悪党と剣と騎士道と 作:元星
「ははっ、そろそろアタシたちの活動も板についてきたんじゃないか?」
「えっ、そうっすか?」
ゲンセイがアタシの舎弟になって一週間。アタシたちの活動は順調だ。むしろ順調すぎて不安なくらいだな。
「おう!…しかし、今日は朝から騒がしいな…って、あれは…」
「
「…」
「大丈夫っすか、ノウェム?」
「えっ?あっおう!心配すんな!さっ、それより何があったのか、周りのヤツに聞いてみるぞ!」
はい、と元気よく答えるとゲンセイは周りの人に聞き込みを始めた。朝からやる気いっぱいって感じだ!アタシも負けてられないな!
「なあ、そこのおばちゃん!ここで何があったのか知らないか?」
「ああ、なんでも王宮に王女様を殺害しようと何者かが忍び込んだみたいでね。最近はここも物騒になったねえ…」
「最近はって…他にも何かあったのか?」
「知らないのかい?一時期騒ぎになったろう、王女様の名を騙った侵入者がいたってね」
「王女の…それって…」
そりゃあ…大事件だな。ここ、王都ランドソルでは王女が将来この国を背負っていくことになってるから、そんな王女を傷つけるこれらの行動がどちらも重い罪に問われるのは間違いない。
「せっかく落ち着いてきたと思ったら、今度は殺害だなんて。お嬢ちゃんもあまり一人で出歩かないように…」
「ははは…いろいろありがとな!おばちゃん!」
おばちゃんの話が長くなりそうだったのでむりやり話を終わらせる。ゲンセイは…まだ戻ってないか。しかし、
「終わったっすよ、姉御!」
「お、どうだった?アタシの方はなかなか情報が集まったぞ!王女が殺害未遂されたり、王女を騙られたり…」
(もうそろそろ、自分の話をしてもいいんじゃないか?)
アタシはしばらくゲンセイと一緒にいたが、昔の話をしたことがなかった。それはアタシからも、ゲンセイからもだ。きっと怖いんだ。アタシは昔から真っ当な生き方はしていない。少なくとも、周りから見るとな。果たして今ゲンセイと一緒にいていいんだろうか?もっと、やるべきことがあるんじゃないか?何度も何度もそう感じて何も言えずにいる。でもその思いを振り払って、一歩踏み出すことにした。
「貴族の大事なものを盗んだヤツがいるとか、な!そっちはどうだ?」
ああ違う、そうじゃない、そうじゃないだろ!アタシ!これじゃあアイツはアタシの話だってわからないぞ!一歩前進とは…いえないな。
「俺が聞いたのは、王女様の殺害未遂だけっすよ。でもしばらく、
やはりバレることはなかった。でも気になることがある。あの件は、それほど騒ぎにはならなかったのだろうか。これまで
「最近の
「冒険っすか?じゃあ目的は?」
「ない!強いて言えば、剣の訓練だな!」
「剣、っすか…」
「そんな不安そうな顔するな!オマエはセンスあるぞ、アタシが保証する!」
「…ありがとうございます。それで、冒険はいつから?」
「思い立ったが吉日だ!今から行くぞ!目的地は…あっちの山だ!」
「え?あの山、デカいからここからも見えるだけでめちゃくちゃ遠」
「よし、出発だ!」
ゲンセイは話についてこれてないみたいだったけど、これこそ大悪党ノウェム様だ!それに、絆を深めるためには冒険が一番だ!アタシとオクトーだってそうして仲良くなったんだからな!
そうしてアタシたちは街を出ると山の方面へと一直線に向かっていった。ここまでは勢いよく進んでいたんだけど、出てそうしばらくしないうちに魔物がやってきた。この魔物は…ゼラチナか。そう手強くはないし、これなら…
「やっぱり魔物が多くなってるみたいだな…さて、ゲンセイ、行けるか?」
「はい…姉御、サポートお願いします」
「いや、今回はオマエ一人だ!頑張れよ!」
「ええっ!?ってうわっ!」
あちゃー、いきなり油断して一発痛いのをもらって…ないな。ギリギリで右手で剣を抜いて弾き返したみたいだ。ゼラチナは体勢を崩したから、ここで一撃を入れれば…
ここでゲンセイは空いていた左手にも剣を握った。あれでトドメを刺すつもりみたいだ。予想通り、今回はアタシの手出しはいらなそうだな!
「…っ!」
でも、アイツは決められたはずの一撃を外してしまった。その瞬間、明確な隙ができた。まずい!
