伊吹澪のお兄さん。   作:凪姫

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5月28日、あとがきの学籍番号を変更しました。


第10話

その日の放課後。俺は帰───らずに、まだ教室に残っていた。

教卓には龍園が座っており、その脇を2人の男子生徒が固めている。

片方は黒人でサングラスをかけた男子、もう片方は目つきが悪く不良っぽい男子。

名前は黒人の方が山田(やまだ)アルベルト、不良っぽい方が石崎(いしざき)大地(だいち)

 

「全員残ってるな?改めて自己紹介させてもらうぜ。俺は龍園翔。このクラスの『王』となる者だ」

 

周囲を威圧しながらそう告げる。その瞬間、王に対しての敵意が増した。

周りを見渡すと、それ以外にも値踏みするような視線を向ける人間や、興味なさそうにしている人間もいた。

……こんなことを考えている俺自身も、龍園の独壇場にはあまり興味がないんだが。

 

「テメェらも分かっただろうが、この学校は異質だ。クラスを纏め、他クラスの連中と争わなきゃならねぇ。そのために必要な要素は色々あるが、それをひっくるめて纏め上げられるのは俺しかいない」

 

一瞬だが、澪から俺へと目線が向けられたのを感じた。「兄さんがやらないのか」と。

分かってはいるが、もちろん反応はしない。もともと纏めるつもりもないし、王になったら色々と面倒だしな。

 

「とはいえ不満がある奴もいるだろう。だから先に王を決めようぜ。不満のある連中はかかってこいよ。どんな手段でも構わねぇからよ。……中には不満がない奴も居るだろうが、そいつらは帰っていいぜ。但し後で決まった王には従えよ」

 

そういうと、椎名だけが唯一立ち上がって出て行った。

……まぁどうせ龍園が王になると思うし、わざわざ残る意味も薄いだろうしな。

 

「……ねぇ、兄さんは王になるつもりないの?」

 

そんな事を考えてると、澪が小声で話しかけてきた。

……その質問をするのは俺がクラスを纏められると信じているからだろう。

 

「……そのつもりはないかな。澪はあいつが王になるのは不満?」

「……うん。正直あいつのやり方は受け入れられない」

「……そっか。けどな、このクラスを纏めるのはあれが正解なんだよ」

「……は?」

 

そう、()()()()()()()()()()龍園の取った手段は正解に近い。

探そうと思えばいくらでも粗は出てくるが、一度きりのこの場においては完璧とも言えるし。

それに龍園自身は何もかもが粗雑な訳ではない。計算高いところがあるのも確認している。

 

「……ま、俺が何を考えてるかは後で話すさ。澪は龍園について分析してみな。その上でどうしたいのかを決めたらいい」

「……分かった」

 

しぶしぶ、といった感じで引き下がる。

そんな会話をしているうち、高橋が立ち上がるのが目に入る。

 

「なぁ、質問いいか」

「あぁいいぜ。なんだ?」

「最初に言っておくが、俺は龍園が王になること自体に異論がないんだ。ポイントの話には気付かなかったしな。……だが逆に言えばそれだけ。君は俺たちのためにそれ以外で何を示せる?」

「ハッ、そんな事を言うためだけに立ったのか?まずポイントの話1つ取っても俺はテメェらよりもより深く理解してる。知能に関してはテメェらより上の証明だ」

 

いや、気付いたの俺なんだけどなー……。

説明してた内容も、殆ど俺が説明してた通りだし。

まぁ自由にやる許可を貰った以上黙ってるけど。

 

「肉体面に関しちゃコイツらを屈服させてるのが証明だろ。少なくともその2つでは俺に敵う奴はこのクラスには存在しねぇ。実績なんざこれからいくらでも見せてやるよ。俺についてくればAクラスで卒業できるようにしてやる」

 

反論を聞き、高橋は何も言わずに着席する。

だがその表情は敵意が増すどころか、納得して引き下がったように見えた。

話すことは終えたのか、龍園は配下を引き連れて出ていく。

数人がその後を追って出ていったのは龍園に挑むためか、それとも……。

 

