オーレの風 作:オーレ広報
『レディースアンドジェントルマン! わたくしリーグ委員長のローズと申します。お集まりの皆様も、テレビでご覧の皆様もお待たせしましたね! いよいよガラルの祭典ジムチャレンジ、フィナーレ! チャンピオンカップです!』
とある店の中央にある大型のディスプレイ。そこからスーツ姿の中年男性の声が流れる。地方唯一の放送局ONBSの中継映像は遠く離れたこの土地にも届いていた。
ここはオーレ地方、アイオポート。多くの水夫がたむろし、潮風香る港町。
そしてそこにある店、"クラブ亭"。普段は店内に特設されているステージにエンターテイナーが立ち、芸を披露しているのだが、この日ばかりはステージには誰もおらず、そしてここの客たちも皆、この放送に注目していた。
『レディース&ジェントルメーン! 盛り上がっているか皆! まだ自分の席に着いてない人はなるべく急いでくれよ! もうすぐ今日の主役の登場だ!!』
ガラル地方、シュートスタジアム。ローズ委員長の開会の挨拶も終わり、年に一度のジムチャレンジのシーズンもクライマックスが近づきスタジアムに熱気が渦巻いた。
観客席は満員、バトル前だと言うのに盛り上がる。実況席もさらに興奮を煽るように盛り立てる。
そう、彼らは待ち侘びているのだ、新たな歴史が生まれるその時を、はたまた無敗の伝説が続くことを。
『毎年毎年、熱い闘いを繰り広げるジムチャレンジ! 今年も例年に漏れずすばらしいバトルを繰り広げてくれた! セミファイナルトーナメント、そしてファイナルトーナメント! 特に決勝ではキバナ相手に下馬評を覆しての勝利には誰もが驚いた!! 並み居る強豪を蹴散らし今年の大波乱を巻き起こしたのは一人の少女! ガラル外からのジムチャレンジャー!!』
そして今、興奮を無理やり押さえつけたかのように歓声が小さくなる。まるで大きなためを作るように。スタジアム中央に向けてゆっくりと一つの人影が歩いていく。
『さあ! 今年のジムチャレンジもいよいよ大詰め!! チャンピオン、無敵のダンデへの挑戦権を得たのはこいつだ──!!』
その影がそこへ辿り着いた時、暗かったスタジアムから光が彼女へ降り注ぐ。
小柄な背丈、だが内に秘める想いは大きく、緊張した面持ちに肩までに切り揃えた赤髪がなびく。
スポットライトに照らされた背番号00が燦然と輝いた。
『ダンデの8連覇を阻止するか!? 他地方からの刺客! じめんタイプのエキスパート! "その身にオーレを背負った少女"チガヤ────!!」
「皆さん、よそ者の私にも応援をくださってありがとうございます! ここまでこれたのは皆さんのおかげです! ……このバトルに私の全てを込めます!!」
自身が紹介されて、少女は緊張を振り払うかのように吠えた。その声は決して大きいとは言えなかったが、スタジアムによく通る。
その瞬間に堪えきれないと言わんばかりに、一際歓声が大きくなる。
確かにガラル外からの挑戦者は珍しい。どの街にも馴染みのある人たちがいる訳でもなし、数は少ないが彼女に付いているスポンサーもガラル内では聞かないものだ。だが、そんなもの知ったことかと観客は大声で一人の少女にエールを送る。
ジムチャレンジシーズン中に彼女の闘いに魅せられファンになった者、あるいはその無敗のチャンピオンが敗れるという、歴史の大きな転換点を見たいと期待する者。
それぞれ思いは異なれど他の地方出身者がガラルを制覇するかもしれないという複雑な感情を微塵も感じさせずに……実際に感じてなどいないのだろう。今この瞬間、ガラル地方はこの挑戦者に釘付けとなり、あたたかい声援を送っていた。
その様はまるで、ポケモンバトルが興行として大きく栄え、発展してきたガラル地方の人たちの気風を表しているかのようだった。その歓声を感じたチガヤは、表にこそ出さないが羨望の目でスタジアムを見渡した。
『ナイスな心意気をありがとうチガヤ! ……さあそしてとうとう我らが大将の登場だ! 最強のチャンピオン・タイム! 無敗記録はいつまで続く!? ガラルチャンピオンダンデ──!!』
実況席がまた同じように言い、チガヤの対面にライトがかかる。
照らし出されたその先にいたのはガラル地方の大スター。
青紫の長髪に豪奢なマント。たくさんのスポンサーのマークが、チガヤ以上に多くの期待が乗ったそれを軽々と背負い、そして腕を掲げ三本指を天に突き立てた。とたんに地鳴りのような歓声、叫び声にも似た声援。
リザードンポーズ。ガラル地方全土に、老若男女問わずの人気者。最強のポケモントレーナーがそこに立っていた。
「改めて……オレの名前はダンデ! ポケモンチャンピオン、ひとよんで無敵のダンデだ! ガラル地方にようこそチガヤ! 今までのキミとキミのポケモンたちの闘い、かける想い! オレたちはしっかりと見ていたよ! オレもリザードンたちもキミたちと闘うこの時を待っていたぜ! 今日このバトルをガラル地方、そしてキミのオーレ地方! みんなのために最高のバトルをしよう!!」
「はい、ダンデさん! いいバトルにしましょう! そして私の名前はチガヤ! オーレのため、私を応援してくれるみんなのため! 精一杯闘わせてもらいます!」
興奮が、熱が、高まっていく。チガヤとダンデは言葉を交わし、そして視線が合わさった。
『さあ、チャンピオンカップラストバトル! いよいよ開始だ──!』
「最高の決勝戦にするぜ! チャンピオンタイムを楽しめ!!」
まさに試合前の観客の盛り上がりは最高潮! 合図と同時に二人は最初のポケモンを繰り出した!!
tips!
オーレ地方: ゲームキューブソフト闇の旋風ダーク・ルギアの舞台となった地方。本作の特徴としてダークポケモンが出てくる。作者的にbgmが好きなのが多い。
アイオポート:オーレ地方にある町。ゲームを始めて主人公が序盤から訪れる町。港町らしく灯台もあるし、この話にも出たようにクラブ亭もある。
クラブ亭:外装がクラブの形をしている洒落たお店。
ONBS:オーレ地方のテレビに映る番組はいつもこの放送局から発信されている。パイラタウンという街にある。
…とこのようにダークルギア側の情報は簡単に解説置いときます。それではまた次回に。