少年は『ラスボス』になりたい。   作:泥人形

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更新だと!?


『不倒』の騎士は『思惑』の中に。

「全く以て嫌な予感がする」

 

 セントラル・カセドラル五階。《武器庫》。

 その前に佇んでいる、萌葱(もえぎ)色の槍を携えた一人の騎士──ネルギウス・シンセシス・シックスティーンは、静かに呟いた。

 何故そう思うかといえば、それはネルギウスがこの場にいることと関係している──とは言え、そう複雑な何かがあったかと言われれば、それもまた違う。

 事は至ってシンプルだ。

 今朝方、この公理教会には罪人が連行されてきた。

 罪人の数は二人。それもどちらも年端のいかない少年である。

 確か、《 帝立修剣学院(ていりつしゅうけんがくいん) 》の、《上級修剣士》であると言っただろうか。

 イマイチ名前まで思い出せなかったが、情報としてはそこまでで充分だろう、とネルギウスは思う。

 罪状は《他人の天命の消失》──簡単に言えば殺人だ。

 彼らは人を殺した……らしい。級友である貴族の少年をひとり、剣で斬り殺したとのことである。

 よくもまあ、この人界でそこまで大胆なことができたものだ。

 胆力、という意味でなら称賛に値する──だが、人としては最低だ。

 理由はどうあれ、《禁忌目録》という、人界における絶対の法に触れた彼らは現状『悪』……『極悪』であり、それが覆ることは無い。

 何かしらの形で裁きを受けることになるだろう。

 そしてネルギウスは現在、そんな『極悪人』である彼らが万が一にも脱走を試み、公理教会へと反逆しに来るようであればそれを止める、という任を受け此処にいる──のだが。

 正にその事実こそが、ネルギウスの嫌な予感をひたすらに煽っていた。

 確かに、殺人などという罪を犯した人間を警戒するのは当たり前のことだろう。念のために、整合騎士が配置されたことも、理解できなくはない。

 問題は、配置されたのが()()()()()()()()()()()ということである。

 五階、武器庫前にはネルギウス。

 三十階、大広間にはデュソルバート・シンセシス・セブン。

 五十階、《霊光の大回廊》にはイーディス・シンセシス・テン。

 八十階、《雲上庭園》にはアリス・ツーベルク。

 本日、暇を与えられていた四人の騎士が、全員階層を指定された上で、警備を任ぜられたのだ。

 過剰戦力とか言うレベルの話ではない。

 この四人が集まれば、それこそ一国を落とすことだって無謀とは言えないくらいの戦力になる。

 つまり、それは公理教会のトップであるあのクソガキ──もとい、アルフォンスがそれだけ、あの罪人を警戒しているということになるのだろう。

 

「アレを"警戒"と言って良いものなのかは、些か判断がつきかねますがな……」

 

 ポツリ、とネルギウスは言葉を零し、数時間前のことを思い出す。

 直接あの二人を連行してきたアリス・ツーベルクに向かって、アルフォンスは──何故か。

 何故か非常に嬉しそうな、あるいは、新たな玩具を手に入れた時のような──見ている者の胃を痛める時に限って見せる、満面の笑みを浮かべたのである。

 それでもって、上記の四人を集めたアルフォンスは

 

「今からお前たちにはセントラル・カセドラルの警護に当たってもらう。もし戦闘が発生した場合は殺すつもりでかかって良い──だが殺すな。以上」

 

 とか宣ったのである。

 意味が分からなかった訳ではない。命令は至極単純だ。

 殺す気でかかれ。だが殺すな。この二つだけ。

 無論、滅茶苦茶嫌な予感がする笑みと共に。

 これはもう絶対に裏がある。無いわけがない。命をかけても良い、と全員が思った瞬間だった。

 ネルギウスが記憶を辿れば、アレはその昔、サザークロイス南帝国に出張した際に勝手についてきやがった時に浮かべていた、含みのありまくる笑みと同じだった。

 要するに、あの少年はこの事態を予見していた。

 確定ではないが、ほぼ確定と言って良いだろう。

 アルフォンスは常に突拍子もないが、しかし時折──本当に、未来予知でもしているのかと思う時がある。

 そしてこれは、間違いなくその類だった。

 ──面倒なことが起こる。絶対に。

 はぁ、とため息を吐き、ネルギウスは腰ほどまである自身の、濃緑の髪を梳く。

 できればこのまま、何事もなく一日が終わってしまえば良いのだが──

 

