伊吹澪のお兄さん。   作:凪姫

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第12話

白波との勉強会から数日後。試験まで残り4日となった。Cクラスの生徒も放課後になるや否や、殆どの生徒が図書室に向かうようになった。その中には高橋たちの姿も見える。

……俺も誘われていたのだが、用事があると言って断っておいた。今日は他にやることがあるしな。

 

「失礼しま〜す」

 

俺はBクラスの教室に突入したところだった。Bクラスの生徒たちは全員驚いてこちらを見た後、Cクラスの人間と分かり警戒しはじめた。白波にも話していないため、彼女はどこか不安そうな目でこっちを見ている。

……警戒されているのは他クラスだからというよりもCクラスだから、と言えるだろう。龍園がちょっかいをかけているようだし。

そんな中、1人の男子生徒が目の前まで歩み寄ってくる。

 

「お前は確か……Cクラスの伊吹湊か」

 

警戒心を隠さず、有無を言わさぬかの如くこちらに問いかけてくる。

と言っても何かしようという訳でもないし、率直に用を済ませる方がいいだろう。

それにしても……

 

「まさか名前を知ってるとは思わなかったけど……」

「そんなことを言うために来た訳では無いはずだ。一体なんのためにBクラスに単独でやってきた」

 

……うわぁ、すげぇ警戒されてる。ただのCクラスの人間だから、という訳でもなさそうじゃん。

仕方ないから本題に入るとするか。

 

「じゃあ聞くが……クラスで1番影響力が強い人間は誰?その人に取引をしに来たんだけど」

「……取引、だと?」

「あぁ。少なくとも今回は龍園……さんには何も伝えていない。俺の独断で来ている」

 

後々になってクラス間の争いが激化したら分かるかもしれないが、少なくとも自分から『龍園に縛られていない』ということを明かす必要はないしな。

……まぁ、目の前の男子生徒は警戒を解く様子はなさそうだが。そりゃそうか、龍園の手下でいる方が読めないしな。

お互い黙っていると、様子を見ていた女子生徒が俺たちの方に歩いてくる。

 

「神崎くん、話を聞くメリットはあると思うよ」

「一之瀬、本気で言ってるのか!?」

「話を受けるかは別だよ?取引って言う以上こっちにメリットがあって接触してると思うんだよね。それを聞いてから判断してもいいと思う」

「だが奴は龍園の手下だ、罠だったらどうする」

「ん~、それはないんじゃないかな?龍園くんはこんなに真っ向から罠を仕掛けさせるような真似はしないと思うよ。それに……嘘をいってるようには見えないしね」

 

……話を聞く限りだけど、どうやらBクラスで影響力があるのはこの一之瀬という女子生徒のようだな。

その次に最初に話しかけてきた男子生徒……確か神崎と呼ばれてたっけ。そいつが2番目に影響力を持っているんだろうか。

2人はしばらく話し合った後、こちらに振り返って話し始めた。

 

「ということで伊吹くん、とりあえずお話を聞かせてくれないかな?」

「ありがとう。じゃあ早速……と言いたいけど、内容自体はあまり広めたくない。人払いしてくれないかな?」

「ん~……いいけど、私たちだけ残ればいいかにゃ

~?」

「それで構わない」

 

そういうと、Bクラスにいた他の人間は全員帰り支度を済ませて皆出ていった。……純粋なクラスの仲の良さだけでここまで統率力が高いのか。

全員が出ていった

 

「これでいいかな?」

「あぁ。じゃ、早速取引を始めようか」

 

そう言って俺は見えないように携帯で録音を始めてから鞄からファイルを取り出し、中身が見えないように机の上に置く。

 

「───俺が出せる材料はこれ。この前やった小テスト、それと中間テストの過去問だよ」

「……過去問?うーん……それだけだと内容が薄くないかなぁ?」

「ただの過去問ならそうだね。けど───もしこれが、毎年同じ問題が出されてるとしたらどうする?」

「何?……そういうことか。仮にそれが本当なら確実に満点が取れる、最悪赤点を回避することも可能だな。だがそれが本当だという保証は?」

「その為に小テストの過去問を入れてるんだよ。購入後に確認してもらったら分かると思うけど、小テストも全く同じ問題だったし」

 

まぁそれでも不安だと思うから両方とも2年分、という説明を付けておく。

それは置いておいて。……ここまで話した感じ、こちらの求めるもの次第では受け入れても構わないと考えてくれるのがベスト。最悪なのは徹底抗戦されることだろうか。まぁ見向きもせずに切り捨てていない以上、検討してくれてるとは思うが……。

 

「神崎くん、どう思う?」

「ふむ……ここまで考慮されてる以上、フェイクである可能性は低いだろうな。俺は取引条件次第では飲んでいいと思っている。」

「同感だね。……それじゃあ伊吹くん、君が求める条件を聞いてもいい?」

 

特に疑問を挟むわけでもなく、こちらの要求を聞くつもりのようだ。

白波から聞く限り、Bクラスの武器は他のクラス以上の団結力だと思う。赤点を取れば退学になるというルールである以上、その武器を壊さないためにも赤点を確実に回避する手段があるなら頼ると思っていたが……その賭けには勝ったと言えるだろう。

さて残る問題はこの先。大きいものではないから通るとは思うが……。

 

「俺の求める条件は3つ。1つは過去問購入分のポイントだけど……値段は後で説明する」

「うん、いいけど……あと2つもあるの?」

「あぁ。2つ目は俺の妹に関してだ」

 

1つ目に関しては言わなくとも分かるが、2つ目を告げると2人とも疑問符を浮かべた。……あれ?伝えられてないのか?

