夕日が海面を照らす中、座礁した比叡の近くで大淀と晴風は停泊していた。あのあと、比叡艦内の消毒作業と乗組員へのワクチン接種を終わらせてブルマーが到着するまで待機することに。
「なんかあれだよねぇ……」
「ん~…?」
「一気に忙しいことをやったあとってさ…ボーっとしてたいよねぇ……」
「わかる~……」
艦首付近で手すりに寄りかかっている春香と焔は燃え尽きたような人のようにほげ~っとしていた。まあ無理もない、比叡を止めるためにあの手段を使えば神経がいくらあっても足りないだろう。ちなみに二人の右手には栄養ドリンクが…
「あっあとこの飲み物美味しいよねぇ~…」
「疲れた時はこれに限るよ~……」
「あっ!いたいた!おぉい~!ハルちゃん~、ホノちゃん~!!」
呑気にほげ~っとしていると、二人を探していたのだろう岬が声をあげつつこちらに駆け足でやってくる。背後にはましろの姿も
「あっ、宗谷さんに岬さん…♪」
春香と焔も気づいて視線を向けて出迎える。どうやら晴風の方も作業が落ちついたらしい。
「なんとか成功したね♪」
「だね~。ヒヤヒヤもんだったけど…(汗)」
「赤宮さんもなかなか無茶なさるんですね…(汗)。まあこれだけじゃなくて武藏でもそうでしたが…」
「昔からこんな感じだからね~。うちの艦長は…(汗)」
「あはは……(汗)ってん?」
褒められているかそうじゃないのか、よくわからない言い方をされたため春香が思わず苦笑いになっていたとき、視線の端に3隻の艦艇が目に移りそちらに視線を向ける。そこには三脚が特徴的な艦である改インディペンデンズ級二隻、そして赤のラインが入った教育艦がこちらへとやってくる。
「…げっ……」
「おっ……!」
その中の二隻に見覚えがあるのか黒色に塗装された艦をみて思わず顔がひきつっているましろにたいして、小さい頃から横須賀に遊びに来たときに何度も見慣れていた赤のラインがはいり、もっとも優秀な艦長にしか付与されない横線に三つの斜め線が入った艦を見た春香の表情が明るくなる。
「あれは確か…!」
「なんで姉さんがここに……」
そう、ましろの姉である真冬の乗り込んでいるBPF10べんてん・そして春香の母、咲が指揮するBPF35ふしおだ。だが後ろの艦は見慣れないようでそちらに視線を向けると四人は首を傾げる。
「あれ?あんな艦いたっけ…?」
「さぁ……塗装的には横須賀所属みたいだけど…」
艦橋
「どうやらあの教育艦は伊吹っていう重巡洋艦らしいですね」
もちろん3隻のことは艦橋にいたメンバーも確認しており興味深そうにみていた。しかしそれとは正反対にもちとミネはいつものようにじゃれあっている。
「伊吹っていったら改鈴谷型重巡洋艦のことだな…確か横須賀にそんな名前の船があったよ」
流石はミリタリーオタクの上里、タブレットで調べていた柚乃の言葉だけで一瞬で正確に言い当てる。そう彼女の言う通り横須賀校所属の小型直接教育艦伊吹。艦番号はY680で改鈴谷型として建造された船だ。
「でも確か伊吹って私たちが入学したときには遠洋航海に出てたはずなんだけど「あっ!!」……!?」
遠洋航海で本来ここにいないはずの伊吹がなぜここにいるのか…そんなことを首に傾げていた上里であったが引き続き調べていた柚乃が目を輝かせながら顔をタブレットから勢いよくあげる。それに一同は驚きの表情を見せていた。
「どっどうしたの……柚乃ちゃん…(汗)」
「皆さん!!これみてください!!あのふしおの艦長は凄腕な人みたいですよ!!」
いきなり声を大きくしたため、驚きつつも高嶋がその理由を聞く。いまだに興奮が収まらない柚乃だがそれでも手はしっかりと動かしてタブレットを一同に見せる。
「えっと……ふしおの艦長は赤宮咲…ってこれって」
「はい♪うちの艦長のお母さんでしょうね…!しかもそのお方は凄く…ひとまず!これを!」
未だ興奮を隠しきれない柚乃が画面をスクロールさせて別の情報を見せるとみていた一同も驚きを露にする。
「マジか…!!あのクリーブランド事件で各国政府から賞状もらってるのかよ!!」
「クリーブランド事件って…!入学試験でも出てきたよね!?確か当時最新鋭の護衛艦がテロリストに乗っ取られて…」
「テレビで観たことがあります!!当時かなり大々的に報道されてましたね…!!」
ようやく柚乃が興奮している意味を理解したのか、他のメンバーもその波に飲まれてしまう。ちなみにクリーブランド事件とは何かここで説明しておきましょう。
今から十年前、アメリカ海軍所属の最新鋭護衛艦クリーブランド級の二番艦アトランタがセイロン島にて海賊に奪取された事件のこと。乗員はすぐに解放されて無事であったものの当時最新鋭装備をのせていたアトランタは非常に強力で一隻だけでも水上打撃群と張り合える能力を有していた。
