生徒会の庶務   作:高坂遼

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差し伸べる生徒会②

 

 それから、深夏さん自身の事、家族の事。そして、男嫌いになった理由を深夏さんが自嘲気味に語った。

深夏さんが一通り語り終わったあと、生徒会には沈黙が続いていた。

紅葉先輩はいつもの表情を隠して無表情になっているし、会長は悲しそうな表情をしていた。

そんな生徒会の空気を気にしたのか、深夏さんが手を振りながら慌てて言葉を発する。

 

「あ、すまん。別にテンション下げようと思って話したわけじゃねーんだ」

「・・・というと?」

 

会長が首を傾げる。深夏さんは、改めて話し始めた。 

 

「なんつうか・・・あたしのワガママではあるんだけど、真冬には、心から幸せになって欲しいと思ってんだ。あたしのせいでちょっと歪んだ部分もあるけど、それでも、あの子は、本当にいい子だから。だから・・・父親の事に関してもだけど、真冬のこと、他の生徒会メンバーにはこれからも優しく見守っていて欲しいなって、思って」

「深夏・・・」

「特に鍵、柊。お前達には結構感謝してんだぜ」

「え?」

 

何故か深夏さんに褒められた僕は驚く。特に大した事してないと思うけど・・・。

 

「あたしのせいで男嫌いになっちまった真冬が、鍵や柊のおかげで最近大分改善されてきたからな」

「ああ、なんだそんなことか。それは本人の意思だし、僕達は何もしてないよ」

「いや、そんなことないさ。だって真冬は・・・いや、これはあたしが言う事じゃないか」

「?」

 

深夏さんは、何か言おうとしていたが途中で言葉を止めてしまう。うーん、一体なんなんだろうか?

僕が考えていると、会長が「それで」と場を仕切る。

 

「深夏と母親の関係は未だに改善してないのね。おじさんの存在が引っかかって・・・」

「ああ、いや、ちょっと違う」

「?」

 

「結局、母さんは破局したんだ。あたしが中三の時に」

 

『・・・』

 

生徒会室の時が止まった。

少し経ち・・・紅葉先輩が額に手を当てながら話を再開する。

 

「ちょっと待ちなさい」

「なんだ?」

「じゃあ・・・今、家族間に全く問題ないんじゃない?」

「まあ、そうだな。今は三人一緒に幸せに暮らしてるし」

 

当然のように答える深夏さんに対して、遂に会長がキレた。

 

「私の同情返せーーーー!」

「そう言われても・・・そっちが勝手に・・・」

「なんだったのよ、さっきまでの深刻なノリは!」

「いや、実際にその頃は深刻だったわけだし」

「でも今は解決してるんでしょう!」

「うん。だから、そう言ったじゃないか」

「じゃあ既に解決してることを前置きしてよ!言うの遅すぎるのよ!」

「えー、ネタバレはよくねえじゃねーか」

「自分の過去をネタにして話さないでよーーーー!」

 

 会長が叫ぶ。まあ、気持ちは痛い程分かる。さっきまで深夏さんと真冬ちゃん、それに母親のことを真剣に考えた時間を返して欲しいと僕も思うくらいだし。

深夏さんは苦笑したあと、「でも」と話を続ける。

 

「実際・・・相手が去ったからって、元通りとは言えねえんだ」

「え?」

「だって・・・母さんの中の空席は、空席のままだからな。あのおじさんが居なくなっても、そのままである限り、同じ問題はまた起こると思うんだ。だから・・・」

「まだ、母親との距離の取り方が複雑なわけか」

 

深夏さんの言葉を引き継ぐように鍵が喋る。鍵の言葉に、深夏さんは頷いた。

 

「破局以降、真冬が碧陽に上がったのを機に、あたしと真冬はまた母さんと一緒に生活するようになったんだ。けど母さんはちょっと必要以上にあたし達に気を遣ってるところがあって、なんだか・・・な。真冬は、ちゃんとうまくやってるみたいだけどさ。それが、あたしの救いかな」

『・・・』

 

