side 紅葉知弦
私達は今、ラウンジを出て生徒会室へ向かう階段を上っている。
え、なんで今回はクッキー君視点じゃ無いのかって?それは、さっきからクッキー君がずっと下を見て何か考え事してるようで、何か喋っても反応が全く無いから、それじゃ面白くないということで今回は私、紅葉知弦がお送りすることにしたの。・・・まあ、私も奏からの手紙について気にはなってるけれどね。
それにしても、クッキー君はさっき私が渡した手紙を見てからずっと何か考え込んでいるみたいね。一番最初だけしか見てなかったようだけれど、一体どんな内容の手紙だったのかしら?興味がないと言えば嘘になるけど、聞いても答えてくれなさそうだし、何よりクッキー君自身が話そうという気になるまでは私もその事を聞く気はないけれどね。
それにしても、と私は思う。今年の生徒会は、予想外な事が本当に多いと思う。<優良枠>を使った人間が生徒会にいることもそうだし、それがかつてあったことのあるキー君やクッキー君だったのだから尚更ね。え、クッキー君と私は会った事のない設定だって?それは後で話すことにしましょうかね。と言っても、私が一方的にクッキー君の事を知ってただけで、言葉を交わしたことは無いのだけれども。それ以外にも、私たちと会議・・・まあ、この名称を使うのは色々な人に失礼かもしれないけれど、とにかく会議で喋る時間を増やすためにキー君達が勝手に雑務を引き受けたりとか、数えてたらキリが無いくらいね。
ただ、これらのことには一つの共通点があると私は思っている。
それは、その中心にはキー君かクッキー君。あるいは両方が居るということ。
勿論、その中には私を含め、他の生徒会役員たちの姿もちゃんとある。でも、中心は間違いなく彼ら二人。いつ、どんな空気でも彼らはそういったことをひっくるめて楽しくしてくれる。だから、私達も会議を楽しく遂行できる。彼らには色々なことを言ってるけど、正直な私の心を言うと、とても感謝している。でも、私はそれを口には出さない。言わなくたってきっと彼らは分かっているだろうし、言ったって彼らはとぼけるだけだろう。だって、彼らはそのために残っているって自分から言った事なんてないのだから。
さて、話すこともあまりなくなってきたし、皆が気になっていたクッキー君を初めて見たときのことでも語りましょうかしら。と言っても、大したことじゃあないんだけれどね。
あれは、そう。キー君と保健室で初めて会った時の少しあとだったかしら。
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「ふう・・・」
私は生徒会室へ向かって歩いていた。いつもならもう生徒会室で会議の準備をしている頃なのだけれども、今日は会長に頼まれて結構な数の書類をかなり遠い事務室へ持っていかなければならなかったのだ。本来なら向こうから取りに来てしかるべきものなのだけれども、文句ばかり言ってられないものね。
そんな訳で私は今一階の階段の手前にいるのだけれど・・・
「あら?」
階段のそばで見知った顔を見る。深夏がダンボールを担いで階段を登ろうとしていた。これだけだったら特に何も思わなかったかもしれないけれども、今日は少し違っていた。
「あれは・・・誰かしら?」
深夏のそばには一人、男子がいたのだ。しかも、深夏と一緒にダンボールを持っている。深夏はその男子に向かって何か言ってるようだけど・・・その男子はその話を聞かずに階段を上って行ってしまった。深夏もため息を付きながらそれに続いていった。
・・・何と言えばいいのか、非常に珍しい光景ね。あの男嫌いの深夏が、どういうわけなのかは知らないけれども、男子と一緒にいたのだから。いや、別にいることくらいは普通なのかもしれないけれども、ああやって積極的に会話している所は見たことが無かった。
それにしても、彼は何者なのかしら?少なくとも生徒会員ではない。あんなに目立つ銀髪の人がいたら名前を覚えているだろうし、そもそも今年の生徒会には男子は在籍していない。だとするなら・・・図書委員かしら?深夏が運んでいたのも図書館に関する物だったはずだし・・・。後で深夏に聞いてみようかしら。
・・・別にたまたま見た人の事なんて別に気にする必要なんて無いと思う私も確かにいたが、それでも気になってしまった。・・・今にして思えば、彼も私達と同じ境遇だったことがあった事をなんとなく気づいたから・・・なのかもしれないわね。考えすぎかもしれないけれど・・・そう思うのもきっとありなんじゃないか、と思う私だった。
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「ねえ、深夏」
「ん?知弦さん?」
私はその後、会議が終了してから深夏に話しかけた。
「何か用か?」
「いえ、少し聞きたいことがあっただけ」
「聞きたいこと?何だよ?」
「今日、深夏が荷物を運んでいる時に一緒にいた人のことなのだけれど・・・」
「・・・ああ、アイツのことか」
「知り合いなの?」
「そんな深い仲じゃないさ。ただ、前に一回部活の助っ人で一緒になっただけ」
「でも、彼深夏の手伝いしてたわよね?たったそれだけの仲なのにどうして・・・」
「さあな・・・私にも分かんねぇ。本人が言うには『気になったから助けた』らしいけど・・・意味わかんないよなぁ」
「へぇ・・・」
その事を聞いて、私は更に気になった。その彼は・・・なんといえば良いのだろうか、前に保健室で会ったことのあるキー君と重なって感じたのだ。二人共、一つの目標(願い)のために、ひたすら走っているように感じたのだ。
「ねえ、名前はなんて言うの?」
「え?えーと・・・楠木柊って言ってたかな・・・」
「楠木柊・・・」
・・・キー君こと杉崎鍵君。そして、楠木柊・・・そうね、クッキー君ってあだ名がいいかしら。
その二人の事を知ってから、なんとなくではあったけれど、こう思っていた。
「来年はもしかしたら今以上に面白いことになるかもしれない」、と。
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・・・これで、私がクッキー君を知った時の話は終わり。これ以降も、時々深夏を助けるクッキー君を見たりキー君の噂を聞いたりはしていたけど・・・まさか、二人揃って生徒会に入るなんてね。流石に想像してなかったわ。
ふと、後ろのクッキー君を見る。さっきまでずっと下を見ていたが、今は取り敢えず手紙に関する考えを止めたのか、前をむいて生徒会室がある廊下を歩いていた。
「?どうかしましたか、紅葉先輩」
「ああ、大したことじゃないわ。ただ、昔を少し思い出していただけ」
「?」
意味がわからなかったのか、首をかしげるクッキー君と、今生徒会室できっと罪悪感を感じているだろうキー君達を思って、改めて感じる。
今年の生徒会は、本当に最高だ、と。
そう思いながら、私は生徒会室のドアを開けた。