「どうにもそうはいかなさそうですな……であれば後は、私がこの手でアルフォンス殿の予見を覆すしかない、か」

 

 タッタッタッ、という二人分の足音をキャッチしたネルギウスは、やれやれと己の愛槍たる《 萌嵐槍(ほうらんそう) 》を握りしめた。

 というか、四人も配置している時点で、あの少年の予想では少なくとも手前の三人はやられる想定なのだろう。

 それがネルギウスは、非常に……ひっじょ~に気に入らなかった。

 既に武技ではアルフォンスに抜かれたが、しかしこれでも百年以上整合騎士として務めてきた、熟練の騎士である。

 ここらで、我が実力を見せつけてやる、とネルギウスはちょっと憤慨していた。

 《不倒》の騎士:ネルギウス・シンセシス・シックスティーン。通称ネギ。

 中々に負けず嫌いな、十六番目の騎士である。

 

「どうせ神聖術か、心意か……あるいは想像もつかない手段で見ているのでしょう──であれば、とくとご覧じれ。我が勝利を」

 

 ヒュルリと《萌嵐槍》を構え、ネルギウスはそう言った。

 

 

 

 

 

 

「──とか何とか、今頃言っているのだろうな」

 

 セントラル・カセドラル最上階。

 少しだけ拡張し、増やした部屋の一室──執務室でアルフォンスがそう呟けば、ソファで分厚い本を捲っていた幼女……もといカーディナルが、目線を向けた。

 

「何じゃ、お主ここで黙って待っておるつもりか?」

「そのつもりだが……おい、何だその顔は」

「……んんっ、いやなに、意外じゃなと思っての」

 

 思わず唖然として、開きまくった顎を戻しながら、カーディナルがしみじみと言う。

 開いていた本へと栞を差し、テーブルへと置いてからティーカップを少しだけ傾けた。

 ゆらと揺らぐ上品な香り。

 カーディナルが飲む紅茶はちょっとだけお高めのものだ。

 その辺にちょっとだけこだわりのある女であった。

 

「意外というほどでもないだろう。昔はともかく、今のオレはそれなりに忙しい身だ」

「それは……そうなのじゃが……」

 

 どうにも腑に落ちない、とカーディナルは思う。

 ──というのも、カーディナルは一度アルフォンスの記憶を覗いているからだ。

 今朝方連れてこられた、二人の少年のこともある程度は知っている……無論、全てではないが。

 端から端まで読む解くには、情報が膨大すぎたし──そもそも、この世界が物語であるということを受け止めるのは一朝一夕ではいかない。

 むしろ、アレだけの量と密度を誇る、恐ろしさすら感じさせる情報をけろっと受け入れているアルフォンスが異常なのだ。

 あまりにも異端な存在──と言うのは、まあ今更ではあるのだが。

 兎にも角にも、あの二人の少年の登場は正しく『転機』である。

 物事が大きく動く瞬間──そういうものを、見逃すような人間ではないはずだ。アルフォンスという少年は。

 ゆえに「この目で見たい」とか言って業務も何もかも放り出すと思っていたのだが……。

 事実は小説より奇なり、とはこのことを言うのだろうか、とカーディナルは思った。

 

「……カーディナルの言いたいことが分からぬという訳ではない。事実、多少は気になっているしな」

「ならば見てくれば良かろうに。お主のことじゃ、両立くらいわけないじゃろう」

「まあな、だがそこまでするほど、興味を惹かれているという訳ではない──と言うよりは、そうだな」

 

 一区切りして、アルフォンスはペンを置く。

 背もたれにぐったりとよりかかり、気の抜けたように天井を見上げた。

 微動もせぬシャンデリアが部屋全体に光を落としている。

 

