生徒会の庶務   作:高坂遼

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食事する生徒会

「生活の基盤は食!食なのよ!」

 

会長がいつも通りに名言を言う。

・・・いや、でも、これって・・・。

 

「会長・・・名言、ネタ切れしました?」

「うぐ」

 

これはもう名言とは違うんじゃないかと思ったので、ツッコンでみた。

会長は気まずそうに僕達から視線をそらす。

 

「と、とにかく、今日の議題は『食』よ!具体的には、購買のメニューについて!」

「議題と名言が非常に安直に結びついてますね」

「う、うるさーい!」

 

駄々をこね始めてしまったので、仕方なく議題について紅葉先輩に尋ねる。

 

「紅葉先輩、取り敢えず具体的にどういうことなのか説明お願いします」

「そうね。実は先日、購買部の業者さんから相談があったの。最近、どうも新メニューがうまく行ってないって。色々新しい試みはしてみるのだけれど、結局売れ筋は定番メニューに落ち着いてしまうらしくて」

「まあ、当然でしょうね」

 

 僕の言葉に、3年生組以外の役員達が頷く。

 定番メニューというのは、売れていてメジャーになってるから定番なのだ。新しいものに手を出して失敗したと思うよりは、普通に定番メニューに手を付ける方が無難だと思うだろう。

紅葉先輩は嘆息しながら続ける。

 

「そうね。こんな問題は、昔から常に食に携わる人々が抱えてきた問題でしょう。それだけに、一筋縄じゃいかない。購買部の業者さん・・・おばちゃんもそこで行き詰っていて、是非とも生徒へのアンケートをとってほしいって依頼が来たのよ。『どんなものが食べたいか』っていうね。でも・・・」

「ああ、成程。この学校で、んなアンケートしても無駄だろうな。妙に個性的な連中ばっかりだから、てんでバラバラの回答が返ってきて、結局参考にならないに決まってる」

「そうなのよ。だから、この議題は保留にしてたのだけれど・・・」

 

紅葉先輩は憂鬱そうにしているが、会長は相変わらず元気に会議を進める。

 

「でも、頼りにされたんだから、動かないわけにはいかないわ!」

 

 ・・・なんかやたら元気に進めているが、生徒会を頼りにされたことが嬉しいからだろうか?いや、それにしたってなんか張り切り方がいつもと違うような・・・。

そんな会長を見て、真冬ちゃんが何か気づいたようだ。

 

「あの、会長さん。今日真冬が生徒会室に来た時、一人でメロンパンをもふもふ美味しそうに頬張ってましたけど・・・」

「ぎく」

「・・・もしかして・・・買収されました?」

「・・・談合とか賄賂とかって必要悪よね」

 

 衝撃の事実発覚!生徒会会長は買収されていた!購買のおばちゃんに!メロンパン一つで!藤堂先輩辺りが聞いたら喜んで脚色を加えて新聞にしそうだ!

会長は汗をだらだら掻きながら視線を役員たちからそらしている。

僕達は呆れながら呟く。

 

「会長・・・そんなに汚れていたなんて・・・」

「僕は会長は子供みたいな純粋な精神を持っていたと思っていたのに・・・。これが時の流れなのか・・・」

「人聞きの悪いこと言わないでよ!それに、汚れる原因があるとしたら、確実に杉崎でしょう!」

「俺はそんな汚し方した覚えはありませんよ!俺は、性的な汚し方にしか興味はありませんからね!体は汚しても、心は汚さない!それが俺のジャスティス!」

「何を堂々と!そ、それに、私はたまたまおばちゃんから『くりむちゃん、可愛いからサービスだよ』って売れ残りを貰っただけで別に今日の議題とは・・・」

「・・・会長、餌付けされてますよね」

「そ、そんなことないもん!食べ物に釣られるほど、お子様じゃないもん!」

「あ、会長、レモン飴ありますけど食べます?」

「あ、食べるぅー!」

 

 会長は鍵から貰ったレモン飴を美味しそうに舐め始める。それを突き刺すような視線で見る生徒会役員達。

・・・と、ここでようやく事態と視線に気づいた会長が、

 

「・・・しゅみましぇんでした」

 

生徒会で不正が発覚しました。食べ物で釣られた会長なんて、生徒会有史以来初めてだろう。

紅葉先輩が溜息をつく。

 

「まあ、買収の件はもういいわよ、アカちゃん。どちらにせよ、遅かれ早かれ議題にはしなきゃいけなかっただろうしね」

「うぅ・・・知弦ぅ」

「今日のところは、『むにむにアカちゃんの刑』で許してあげましょう」

「ふぇぇぇん」

 