 深夏さんの言葉に、また生徒会室の空気がしゅん、となる。

・・・こういう話題は切り替えが本当に難しい。そう思っていると、ふとドアを開く音が。

後ろを見ると、真冬ちゃんだった。

深夏さんが僕達に目配せをしてくる。どうやら、さっきの話を真冬ちゃんに話すな、ということだろう。勿論僕達は了承する。

僕達は即座に態度を改め、笑顔で真冬ちゃんを迎える。

 

「お疲れ様、真冬ちゃん」

「はい。やっぱり、親と先生が話すのは緊張しちゃいますねー」

 

笑いながら着席する真冬ちゃん。そのまま、話を続ける。

 

「特に自分が教室から出た後も二人で話しているのとか見ると、なんだかとても気になります」

「あー、分かるな、それ」

「きっと二人でタイ○ニについて激論したりしてるんですよ」

「それはないと思うけど」

 

 皆が笑う。やっぱり椎名姉妹がいると生徒会室の空気が穏やかになるよなぁ、と改めて感じる。

 ホッとしたのか、深夏さんが「それじゃあ、あたしはちょっと飲み物買ってくるわ」と、笑顔で席を外した。

取り敢えず深夏さんが一時的に出て行ったところで、普段の雑談に戻ろう・・・

 

「真冬、本当はお姉ちゃんとお母さん、そしておじさんのこと、全部知ってるんです」

 

『・・・』

 

全員が絶句する。

真冬ちゃんが、ちょっと苦笑しながら唐突にそんな事を言った。

真冬ちゃんは何故か「ごめんなさい」と前置きをして話し始める。

 

「本当は、ちょっと前に面談終わってたんですけど・・・」

 

その言葉で僕達は理解する。さっきの会話をドア越しに聞いていたんだろう。

真冬ちゃんは更に続ける。

 

「でも、お姉ちゃんが喋っていたことは、元々、真冬も知ってました。だから、みなさんが気にされることは、全然ないです」

「えと・・・」

 

 鍵が少し困っている。まあ、僕もだけど。ただ、同時に、この会話は深夏さんが戻ってくる前に終わらせたほうがいいと感じ、さっさと話を進めるために僕は真冬ちゃんに話しかける。

 

「要するに、真冬ちゃんは、最初から全部知っていたと?」

「えと・・・そうですね。お姉ちゃんのおかげで、真冬とおじさんが直接会うことは結局ありませんでしたけど、お母さんとお姉ちゃんがその事を話しているのとか、おじさんとお母さんが電話で会話しているところを見たことがあったので・・・」

 

と、ここで紅葉先輩が「ちょっと待って」と待ったをかける。

 

「じゃあ・・・真冬ちゃんは、最初から全部の事情を知ってたのね?」

「はい」

「なのに・・・なのに、深夏の言葉を素直に鵜呑みにして、男嫌いになったの?」

「はい」

 

真冬ちゃんは短く・・・でも、はっきりと、紅葉先輩の問いに素早く答える。

そして・・・満面の笑みで、告げた。

 

「だって・・・お姉ちゃんは、世界で一番真冬のことを考えてくれている・・・愛していてくれる人です。そんな人の言葉を、疑うことなんて出来ませんよ。世間一般の常識と食い違っていると分かっていても。真冬は、世間なんかより、お姉ちゃんの言葉を、信じます。それが・・・それが、真冬を全力で愛してくれる、お姉ちゃんに報いることだと思いましたから」

 

『・・・』

 

 正直に言うと、完敗だと思った。勝ち負けとか・・・そんな評価では無いと思うのだが、それでもそう思った。

 そして、こんなふうにお互いを愛せる姉妹を、僕は羨ましくも思った。・・・こんなことを思う資格なんて僕にも俺にも無いと分かっているけど。あんな風に、血の繋がった妹にさえ線を引いて接しておきながら、こんな事を思うなんておこがましいかもしれないけど。それでも、今はただそう思ってしまった。

紅葉先輩と会長も、椎名姉妹のお互いを思う愛情に圧倒されているようだった。

 真冬ちゃんはただ一人、キョトンとしている。多分、そんなの当たり前のことで、特別なことだなんて思ってないからだろう。

 

