生徒会の庶務   作:高坂遼

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私の生徒会②

「・・・・」

 

 僕は廊下を歩いていた。真儀瑠先生は本当に僕を揺さぶってくる人だ。あの言い回しだと僕がそういう事を嫌ってるのを知ってのことだろう。他人の過去を当人が知らないところで晒すなんていい趣味だとは僕は思わない。そんなことして一体何が楽しんだろうか?それによって傷つく人間がいることを分かっているのだろうか?

 ・・・冷静にならなきゃいけないことは分かっている。けど分かっていてもそのことを納得できるかは別だ。こういう事を納得しろって言われたって僕には到底無理なことだ。だって・・・

 

「あれ、楠木じゃない?どうしたの、こんなところで」

「あ、会長・・・」

 

 フラフラと歩いていると、会長に遭遇した。紅葉先輩も一緒にいる。いつの間にか一階へ来ていたらしい。

 

「会長こそどうしたんですか?先生のところへ行ってたんじゃないんですか?」

「そうよ!なのに、真儀瑠先生30分待っても全然来ないのよ!本当、人を呼び出しておいて何やってるのかしら!」

 

 まあ、そりゃ先生は今生徒会室で嫌がらせしてるんだから職員室には来ないだろう。会長が怒るのも分かる。

 

「まあ、そんなわけだから今から生徒会室に戻ろうと思ってたのだけれど・・・クッキー君はどうしてこっちに来たのかしら?」

「あ、ええと・・・」

 

 その時、僕の中にあの手紙に関して一つの考えが浮かんだ。もしかしたら・・・

僕はそれを確認するために紅葉先輩に話しかける。

 

「実は紅葉先輩に話があって・・・」

「私に?」

「ええ。どうしても聞きたいことがあったので・・・」

「それは生徒会室じゃダメなことなのかしら?」

 

 それを聞いたとき、ちょっとばかり答えに詰まった。確かに今聞こうとしている事は別に生徒会室でも構わないことだろう。今聞かなきゃいけないことではない。とはいえ、今戻るわけにはいかないのも事実で・・・。仕方なく、僕は適当な理由を言う事にした。

 

「ええと・・・どうしても二人で話したいことだったんで・・・」

 

 言ってからひどく恥ずかしくなった。おい、これじゃまるで今から告白しようとしてるみたいじゃないか。何考えてんだよ、僕。

紅葉先輩は動揺している僕を見て少し笑った後

 

「分かったわ。私も丁度クッキー君と二人で話したいことがあったしね」

「はい?」

 

 紅葉先輩が僕と二人で話したいこと?一体何だろう?普通なら男女二人が一緒に話をしているシーンと言うと、告白ムード漂う状況になるが、生憎僕にはそんな気はないし、紅葉先輩を見る限り向こうもそういった感じには見えない。

 

「というわけだから、アカちゃん。悪いけど先に戻ってくれるかしら?」

「えー。一体どういう話しするつもりよ、二人で」

「あら、男女が二人きりで話したいことなんてあまり多くないんじゃないの?例えば・・・」

「ちょ、ちょっと楠木!まさかあんたまで杉崎みたいなことするつもりなの!?」

「誤解です!そんなんじゃありませんよ!僕を鍵と一緒にしないでください!」

 

 僕は必死に弁解する。鍵みたいな人間になりたいと前に思ったことはあるが、同列に見られるのは流石に遠慮したい。許せ鍵。

 

「ふふ。冗談よ、アカちゃん。ただ、二人で話したいってクッキー君も言ってるし、お願いできないかしら?」

「・・・わかったわよ。すぐに戻ってくるのよ」

 

そう言うと、会長は階段を登っていった。・・・さて。

 

「えっと、じゃあ・・・あっちで話しましょうか」

「そう?私はどこでもいいわよ」

 

そう言うと、僕達は二人で静かに話せそうな場所へ移動した。

 

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「どうぞ、先輩」

「いいの?」

「こういう時は男子が女子に奢るのは当然だと思いますよ」

「発言がどんどんキー君っぽくなってるわよ、クッキー君」

「止めてださいよ・・・。このくらいはむしろやるべきですよ・・・。僕が誘ったっていうのもありますし」

 

 僕はラウンジにある自動販売機で僕と紅葉先輩の分の飲み物を買い、そばにある椅子に座る。

 

「それで?話っていうのはなにかしら?まさか本当に告白とか?」

「だったらよかったんですけどね。でも、違います」

「それじゃあ、何かの相談とかかしら?」

「いや、それも違います。ええと、話っていうか、ただ単純に聞きたいことがあるだけだったんで・・・」

 

 そう言って、僕は買った飲み物を一口啜る。そうやって喉を潤してから本題に入る。

 

「あの・・・先輩ってもしかして、昔『アカちゃん』って呼ばれてませんでした?」

 

そう言うと、その言葉に少し驚いたのか、目を丸くしてから答える。

 

「あら?その事、話したかしら?ええ、確かに私、中学時代の頃のあだ名は『アカちゃん』だったのよ。といっても、宮代奏・・・ある友人しか使ってなかったけどね」

 

・・・やっぱり、そうだったのか・・・。

 