 紅葉先輩はそう言うと、泣いている会長の頬をいじりだす。横にのばしたり縦に吊り上げたりして、感覚や表情を楽しんでいる模様。会長の方はなすがままにされていた。

・・・正直なところを言うと、なんか凄い面白そうだった。

 

「・・・って、杉崎、なに知弦の後ろについてるの?」

 

 いつのまにやら鍵が紅葉先輩の後ろに並んでいた。一度紅葉先輩から解放された会長は、そんな鍵に会長は首をかしげる。

一方聞かれた鍵は満面の笑みを浮かべながら答える。

 

「え、このアトラクションの順番待ちですよ?」

「アトラクションじゃないよ!順番待ってもやらせないよ!」

「大丈夫です、俺、二時間くらいなら待ちますんで」

「そういう問題じゃないよ!いくら待っても、ひゅんひゃんふぁんふぇ・・・」

 

 そこで、紅葉先輩が再び会長に『むにむにアカちゃん』を開始する。そして、鍵の方を振り返り、告げる。

 

「そうよキー君。今日のところは引き下がりなさい。・・・私、二時間以上やるもの」

「!?」

 

会長の顔が恐怖に歪む。一方、鍵は素直に引き下がった。

 

「ちぇ、じゃあ、また今度の機会にします」

 

 そう言うと、僕達のところへ戻ってくる。会長が視線で僕達に助けを求めているが、無視。不正の罪は重いのだ。まあ、流石に本当に二時間ずっとやってるとも思えないので、助ける理由もないし。

三年生組がアトラクションに興じている中、残りの役員たちで会議を続ける。

 

「じゃあ、とりあえずは・・・生徒会でいくつか新しいメニューを提案して、その中からいくつか選んで、改めて生徒アンケートとって、一番人気のを商品化するのが妥当だろ」

 

鍵の言葉に、僕達は同意する。

さて、会議の始まりだ。どんな意見が出てくるのやら。

 

「それぞれ、何か面白いアイデアがあれば、バンバンだして行こうぜ!」

「そうだね。でも・・・真冬はあんまり購買利用しないから、ピンと来なかったり・・・」

「この学校の購買は基本パンだよ。例えば、あんぱん、メロンパン、カツサンド、コロッケパン・・・とか。あと、サンドイッチ系統とか、タルトもあったかな。あと、ラスクとかもあった気がするな。まあ、要するに、普通のパン屋さんで売ってるものは一通りあったと思うよ」

「今の時点では、あんまり変わったパンはないんですよね?」

「なかったことは無いと思うけど・・・。ただ、僕もそこまで購買を利用するわけじゃないし、売れてないから印象に残んなかっただけだと思うけど・・・」

 

僕がそこまで言うと、深夏さんが「そういえば」と思い出したように言う。

 

「一時期『ちくわパン』とかもあったな」

「そ、それは・・・また、迷走してるね」

 

 真冬ちゃんの表情がひきつる。思い返して見れば、確かにそんなものがあった気がする。僕は購買でパンを買うことは滅多にないからあまり購買のパンのラインナップを気にすることはないけど、深夏さんみたいに常連だと結構新作のこととかも気にするのかも。しかし、「ちくわパン」は見た目からしてアウトのような気がするのだが、売れると思ったのだろうか?

 

「真冬ちゃんは、購買行かないの?」

「殆ど行かないですね。お弁当ありますし・・・」

「あれ?そういえば、深夏も弁当だよな?」

 

鍵の問いに対し、深夏さんは「ああ」と素直に応じる

 

「母さんが、あたしと真冬のために、二人分毎朝律儀に作ってくれているからな。・・・別にそこまでしなくていいって言ってるのに・・・」

 

 何故か深夏さんが一瞬複雑そうな顔をした。・・・なんとなくではあるが、深夏さんはいつも、親の話になると不機嫌になっているような気がした。

鍵も気づいたのか、早々に話題を変更した。

 

「じゃあ、なんで深夏は購買の常連なんだ?」

「ああ、あたしの場合、昼食後の昼休みに体育館とかで運動することもしばしばだからな。結局すぐに腹減ること多いから、そういう時はよく弁当とは別に買うんだ」

「・・・太らないのか?」

「見れば分かるだろ?」

 

深夏さんは鍵にそういう。・・・まあ、太ってるとかそう言う言葉とは無縁の体格だ。

 