実際このアトランタを止めようとアメリカ海軍は巡洋艦クラスの護衛艦を主力とした8隻の水上打撃群を派遣したもののあっさりと返り討ちにあってしまった。各国も止めようと艦隊を相次いで派遣したもののほとんどが失敗してしまった。
だがこれを止めたのが沿岸戦闘艦ふしお以下4隻、そう咲が指揮する艦隊であった。精鋭のアメリカ海軍でも止められなかったアトランタを奮進魚雷や主砲などで誘引、隙ができたところに旗艦であるふしおがアトランタに強硬接岸を実施。これにより艦内の海賊を制圧して事態を収集させたのだ。
これを受けてアメリカ合衆国政府や日本政府、イギリス政府などの各国政府から勲章を授けられるという異例の表彰となった。そのため、咲のふしお艦側面にはブルマーのマークのとなりにもっとも優秀な艦長にしかつけられない黄色の斜線が三つ描かれた絵がつけれているのだ。
ちなみにこの事件は世界各国のブルマーの試験などで来島の巴御前とも言われた宗谷真雪の件と同様に出題されており、彼女の名前を知らないものは関係者ではいないというものらしい。
「……うちの艦長の親ってそんな凄い人だったんだ……」
子日も覗き込みつつ、驚きと関心の表情を浮かべているようだ。その間にもべんてんが大淀に接岸、その隣にふしお・伊吹と並ぶように停船する。
「ひさしぶりねぇ♪春香♪入学式前以来じゃないかしら?」
「よっ!ましろ!ひさしぶりだな!」
「母さん♪」
「やっぱりそうでしたか…姉さん…」
真冬に苦手意識をもっているのか、ましろは喜びというよりかなり頭を抱えている様子だ。それに対して春香は嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながら歓迎しているというなんとも対照的な光景が写り込んでいた。
「えっと…お二人は…」
しかし状況整理が追いついていない岬は困惑した表情を浮かべていた。するとそれに気づいた二人が彼女に視線を向けつつ挨拶をする。
「俺はべんてん艦長でブルーマーメイド強制執行課保安即応艦隊所属、二等保安監督官の宗谷真冬だ…!そこのましろの姉ってところかな!よろしく!」
「私はブルーマーメイド第二水上打撃群所属、旗艦ふしおの艦長兼指揮官を勤める赤宮咲よ…♪階級は真冬さんと同じ二等保安監督官。うちの子が世話になってるわね♪」
「はっはじめまして!晴風艦長の岬明乃です…!!」
「大淀副長の焔羽南です。はじめまして♪春香のお母様♪」
それぞれの自己紹介が終わると接岸しているのをみていたのか晴風や大淀の乗組員が甲板に出てくる。
「おやおや~、なにやら楽しそうですね~」
「ん?」
するとどこからか声が聞こえてきたためそちらに視線を向けるとそこにはふしおやべんてんを経由して伊吹から二人の乗組員が降りてくる。姿からしておそらく艦長と副長だろう。
「あ……」
どうやらその中の一人、艦長らしき人物に見覚えがあるのだろう。焔が目を見開く。
「こらこら(汗)あんまりはしゃがないでよね。っと♪そこにいるのは羽南じゃない♪ひさしぶり、元気にしてた?」
「姉さん!?」
「「「えぇぇぇ!!??」」」
まさかの焔から発されたとんでもない言葉に思わず両艦の乗組員全員はこれまたびっくりな揃いも揃って驚きの声を上げて姉さんと言われた生徒へ視線を向ける。
「はじめまして…かな♪私は小型直接教育艦の艦長を勤める焔由梨♪そこの大淀副長、羽南の姉で横須賀校三年生なの、よろしくね♪」
「同じく伊吹副長の旭川誉です♪よろしく!」
羽南の姉であり茶髪ショートの大人しい感じを漂わせている焔由梨・そして少し薄い緑がかったショートヘアを揺らして活発そうな旭川誉は驚きを隠せない乗組員に自己紹介をするのであった……。
新キャラクター
焔由梨
伊吹艦長
羽南の姉であり横須賀海洋女子学校に所属する高校三年生。学年では首位をとるほど優秀であり伊吹乗組員からは厚い信頼を得ている。本来であれば遠洋航海に出ているはずであったが…。どうやらなんかしらの方法で戻ってきたらしい。
旭川誉
伊吹副長
伊吹の副長を勤めており、由梨の幼なじみ。彼女とは正反対で活発なため艦長がよく振り回されるという珍事が起こることも……。しかし指揮は優秀で由梨に続く優等生だ。ドがつくほどの蕎麦ファン()
小型直接教育艦伊吹
基本的なスペックは史実の重巡洋艦伊吹と同じであるが魚雷発射管が四連装魚雷から島風に搭載されている五連装魚雷発射管に変更。さらに機銃の連装からすべて単装に変わっている。
艦番号はY680