「真冬ちゃんは・・・その、全部知ってて、それでも、お母さんとうまくやれているんだよね?それは、どうして?」

 

鍵が真冬ちゃんに答えが分かりきっている質問をする。真冬ちゃんは、当たり前のように答えた。

 

「え?だって、こんなに皆に守られてる真冬がお返し出来る事があるとすれば、それは家族の架け橋になることだけですから。お姉ちゃんが引いてしまった悲しい線を跨いで、二人を繋げるのが真冬の役目です」

「・・・そっか」

「最近じゃ真冬だって『男』をちゃんと知っているのです!ボーイズラブで、男性についての濃密な勉強をしているのですから」

「いや、それは多分教科書が間違ってんじゃないかな・・・」

「・・・そう言えば、今更だけど、俺や柊とは親しくなってよかったのか?深夏の教えを守るって言うのなら、俺達とさえ本来なら・・・」

 

鍵が真冬ちゃんに尋ねる。真冬ちゃんは、「ええと・・・」と困った表情をして、答える。

 

「本来なら、男性全般を避けるところなんですが・・・」

「じゃあ・・・」

「でも、杉崎先輩と楠木先輩はいいんですよ。だって・・・杉崎先輩のことも、楠木先輩のことも。お姉ちゃん、大好きみたいですから」

「っ」

「真冬が仲良くなっても、ぜーんぜん、問題ないのです。れーがいです、れーがい」

「そ、そう」

「はい」

 

 ・・・これは、結構照れるなぁ。鍵も照れている。普段だったら舞い上がっているだろうが、流石にここまで純粋な好意だと、照れるしか反応できないんだろう。

 

「それに・・・楠木先輩のことは・・・」

「え?」

「あ、いえ、なんでもないです!」

 

 真冬ちゃんは少し顔を赤くしながら、手をブンブンと振る。まあ、気にはなるけど本人がなんでもないって言うなら・・・。ふと紅葉先輩の方を見ると、真冬ちゃんと僕を見て苦笑しているけど、どうしたんだろう?

真冬ちゃんは少し下を向いて落ち着いたあと、言葉を続ける。

 

「真冬は、いつだってお姉ちゃんの味方なんです。お姉ちゃんが白といえば、たとえそれが黒であっても白なんです。それが・・・こんな弱い真冬が果たせる、唯一の役割なんですよ」

「・・・」

 

 強い子だなぁ、と思った。深夏さんが思っているほど真冬ちゃんは弱い存在ではないと僕はそう考えていた。・・・いや、よく考えれば当然かな。だって・・・真冬ちゃんは、深夏さんの妹なんだから。そう、誰よりも強い、深夏さんの、だ。

真冬ちゃんが表情を引き締めた。

 

「えっと、ですから、これからも、真冬だけじゃなくて、お姉ちゃんのことも宜しくお願いします。家ではお姉ちゃんまだちょっと居心地悪そうにしてますけど、ここでのお姉ちゃんは・・・本当に、楽しそうにしてます。だから・・・」

 

 真冬ちゃんが一生懸命に自分の気持ちを言葉にしようと頑張っている。僕達は・・・言われなくても真冬ちゃんの気持ちをちゃんと汲み取り・・・そして、笑顔でそれを返した。真冬ちゃんも、それを見て、柔らかく微笑んだ。

 

「おーい、鍵!新作のジュースが出てたから、買ってきてやったぞー!」

 

丁度いいタイミングで、深夏さんが生徒会室に入ってきた。

僕達はそれを笑顔で迎え入れようとして・・・

 

「ほれ、『ファン○・シュールストレミング味』!」

「買ってくんなよ!」

「ほら、あたしが直々に開けてやんよ!」

「わ、バカ、開けんなーーーーーーーー!」

 

・・・もの凄い悪臭と共に、一瞬で温かい空気を吹っ飛ばしてくれた、ファ○タと深夏さんでしたとさ。

 

・・・おいおい・・・。

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