 

「妹というと……伊吹澪のことか。それがどうした?」

「聞いてるか分からないから言っておくけど、2000万ポイント貯めることで好きなクラスに移れるらしいんだよね。もしBクラスが勝ち残ったら妹を移らせるつもりだから、ってことだよ」

「なるほどね~。うん、それは別に良いよ。神崎くんは?」

「俺も構わない。特にデメリットもないしな。で、残り1つは?」

 

澪のクラス移動に関しては澪本人に伝えていないけどね。もしそうなった場合は色々言われるだろうけどその時になんとかすればいいか。……まぁ俺らのクラスが勝ち上がれば問題ない話だし。

 

「3つ目はこの先の保険かな。今後一回だけ俺の頼みを聞いてほしいってものだ。……さっきのポイントのも絡むけど、これが飲めるなら払ってもらうのは4万ポイント。飲まないなら8万ポイントだね」

「……一之瀬、これは───」

「うーん……私も簡単には頷けないかな。ちょっと相談しても良い?」

「あぁ、構わないよ。それじゃ決まったら教えてくれ」

 

……そりゃ簡単には受け入れないか。

過去問のポイント自体は鬼龍院先輩が言っていた相場通りの2万ポイント、2年分だから単純に倍の4万というだけに過ぎない。こちらは払うだけなら特に問題視する必要はない。

重要なのは3つ目の条件で、それが二の足を踏ませてるといったところか。俺の目的がこの条件を飲ませることだというのには気づいたのだろう。……こちらの要求は出来る限り譲歩する気はないが、無理だろうなぁ。

 

「神崎くん、私は───」

「ふむ……しかし一之瀬、もし───」

 

2人で相談しながら、こちらの提案を吟味している。

……この様子だと、リーダーとして主に方針を決めるのは一之瀬。参謀として神崎がそれを支える、といった感じだろうか。

一之瀬を王様にして方針を決定するという王国のようなクラスはCクラスと似通っている。せいぜい国民が自ら支えているか嫌々支えているかの違いでしかない。

 

「お待たせ~。時間とっちゃってごめんね?」

「ううん、気にしなくて良いよ。……で、こっちの提案を受け入れてくれる?」

 

そういうと2人はアイコンタクトし───どうやら神崎が話すようだ。……いや、さっきから思うけどこの2人すごく仲良いな。

 

「……俺たちとしては、その条件に『最終的にBクラスが不利にならない範囲で』という条件をつけるなら飲んでも良い」

 

提案された条件は、Bクラスが不利にならない───手伝っても良いが背中を刺すなというもの。

それくらいであればこちらも問題はない。こちらとしては完全拒否も視野に入れていたからある意味拍子抜けだし。

俺は携帯を取り出し、録音した画面を見せながら契約内容を確認する。

 

「ん、じゃあその条件で良いよ。見せてる通り録音してるけど……一応文面でまとめておくから明日また確認してくれ」

「あぁ。……だが、念のためにその録音データも貰っておきたい。構わないな?」

「ならさ、この3人で共有するのが良いよね?私たちの連絡先を教えるから連絡してくれるかな?」

 

そこからは素早く連絡先を交換し、すぐに解散となった。

明日先生の前で契約が確定した後、過去問を渡してポイントを振り込んでもらうという形になった。……懸念としてはポイントを振り込まずに逃げられることだろうけど、一之瀬たちの性格からしてないだろうし。

 

「さてと、俺のやりたいことはもうないし……あれ?」

 

携帯を見ると、ポイント増えていることに気づく。送り主は龍園だった。過去問の礼、とのことらしい。

その過去問だが、Cクラスには龍園が手に入れたという体で昨日のホームルームにて配布していた。俺から過去問を配布してしまうと龍園の対抗勢力として担ぎ上げられかねないし。

 

「わざわざポイントを払う辺り、今後も俺を使うための前金も兼ねてるんだろうな……」

 

俺としては参謀役をやりたくないので自由に過ごしていたいんだがな……。

ま、最悪でも澪に被害が行かないように過ごせるならどうなってもいいかな、くらいだ。

思ったより時間も余ったし勉強会に参加しに行こうかな、なんて考えながら図書室へと向かっていった。




高度育成高等学校学生データベース(入学時点)

名前:宮崎 愛実(ミヤザキ マナミ)
クラス:1-C
学籍番号:S01T004790
部活動:茶道部
誕生日:6月26日

ー評価ー

学力:B+
知性:B
判断力:C+
身体能力:C-
協調性:C

《面接官からのコメント》
筆記テストでは各科目75点以上を誇り、面接でも落ち着いて知性を感じる部分が見て取れる。しかし身体能力が平均以下である点と交友関係の狭さを問題視し、Cクラスへの所属とする。



あとがきです。
Bクラスへの取引でまるまる1話を割きました。白波がいる以上Bクラスについて触れる必要もありましたしね。
一之瀬さんと神崎くんの登場です。本編の補足ですが、一之瀬さんは湊くんを警戒していないわけではないです。それ以上にわざわざ取引しに来るリスクを考えているだけなので。
1巻の内容は次回で終わりです。その次に閑話を挟んで2巻に進んでいきます。
ではまた次回に。
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