鍵も紅葉先輩も会長の名言如きで人生を変えられることなんて間違っても起こり得ないことなので、スルーすることにした。

会長は仕切り直すようにこほんと咳払いをし、本題に入ろうとする。

 

「そんなわけで、今日は・・・」

 

<♪~ 呼び出しのお知らせです。三年A組、桜野くりむさん。同じく三年A組、紅葉知弦さん。真儀瑠先生がお探しです。至急、職員室までーーー>

 

 会長が議題を切り出そうとした瞬間に校内放送が流れた。繰り返しの放送を聞きながら、紅葉先輩が「ふむ」と席を立ち上がる。会長の方も嘆息しながら席を離れた。

 

「なんかあの顧問、いつもタイミングが悪いわね・・・。狙ってるんじゃないかしら」

「まあまあ、気持ちは分かりますが抑えてくださいよ、会長」

「そうですよ。紅葉先輩と会長が呼ばれたってことは、多分生徒会関連の何かなんでしょうね」

「だったら自分から生徒会室来いよ、って気もするけどな」

「で、でもわざわざ呼び出すあたりが、真冬は、真儀瑠先生らしいと思います」

「・・・はぁ」

 

 話の腰を折られたからか、はたまた移動するのが面倒なのか(まあおそらく両方であろうが)会長がやる気無さげに肩を落とした。しかし、そんな会長を紅葉先輩が手を引っ張って、僕達に一声かけてから生徒会室を出て行った。

 扉が閉まった後、生徒会室に残ってるのは、僕、鍵、椎名姉妹と普段あまり見ない組み合わせになった。真冬ちゃん抜きでならそこまで珍しくもないが、生徒会室でとなるとやはり珍しいかもしれない。

 

「しかし、一体なんなんだろうな?生徒会にようなら、それこそ生徒会に来ればいいだけの話じゃねーか?呼び出すにしても、なんで二人だけなんだ?」

「うーん・・・一応、二人は三年生だし、代表者って意味じゃないかな?」

「まあ、俺もそれが妥当だと思うけどね」

「だな・・・。なんだかんだ言ってこの生徒会の中での最上級学年だし」

「・・・なんか納得いかねー」

 

 深夏さんが少しムスっとしているが、まあ、分からなくもない。この生徒会は仲間感覚が少し普通よりも強い。だから、グループ分けされることはあまり面白いことではない。生徒会に関する情報ならば、特定の人にだけ、って感じではなく、皆で共用したい。そういう風に皆思っているのだ。

 

「それはさて置き、議題も発表されてないし、俺達が今することは特に・・・」

 

鍵がそう仕切り直そうとすると

 

<ガラガラガラ!>

 

「おー、作戦通りだな。しめしめ」

 

『・・・・』

 

 ・・・そこにいたのは真儀瑠先生だった。相変わらず唐突に、そして会話を分断するように入ってきた。狙ってやってるのだろうか?まあ、答えは本人のみぞ知る、だが。

先生は上手の会長の席に座ると、僕たちを一瞥する。

 

「おや、どうした諸君。まるでゴキブリホイホイにかかって足掻いているティラノザウルスでも見たような顔をして」

「どんな顔ですかっ!いや、って言うか、なんでここに居るんですか、真儀瑠先生!」

「顧問だからな。生徒会室には来るぞ」

「いや、そういうことを聞いてるんではなくてですね・・・。さっき、職員室に会長と紅葉先輩を呼び出してたじゃないですか」

「ああ、呼び出したな」

「じゃあなんでここに居るんですか!」

「すっぽかした」

「・・・何やってんですか、本当」

 

・・・まったく。相変わらず行動パターンが読めないお人だ。

ようやく事情を把握したのか、「おいおい!」と深夏さんが突っかかった。

 

「ちょっと待て!なんでそんな地味な嫌がらせをしてんだよ!」

「派手な嫌がらせの方が椎名(姉)は好みか?」

「そういう問題じゃねー!そもそも嫌らせをすんな!」

 

