生徒会の庶務   作:高坂遼

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更生する生徒会

僕は生徒会室へ向けて走っていた。既に会議が始まっているであろう時間から10分程たっている

 

「しまったな・・・。新しいミステリーの本が入荷されてたから、つい図書室で読み込んでしまった・・・」

 

 借りていけば万事解決だったのだが、一度さらっと読んで借りるかどうかを決めようと思ってたので、一度読んでみたのだが、これが意外に面白く、つい問題編の最後まで読んでしまった。会長にあーだこーだ言われんだろうなぁ・・・。はあ、めんどくさいな・・・。

 そう思いながら走ること数分、生徒会室の前に到着する。

 

「はぁ・・・はぁ・・・よし」

 

 息を整えて、生徒会室の扉を開ける。

 するとそこには泡を吹いて机に突っ伏してる鍵、その隣で鋸を持って生き生きとした表情で鍵をみつめる紅葉先輩、それ以外になんか鍵を見ているその他の生徒会役員が・・・

 

「ひぃぃぃぃぃぃ!?」

 

 な、なんだこれは!確かに今までミステリー小説を読んでいたが、いつのまに僕はそういうミステリー小説にでてくる人物の一人になってしまったんだ!?この世界はいつのまに『生徒会室殺人事件~地に堕ちたハーレム王(笑)~』ってタイトルの世界になってしまったんだ!?

 

「あら、クッキー君。見ちゃったのね・・・」

「ひぃ!あ、紅葉様!命だけはお助けをーーー!」

「ちょ、落ち着きなさい、楠木!」

「この状況でどう落ち着けと!?」

「邪魔が入ってしまったけれど、取り敢えず作業を再開しましょう。それじゃあ、まずは四肢を切断・・・・・」

 

「されてたまりますかーーーーーーー!」

 

「わぁぁぁぁ!?鍵が生き返った!?」

「あ、生き返った・・・つまんねーの」

「軽くね!?俺の生死の扱い、軽くね!?柊みたいにもっと驚くべきだろ!」

「隠し通す自信あったのに・・・」

 

 そういいながら、紅葉先輩はとても残念そうに鋸をロッカーにしまった。・・・どうしてそんなものがあるんだとか、当然の様に場所を知ってるんだとか、そういうのはツッコんではいけないんだろう。僕も何とか意識を落ち着けて、自分の定位置へと座る。

 

「よ、よかったですぅ」

「真冬ちゃん・・・」

「お姉ちゃんが人殺しにならなくて、ホントによかったですぅ」

「そっち!?」

 

 僕にとって衝撃の展開。てっきりさっきの状況から犯人は紅葉先輩だと思ってたんだが、犯人は深夏さんだったのだ!   く・・・何てことだ。死体のそばで鋸を持っていたからって犯人だとは限らないのに!そういう先入観はミステリーにおいては禁物だというのに・・・!

 

「さっきから、お前なんか変なこと考えてないか?」

「いや、そんなことは無いさ。ただ、ミステリーにおける先入観の是非と先入観を持たないようにするにはどうしたらいいかと言う事を脳内会議で討論しているだけだ」

「さっき人が死にかけてたっていうのに!?それは十分変なことだろ!」

 

 ああ、鍵がうるさい・・・。僕は耳から入る情報をシャットダウンし、脳内会議に集中する。・・・うーん、やはりミステリーにおいて先入観は禁物だが、どうすれば回避できるかについては中々いい案が出ない・・・。

 

「・・・ちょっと期待したのよ。『馬鹿は死ななきゃ治らない』って言うでしょ?」

「はい?」

 

 結論が出ないまま脳内会議を終えて、改めてみんなの方を向くと、会長が鍵に対してなんか言っていた。・・・やっぱりさっきの鍵は死んでたのか・・・?

