伊吹澪のお兄さん。   作:凪姫

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プロローグ

「これから3年間、ここで過ごすのか……」

 

4月7日。桜舞い散る中、俺はある学校の門の前に立っていた。

 

東京都高度育成高等学校。

60万平米を超える広大な敷地を持ち、進学率・就職率が100%というとんでもない実績を掲げている全寮制の学校。

日本政府が主導として運営している学校で、パンフレット曰く『生徒が希望する未来に全力で応えます』だそうだ。

それでいて入学金や授業料、寮費などの負担はなし。……改めて考えてみると、詐欺だと言われてもおかしくないな。

 

ただし、3年間外部との接触は禁止されており、家族と連絡を取ることさえ許されない。

次に会えるのは3年後に卒業した後となる。

 

「というより、兄さんがこの学校を選んだのは意外なんだけど」

 

そう言って隣に立ったのは、暗めの青のショートヘアに気の強そうな目の少女。何を隠そう自慢の妹、伊吹澪である。

……余談だが、3年間連絡が取れないと聞いて心配したのは妹の事である。

 

「……また何か変なこと考えてる気がするけど。で、なんで兄さんはこの学校にしたの?結局教えてくれなかったじゃん」

「んー……まぁ単純に一人暮らしをしてみたかったのと、進学率100%ってところに惹かれたからかな。それと澪の様子が気になったってのもある」

「うわ出たシスコン。やめてよ」

 

とか言いつつ少し嬉しそうなのは誤魔化せてないぞ。

 

「兄さんのシスコンはどうにかなんないの?」

「いやぁ無理じゃない?妹のいる兄って大体こんなもんだと思うよ?」

「あのさぁ……はぁ。いい加減行かないと邪魔になるし行かない?」

「あぁ。クラスも確認しなきゃだしね」

 

未だ俺たちがいるのは校門の前。まだ時間はあるもののずっといられる場所でもない。

俺たちは揃って3年間を過ごす場所の門をくぐった。

 

 

 

「げ、私も兄さんもCクラスじゃん……」

「同じクラスか。ひとまず1年目は良かったんじゃない?」

「そうだけど……」

 

掲示板にて確認したところ、俺と澪はどうやら同じクラスだったようだ。……澪はどこか嫌そうにしているけど。

 

「ま、ちゃんと友達の一人くらいは作ってくれよ?」

「別にそんなのいなくても私は───」

 

兄としては妹に友達が出来て欲しいと考えているが、澪にしてみればどっちでも構わないらしい。

そんな抗議を聞きながら、俺は別のことを考えていた。

 

 

 

 

 

───自分が変わっていると気付いたのは、小学生低学年の頃だった。

と言っても、漫画のような異世界から来た存在でも、日常の裏で戦っているなんて事もない。

単純に他の人と比べて変わっている存在だった、という意味だ。

 

それまでは当たり前だと思っていた事が、いざ他の目線に立つと異質だったと気づく……そういう例は多いと思う。

同じように、それまでの俺は回りも当たり前のように自分と同じような存在なのだと信じていたのだ。

 

 

授業を聞けば、先生から教わった内容が無理なく理解できる。

体育をすれば、先生がやった行動を見よう見まねで真似られる。

本を読めば、どの本に何が書いてあるのかをすべて覚えられる。

友達と話していて、ある程度相手がどんな気持ちなのかを汲み取れる。

 

 

しかしそれは自分だけの話であり、周りを見渡してみれば出来ない人の方が多かった。

最初は「なんで出来ないんだろう?」と思っていた。

自分が出来るなら他人だって出来るはず。そんな期待があったんだろう。

だが日が経つにつれて、出来ない人の方が多いんだと感じるようになっていった。

そうしてようやく、自分の中で『当たり前』と感じていた事が、他の人にとって『当たり前ではない』ということに気付いたのだ。

 

大多数の中に異物が紛れ込んだ時、どう感じるだろうか。

主な感情としては嫌悪感や敵対心、排除などのマイナス感情だと思う。

もちろんそれだけでなく、羨望や憧れだってあるのかもしれない。だがそれは限りなく少数の感情で、大勢が感じるものとしては違うはずだ。

異質だと気付いた俺は、その後をどうしたいか考えたことがある。

俺だけであれば、このまま目立って嫌悪されても問題はなかった。何もされなければそれでよし、されるのであればその期間を耐えてしまえば終わる話で、大ごとにするなら訴えてしまえばいいからだ。

だが、俺には同じ境遇で育って比較対象にされるであろう存在───大切な妹()がいるなら、そんな危ない橋は渡ることは出来ない。

悩んだ末、俺は異質な部分をある程度誤魔化すことに決めた。……そのお陰か、多少手を抜く程度でも波風立つことはなかった。

同時に、俺はある疑問が浮かんだ。「俺の限界はどのぐらいなんだろう」と。

不意に思ったことだったが、答えは考えてわかるものでもない。そう考え、これからはそれを探るために行動することに決めた。

 

小学校の勉強を通り越して、中学や高校の勉強を始めてみたり。

音楽、美術、工芸といった芸術方面の技術を学んでみたり。

遊びで使えるような面白い技を覚えてみたり。

 

中学に上がってから、行動の範囲が広がった。

創作に出てくるようなカリスマ生徒会長をはじめとして、癖のある同級生や担任と知り合いになった。

そんな連中と楽しんでいろんなことをやった3年間だった。

中学を過ごすうち、俺の目的は少しずつ変わっていった。

限界はまだ見えてこないかもしれない。でも、沢山の仲間からいろんな体験を聞けた。色んなことを知った。

もしかしたら、今まで全く知らなかった事を学べるかもしれない。俺以上にとんでもない人間と出会えるかもしれない。

そうして自分の限界を探る以外にも、新しい行動方針が出来ていった。

 

そんな中、担任からこの学校を勧められた。「お前にはここがいいんじゃないか」と。

全寮制であるならば全国から生徒が集まるはず。もしかしたら今まで知る機会のなかった存在に巡り会えるかもしれない。

一番の懸念事項は澪自身が同じ高校を選んだことで消えた。こうなってしまえば問題は何もない。

こうして俺はこの学校へ進学したのだった。

 

掲示板には、どのクラスにも澪以外の知り合いの名前はなかった。

つまり今までに会ったことのない新しい友達を作れる、という事。もしかしたらその中に、自分が期待するような人間がいるかもしれない。

仮にいなくても、自分のためになる新しい価値観を持った人間がいるはずだ。

 

 

 

 

 

「……兄さん聞いてる?何考え込んでんの?」

 

回想をしていると、澪は心配になったのか声をかけてきた。

 

「大丈夫だ。……いや、改めて楽しみだなって思ってさ」

「あっそ。なら別にいいけど。んじゃ行こう?」

 

そう言って澪はさっさと行ってしまった。……心配させたみたいだし、後で謝らないとな。

どうやって謝るか考えつつ、妹を追いかけてこれから1年間を過ごす教室へ向かった。




はじめましての方ははじめまして。凪姫です。
1年生編を読みはじめて書きたくなったので書きました。更新が続くように頑張ります。
ではまた次回に。
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