「・・・今年の夏の体育は、男女共同でやろうという働きを起こさなくては」

「何考えているかは知らんが、一発殴っていいか?」

 

鍵と深夏さんがどうでもいい話題を繰り広げている間に、僕は真冬ちゃんと話し合う。

 

「それで、真冬ちゃんには何かいい案あるかな?」

「そうですね・・・。あ、お姉ちゃんみたいに、『弁当もあるけど買う』って人がいるなら、スイーツ系なんていうのも、ありじゃないでしょうか?」

「スイーツ系ねぇ・・・。別に構わないけど、具体的にどんなの?菓子パンとは何か違うの?」

「ちゃんとデザートになるものがいいですね・・・。例えば・・・」

 

真冬ちゃんは、顎に人差し指を当ててしばし考える。

そして数秒後、とろけるような笑顔で提案した。

 

「き○この○とか」

「それはスイーツの範疇なの!?せめてパン系にしてよ!」

「軽いです。とても軽い、美味しい食べ物です」

「重量的な意味かっ!」

「ねる○るね○ねでもいいですよ」

「美味いけど!美味いけどさ!それはやっぱスイーツじゃないよ!」

「OLにも大人気ですよ。女性ファッション誌でも、特集組まれまくりですよ」

「ね○ねるねる○で!?見たことないよ!」

「ともかく、これで購買部も一発逆転です!」

「却下だよ!そんな、パン全く関係ない既製品で売り上げ上がっても意味ないじゃないか!」

「・・・意地悪です、先輩」

 

 真冬ちゃんは不服そうに頬を膨らます。・・・いや、だってそんなの許可できるわけないじゃないか。パン屋のおばちゃんにそんなことさせられないし、させたとしても、そんなものが一番人気になってもおばちゃんとしては複雑に思うだけだろう。

真冬ちゃんに続いて、深夏さんが提案してくる。

 

「真冬には悪いけど、あたしはやっぱり、もっとボリュームがあっていいと思うんだ。若い学生相手なんだし」

「ああ、成程。それは確かに一理あるね」

「というわけで、あたしが提案するのは・・・」

 

そこで一拍置いた後、深夏さんが自信満々に告げる。

 

「ダブルメガビックてりやきハンバーグ&ステーキマヨネーズフライドチキン天麩羅バーガー丼デラックス」

「重い!重いよ!食い切れる人居ないよ!」

「お相撲さんも大満足のボリュームだぜ!」

「この学校にお相撲さんなんて居ないだろ!」

「それでいて、カロリー控えめ、4キロカロリー」

「怖いよ!そのボリュームでそれは怖すぎるよ!なんかやばいもの入ってない!?」

「お値段据え置き、十円」

「うま○棒と等価!?」

「やめられない、とまらない」

「この状況でそのセリフは、中毒性のある何かが入ってるやばい食べ物だとしか思えない!」

「常習性があるから、売れること間違いなし!後から徐々に値段を釣り上げれば、更なる収益を見込めるっつう、かなりの名案だ!」

「常習性!?それは合法的な食い物なんだよねぇ!?」

 

 滅茶苦茶怖かった。その異常な食べ物にこの学校が侵されていく光景が、目の当たりに見えるようだった。

当然のごとく、却下された。椎名姉妹がぶーぶー言ってるが、スルーした。

仕方なく、未だに『むにむにアカちゃん』を続けていた紅葉先輩に話を振ることにする。会長は今は無視だ。頬を引っ張られたままでいい案があるとは到底思えん。

紅葉先輩は僕たちの方を向く。勿論、会長の頬は紅葉先輩の手によっていじられたままだ。

 

「そうねぇ・・・。私なんかは、やっぱり変わったものが食べたいわね。刺激的なものっていうのかしら」

「例えば、どんなものですか?」

 

紅葉先輩はしばしば考えると、会長の顔を横に伸ばしながら告げる。

 

「あんぱん・エクスタシー(18禁版)」

「どういうことですかっ!?」

 

あれ、今僕の頭の中に「しゃららららー」って音楽が流れたような・・・。・・・ええい、無視だ、無視。

 

「キー君達も知っての通り、昨今、全年齢版から十八禁版に転化することは、よくあることよ。その例に則って、あんぱんにも革命を」

「そんな革命は必要ありません!第一、高校で18禁にして売ったら、教師にしか売れないじゃないですか!」

「そこはほら、駆け引きよね。見つかるか見つからないかの」

「そういう意味での刺激かっ!っつうか、当然却下ですよ、そんなもの!」

 

