そうこうしていると、またドアが開いた。
ドアを開けている人物を確認すると、僕は読んでいた小説をしまってからこう言った。
「親方!ドアからサイ○人とそれに拉致られた一般人が!」
「誰が○イヤ人だ!誰が!あたしは別に使えねえよ!」
「嘘だ!『アイツは元気○もかめは○波タイムラグ無しで軽々と撃てるんだぜ』って鍵が言ってたんだぞ!」
「柊、何勝手に巻き込んでんだ!?別に言ってねえし!というか、深夏が突っ込まなかったから言うが、親方って誰だ!?」
「よし鍵、いい度胸だ!「おはなし」するついでにたっぷり喰らわせてやる!」
「いや、だから俺じゃねえって!というか撃てるのかよ!?」
「問答無用だ!喰らえ!」
「って、それただのストレートだし、話しする気ねぐはぁぁぁぁ!」
「え、ええと・・・真冬、いきなり空気になってしまったんですが・・・。」
「大丈夫よ、真冬ちゃん。あれもスキンシップの一種だから。とりあえず座って、あれが終わるまで一緒に待ちましょ?」
「あれをスキンシップといいますか。まあ、終わるまで待つっていうのは僕も賛成ですね。止めに入るのは自殺行為だし。」
「はあ・・・分かりました」
そういうと真冬ちゃんは僕の右手前側、知弦さんの隣に座る。火種を撒いたのは間違いなく僕だが、杉崎鍵という供養物があるのだから有効に活用させていただく。安心しろ鍵、お前のことはカップラーメンができるまでの時間の1/60程度の間は忘れないから。
「楠木先輩は杉崎先輩のこと3秒しか覚えててあげないんですね・・・。」
「うん、
「いや、鍵なんてその程度の扱いで十分だろう。」
「ぜえ・・・ぜえ・・・、いや、深夏。それは失礼だろう。この生徒会ハーレムの主にして副「ところで深夏さんと真冬ちゃんには『初めての時はあんなに面白かったのに』ってことはあるか?」って、おま、柊!だから割り込むな!」
「なんだ、藪から棒に。」
「いや、深夏も当たり「いや、会長が世間がつまらなくなったんじゃなくて、自分自身がつまらなくなったんだ、って珍しくいい言葉を言ったもんだからさ。」「ちょっと楠木、珍しくってどういう意味よ!」・・・orz」
鍵が精神的ダメージでK.Oされたところで残りの二人の紹介と行こうか。
鍵をフルぼっこにした後で僕の左手前側、鍵の隣に座ったのは、生徒会で鍵と一緒に副会長を務めている「
もう片方の、先ほどちらっと出てきた人は生徒会で会計を務めている「
鍵がまだ復活していないが、それを気にせずに真冬ちゃんが口を開く。
「真冬は・・・お化粧、コスメですかね。」
「化粧?」
「はい。子供の頃は母親がしているのを見て、凄くしたくて仕方なかったんです。それで、中学生の頃、初めて自分のコスメを買った時は嬉しくてたまらなかったんですけど・・・。よく考えると真冬、あまり自分を着飾るのって好きじゃなかったみたいで。最近だと、最低限のことしかしたくないと言いますか・・・。」
「ああ、成程ね。真冬ちゃんらしいなぁ。大丈夫だよ、真冬ちゃん!真冬ちゃんは化粧しなくても可愛いから!むしろ、化粧なんかしたら本来の美貌が隠れちゃうよ!」
「あ、鍵が復活した。」
「あ、ありがとうございます・・・。」
「こら鍵!あたしの前で妹を口説くな!」
そのまま鍵と深夏さんが会話を続けいると、真冬ちゃんが僕に話しかけてきた。
「え、ええと・・・楠木先輩はどう思いますか?」
「うん?そうだな・・・。僕も鍵と同意見かな。真冬ちゃんは化粧しなくても十分可愛いと思うよ。」
「はう・・・ありがとうございます・・・。」
僕が真冬ちゃんの質問にそう答えると、真冬ちゃんは顔を赤くして下を向いてしまった。あれ、なんか変なこと言ったかな?鍵のようなナチュラルセクハラはしないように気を付けていたんだけど・・・。
会話を終えて鍵達の会話に戻ると、何故か深夏さんが怒りで肩を震わせていて、それを満足そうに眺めている鍵の姿が。このわずかな間に何があったんだ・・・。
