ただいま放課後になってすぐですが、現在俺こと伊吹湊は屋上にいます。
なんてモノローグはともかく、ある人物と接触するつもりでここに来ている。
既にその人物には『話がしたい。4時に屋上』というメッセージを残してきている。
差出人の名前を書いていない以上、普通であれば怪しんで無視する人の方が多いだろう。
しかし俺の推測通りの人物であれば、素性の知らない人物からの呼び出しにでも応じると踏んでいる。
なぜなら───クラスを掌握しようと画策している人物だからだ。
考えているうち、屋上の扉が開いた。
「あぁ?誰だと思えばうちのクラスの奴じゃねぇか」
相手───龍園翔は俺に気付くと、数歩距離を離してこちらと相対した。
俺を探るようにこちらを見ているのはこちらの人間性が分からないからだろう。
「あぁ、俺が君を呼び出した。来てくれて安心しているよ」
「ハッ、そのつもりならこんな場所に呼ばねぇだろ。確かお前は伊吹だったか。俺に何の用だ?」
ハッタリを交えたがすぐに看破されてしまう。
それどころか、こちらをしっかり認識した上で本題に入らせようとしている。
「へぇ、俺の名前……いや、クラスの人間全員の名前を把握してるのか」
「ま、そんなところだ。で、お前が俺に話しかけるのは……おそらくだがこれからに関してだな?」
「そこまで分かっているなら、俺がこの先言おうとしている事も分かるよね?」
そう前置きをした上で、俺は龍園をここに呼んだ目的を話すことにした。
「俺を───何があったとしても、お前の配下ではなく自由に動けるようにさせて貰いたい」
そう告げた瞬間龍園の顔から笑みが消え、威圧するかのような気迫でこちらを見る。
……俺もここで引くわけにもいかないから、顔には出さずに毅然とした態度を見せる。
「本気で言っているのか?俺がみすみすそれを許すと思ってねぇよな?」
「本気さ。この話自体は龍園にもメリットはあるからな。そうである以上一方的に切り捨てることはしないさ」
「……クク、そこまで豪語すんなら俺にその話とやらを聞かせてくれよ。それで判断してやる」
不敵に笑った後、龍園は黙ってこちらの話を聞く体勢になった。
ひとまず第一関門はクリアと言っていいだろう。後はこちらの要望を飲むように説得できるかどうか。
もちろん、無駄だと切り捨てて立ち去る可能性はあった。その場合龍園はそれまでだったということ。
だがもし想像通りの人間性を持ち、その上でクラスを掌握しようとする人間であるなら───話を聞くという選択を取る。
……それでも推測の域を出てないから、どう転ぶか分からなかった訳だけど。
「それじゃあ話すけど───その前に1つ。君はSシステムについてどのぐらい考えているか聞きたい」
「Sシステムだ?……なるほどな、そういうことか。まだ検証している段階だ……が、その情報量だけで取引しようなんざ思ってねぇよな?」
「そりゃそうでしょ。取引材料の1つではあるけどそれだけでもらえるとは思っちゃいない」
「それがハッタリじゃねぇ事を祈るぜ。で、Sシステムについてだったか」
龍園は自分で調べたであろう見解を俺に提示する。
ポイントの増減、推測されるペナルティの種類、無料商品に対する考察、その他含めての考察が語られる。
俺の考察と同じものもあれば、全く見当違いなものまである。
情報の総量だけで言ってしまえば俺の持つ情報量には及ばないだろう。
だがそれは鬼龍院先輩という上級生との接触によるからだ。
違う手段で、ということを踏まえれば相当調べられていることが分かる。
「───で、それ以上の情報とやらを聞かせてもらおうか」
「そうだね……そこまで把握しているならSシステム確定要素に関してだけ話すことにするけど?」
「まだ入学して5日目。確定出来る部分なんざ殆どねぇはずだが?」
「そう思うなら聞き流せばいい。じゃあ最初に───」
そう前置きをし、俺の持つ情報の中でもかなり正確な情報だけを伝える。
まず1つ目に、学年毎に各クラスで争うという事。これに関しては龍園も気付いているから事実であるという点だけを念押ししておく。
2つ目に、それに伴って毎月入ってくるポイントが減少する事。それ自体は5月になれば自ずと判明するが、もちろんそれだけではない。
「ポイントの減少理由はいくつかあるけど……学校なら授業中の私語だったり遅刻欠席とかかな。学校外だといわゆる良識があるかどうかって点を見てるんだと思うよ。教師が直接見るか、色んなところにある監視カメラを通して確認してるんだと思う」
「なるほどな。その様子じゃ素行が良くても加点されねぇ、クラス全体のマイナスだけを切り出すだけ。吊し上げなんかには向いてるだろうな」
「恐怖政治なんかには向いてるだろうね。で、監視カメラに関してなんだけど……今からデータを送るから連絡先を教えてくれる?」
「あぁ、ほらよ」
連絡先を交換したところでデータを送り、その画面にしたまま返す。
「これは……監視カメラの位置か。ご丁寧にどの方向に向いてるかまで書いてやがる」
「脅しや密会に使う場所を考えるんじゃないかなって思ってね。君ならなおさらいるんじゃないかな?」
「フン、当たり前だろ。こいつはありがたく貰っておく」
そう言って携帯を仕舞う龍園。
このままだけなら五分五分と言ったところだろう。
「それじゃあ3つ目。
「……へぇ」
初めて龍園の顔色が変わる。
……ここで食いつくとは思ってなかったが。ポイントに貪欲なんだろうか?
「部長さんの意向次第だから、やってる部活は限られるらしいけどね。これ自体は例年行われてるから確実にやってるよ」
そう、確実にやっている。
なぜなら
昨日の報酬の内容は───ポイントの使い方について。
もちろん賭け試合以外にも様々な使い方があると聞いたが、今は割愛。
それを差し引いてもとんでもない報酬だったと言える。
「なるほどな。資金自体は賭け試合で増やすことが出来る。部活に参加してねぇメンツは稼ぎ所がねぇからな。公平にするにはそれぐらい黙認するだろうな」
「で、最後は俺の持つ交友関係かな。さっきみたいな情報は上級生との接触で得たし、クラス対抗の勢力争いもBクラスには知り合いがいる。」
「ある程度仲良しこよししておいて情報をかっぱらうと?とんでもねぇ野郎だな」
白波の事情に協力する旨を伝えてしまった以上、情報だけかっぱらうなんて事は流石にしない。
Dクラスの
Aクラスのみ唯一情報がないが、4月の内に視察なりしに行くつもりだ。
「以上だね。俺を自由にするメリットは話したが……どうだ?」
そう言って龍園に問いかける。
返答次第で今後の立ち回りが変わってくるが……
「……いいぜ、テメェの自由を認めてやる。本来なら参謀として俺の下に置いておくつもりだったがな」
「……そうか。それを聞いて安心した」
「ただし、表向きは幹部ということにしておけ。クラスをまとめ終わった後に文句を言う奴が出てくると面倒だ。いいな?」
「あぁ、それで問題ない」
そう言って龍園は屋上から立ち去っていく。
……良かった。殴り合いにならずに自由を確約できたのはベストだな。
こうして、俺は名目上の幹部という事で決着し、自由が確約されたのだった。
ある人物は龍園でした。まぁ避けて通れない問題ですしね。
湊くんは龍園の下にはつかないことになりました。参謀として参加すると金田くんの立場がね……。
湊くんをはじめとしたオリキャラたちのスペックは本編が5月に入った段階で書いていこうかなと思ってます。
ではまた次回に。