悪党と剣と騎士道と 作:元星
「…すまん、わたの聞き違いか?」
「残念ですが…」
「情報は確かなんだろうな?」
「はい。完全に痕跡が見当たらなかった様子で…もはや王宮内では対応しようがありません」
朝早くから慌ただしい。みんなもかなり慌てているようだ。何か嫌な予感がする。
「その、クリスティーナさん。何かあったんですか?」
「ふん、何があったと思う?笑い話にもならん」
「最近入ってきたっていう囚人が行方不明になったとか?」
心配と直感からとっさに出た一言だったが、それを聞いてクリスティーナの顔が強張った。…し、しくじったか!?
「…今のは聞かなかったことにしてやろう。全く、せめてもう一つの方を当ててもらいたかったんだがな」
「もう一つ?それって…」
「お前のいう囚人と、団長が行方不明になった。状況は…不明だ。全く不明」
団長が任務へと出た次の日にこの情報。状況はあまりにも悪い。王宮騎士団にとっても、ゲンセイ自身にとっても。…事情を知っているジュン団長がいないとなると行動は大きく限られてしまう。
「団員を至急、ここに集めるように」
「了解しました、では…」
「…副団長のことだから自分だけで突撃するかと思っていました」
「相手が分かっているならそうするさ。だが今はまだ剣の振り下ろす先もないからな。怪しいのは例の逃亡犯だが、そこすら見つからないとなると、な」
「…2人となると偶然じゃなさそうですね…」
「それよりもワタシが困っているのは一つだよ。…団長代理をどうするかだ」
「副団長がやればいいんじゃないですか?」
「ああそうか、お前は知らないのか。団長代理に求められる能力は一つ、統率力だ。個人の戦力は関係ない。代理だからこその措置なんだろうが、私にとっては困り物だ。貴族どもは頭が固いしな、全く、どうしてワタシがこんな問題で悩まなければならないんだ?」
「ああ、それなら悩まなくていいよー。今からボクが解決するから、さ」
「…んん?これはまた見慣れない客じゃないか」
「なになに、怖いなあ。そんな目で見ないでよ。キミたちにいいニュースを持ってきたんだからさー」
オクトー。王宮が新体制へ移行したのに伴い多くを動かす立場を得た存在だ。怠惰でこそあるが彼の能力は本物だ。
「この中に、団長と例の指名手配犯を行方不明にした人物がいるっていう報告を受けたんだ。僕としてはいちいち捜索するのも手間だからさ、素直に名乗り出てくれないかな?」
「ふうん、うちにそんな大物がいるのか。面白そうだ、ぜひ名乗り出てくれ!」
なんて人だ。副団長がアテにできないというのはなかなか辛いものがある。いや、だが、バレていないはずだ。ここは黙る。バレていないことを…祈るしかない。
「まあ、名乗り出なくてもおおよそ絞り込めてるんだけどね。最近入ったっていう新人くん、どう考えても怪しいよねー?」
「それは残念だな。その新人ならあいにく、今はサレンディア救護院にいる。どうする、呼び戻すか?」
「そんなことしなくていいよ、だってそれ嘘でしょ?ゲンセイくん」
「…!?っ」
「逃げ足が早いねえ。副団長さんは…邪魔するつもりはないんだね。正直意外なんだけど」
「この騒動を止めて万が一にでも貴族議会に出るハメになったら面倒なんてもんじゃないからな。今だけは見逃してやろう…それに」
「それに?」
「ゲンセイということは、アイツが戻ってきたんだろう?なかなか骨のあるやつだったからな、どれほど仕上がっているか楽しみだ」
「…やっぱ怖いなー」
そんな話を聞いている暇もなく、俺はただひたすら走る。どういうわけかそれほど大勢の追手を引き連れていたわけでもない。運はこちらにある。逃げ込む先は…
浮かんだのは一つだった。時間を惜しむ暇もないため森の中を駆け抜ける。しかしその時、焦っていたためかようやく一人の追手の存在に気づく。