 ヒートアップする深夏さんを真冬ちゃんが「まあまあ」と宥める。しかし、思っていることは同じなようで、少し顔をしかめながら真儀瑠先生に訊ねる。

 

「でも、どうしてこんなことを?」

「面白いからだ」

「えーーー」

「冗談だ。そんなに軽蔑するような目で見るな、椎名(妹)」

「そ、そうですよね。曲がりなりにも先生ですしね」

「うむ。曲がりなりにも先生だぞ、私は」

「なんで偉そうなんですか、先生・・・」

「よし、椎名(妹)。お前が妹キャラであることに免じて、本当のワケを話そう」

「なんで妹だと免じられるのかが分かりませんけど・・・聞きます」

「私が桜野と紅葉を職員室に呼び出し、すっぽかした本当の理由。それは・・・」

「それは・・・?」

 

 ・・・どうせ大した理由じゃないだろう。だが、場の空気がなんとなくこの状況を重いものへと変えていく。

真儀瑠先生はたっぷり間をおいた後、口を開いた。

 

「彼女らが生徒会室に不在の間に、更なる嫌がらせをここで行うためだ!」

 

「よし、教育委員会に通報しよう、真冬ちゃん」

「はい」

 

 僕は真冬ちゃんと連携して、即座に携帯で教育委員会に連絡しようとしたが、素早い動きで真儀瑠先生に携帯を没収されてしまった。・・・やっぱり大したことじゃなかったな・・・。

深夏さんが最早呆れた様子で先生に訊ねる。

 

「なんなんだよ、一体・・・」

「うむ。つまりだな。生徒会宛に手紙が届いたんだが、それを二人が居ない間に晒してやろうと思ったのだ」

「手紙?」

 

 真儀瑠先生はポケットから封筒を取り出す。そこらへんにありそうな簡素で地味な封筒だ。宛先も名前も何一つ書かれていない。

 

「ああ、中身の便箋だけ移し替えてきたんだ。実際はもっと可愛らしい、女の子っぽい封筒に入っていたぞ」

「はぁ」

「・・・ようするに、生徒会に手紙が来たと」

「そうだ」

「で、それは、会長や知弦さんには内緒で俺達に見せたほうが、真儀瑠先生的には面白いと」

「理解が早い子は好きだぞ、私は」

 

 そういうと鍵の頭を撫でる先生。・・・鼻の下を伸ばしてる場合じゃないぞ、鍵・・・。鍵もそれに気づいたのか、場を変えるように咳をしながら訊ねる。

 

「こ、こほん!ええと・・・それで、具体的に誰宛の手紙なんです?あ、分かった。俺へのラブレターでしょう?」

「おお、察しがいいな、杉崎」

「マジですか!」

「おいおい、マジかよ・・・」

「うむ。じゃあ、読むぞ。『アカちゃんへ』」

「俺宛じゃねーーーー!なんで一瞬期待させたんですか!」

「私の、趣味は、嫌がらせ、です」

「なんですかその英文を英語の出来ない日本人が訳した時みたいな言い回し」

「そして、ダニエルの好物は、ママのミートパイです」

「知りませんよ!ダニエルのことなんかどうでもいいですよ!」

「ダニエルの趣味は、自分の口内の画像を、ブログで晒すことです」

「えらくダニエル歪んでますね。一体何のために・・・」

「まあ、そんなわけで、杉崎じゃなくて彼女宛の手紙だ」

「どんな訳か分かりませんよ!」

「当人には勿論、親友の居る前で晒そうとすると、止められるおそれがあったからな。二人には罠にかかって貰った。よし、じゃあ、読むぞ」

 

 先生は早速封筒を切って中身を取り出す。しかし、真冬ちゃんが「ま、待ってください!」と制止した。

 

「そ、そんな、勝手に他人の手紙を読むなんて・・・」

「本当に本人以外に読まれたくないなら、当の本人宛に送ればいいこと。しかし、この手紙は『生徒会室』宛に届いたものだ。少なくとも、顧問の私や、メンバーのお前らにも、読む権利はあるんじゃないか?」