「ううん、ハーレム万歳。いつ見てもいいねぇ。この光景。例外こそ居るけど、頑張って生徒会に入って本当によかったなぁ。」
「例外で悪かったな」
「そういえば、キー君とクッキー君は《優良枠》で入って来たんだっけ。・・・クッキー君の方はともかく、キー君はとてもそうには見えないのに。」
「そうだよなー。コイツ、どう見てもただの色ボケ男だよなー。」
「そうよ!さんざん言ってきたことだけど、やっぱりこの学校の生徒会役員選抜基準はおかしいわよ!人気投票からしておかしいけど、《優良枠》にしても、成績だけじゃなくメンタル面まで評価に加えるべきだわっ!」
「そうですかね?俺はこのシステム、最高だと思いますけどね。」
会長の毎度の文句に対して鍵はお決まりの反論を返す。
この学校の生徒会役員選抜基準はとても変わっている。
まず、基本的には《人気投票》によって生徒会メンバーを決める。ただ、これは余程の事が無ければ可愛い女子に決定してしまう。イケメンと呼ばれる人種は往々にして
とはいえ、これだけでは流石に問題があったためか、《優良枠》という妥協点がある。各学年の成績優秀者(一年生は基本は入学試験の成績に依存)は、本人が希望すれば生徒会に入ることが出来るのだ。これにより、一見すれば頭のいい生徒が入るため、問題点が無くなるように見えるが、実際には成績優秀者になるような奴は自分から勉強時間を減らすような真似はまずしない。なので、実質有名無実なものだったのだが・・・。今年はそんな《優良枠》を使って入った
「しかし、鍵もよくやるよなぁ。そのパワーは尋常じゃねーぞ。」
「まったくだよ・・・。」
「ふっ、甘いですね会長たち。俺は『自分以外全員美少女のコミュニティ』に入るためなら、なんだってしますよ。ええ。入学当初殆ど最下位の成績でも、一年でトップに上り詰めるぐらいは朝飯に満漢全席を食べる事よりも簡単ですよ。」
「キー君朝からどれだけ食べるつもりなのよ・・・」
「・・・真冬はたまに杉崎先輩がすごく大きく見えます・・・」
「真冬っ!それは錯覚だ!鍵なんかに憧れるな!」
「失礼な。頭がいいのは事実だぞ、深夏」
「動機が不純すぎるんだよ!そんな心持ちで生徒を束ねる生徒会に在籍しようって考えがなぁ・・・」
「ほら、『英雄色を好む』って言うだろ?エロい心が無いと人の上に立つのは難しいんだよ。俺も中年になっても階段の下で懸命に女子高生のスカートの中を覗こうとする精神を忘れずに生きたいものだ。」
「悪い見本引っ張り出すな!諺使ってそれっぽくしたって無駄なんだよ!」
「もうこいつ、犯罪者として刑務所に入れた方がいいんじゃないのか・・・?」
「楠木や深夏の言うとおりよ!成績だけで入れちゃうのはやっぱり変だよ!そのせいで楠木のような人間だけじゃなくて杉崎みたいなのまで入ってくるのよ!」
「まあ、確かに生徒会の女性メンバーをメロメロにしたことに関しては悪く思ってますが・・・」
「誰一人なってないわよ!」
「えぇっ!?」
「何その驚き!自意識過剰も甚だしいわよ!」
「そ、そんな・・・まだ会長だけしかオチてなかったなんて・・・」
「私もオチてないわよ!」
「馬鹿なっ!?」
「なんでいきなり某仮面ストーカーなんだ・・・。」
「そんな・・・。それじゃあ会長はあの夜の事を無かった事にするっていうんですかっ!」
「な、何よ?」
「あの夜、夢の中で会長は俺のことを何度も激しく求めてきたじゃないですか!」
「ここに犯罪者の予備軍がいるわ!ストーカーの卵がいるわ!」
「もはや清々しく思うくらいに芯が腐ってるな。」
「流石に今回は援護できないぞ、鍵。」
「・・・あー、杉崎を一番惨いバットエンドに送りたい・・・。」
会長の目が大変暗くなっている。鍵が鋸(だったけか?)で首を切られて「nice boat」となる日も近いかもしれない。そうなったら颯爽に逃げ出すことにしよう。親友?なにそれおいしいの?