 僕と鍵の反論に、紅葉先輩は「仕方ないわねぇ」と引き下がる。そして、会長の顔をむにむにし続けながら考え続け、再び提案してきた。

 

「闇パン(限定10個)」

「な、なんですか、それは・・・」

「何が入っているか分からない、面白いパンよ」

「ああ、闇鍋のパンバージョンみたいなものですか。紅葉先輩にしては割と普通の提案ですね・・・」

「そうよね。バリエーションとしては、中に精巧な偽札の製造方法を記したメモのあるものとか、有名な殺し屋の電話番号とか、麻薬取引の会場とか・・・」

「訂正!やっぱり碌な案じゃありませんでしたね!」

「闇の度合いが強すぎますよ!」

「人の指とかが無いだけ、まだマシじゃない」

「紅葉先輩の闇はどこまで深いんですか!却下ですよ!」

 

 ・・・くそう。今日の生徒会は僕達がアウェーなのか。僕たちが唯一の良心なのか。この状況で鍵にまでふざけられたら「お前もか!」とキレてかかってしまいそうだ。頼むから自重してくれよ、鍵・・・。

仕方ないので、会長にも尋ねる。まあ、宛には全くしてないが・・・。

 

「じゃあ、会長には何かいいアイデアありますか?」

 

鍵が話を会長に振ると、紅葉先輩は「むにむにアカちゃん」を一旦終了し、会長を開放した。

会長は「あうー」と頬をさすっている。

 

「ほっぺたが弄ばれていたから、考える時間がなかったよう」

「じゃあ、意見なしでいいですか?」

「駄目。ちょっとまって・・・」

 

 会長はそう言うと、腕を組んでうんうんとうなり始めた。・・・正直な話、会長がマトモな案を考えてくれるとは思ってないが・・・。

たっぷり考えた後、ようやく一つの意見を搾り出した会長が口を開く。

 

「あまぁーいのがいいなぁ」

『・・・』

 

 会長のそのある意味衝撃的な発言に固まる生徒会役員一同。・・・なんというか、生徒会室の空気が、こう、「ぽわぁん」としだした。会長は「あまぁーいの」を想像して幸せそうな顔をしている。・・・なにこの小動物。凄い可愛い。

 役員達がその空気に飲まれて幸せそうな気分で会長を見守る。・・・え、ちょっと待て。この状況で必死に空気に飲まれないように自制している僕はどうすればいいんだ?この空気に大人しく従えばいいのか?そんなことしたら役員の良心が消滅するっていうのに?

しかし、そんな僕の自問自答に気づかず、会長は更に続ける。

 

「こうね、ふわふわして、ほわほわして、ほっこりしてるのがいいよねぇ」

『・・・』

 

 生徒会室がむしろほわほわしだした。さっきよりも空気が軽い。ほっぺたを伸ばされたせいで会長から何かが抜けたのか、普段以上に言動が子供になっている。・・・僕ももう諦めてこの空気に飲まれるべきだろうか?

 

「わたあめパンとか・・・」

「かわゆすぎるぜ、チクショウ!」

「す、杉崎?」

 

 ・・・なんてこった。鍵が既に陥落してしまっていた。会長LOVEな紅葉先輩は勿論、椎名姉妹まで既にダメだし。・・・もういいや。僕もしばらくこの空気に付き合おう。

 そんなこんなで、この生温い空気に皆で付き合い、適当な案を適当に出し合い、積極的にぬるま湯に浸かっていると・・・。

「伏せろ!」

 

 突然響き渡るその声に、僕達は身を硬直させる。

数秒ほどおいて、ようやく硬直が溶けた僕たちが、その声の主の真儀瑠先生に問いかける。

 

「な、なんですか?一体どうしたんですか?」

 

真儀瑠先生はその問に答えずにドアを閉め、いつものように僕の横に座り、「ふぅ」と息をつき、一言。

 

「いや、特に理由はないのだが」

「ないんですかっ!」

「なんか空気がほのぼのしていたのでな・・・。打ち砕いてみた」

「相変わらずいい性格してますねぇ!」

 

真儀瑠先生は椅子に座りながらどこからか出した焼きそばパンをもぐもぐ食べ始める。

その様子を見た真冬ちゃんが先生に話しかける。

 

