「子を思う親の愛情こそ、真に美しいものなのよ!」
会長がいつものように何かの本の受け売りを語る。
今回は会長が何でこの名言を選んだのか理由が分かった。まあ、名言自体を理解できるかは別問題だろうが。
僕は生徒会室をざっと見渡す。今日は、椎名姉妹がどちらも来ていなかった。というのも、
「三者面談って、学校内のコミュニケーションにおける三大苦行の一つですよね」
そう、今日は椎名姉妹の三者面談の日なのだ。因みに、鍵の言う三大苦行のの残り二つは、「自己紹介」、「面接練習」、場合によっては「家庭訪問」だろう。
会長と紅葉先輩も、僕と同じように鍵の言葉に頷いている。因みに、椎名姉妹以外の三者面談は昨日までに終了している。今日は椎名姉妹が同時に、と言っても別々にそれぞれの担任と面談するわけだが、まあ三者面談をするようだ。
「あの二人が居ないと、結構寂しいっすよね・・・」
「そうねえ」
鍵は深夏さんの席を見ながら言うが、今日は特に紅葉先輩に誂われる事もなく、むしろ賛同されていた。まあ、僕も同じ意見ではあるが。
会長も「うーむ」と唸りながら腕を体の前で組んでいる。
「一人欠席くらいだったら会議始めるけど、二人も居ないと、さすがにねぇ」
「そうですね」
仕事をする気が全く起きないらしい。まあ、僕達も全く異論が無かったので、適当に雑談を続けることにする。
「そのうち深夏が戻ってくるでしょう。先にやるらしいですよ、面談」
「そう。まあ、そんなに時間かかるものでもないでしょう」
・・・またしても雑談がストップしてしまった。別に話題が無い訳ではないのだが、何と言うか、テンションが上がらない。
空気を察した紅葉先輩が、話題を提供してくれた。
「キー君はどうだったの?三者面談」
「俺ですか?まあ特に変わったことは無かったですね。あー、ただ、母親が来たんですけど・・・。母さん、血の繋がり無関係で俺を溺愛してるところがあるから、担任が軽く引いてた場面はありましたけど」
「あ、キー君の親は昔再婚したんだったわね」
鍵の言葉に、紅葉先輩と会長が一瞬神妙な顔になる。それを見た鍵が慌てて手を振りながら取り繕った。
「や、そんな気を遣われても困りますって。そもそも、俺には本当の母親の記憶がないんで、結構すんなり受け入れましたし。普通に『母さん』って呼んでるくらいですし。親が離婚した・・・っていうのは暗い話題ですけど、再婚っていうのは、案外ネガティブなだけじゃないんですよ?」
「まあ・・・そうかもね。ドラマの印象が強いから、ぎくしゃくしているイメージは抱いているかもしれないわね」
「ああ、そういう意味ではうちは家族仲は結構いいほうですよ。まあ、林檎の入院の一件以来、俺が勝手に引け目を感じてる部分はありますが、だからといって、家庭崩壊みたいな事にはなってないです」
「・・・そう」
鍵の言葉に、柔らかく微笑む紅葉先輩。
鍵は次に、会長に話題を振る。
「会長の三者面談は・・・」
「うちの母親が来たわよ」
何故か胸を張っている会長。何でそんな無意味に自信満々なんだろう・・・。
「担任の先生と親御さんが、会長の発育について話し合ったわけですね」
「そんな事話さないよ!」
「特に身長の事とかを重点的に話し合ったとか」
「そんな大人達に教育されたくないっ!」
「今後は、身長が伸びるような体操と、カルシウムを多めに摂取することを決めたとか」
「してないよ!」
「会長の親も、会長に似て変わり者ですね」
「全部杉崎と楠木の脳内設定じゃない!」
「ところで、知弦さんの三者面談はどうでした?」
「私のターン、妄想だけで終わった!」
会長が喚いていたが、スルーして紅葉先輩の方を向く。
紅葉先輩は、サラリと髪を手で梳いたあと、不敵に口を開いた。
「むしろ、私と母による、先生の今後を話し合う三者面談だったわね」
「なんですかその迷惑な面談!」
「先生、終始床に正座だったわね」
「親娘揃って女王様気質ですかっ!」
「取り敢えず、株を始めなさいと指示しておいたわ。銘柄も指定して」
「なんか確実に儲かりそうで怖いっ!」
「『教師人生じゃ、日本のトップなんて夢のまた夢よ』とは、母さんの言葉ね」
「激しく余計なお世話ですよ!トップなんて元から目指して無いと思います、先生!」
真儀瑠先生じゃないんだから・・・。
「翌日から、うちの担任は生まれ変わったわ。授業そっちのけでディレート三昧よ」
「今すぐ元に戻して下さいっ!」
三者面談の目的が根底から覆っていた。・・・何してんだ、この人は・・・。
で、ここまで来ると次は当然・・・
「そうだ、楠木の三者面談はどうだったの?」
やっぱり。会長が僕に対して聞いてきた。紅葉先輩も鍵も僕の方を見ている。
・・・どう答えればいいかね。取り敢えず何か言おうと口を開こうとして・・・
-ガラガラ!
「・・・はぁ」
ドアの開く音と共に、深夏さんが入ってきた。珍しく溜息を吐いている。僕達は彼女にそれぞれ「お疲れ」と言葉をかけるが、本人は「どうも」と短く一言だけ言って、そのままどさっと自分の席に座った。
僕達は目を見合わせ、代表で鍵が深夏さんに尋ねる。
「ええと・・・深夏?なんかあったのか?三者面談、そんなにイヤだったのか?」
随分とストレートな質問だな。まあ、とはいえ、こんな直球な質問をされたく無いのであれば、深夏さんのことだ。多少無理をしてでも明るい表情をするだろうから、今は多少思い切った質問をしても大丈夫だろう。
鍵の言葉に、深夏さんは「んー・・・」と複雑そうに唸る。そして、意を決したように、僕たちに話し始める。
「別に、イヤっていうことでもねーんだけどさ・・・」
そう言いながら深夏さんは顔をしかめる。ちょっと戸惑っているが、僕達は深夏さんの気分が少しでも晴れるなら、と少し余計に踏み込むことにした。
「深夏は、親と仲悪いの?」
会長が代表で訊ねたが、ちょっと直球すぎるような気もしなくはない。まあ、その辺が会長らしさか。
深夏さんは少々苦笑したものの、特に気分を害した様子ではなく、むしろ腹を括ったように笑顔を見せた。
「うん・・・まあ、真冬も居ないし、そろそろ話しておくべきかな」
そう前置きして、深夏さんは改めて僕たちの方を見回す。
その後、彼女は自分の事、親の事、そして、自分が男嫌いになった理由を話し始めた。