「それより、澪は追わなかったんだな」

「……兄さんも言っただろ、分析しろって」

「あぁ。……ま、自分の意見をぶつけるのも大切だけどな。じゃ、また部屋でな」

「分かった。どこ行くの?」

「職員室。先生に聞きたいこともあるし」

 

 

 

 

 

「来たか。こっちに来てくれ」

 

夕方、俺はコンピュータ部に来ていた。

目的は今朝武田先輩から連絡が来た通り、パソコンを受け取るため。

部室の奥の方で先輩が呼んでいたので、そっちに向かう。

 

「失礼します。セットアップまでしてもらってありがとうございます」

「気にするな、ポイントを貰った以上は面倒を見るさ。君こそ僕に5万ポイント振り込んで大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。ちゃんとした仕事なのにポイントを払わない訳にはいきませんから」

 

それに関しては本気だ。社会に出たら仕事として代金を支払わなければならないような仕事でもある。

部品の購入からセットアップまで、何もかも面倒を見て貰ったしな。

 

「さて、そろそろ説明するとしよう。……これが君のパソコンだ」

「へぇ……この前見た先輩のものと似てますね」

「あぁ、大体のパーツは同じものを使っているからな。CPUなんかは流石に違うものだけどな」

 

目の前に差し出されたのは黒のノートパソコン。先輩のものとは形は似ているが、中のパーツが大きく異なっている。

パソコン上級者でもないので、先輩のアドバイスを参考に選んだ完成品が今目の前にあるもの、ということだ。

 

「それじゃあ最初から説明するが───」

 

そう言って武田先輩は使い方の説明を始める。

セットアップは本当に初期段階の設定のみに抑えたようで、ユーザーに関する設定は案内しながら教えてくれた。

その指示通りに設定していき、本格的に俺専用のパソコンとなる。

 

「これでパソコンについての説明は終わりだ。何か質問は?」

「いえ、特にありません。すごく分かりやすかったです」

「そうか。……それじゃ、本題に入るぞ。このアプリを開いてくれ」

 

そう言って、パソコンにインストールされているアプリの1つを指差す。

他のアプリとは違って、唯一アイコンが「?」マークになっているものだった。名前は……『ALICE』?

 

「なんですか、これ」

「いいから開いてみろ。説明はその後だ」

「はぁ……」

 

言われた通りに開いてみる。

すると名前と携帯の電話番号、メールのアドレスを入力するタブが出てきた。

起動に必要な工程らしいのか、打ち込むよう指示される。

指示通り入力すると、一瞬の暗転の後に画面に変化が起こった。

 

『確認……完了。伊吹湊と判断。よろしくお願いします、マスター』

「……は?」

 

画面に女性のキャラクターが現れたかと思うと、こちらを認識して『マスター』と呼んできた。

……まるでFa○eじゃねぇか……。

 

「あの、これ一体何なんですか?」

「さっきのアプリの正式名称は『Automatic Learning Information's Control Engine』。この女性インターフェースを起動、管理するアプリになってる」

『先程起動された際に貴方をマスターとして登録し、マスターの指示を受けるように設定されています』

 

詳しく話を聞くと、このアプリとキャラクターは先輩が作ったAIアシスタントというものらしい。

キーボードでの入力だけでなくパソコンのマイクやカメラを通しての音声と映像を認識し、マスター権限を持つ人間に対応して答えてくれるというソフトだそうだ。

 

『簡単な計算から資料等の作成、位置情報などの探知まであらゆる命令を遂行できます』

「学校にハッキングしたり機密情報を抜き出したり、なんて事は出来ないがな。悪用を確認した場合は僕にメールが来てシステムが破壊されるようになっている」

 

何もかもが可能、というわけではないようだ。

悪用する気はさらさら無いのだが……。

折角だし、いくつか質問して出来るものと出来ないもののラインを聞くか。

 