 

「一回臨死体験したら、真面な人間になるんじゃないかって、期待したのっ!」

「・・・ああ、なんだ、そんなことでしたか。大丈夫ですよ、会長!」

「なにが?」

「俺はとても真面です!」

「それが真面な人間の発言じゃないわよ!」

「皆、俺、真面だよな!」

『・・・・・・』

 

 流石にそれを聞かれてしまったら顔をそむけざるを得ない・・・。

 顔を戻すと、鍵が椅子に座って凹んでいた。流石に全員から顔をそむけられた事実はイタいようだ。そう考えていると、会長が「こほん」と、仕切り直しの咳払いをする。威厳を出そうとする努力は認めるが、残念ながら全く効果を発揮していない。

 

「とりあえず、楠木もやってきたことだし、もう一回言うわよ!人生やり直すのに、遅すぎることなんてないのよ!だから、杉崎は更生するべきだと思うのよ。うん。仮にも生徒会副会長なんだから、それなりの威厳は無いといけないと思うの」

「威厳ねぇ・・・」

 

 恐らく、皆同じことを考えたのだろう、苦笑しながら会長を見る。

会長は視線に気づいて、もう一度咳払い。

 

「と、に、か、く!今日は杉崎の性格を改善しましょう!それがいいわ!あ、それと楠木!あなたもだからね!」

「え、僕もですか?」

「どうしたんですか、急に。そんなこと言い出すなんて。」

 

 鍵の質問に、「これよ!」と、会長はカバンから取り出した紙のようなものを突きだす。

 まあ、結論から言ってしまうと、それは新聞だった。この学校の新聞部が不定期で掲示板に張り出す新聞だ。東スポも真っ青なほどのゴシップ記事として有名で、新聞部の部長いわく「事実を伝えるのなんて誰かに任せればいいですわ。事実を基にしたエンターテインメントで皆を楽しませてこそ、学校新聞というものではなくて?おーほっほっほっほ!」らしい。最初に少しヒいた。そして次に考えたことが『学校新聞って・・・なんだっけ』だった。いや、仕方ないだろう?まあ、今回もそんな感じの記事だと思っていたんだが・・・今回のは少し特殊だったようだ。

 

「なになに?『生徒会の男子達の黒い過去を特集する!』だって?」

 

 その記事に書いてあったのは、僕と鍵の過去についてだった。杉崎の記事は『昔、杉崎健は二股をかけていた!』といった記事で、タイトルこそ目を引くものだったが、それ以上の内容が全く見られない。「証言者A」や「親友B」だの、明らかに情報源が怪しいにも関わらず、それを感じさせない内容であることは褒めるべきなのだろうか、それともこんな記事を書くんじゃない、と貶せばいいのだろうか。

 一方、僕の記事は『楠木柊は昔地元で恐れられた不良だった!』と書かれていた。こっちも鍵の記事と似たようなものだ。やっぱり情報源がおかしいし、本当に僕の過去を調べて書いたのなら、『あの事』が無いのはおかしすぎる。それでも、大本だけ見るとこの記事は・・・。

 

「あらあら、大変ねぇ、キー君、クッキー君」

「酷い記事です!抗議しないとっ!楠木先輩が不良だったなんて、何かの間違いですよっ!杉崎先輩だってそんなことするような人じゃあ・・・。・・・ごめんなさい」

「いや、何に対する謝罪?」

「まったく、生徒会役員ともあろうものが、こんな記事を書かれて!」

「・・・あの新聞部は好きですからねぇ、こういうの」

「そうですね。よくこんな記事書こうと思ったな・・・」

 

 今までもあまりいい感じではなかったが・・・。こう、自分が目標にされると、一段と嫌な気分になるな、これ。

 

「杉崎!まずは、貴方に聞くわ!その記事の内容が事実なのかどうか、ハッキリして貰うわよ!」

 

まずい。会長がご立腹だ。適当にごまかそうというのは無理かもしれないな・・・。

 

「あ、会長。もしかして嫉妬ですか?俺の過去の女が気になって・・・」

「そうやって逃げようとしても無駄よ!」

 

鍵も同じ考えだったようだ。一応逃げてみようと計画したらしいが、やはり無理っぽそうだ。

 

「キー君。アカちゃん、こうなったら事実関係確認とれるまでずっと騒ぎ続けるわよ?分かってるでしょ?諦めなさい」

「分かってますけど・・・」

 

 鍵の過去については僕は鍵に話してもらった事が有る。・・・あの話を聞いたときは、決して鍵は悪くない、と思っていたがそれは僕が「第三者の視点」だったからだろう。その時そこにいなかった人間が他人の過去についてとやかく思うのはナンセンスだ。だから、それ以上は聞こうと思わなかったし、同時に僕が話した過去も鍵はそれ以上聞こうとしなかった・・・。いや、僕は聞いてほしくなかった。だって、聞かれてしまったら僕は・・・。