「そういえば、先生もよくパン食べてますよね」

「ん?ああ、そうだな。自慢じゃないが、私は自炊できん!」

「本当に自慢になりませんね・・・」

「掃除もいい加減だ!」

「なんとなく、想像通りですけど・・・」

「でも、美人だから許されるんだ」

「・・・真冬は、たまに、先生がとても憎くなります」

 

真冬ちゃんが先生のスタイルと自分のそれを比べて、溜息をつく。

その様子を見て、紅葉先輩が苦笑しながら話を進めていく。

 

「ところで、購買の常連らしい先生に質問なんですが・・・」

「ほうひた?」

 

 やきそばパンを食べながら紅葉先輩の方へ向き直る先生。紅葉先輩は今日の会議の流れを簡単に先生に説明する。その後、先生にもアイデアを求めた。

 

「ふむ。そうだな・・・」

 

 紅葉先輩の説明を聞きながらパンを食べ終えた先生は、真冬ちゃんに淹れて貰ったお茶を一口啜ると、サラリと告げた。

 

「よし、購買やめて、学食作ろう」

「・・・。・・・って、いやいやいや、ダメですよ!」

 

物事のかなり根本から覆してくれましたよ、この先生は。

 

「なぜだ、楠木。自炊せん私の栄養バランスを考えると、定食モノがあってくれると、嬉しい」

「先生の利益だけで決めないでくださいよ!あと、さっきから言おうと思ってたんですけど、自炊くらい出来て下さい!いい大人なんですから!」

「パン屋のおばちゃんを裏切る気ですかっ!」

「じゃあ、パン屋のおばちゃんに切り盛りさせよう、学食」

「パン屋のおばちゃんじゃ多彩な定食は作れないですよ!」

「『あんぱん定食 950円』みたいな」

「結局あんぱんじゃないですか!っていうか、高っ!どの部分にそんなに金使ってるんですか!?」

「ステーキとかフカヒレスープもついてくるからな」

「それはもう『あんぱん定食』じゃねえ!メインはあんぱんじゃねえ!」

「じゃあ、『ステーキ定食 あんぱん付き』でいいぞ」

「そうなるともうあんぱんただの邪魔者でしかないですね!」

「となると、パン屋のおばちゃんはクビだな」

「だから、それは駄目ですって!」

 

 会長が賄賂もらってるわけだし。なにより、売れる新メニューの開発が議題の会議なのに、その結論が「おばちゃん、クビ」じゃ、おばちゃんにかつてない衝撃が走るだろう。

 生徒会メンバーからの敵意を込めた視線に、真儀瑠先生は嘆息し、「オーケー」と両手をひらひらと上げる。

 

「仕方ない。他の方向性で考えてみよう」

「是非そうして下さい」

「うむ。では・・・」

 

先生は一拍おいてから再提案する。

 

「テストパン。一個千円」

「?なんですか、それ。っていうか、一個千円のパンなんて売れるはず・・・」

「甘いな、杉崎。このパンは、場合によっては二千円でも売れるぞ。しかもかなりの数」

「どうやって・・・」

「ふふふ・・・。このパンはな。時期中間テストもしくは期末テストのテスト用紙が、表面に印刷されているのだ!」

「なっ・・・」

「そうは言っても、たかがパンの面積!用紙が全てプリントされるわけもない!いくつかのパンを合わせて、初めて全貌が分かるのだ!つまり!点数が取りたい生徒垂涎の・・・」

「「やれるかぁーーーーーーーー!」」

 

 僕と鍵が同時に全力でツッコム。会長も「だ、駄目に決まってるじゃないですかっ!」と憤慨していた。そりゃあ、そうだろう。

しかし、何故か真儀瑠先生は不満そうにしている。

 

「大ヒット確定なのだがな・・・」

「アンタ、本当に教師ですかっ!」

「ただの教師ではない!GTMだ」

「先生は車か何かですか!?いや、違うのは分かりますけど!グレートなティーチャーの方だっていうのは分かりますけど!」

「ある意味グレートなティーチャーなのは認めますけどね!」

「違うぞ、杉崎、楠木。ゴットなティーチャー、真儀瑠だ」

「神のような教師って一体何ですか!」

「マギ○テル・マギを目指し、大量の女子中学生をオトしていく教師とかだな」

「それは確かに俺にとって神の如き存在だっ!」

 

 ・・・なんか話がそれていってる。生徒会の女子メンバーから鍵に対しての視線もなんだかジトッとしてる。僕は話を元に戻す。

 