流石に味方がいなくなってしまった事を感じたからか、鍵が話題を変える。
「でも、俺が一番恐怖するのは最初に会長が言った通りの事なんですよねー。」
「?どういうこと?」
「つまらない人間になる・・・つまり、恵まれた環境にいても、それを恵まれていると思えなくなること、とでも言いますか。今の話で行けば、俺は今・・・生徒会に入ってまだ一か月しか経ってませんが・・・このハーレム状況が楽しくて仕方ないんですけど・・・。いつか、この状況が俺にとって「当たり前」になってしまったら、と思うとぞっとしますよ。」
「あー、まあ、分からなくも無いかな、それは。そういうのは、気を付けてどうにかなる事じゃ無いからね。生活ランクと一緒よ。一度裕福な生活をした人間は、例え収入が落ちても、今の生活基準を中々下げられないのと一緒よ。」
「一度蜜の味を知ってしまうと、その蜜がなくなっても求めてしまい、結果破滅してしまうものですからね、人間は。しかし、えらく見た目に沿わないらしくない発言ですね。」
「うちの父さんが経営者だからね。良くも悪くも収入の浮き沈みが激しいっていうか」
「成程、それで会長は、美少年をお金で侍らす趣味が未だに止められないと」
「そういえば、会長から『この学校の美少年を調べて、このレポートに書いて提出しなさい』って命令されたんですけど、そういう訳だったんですか。」
「杉崎と一緒にしないでよっ!何その趣味!私悪女じゃない!あと、楠木!私そんな命令出してないから!」
「それに、男の頬を札束で叩く性癖も、変えられない、と・・・。」
「だから別の日に『十万円を一束にして札束を作りなさい』とも命令したんですね。」
「どれだけ私貴族なのよ!いくらなんでも私そこまでのスケールじゃないから!あと、私そんなに大金を持ってこないから!」
「貧乏な唯一、家に侵入してくるアリの手足をもぐことだけが生き甲斐、と・・・。」
「ああ、だからまた別の日に『手足の長いアリを調べなさい』って、僕に昆虫図鑑を渡して調べさせたんですね。」
「もうただの根暗女じゃない!お金とかそういう問題じゃないじゃない!」
うーむ、これほどに弄り甲斐のある先輩というのも珍しい。
しかし、会長たちの言うことも最もだ。僕たち人間は生きている限り上を見て上がりたいという欲望を持っている。理性でそれを収めようにも、しょせんは「理性」であり、欲望という名の「本能」に勝てるわけもない。目の前にある幸せが「幸せ」ではなくなり、更に上の幸せを求め、それでも限界が来てしまう。そうなると、「世の中がつまらない」と思い、結果「つまらない人間」になってしまうのだろう。
「ま、真冬はそうなりたくないですけど・・・。でも、どうやったらそうならずにいられるのか、よく分かりませんね。」
真冬ちゃんの言う事も分からなくは無い。そんな人間には誰もなりたいと思わない。それでも、気付いたら勝手にそうなってしまうのが一番恐ろしいのだろう。
「最終的には《悟り》とか、そういう精神的な極みの境地に至るしかないんじゃないかしら。」
「えー、なんかつまんねえなぁ、それ。」
「ま、一部の人間・・・勝ち組と呼ばれるような人間はどんどん上に行き続けるけどね。大概の人間はどこかで妥協してそこそこ幸せにやるのよ」
「そこそこ幸せに・・・ねぇ。」
人は自分の願うことがすべて叶う訳でないことは分かり切っている。だから、その中からそれなりに叶えられそうなものを拾い、それ以外は切り捨てて「無かった事」にする。そうすることで「自分は幸せだ」と思い込んで暮らすのだ。妥協せずに生きられるのはほんの一握りの人だけだ。そう考えると、人と妥協は切っても切れない関係なのかも知れない。
「・・・駄目だな。」
『え?』
鍵が唐突に何か言い出した。皆は鍵の二の句を待つ。
そして、
『俺は美少女ハーレムを作る!』
こう高々に宣言した。