そう思っていると、鍵は覚悟を決めたようだ。鍵は真剣な表情で会長の顔を見て、こう告げた。

 

「結論から言って事実です。俺は、昔、二股かけてました」

 

 この言葉に・・・会長は、特に突っかかって来なかった。いつものようなノリだったら、会長に色々言われてたろうが、いつもと違う真剣な表情の鍵に、会長は・・・いや、生徒会の皆は誰も何も言おうとしなかった。

 

「・・・そう。で?杉崎は詳しい経緯を話す気あるの?」

「いえ。今はちょっと、勘弁して下さい」

「・・・でも、事実なのね」

「はい」

「弁解する気は?」

「ありません」

「そう」

「はい」

「ん、わかったわ。・・・それじゃ、楠木の方にも聞くわね。」

 

 ・・・来た。やはり、僕も覚悟を決めなければならないのだろう。いつまでも隠せるものではないだろうし・・・

 

「はい」

「それで?これに書いてあるのは事実なの?」

「・・・そうですね。事実です。僕は、地元では不良と呼ばれてました」

「そう」

「ただですね・・・この記事はちょっと誇張気味ですね」

「というと?」

「この記事には学校サボってどうこうとか書いてますけど、これは嘘です。僕は・・・まあ、強調したって無意味ですけど、向こうでは喧嘩ばかりしてました」

「・・・どうして?」

「・・・そうですね。僕は・・・昔、ある事件を起こしました」

「事件?」

「はい。それが原因で、僕の地元では僕はいじめの格好の的だったんです。だから、僕はよく同じ学校の連中から色々な事を言われてたんです」

「・・・」

「・・・僕は、それが耐えられなかった。自暴自棄になっていた僕は、相手を打ちのめして黙らせてました。その結果、僕は地元で恐れられた不良、っていう扱いになったんだと思います」

「・・・そう」

「・・・まあ、この容貌も、あまりいい目で見られる対象ではなかった、っていうのもあるんですが・・・」

「容貌?その髪の事?」

「ええ・・・それもありますが・・・」

「?楠木?」

「・・・会長、それに皆。今まで僕は皆さんに嘘をついてたんです。」

「嘘?」

「ええ」

 

そういうと、僕は右目につけていたカラーコンタクトをはずす。

 

『・・・・・・』

 

 皆驚いていた。だってそうだろう。コンタクトを外したあとの僕の右目は「ブラウン」ではなく「アンバー」・・・要するに琥珀色だったんだから。

 

「・・・ま、見てのとおり、僕はオッドアイなんです。こういった『普通』じゃないところも、僕が喧嘩を売られてた理由なんですけどね」

『・・・』

「だから今まで『嘘』をついてたって言ったんです。とはいえ・・・」

「・・・なんでそれを『嘘』だって言うの?楠木は」

「え・・・」

「別に、ただ瞳の色をちょっと変えてただけじゃない。別にそんなの珍しくないわよ」

「会長・・・」

「俺も会長に同感、かな。」

「鍵・・・」

「別にオッドアイのキャラなんざギャルゲーでは珍しかないさ。むしろうらやましいくらいだ!俺に寄越せ!いや、ください!」

「まあ、鍵の言う事はちょっと大げさだとは思うけど、あたしも別に悪いことだとは思わないさ。」

「ま、真冬も同じ意見です。」

「むしろそのくらいで『嘘ついてた』って言われても、どう対応したらいいか困るわ」

「・・・」

 

 ああ、やっぱ皆いい人だ。僕に事件の事を聞くわけでもなく。この瞳の事をどうこう言ってくるわけでもなく。ただ、気を遣ってくれているのだ。他の人がみたら、傷の舐めあいだ、とか言われるかもしれない。だけど、それの何が悪い?いいじゃないか、別に。僕らはまだ『子供』なんだ。『大人』じゃない。未熟だからこそ、こういったことで救われるのだ。だったら、構わないじゃないか。傷の舐めあいくらいは。

 

「・・・ありがとうございます」

 

そういいながら、僕は右目にコンタクトを戻す。

 

「あ、それ戻しちゃうんだ」

「ええ。このコンタクトを付けたのは、過去との決別っていうのも含めてるんで」

「決別?」

「はい。・・・昔の「自分」との決別です。もう、昔の様に人を傷つけるようなことはしない、って高校に入るときにつけ始めたものなんです、これ」

「へぇ・・・」

 