()()()()()()()辿()()()()。その確信が、オレにはある」

「ほう……それは、お主の知識ゆえか? あるいは、何度かその目で観察でもしておったか?」

「いいや、まあ少々細工はしたが……それが無くとも此処には来るだろうよ。勘というやつだ」

 

 勘というものは、存外馬鹿にはできないものだ。

 第五感を超えた、第六感とも言われる──いわゆる超感覚。

 そう言ったものを無意識に働かせ、物事を察知すること。

 あるいは、これまでの経験や知識から弾き出した答え。

 アルフォンスに限って言えば、あまり外れたことが無い──どころか、今のところ百発百中で当たる占いのようなものだった。

 

「ま、お主がそう言うのであれば、わしも文句はないがの……本当に良いのか?」

「くどいな……あっ、その見透かしたような目はやめろ。気に入らん」

「気に入らんて……図体はデカくなっても、そういうところはまだまだ子供じゃのう」

「喧しいぞ、これでももう十八だ。大人と呼ぶには充分だろう──まあ、何だ、一応必要なことでもあるのだ、これは」

 

 カーディナルのニヤニヤとした視線から逃れるように、アルフォンスは言葉を零す。

 それから少しだけ逡巡し、まあ良いか、とため息を吐いた。

 

「あの二人は、アリスの幼馴染だろう。一度オレ抜きで──と言うよりは、本来であれば公理教会という存在も抜きにして、一度は話させるべきだと、そう思っただけだ。

 それが、幾らお節介に類するものであろうとも、必要ではあるだろう。

 決断したのはアリス自身とは言え、あの時選択を迫ったのも、ある意味で縛り付けたのも、他ならぬオレであるのだからな」

「……お主、アリスのことになると途端に激アマになるのう。シスコンと呼ばれても仕方ないと思うんじゃが」

「!!?」

 

 シスターコンプレックス!?

 馬鹿な、そんな訳が無いだろう。

 というかそもそもアリスは妹ではなく、妹分である。

 まあ、確かに他の整合騎士や、修道士・修道女たちと比べれば多少距離は近かったように思うが、それも十一歳の頃からの付き合いなのだから当たり前と言えば当たり前のことだ。

 もう七年間──正確には四年間傍付きとして、ここ三年間は整合騎士として共にいたのだから。

 期待は確かにしているが、それを言えば他の整合騎士たちにだって同じだけの期待をしている……はず、である。

 ……だよな?

 アルフォンスは久方ぶりに、一抹の不安を抱いた。

 アリスにはそれなりに厳しく当たっていたつもりなのだがな……と思わず長考する。

 

「ふふっ……」

 

 うんうん、と一人唸り始めたアルフォンスを見ながら、カーディナルは実に楽しそうに、されども静かに笑う。

 カーディナルは基本的に人を揶揄うということをしないが、相手がアルフォンスの場合は話が別だった。

 常に冷静で、合理的な判断を下すことでき、なおかつ余裕を持っているこの少年は、そもそも翻弄することが不可能に近い。

 ──が、アリスやアドミニストレータといった、特定の人物についての話題になれば、意外とそうでも無かったりするのだった。

 ファーストコンタクトを取った時から、唯一常に『協力者』として動いてきた、カーディナルだけの特権である。

 これだけは、アドミニストレータにもアリスにも譲れない。

 そんな珍しい光景を一頻り楽しんだ後に、カーディナルは言う。

 

「冗談は抜きにしてもじゃ。お主のアリスへの対応はそれなりに過剰じゃろう。わしの目には、お主に言われてあっちこっちへ走り回る姿ばかり目に入るがのう?」

「……良く、見ているな」

「そりゃのう、わしはこれでもお主の相談役じゃぞ?」

 

 相談役。

 文字通りの役割だ。

 今では人界全体を治めているアルフォンスと、アドミニストレータへ助言を与え、時には共に考える特殊なポジション。

 絶対的な知識量で言えば、当然ながらアルフォンスはアドミニストレータとカーディナルには敵わない。

 重宝している人材である。

 