「や、海賊王になるみたいに言われてもな・・・。」
「カッコよく言ってるつもりなんだろうけど内容がなぁ・・・。」
「妥協するにしても、俺は高いところで妥協してやる!美少女を侍らせて、いつか『美少女にも飽きたな』って言える所まで上に行ってから妥協してやる!」
「・・・成程ね。とりあえず行くところまで行ってみようって事ね。いいんじゃないかしら。好きよ、そういうの。」
「まあ、ハーレムっていうのは別にしても、そのスタンスは悪くないな。」
「そうですよね・・・今から悩むよりも、とりあえず上に行ってみるのが、いいかもしれませんね。」
「ま、上りすぎて精々息切れしないようにするんだな。」
「はっ、そんなの当たり前だぜ!体力だけは自信あるからな、俺は!」
こういうところで、ホント鍵はすごいよな。だから僕もなんだかんだで親友やってるんだけれど。
で、この会話に参加してない会長は・・・。
「えー、あんまり頑張るのは疲れるよぅ。」
ダメ人間だった。
極みの境地に至る訳でもなく、上り続けようとする訳でも無く、今の現状で満足しているようだった。お菓子(紅葉先輩のだったはずだが・・・)を食べながら生徒会長として駄弁っているところで満足しているようだった。
お菓子を食べ終わった会長は満足そうにこう宣言する。
「それじゃ、今日は解散しますか。」
『・・・・・』
ホントダメ人間だ。ま、それでも解散するんだけどね。
・・・さて、僕たちもそろそろ仕事するか。
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「・・・で、杉崎も楠木もまた生徒会室に残ってるんだ。」
「全く、だから対応に困るんだよな、あいつら。・・・あたし達と長時間駄弁るために、生徒会の雑務を二人で全部片付けて、何事もなかった風にするんだからな・・・。」
「ま、真冬は楠木先輩も杉崎先輩も好きですよ?」
「この学校で杉崎の事が嫌いな人間なんて一人もいないわよ。楠木だって同じよ。」
「柊は、頭に超がつくほどお人よしだもんな・・・。」
「あら、アカちゃんも深夏もキー君やクッキー君の事、実は結構?」
「な、何言ってるのよ知弦!そんな訳無いでしょ?」
「そ、そうだ!柊は唯の助っ人仲間で生徒会メンバーってだけだ!」
「・・・まあ、ああいうことを言うだけあって、彼らは・・・私達の、大黒柱なのかもね。」
「大黒柱?」
「そう。今更言うのもなんだけど、私達全員、どこかちょっと複雑な過去があるみたいでしょう?傷跡、と言い換えてもいいかもしれないけど。・・・でも、生徒会で駄弁ってる間は、とても救われている。それを作っているのは間違いなく、キー君とクッキー君なのよ。・・・だから、大黒柱。」
「まったく。あれじゃ学園ドラマの先生役みたいよね。」
「違うのは、問題を解決しおうと出張ってるんじゃなくって、ただ安息の場所を与えてくれるだけっつう所だけどな。」
「で、でも真冬はすごく感謝してます。」
「そうね、だから杉崎や楠木が何か困ってる事が有ったら、その時は全力であいつらの力になりましょう。」
「会長さん・・・」
「でも、キー君と付き合ってはあげないのね、アカちゃん。」
「それとこれとは話が別よ。誰があんな浮気性と・・・。」
即答だった。哀れ、杉崎鍵。
「それじゃあ、また明日ね。」
その言葉を皮切りに、各自が各々の帰宅路へ歩き出す。
「・・・・」
くりむはふと、生徒会室にいる二人、そして自分たちの事を思い浮かべて呟く。
「・・・つまらない人間っていうのも、案外悪くないのかもね・・・。」
日常をつまらないと思う人間が一人だけだったら、それはただつまらないだけだろう。しかし、そう思う人間が複数いたら、もしかしたら逆に楽しいことが起こるのではないだろうか。
私立碧陽学園生徒会。
そこでは、つまらない人間たちが毎日楽しい人間を繰り広げている。