「と、とにかく、テストパンは却下です。第一、そんなものPTAが許すわけありませんよ」

「イヤミなPTAを説き伏せるっていう展開も、教師ならば体験してみたい場面だな。教師を志す者、誰しも一度は金八に憧れるものだ」

「憧れてるなら呼び捨てないでください。色々な人に喧嘩売ってますか?」

「しかもこの場合、PTA側が完全に正義ですから」

「『貴女は本当に子供の事を見ているのかっ!成績だけで子供を測ってないかっ!』みたいなことを言う、カッコイイ私、教師の鑑」

「そんないいセリフが出る場面は絶対有りませんよ!」

「『子供の、本当の望みを聞いてあげてください・・・。テストパンを、認めてやって下さい・・・』」

「それ、子供の望みじゃねえし!」

「『く・・・これが教師の限界だというのなら・・・。私は、教師なぞやめてやる!』」

「テストパンにどれだけ情熱かけてるんですか、GTM!」

「教師辞めたって無理ですから!」

「うむ、面白い。・・・よし、やるか」

「だから、駄目ですって!」

 

早速立ち上がってどこかへ行こうとした先生を、僕達は慌てて止める。

先生は不機嫌そうにしながらも、着席した。

んで、まあ、会議を再開するわけだが・・・しかし・・・

 

「結局・・・何もきまらねぇな・・・」

『う』

 

 深夏さんの最もな意見に、真儀瑠先生以外の一同の顔がひきつる。・・・この生徒会のどうしようもない無能っぷりが久々に出てきてしまった。基本ノリと勢いだけで会議をこなしてるからなぁ・・・。

会長が不審者よろしく視線を彷徨わせながら、取り繕う。

 

「そ、そもそも、パンに関して素人の私達が名案を出そうっていうのが、ハードル高いのよ」

「そ、そうですよね。俺達は、よくやりましたよ」

 

鍵と会長の言葉に、歪に笑う一同。しかし、真儀瑠先生はぴしゃりと言い放つ。

 

「逃避は許されんぞ、諸君」

『う』

 

 ひきつる。・・・いや、しかし、どうしろと言うのだろう。そうそう「新しいパン」なんて作れるものじゃない。そんなオリジナル料理を作れるほど僕達に料理のスキル無いし。

 停滞し始めたこの空気をどうにかしようと考えたのか、真冬ちゃんがカチカチとノートパソコンをいじりだした。

 

「ネットで意見を探しましょう!巨大掲示板サイトにスレを立てておきました!」

「で、どう?」

「・・・ちょっと待ってくださいね。・・・。・・・すいません。ただただ、荒れてました。重複スレとか言われました。しゅん」

「あったんだ!購買新作パンに関するアイデアのスレ、先にあったんだ!」

「真冬は、ネットでもいらない子です・・・」

 

真冬ちゃんがいじけていた。・・・不憫だ・・・。

しかし、一体誰がそんなもん立てたんだ。まさかパン屋のおばちゃんか?

犯人探しをしていてもしょうがないので、また生徒会に視線を戻すと、今度は深夏さんがノートパソコンを引き取って、何か探し始めた。

 

「深夏、なにしてんの?」

 

会長が深夏さんに訊ねる。深夏さんは、画面をみたまま返した。

 

「んー、パンで検索かけて、今売れてるもんとか、珍しいもん探してみてる」

「なにかあった?」

「・・・んー、結局やっぱ定番が美味そうだな、正直」

「そっかぁ。でも、それが当然かもね。万人に受けるからこそ、定番なんだし」

「だな」

 

深夏さんはそう言いながら、PCの電源を切る。やはり、ネットで「新規アイデア」を探すのは少し無理があるようだ。

 

「行き詰ったわね・・・」

 

 紅葉先輩が呟く。今、会議は完全にストップしている。真儀瑠先生は暇そうにあくびをしているが、あの人一体何しにここにきてるんだろうか?ただ暇つぶししに来ただけなのか、やっぱ。

しかし、本当に困った。今日の会議で分かったことといえば。

 

・個性すぎたら売れない

・定番がやっぱり一番うまい

 

これらを踏まえるに、定番で、だけどこの学校でまだ売られてないものって事になる。

うーん・・・。

・・・。

 

「「あ」」

 

僕と鍵の声がハモる。

全員が一斉にこちらを見る。

僕と鍵は、思いついたことをそのまま言ってみる。

 

「普通にハンバーガーでいいんじゃね?」

「バーガー系でいいんじゃないかな、普通に考えたら」

 

『・・・・・』

 

・・・後日。

 

ハンバーガーはかなり売れたらしい、とさ。

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