 結局、この後に僕の事を聞いてくることは無く、鍵の更生について、各々が意見を言い合い、鍵が「個性をなくすのが更生だっていうのなら、俺はこのままでもいいような気がします。俺は色々と変わってるこの生徒会のメンバー、大好きだよ」と言って、取り敢えず今日の会議を終えた。

 

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 翌日。僕は生徒会室へと向かっていたところ。昨日の議題に出てきた新聞部の部長さん・・・藤堂リリシアさんに遭遇した。

 

「何してんですか?」

「あら、ごきげんよう、楠木柊。昨日の新聞のネタでは世話になりましたわね」

「・・・人を不良扱いしておいて、それだけですか?」

「わたくしは常に「晒し上げ精神」を誇りに仕事をしてますわ」

「その精神は今すぐそこらへんのゴミ箱に捨ててきてもらいますかね」

 

 ・・・相変わらずだな、この人。

 

「それで?もう一度聞きますけど、何してるんですか?」

「昨日のあんな間に合わせの下らないネタよりも面白いネタが手にましたから、記事にして差し替えてるんですわ」

「・・・僕達の過去のネタ、間に合わせの下らないネタ扱いなんですね」

 

 ・・・少し泣きたい。

 その思いを抑えながら、記事を見る。何々。『保健室で目撃!?看護したがるナース幽霊!』か。・・・この新聞は東スポか何か?それにしてもこの記事に負けた僕達の過去って・・・。やっぱ泣いていいかな。

 

「どう?面白いでしょう?この藤堂リリシアにかかれば一晩でこんな記事を作っちゃうのも朝飯前というものですわ!おーほっほっほっ!」

「え?この記事、一晩で作ったんですか?」

 

 僕はもう一度この記事を見る。・・・正直、話の内容はともかく、新聞自体の出来はそこいらの新聞と比べても遜色ない位だ。とても一晩で作ったものとは思えない。

 

「はぁ・・・。相変わらず無駄なところに凄い力かけてますねぇ・・・」

「無駄?そんな事はありませんわ」

「え?」

「確かにアナタ達にはそう見えるのかもしれませんわね。でも、わたくしにとってはこれが一番の楽しみですもの。楽しみに力を入れるのはむしろ当たり前でしょう?」

「うーん・・・まあ、そうでしょうけど」

「アナタにも分かるでしょう?楠木柊。自分が人と違うってだけで、理不尽に人から注目を受けることを。アナタは髪の色も瞳の色も人とは違うのですから」

「ああ、書かなかっただけで知ってたんですね」

「あら、わたくしは藤堂リリシアですのよ?それくらいの情報を知ること位、お茶の子さいさいですわ」

「僕の中学って関東にあったんですがねぇ・・・」

「まあ、そんな理由で浴びたくもない注目を浴びせられるくらいなら、その注目してくる方達にも痛みを味あわせてやれー、と思って書き始めた新聞ですけど、今ではわたくしにとってはもう趣味みたいなものですわ。趣味をやるなら、全力でやるのが当然でしょう?」

「・・・」

 

 なんて言うか。この人の言動はイマイチ理解できないけど、だからこそこの人は面白いんじゃないだろうか。例え悪い意味でも、この人は注目の的になれて、話題になれる人なんだ。

まあ、かなり迷惑な個性ではあるだろう。でも・・・。

 

「あら、もうこんな時間ですのね。では、楠木柊。ごきげんよう。アナタと杉崎鍵に関しては今後更に調査を続けるので、またお世話になりますわね!」

「あ・・・」

 

 そう言いながら、藤堂先輩はさっさと行ってしまった。

僕は新聞をもう一回見る。・・・会長の嫌いな怪談話、か。

これ、放置してたらまた怪談ブームが湧き出るかもしれない。だから、本当は外した方がいいのかもしれないが・・・。

 

「ま、その時はその時で対処すればいいか」

 

 僕はもう一度貼られる可能性の高さ、そして一々見つけてははがす労力を踏まえて、面倒だという考えが勝ったのでそのまま放置した。

そう、僕は必要以上の面倒ごとはしない主義である。

それが僕、楠木柊なのだから。

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