「そうですね……指定した難易度の模擬テスト問題を作成、なんて事はできる?」

『可能です。解答も含め、複数パターン作成することが出来ます』

「じゃあ、他人に対してメールを送って連絡先を追跡したりは?」

『可能ですが、追跡結果のみの報告となります。追跡過程における命令は不可能です』

「そっか。次に───」

 

いくつか聞いた後、今度は武田先輩にも質問をする。

……というより、そっちの方がメインだったりするけど。

 

「なんでキャラクターが美少女なんですか?」

「それは俺の趣味だ。むさ苦しい男よりも可愛げがある方が嬉しいだろ?」

 

画面に映っているキャラクターはクリーム色の髪の毛に黄色の瞳、頭に白いリボンをつけた外国風の少女。

可愛げがあるのは否定はしないが。俺にとって1番可愛いのは澪である(シスコン)。

ちなみに先輩のはいわゆる黒髪和風美人系のキャラクターだった。アリスっぽい要素ないじゃん……。

 

「じゃあ理解しておきます。なんで俺にこのアプリをくれたんですか?」

「そうだな……2つだな。1つはALICEの運用データを取るため。もう1つは与える相手が伊吹だからだ」

「1つ目は想像がつきますが、2つ目はどういうことですか?」

 

俺だから、と言われても正直どういう事だか分からない。

俺以外にもコンピュータ部に入部した後輩に与えても良さそうなものだが。

 

「運用データを取る以上、頭脳面では優秀だと思う人間に与えようと考えたんだ。その点君は俺にクラス分けの考察を示してくれたしな」

「……あぁ、あれってそういうテストだったんですか?」

「そうだ。他にもいくつか理由はあるが……」

 

あの時「合格だ」と言ってたのはそういうことか。

それ以外にも、「アプリの存在を口外しない」「武田先輩に協力的」といった理由があったが、そういう評価をしてくれたのは素直に嬉しいと思う。

 

「そんなところだな。……そうだ、携帯を出してくれ」

「え?……はい」

 

言われた通りに携帯を出す。

先輩がパソコンを操作し終えると、携帯が何かをインストールし始めた。

それが終わると───画面上にさっきの女性キャラクターが現れる。

 

「これで携帯からでもALICEを使えるようにした。緊急時にはこっちで操作できるから、必要に応じて使ってくれ」

「え?はい。ありがとうございます?」

 

……展開が早すぎてついていけないのが本音である。

ひとまず理解できたのは、ALICEがとんでもなく優秀なアプリだという事だろう。

 

「それと、キャラクターの形を取っている以上、このALICEに名前をつけてくれ。俺の方でも個体識別なんかに必要だしな」

「はぁ……分かりました」

 

ぶっちゃけ、アプリ名の通り「アリス」でいいんじゃ……。

何はともあれ先輩からパソコン以外にも使えそうなものを貰ったので、お礼を言って部室を出る。

……ありがたいと思う反面とんでもない物を渡されたなぁ、と考えるのだった。




高度育成高等学校学生データベース(入学時点)

名前:高橋 裕史(タカハシ ヒロシ)
クラス:1-C
学籍番号:S01T004677
部活動:無所属
誕生日:9月6日

ー評価ー

学力:B
知性:C+
判断力:C+
身体能力:B-
協調性:B+

《面接官からのコメント》
欠点らしい欠点もなく、受験者全体としては優秀である。しかし、中学では面接時のような社交性はなく、中学からの内申書も加味した結果、Cクラスへ配属させることに決定する。



あとがきです。
予告通り龍園の王様宣言、それとパソコンを受け取る話でした。
後半で出てきたALICEは今後湊くんの武器として活躍します。これはオリキャラ認識していいのか……?(困惑)
ALICEの説明はだいぶ端折らせていただきました。物語の展開じゃなくて説明で文字数が多くなってしまうのは申し訳ないので……。次回からはちゃんと物語を進めます。
ではまた次回に。
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