悪党と剣と騎士道と 作:元星
アタシは天下の大悪党、ノウェム様だ!
これまで悩み事はひとつもない!…わけではないけど、ほとんどない!でもそんなアタシに、珍しく悩みのタネがあった。
それはとあるやつとの出会いだった。ここまでは何も変わったことはないんだけどな。アタシにとって、そいつを見たとき…上手く言えないけど、すごくモヤモヤしたんだ!
今まで、多くの悪党を叩きのめしてきた。そしていろんなヤツを見てきた。けどそいつは、これまで見てきたヤツらとはどこかが違った。
「どうだ参ったか!さあ、今すぐ盗んだ宝石を返しな!」
「はい、返します!」
「…って、返すのか!?しかもこんなあっさり!」
「返します!その代わりと言っちゃなんですが、どうか命だけは助けてください!」
「いや、アタシは元々…それより!お前の盗んだ宝石、オマエがきっちり謝って返すんだぞ!」
「はい!」
めちゃくちゃ怪しかったけど、その行動には一切の迷いがなかったし、実際アタシについてきて盗んだ店までやってきた。だからひとまずこのモヤモヤを忘れることにした。
「本当にごめんなさい、もうしません!」
「うちとしても盗みがあったなんてことを大っぴらにすると面倒なことになるし、君は手下として命令されてやらされたみたいだからこれ以上は何も言わないけど、次はないぞ」
本当は
「それでオマエはこれからどうするんだ?もう帰る場所もないんだろ?」
「それなんですけど…もし姉御がよかったら俺を舎弟にしてくれませんか?」
普段のアタシなら一人や二人、どころか何人が舎弟になりたいとか言ってきても軽くOKしたかもしれない。でも、コイツにだけは一瞬返事を迷ってしまった。…って、こんなのアタシらしくないな!
「わかった、今日からオマエは大悪党のノウェム様の舎弟だ!心を入れ替えてついてこい!」
「うっす!ついて行きます、姉御!」
「よーし、それでオマエはなんて名前なんだ?」
「俺はゲンセイっす!よろしくお願いするっす!」
「わかった、ゲンセイ!今から街をパトロールだ!」
「うっす!」
その後、夜まで情報収集を兼ねて街を見て回っていたが、平和だった。悪党はなし!たまにはこういう日があるのもいいな!でも、アタシたちの話題もなし!まずいぞ…こういう時、ネネカなら上手くやるのかもしれないけど、どうやるのが正解なんだ!?わからん!とりあえず今日はもう切り上げることにして街を出ると、女性が狼のような魔物に襲われていた。
「危ないっ!」
とっさにそう叫んでソイツを突き飛ばした。アタシは狼に噛みつかれて肩に傷を負ってしまったが、このくらいどうってことない。そう自分を奮い立たせ、状況を確認するためゲンセイの方を見ると…アイツは何もしていなかった。逃げることも防御もできていないということは、もし狼に攻撃されたらひとたまりもない。よし、ここはアタシがどうにかしないとな…!
「どりゃあっ!」
ありふれた市販の剣で魔物をぶった斬るが、かつてアタシの持ってた天楼破断剣と比べるとどうしても威力が落ちる。それにこの狼はよく見るといつも見るようなやつよりずっと大きかった。最近のランドソルの魔物は危ないとは聞いていたけど、これはさすがに予想外だ。どうにか切り傷を残すことはできたけど、狼は怯まず、攻撃を仕掛けようとしていた。攻撃に備え剣を構え直したが、狼が狙ったのは…ゲンセイだった。
「おい、逃げ…」
ゲンセイはそれでも動かなかった。まずい、守れない!
しかし次の瞬間、狼は大きくのけぞると、ゲンセイを恐れるように距離を取った。
(今の一瞬、それにアイツの手に握られてる剣、もしかして…)
いや、考えてる暇はない!このチャンスで、今やるべきことは一つだ!
「うおおおおっ!」
間違いなく今のアタシの全力100%、いや100万%でぶった斬る!
「ギャオオオオオッ!」
…やったか!?そんなアタシの願いが通じたのか、狼の魔物が立ち上がることはなかった。これでようやく一安心、だな!でも、その前にアタシは姉御として一言言わなきゃならなかった。
「とりあえず、助かったけど…戦えるなら、もっと早くにやってくれよな!…いてて…」
その時のゲンセイはどこかを飲み込めていないような表情をしていたが、アタシにはわかっていた。あれは反射ではあるが、アイツには「できること」だ。「できることをやろうとしていなかったが、やってしまった」。…ゲンセイは戦える人間だ。初めて見た時からそう思っていた。
「…わかりました、次からそうします。俺、ノウェムの姉御に従って心を入れ替えるって決めたっすから」
「でもなオマエ、前にアイツらのとこにいた時も言われるがままだったんだろ?それならアタシに従うだけじゃなくて自分で考えて動かないと、ずっと変わらないぞ!」
「わかったっす!じゃあ俺、自分で考えるっす!」
「それなら、いいぞ…?」
(本当にそれでいいのか?)
声を出していないのに、自分の声が聞こえたような気がした。でもその時のアタシはきっと大丈夫だとなんとなく自分を納得させてしまった。襲われた女性がどうなったか心配だったし、オクトーとのことも不安で心に余裕がなかったんだ。
「おーい、大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます…あれ…?」
その女性は立ち上がることができなかった。見てみると、足にケガがあった。普段のアタシならここで立つのを手伝うところだったけど、今回ばかりは何もせず黙って見ていた。
…そのまましばらく女性を見ているだけの変な時間が続いてしまった。こうなったらしょうがないな。
「ゲンセイ、手を貸してやれ」
「えっ?でも俺…」
「別にさっきのことは怒ってないぞ。オマエは狼からアタシを助けてくれたんだからな!それより今は手を貸してやってくれ、アタシがやるよりきっと楽に立てるだろうからさ」
「は、はい!」
「次からはこれも、自分で考えるようにな、わかったか?」
「わかりました、それで、えっと…足、擦り傷がありますよね?治します」
ここで初めて、ゲンセイは自分の意思で行動した。ほんの小さな一歩だけど、進歩は進歩だ!もしかしたら、今までの心配なんていらなかったかもな!
ゲンセイの回復魔法で、女性はすっかり元気になり、自分で歩くことができるようになった。家まで送り届けようとしたけど、さすがに引け目があったのかそれは断られてしまった。
「気をつけて帰れよー!」
「き、気をつけて」
「本当にありがとうございました!」
そういうと女性は去っていった。これまでずっと不安だったけど、今のアタシは少し安心していた。その理由は簡単だ。アイツは悪いやつじゃない!そんな直感がアタシの中にあったからだ。
「ゲンセイ!正直いうとまだまだだけど、さっきのオマエ、いい顔してたぞ!」
「ありがとうございます。ところで姉御、これって悪党じゃないんじゃ」
「いよし、今日はゲンセイが舎弟になった記念にお祝いだ!晩飯食いにいくぞ〜!」
気になるところはあるけど、ゲンセイの意思は本物だ!だからこれからきっといい舎弟に変わっていく!この時のアタシはそう思っていた。けど、ここから少しずつ歯車が狂っていくことになる。それを知るのは、そう遠くない話。