「どうしてクッキー君はその事知ってるのかしら?私、話した記憶はないのだけれど・・・」

「・・・実は、生徒会室宛てに手紙が来たんですよ」

「手紙?」

「ええ。真儀瑠先生が会長の弱みを握るため、って言って会長と紅葉先輩を職員室に呼び出して話をしている間に生徒会室で生徒会宛て・・・正確には『アカちゃん』宛てに届いた手紙を読もうとしてましたよ」

「・・・」

「でも、僕は会長のことを『アカちゃん』って呼ぶ人間に心当たりはありませんし、過去にそういうあだ名で呼ばれてたって話も聞いたことありませんでしたからね。他にこの生徒会で『アカちゃん』って呼ばれそうなのは紅葉先輩くらいしかいないから、って思って聞いたんですけど・・・どうやら当たりみたいですね」

「・・・そう、奏から・・・」

 

 どうやら紅葉先輩にはその「奏」という人物と何かあったようだ。だけど、僕はそれを自分から聞くつもりは全くない。それじゃあ、好奇心で手紙を読んでる今生徒会室に居るメンバーとやってることが全く一緒だ。

 

「あのですね。僕は紅葉先輩の過去を無理に聞こうと思ってるわけじゃありません。ただ、貴女宛に手紙が来たってことを言おうと思ってただけです。別に会長がいても問題はありませんでしたけど・・・なんとなく先輩と二人で話をしたかったんで」

 

そう言うと、先輩はまた少し驚いてから・・・微笑みながら話をする。

 

「あら、クッキー君は私の過去に興味ないのかしら?」

「・・・正直な話、あまりありませんね。過去は過去ですから。起こった出来事を聞いて同情したり蔑んだりするのは簡単でしょう。でも、そんなことしても何か変わるわけじゃありません。それに・・・」

「それに?」

「過去のことをネタにして話をするのが僕は嫌いなんです。過去のことが原因で現在で辛い目に合わなきゃいけない道理なんてありませんから」

 

 ・・・火の無いところに煙は立たぬ、って言うけど、火元なんてなんだっていいのだ。その人のした些細なこと、あるいはその人の傷・・・要するに過去のちょっとした事件等、火元になりそうな出来事があったら、例え今現在はそんなことしてなくても周りの人間はその元の方しか見なくなる。そして、今現在の自分の立場をその「元」でつくった大きな火で焼き尽くすのだ。過去にそういった事をしたのが悪いというのなら、生まれてから死ぬまでの間に何もしなかった人間なんて一体居るんだろうか?僕はそうは思わない。人間誰だって過去に傷を負ったことはあるはずだ。ただ、それが分かる物か分らない物かの違いでしかない。なのに、そうした事実を一方的に攻めるのはそいつの心が他人を傷つけても何も思わない最低な人間だからだろう。僕は一度経験したからこそ・・・そうした人間にはなりたくなかった。

 

「・・・そう。クッキー君は強いのね」

「強い・・・ですか?」

「ええ。分かっていてもそれを実行できる人間なんて少数よ。多数の人間は有言不実行だもの。言うは易く行うは難しってね」

「・・・そうでしょうかね」

 

 僕は自分の過去のせいで傷ついてきたから今はこうやって言えるだろう。だけど・・・もし、自分の過去に何もなく、平凡な人生だとしても果たして同じことが言えただろうか?・・・いや、無理だっただろう。こんなこと、経験しないと分からない。そして、こんなこと、経験したいと思う人間なんてこの世にはいない。

 

「・・・それじゃあ、取り敢えず生徒会室に戻りましょうか」

「え?」

「そろそろその手紙も読み終わってる頃でしょうから」

「で、でも・・・」

「ふふ。大丈夫よ、クッキー君。私は・・・もう大丈夫だから。過去を吹っ切れたとは言わないけど、それでも、過去を受け入れて前へ進もうとしてるから」

「・・・分かりました。それじゃあ、戻りましょうか」

 

 僕はまだ飲み残していた飲み物を一気に飲み干してから先輩と一緒に生徒会室に戻る。

 ・・・過去を受け入れて前へ進む、か・・・。僕は・・・やはりまだ出来てないのだろうか?過去と向き合って生きようと決意したのに・・・まだ過去を怖がっているのだろうか?・・・だとしたら僕はどうしようもない奴だ。前を向くこともできず・・・後ろを振り返ることもできず・・・ただ突っ立ってるだけなんだから。

 

「ああ、クッキー君」

「はい?どうかしましたか」

「忘れてたのだけど、はい、コレ」

 

紅葉先輩はそう言いながらポケットから手紙を取り出すと、僕に渡してきた。

 

「コレは?」

「真儀瑠先生の机の上に置いてあったのよ。多分、私のと同じように後で読むつもりだったのかもね」

「・・・僕宛てなんですか?」

「ええ、そうだと思うわよ。宛先こそ私のと同じ生徒会室宛てだったけどね。でも、裏側にクッキー君の名前が書かれてたわよ?」

 

 そう言われて、裏を見る。確かに、僕の名前が書かれていた。・・・僕に手紙を送ってくる人間に心当たりがなかった。しかも、僕の家宛てではなく、生徒会室あてにだ。一体誰からだろう?

 僕はその手紙を取り出して一番上を見て・・・足を止めた。そこには・・・見ることももうないだろうと思っていた名前が二つ書いてあった・・・。

 

「・・・椿・・・明凛・・・」

 

僕はそこに書かれていた名前を呟いた・・・。

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