「知っているだろうが、この世界は──こう言うのは問題があるが、しかし仮初の世界だ。

 現実世界の人間がやろうと思えば、一瞬で消し去れる、そういう世界。

 オレ達は……少なくとも、オレやお前はそのことを忘れてはならないし、考え続けなければならない」

「そうじゃのう。それは確かじゃ、だがそれがどうした言う?」

「だが、オレ達は"人間"だ。現実世界の人間がどうあろうとも、オレ達は確かにこの世界を生きる、一つの種族だ。

 であれば、やはり時が来れば、オレ達の中からあちらの世界へと飛び立つべきものが必要になるだろう。

 ……オレは、それにはアリスが適任だと思うのだ」

「おや、お主ではないのか?」

 

 カーディナルの、尤もと言えば尤もな意見に、アルフォンスは鼻で笑う。

 やれやれ、と大袈裟に肩をすくめられ、カーディナルは思わず杖をにぎにぎした。

 

「オレがいなければ、誰がこの世界を統治するというのだ」

「わしとあの女がおるじゃろ」

「お前ら、一度意見が対立したらどちらかが死ぬまで殺し合うだろう」

「…………」

 

 普通に図星でカーディナルは押し黙った。

 似た者同士──というか、実質カーディナルとアドミニストレータは同一人物だ。

 気に入らないところを探し始めればキリが無いし、元々二人は敵対関係である。

 きっかけがあればいつでも殺し合えるだけのポテンシャルがあった。

 

「それに、オレは少々例外だ。アドもお前も含めてな……適任には程遠い。純然たる──とまでは言わないが、この世界で普通に生まれ、育ったものが良いとオレは思うのだ」

「まあ、そうじゃな」

 

 ──と、言いつつやっぱりこいつアリス好きすぎじゃろ、とカーディナルは思うのであった。

 このアンダーワールドで生まれ、育ったもの?

 正しく例外でしかない、トップの三人を除けばそんなもの、誰だって当て嵌まるのだから。

 

「だから、なるべく多くの経験を積ませたい……とでも考えておるわけか?」

「大体はそんなところだが──《最終負荷実験》に向けての準備でもある。

 あれほどの才覚を持つ者は、そうはいない──才能だけで言えば、アリスはアド以上だ。

 出来るだけ高めさせようと思うのも無理ないことだろう」

 

 ──ああ、そうか。

 今更ながらアルフォンスの真意に気付き、カーディナルは僅かに口角を上げた。

 散々御託を並べたが結局、アルフォンスは死んでほしくないだけなのである。

 何せ戦争だ。誰しもが経験したことの無いほどの大規模な殺し合いだ。

 誰が死んだっておかしくはない。

 なればこそ、()()()()()()()()()()()

 親しい人が多ければ多いほど、その距離が近ければ近いほど。

 不安は増える、不安は大きくなる。

 どうにか生き残って欲しいと願うようになる、その為に尽力する。

 そうだった。

 アルフォンスもまた、十八の少年でしか無かったのだ、とカーディナルは跳ねるように立ち上がった。

 トテトテとアルフォンスに歩み寄り、ピョンッと机に座る。

 

「おい──」

「黙っとれ」

 

 不満そうな言葉を先んじて封じ、カーディナルは優しくアルフォンスの頭へと触れた。

 それから何度も撫でる。よしよしと、子供をあやすように。

 

「たまには良いじゃろう、こういうのも」

「……悪くは無い」

 

 不満げに、しかし肯定したアルフォンスに、カーディナルは笑みを深める。

 いつもは逆のことをされることが多いだけに、若干楽しかった──と、そこでカーディナルはふと階下の異変に気が付いた。

 いや、異変というよりは、これは──。

 

「ネギが負けたか、意外と早く終わったな」

 

 そう言って、アルフォンスは薄く笑う。

 相も変わらず、こういう時だけは悪人のように笑うな、とカーディナルは思い。

 しかしその手を止めることは無かった。

 

 

 

 




アルフォンス:幼女とイチャついてた

カーディナル:クソガキとイチャついてた

ネルギウス:上記二人がイチャついてる間に負けた。
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