「そ、それは・・・そうかもしれないですけど・・・。でも、アカちゃん・・・つまり、会長さん宛っぽいですし、やっぱり、当人に渡すべき・・・」

「椎名(妹)。それに、杉崎、楠木、そして椎名(姉)も。よく聞け」

『はい?』

「彼女を『アカちゃん』と呼ぶほど親しい友人からの手紙。隠された彼女の過去と交友関係。当人宛てじゃなく生徒会に宛てる謎。そして何より、彼女の弱点とも今後なりうるべき情報がたっぷり含まれていそうな分厚い便箋。・・・さて、諸君。本当に、内容を聞きたくないのかね?今なら『生徒会宛てだったし、当人がいなかったから、中身を確認しちゃいました』という、素晴らしい免罪符付き」

『・・・』

 

 ・・・僕の答えはとうに出ている。後は皆次第だ。それに・・・この手紙、なんか違和感がある。この手紙は本当に会長宛てなのか?確かにこの生徒会で『アカちゃん』って呼ばれてるのは会長だけだけども・・・。

僕を除いた椎名姉妹と鍵は、三人で顔を見合わせること数秒。

 

『真儀瑠先生が無理矢理朗読するのを、俺(あたし、真冬)達は、本当に頑張って止めたけど、阻止できませんでした』

 

と、怪しく微笑みながら言った。・・・なら、僕の取る行動は一つだ。

僕は椅子から立ち上がり、ドアに手をかけながら言う。

 

「なら僕は退席します」

「なんだ、楠木は聞きたくないのか?」

「僕はそういうの好きじゃないんです。見たければみなさんでご勝手にやって下さい。どうなっても僕は知りませんから」

「そうか、なら仕方ないな」

「ええ、仕方ないですね。では」

 

そういうと、僕はドアを開けて生徒会室から出て行った。

 

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side 杉崎鍵

 

 柊が生徒会室を出ていく姿を見て、俺と椎名姉妹は驚いていた。柊が先生に向けていた目は・・・かなり冷たいものだった。感情が読めない目とでも言えばいいのだろうか?とにかく、俺達はさっきまでの事なんか忘れてドアをずっと見ていた。

 

「ふむ。一人減ってしまったがまあいい。それじゃあ、読むとしよう」

「あ、ええと・・・真儀瑠先生」

「なんだ、杉崎」

「さっきああ言っておいてなんですけど・・・。本当にいいんですかね、これ」

「さっきも言っただろう?今なら免罪符付きで他人の弱点となりうる過去を知れるんだぞ?」

「いや・・・そうなんだけどさ・・・。なんかアイツの姿見たら、急に罪悪感が復活してきて・・・」

「気にするな、椎名(姉)。楠木は昔のことが原因で今回の事に反対するだろうとなんとなく予想してたからな」

「昔のこと・・・ですか?」

「そうだ。楠木が昔不良だったって話は聞いただろう?そのキッカケとなった話題のことで、本人がいない所であらぬ噂を幾つも作られて地元の街での評価は最低だったって話だからな。こういった行動を嫌うのも無理はあるまい」

『・・・』

 

 ・・・俺も昔、二股のことで色々とよくない噂をされたことがあった。校内ではよくあらぬ事を言われて理不尽な目にあったことも少なくない。でも、それは精々学校の中程度だったし、俺は・・・正直、そんなのどうでもいいと思っていた頃だった。

 それに比べてアイツは・・・どうだったのだろう?学校だけに留まらずどこでも腫れ物のような扱いをされて、誰からも理解されない中で過ごすことは・・・一体どれほどの苦痛を伴うことだったのだろう?

俺には分からない。分かったとしてもきっと理解なんて出来なかっただろう。

 

「まあいい。早く読まないと帰ってきてしまうかもしれないからな。早く読むことにしよう」

 

そう言うと、真儀瑠先生は便箋を開いて読み始めた。

 

・・・俺達は、ただ黙ってそれを聞き始めた。

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