しかし、遅かった。とっさに体を捻り傷を最小限に留めたものの左肩に焼けつくような痛みが走る。
そしてそこで追手と正面から向き合い、その正体を理解した。
師のサレンだった。
一方その頃、『ある場所』にノウェムは迷い込んでいた。
深く深く、階段を降りてようやく最深部へと辿り着いた。どれほど下ったのかは自分でもあまりよく覚えていなかった。
それにしても、ヘンな空間だ。どこかで見たことがあるような…ダメだ、オクトーなら思い出せたかもしれないけど…
真っ暗で何も見えない。しかしそこに誰かがいるというのはわかった。
「おや、来客とは珍しいね。楽にするといい」
「…アタシはノウェムだ。お前は?」
「はは、名前というものはそこまで重要かな?」
「…?こんなところにいて、お前も辛いだろ。早く上に行くぞ!」
「ふうん、キミはそう思うんだね。悪いが、断る。」
「そんなこと言われてもアタシは納得しないぞ?ここに一人だけ置いていくわけにはいかない。それに、オマエも苦しそうだからな!」
「それで、出てどうする?」
「それって、どういう意味だ?」
「随分と自信家だと思ってね。出てからどうするんだ?考えはあるのか?」
「ない…でも、怖くないぞ!」
「いいや、怖がっている。怖がっているべきだ」
「大丈夫だ、アタシは強い!絶対に二人で出ていてるぞ!」
「…お前が強いことくらいわかるさ。だが…」
「おう!天下の大悪党、ノウェム様だからな!剣はないけど、アタシは無敵だ!」
「この世に無敵なものなんてないさ。それより、出るのか。出口はわかっているのか?」
「さっきから随分と自信がないんだな。…もしかして、誰かに捕らえられてるのか?」
「……」
「えっ?まさか、ホントなのか?」
「いや、不思議なものだね。知恵はなくても、とても鋭い。あるいは…いや、なんでもない」
「オマエ、アタシのことバカにしてるだろ?でもそれなら、オマエだって出ていきたいはずだ!一緒に行くぞ!」
「それ自体は構わない。だが…」
「どうした?何か言いたいことでもあるのか?」
「ある。というより、この状況が既に…いや、ならば、そうだな…私と一つゲームをしないか?ある物を懸けて」
「今はそんな場合じゃない。時間がないんだ」
「時間がないのはお互い様だ。時間は、作り出すものさ。このゲームをしようとしまいと、時間が足りないならばどのみち君は成功しないさ」
「断れば?」
「出ていかない。それとも、ここでお前を始末しようか?」
「いいや、アタシは強い。オマエには負けないぞ!r
「呑気さもここまで来れば長所なのかもしれないな。では、一つお前にある『予言』の一部を伝えよう。その後で決めてくれればいいさ」
「予言なんて、信じられるのか?」
「私には、わからない。だが大事なのはこの予言が今まで伝えられているということだ。意味のないものが、果たして伝えられるかな?」
「…わかった、聞く。伝えてくれ」
「一度しか言わないぞ、よく聞け。『アストルムに、真の王が君臨する。その者は、名を偽りし者を打ち倒す。その者は、真にアストライアの名を持つもの。その者は、王の系譜に伝わる装備が…』残りは、秘密だ」
「ま、ま、待ってくれ。じゃあ…それじゃあ、今アストルムを支配してるユースティアナ・フォン・アストライアは偽物ってことか!?」
「私はずっとここにいたからな、そんなことは知らん。君はどう思う?」
「いや、でも、言われてみれば…」
「…さて、どうする?続きが聞きたいなら、ゲームを受けるか?私が懸ける物は、知識でも構わんぞ?」
「アタシは…アタシは…」
「君には………を、賭けてもらおう」
「……わかった、アタシは…」
躊躇いながらも、決断し、宣言した。
それがどうか正しくあってほしいと願いながら。