「っ、りゃあ!」
強引にゲンセイの前に割り込むとゼラチナを一刀両断する。
「ゲンセイ、大丈夫か?」
「は、はい、姉御、ありがとうございます」
「もしかして、オマエ…攻めるの、苦手なのか?」
「えっと、その、実は、そうなんです」
嘘だ。鈍いアタシでもすぐにわかった。この返事は、嘘だ。…きっとゲンセイもゲンセイなりに、勇気を出すつもりなんだ。でも、アタシと同じように言うべきことを言えていないんじゃないかと思わせる躊躇いが今のゲンセイにはあった。ただ、今はそれを気にしている場合じゃない。
「よし。それならまずは一撃入れるのを目標にするぞ!そこまで強い魔物が出ないように目的地まで回り道していくから、オマエのペースでゆっくり頑張ろうな!」
ひとまずプランを変更し、様子を見ることにする。目的地までに少しでも、改善するといいんだけどな。
「…はい」
しかし、その後深夜まで何度魔物と戦闘を重ねてもゲンセイは防戦一方で攻撃に転じることはできなかった。
「うーん、夜も更けてきたな…今日はここまでにするか!」
「はい。その、ところで夜ご飯はどうするんすか?」
「ん?ああ、これ食うぞ、これ。それと野営になるけど、大丈夫か?」
「それって…魔物の、肉?それにテントも張ってあるし、いつのまに…」
「アタシも少しくらい動かないと鈍っちゃうからな!」
アタシはすぐに木を使って火をおこすと、魔物の肉を焼いていく。うーんいい香りだ!今日一日、頑張った甲斐があった!
「でも俺、一匹も仕留められなかったのに食べるわけには…」
「アタシ一人で全部は食べきれないし、ついでだついで!歓迎会の時と違って店じゃないからきれいにはできないけど、こういうのも意外とうまいぞ!」
「…じゃあ、いただきます」
「おう!アタシも、いただきます!…あっち!けど、うまい!」
「確かに、熱いけど…うまいです」
「だろ?たまにはこういうのも悪くないよな!たまにはっていっても、これから一週間くらいはこうだけどな、ははっ」
「俺のせいで、長引いてますよね…ごめんなさい」
「気にすんな!そんなことよりゲンセイって、剣を二つ使うんだな」
「はい。…昔は、右だけだったんです。俺、防御がすごく得意でした。でも、攻撃はからっきしで」
「できないことは、明日できるようにするぞ!アタシが一から教えてやる!」
「ありがとうございます。でも、今は少し聞いてくれませんか」
「…わかった、しっかり聞く」
「それでちぐはぐだった俺に剣を教えてくれた人がいるんす。その人は、俺に言ってくれたっす。ゲンセイは優しくて、真面目だって。敵にも剣を振るうことを躊躇ってるんだって」
だから、とゲンセイがいった。ゲンセイは、次の言葉を形にするのにとても長い時間をかけたが、アタシは聞きこぼさないように何も言わなかった。
「だから、この剣をくれたんすよ。この剣は、俺が信じる正しい事のために振るう剣にしろって。その正しさにきっと、みんなが助けられるから…ってね。でも俺にはやっぱり、向いてないっす。この剣を振るう資格なんて、ないっすよ」
その後は、長い沈黙が続いた。そしてここを逃したらきっとゲンセイの話はもう聞けないだろうという確信がアタシにあった。…ここでアイツのことをできるだけ聞き出さなければならない。
「その、剣を教えてくれた人っていうのは?」
「
「
「はい、元は所属してたっす。…ごめんなさい、姉御。姉御はすごい人なのに、こんなヤツのためなんかにこんな時間使わせて申し訳ないっす」
このことを話す時、ゲンセイは辛そうにしていた。失敗だ。絶好のタイミングを逃してしまった。きっとゲンセイはもうアタシに対して過去の話はしない。結局、アタシはゲンセイと距離を縮めることはできなかったんだ。…でも、まだ話は終わってない。今度はアタシが話す番だ。今、アタシが言うべきこと、いいや言いたいことは…
「それは昔の話だ。今の話じゃない、そうだろ?」
「でも…」
「それに仮にできなくても、オマエが最強の守り!アタシが最強の攻撃だ!これでアタシたちは世界最強の大悪党だ!」
「言ってることが無茶苦茶っすよ、姉御」
「当たり前だ、アタシは天下の大悪党ノウェムだからな!そうと決まったら早く寝るぞ!明日も早いからな!これから一週間で、オマエを最高の悪党にしてやる!」
「…」
「それじゃ、おやすみ!暖かくして寝ろよ!」
今はきっと、話し合いでは解決しない。一歩ずつ、距離を詰めることが重要だ。舎弟のゲンセイが勇気を出したんだ。アタシもドカンと答えないとな!
この一週間で、必ずゲンセイの心の氷を溶かしてみせる。そう決意すると一足先にテントに入り、眠ることにした。
しかしゲンセイはまだテントに入ることはなく、じっと自分の手にある剣を見つめ続けていた。