オーレの風   作:オーレ広報

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彼女が始まる最終決戦

 

 

 

 

「頑張れ、チガヤ!」「負けるな!」

 

 クラブ亭では必死に画面の向こうへ声援を送っていた。チガヤの手持ちが倒れれば悔しがり、チガヤのポケモンが活躍すれば両手を上げて喜びを表し。

 彼らは皆、期待をしているのだ。この地方で、この街出身のチガヤがチャンピオンカップを制することを。

 

 オーレ地方の印象は、悪い。広大な土地がありガラルに負けずポケモンバトルは盛んであるが、ポケモンリーグはここには無く、知名度も低い。その土地は荒地や砂漠が多く厳しい環境が広がり、そして広さ故に街同士のアクセスも悪く、治安も良いとは言えない。各地方との距離は遠く、そして疎遠である。かつてはカントー地方やジョウト、ホウエン地方と交流があったが、十年前のリブラ号の海難事件によって関係が悪化、今ではその交流の頻度も減ってしまっている。

 

 月日は立ち、当時よりかは少しはマシになってはいるものの、このままではどうしたって未来は明るくない。その事実に嘆いた少女は立ち上がった。

 子供の自分では、どうしたら良いかなんて難しいことはわからない。だからこそバトルの腕を磨き、鍛えたポケモンたちと生まれ故郷を飛び出した。

 ポケモンリーグチャンピオン。多くのトレーナーが憧れ、そしてわかりやすいシンボル。自身がオーレの象徴になろう。自らの活躍でオーレの認知度も上げようと考えたのだ。もう過去のような荒れた地方ではないと証明するために。

 言わば彼女はオーレの未来を背負おうとした。

 

 だから彼女は負けられない。

 

 

 そして今、遠く離れた彼の地で彼女は自分の目標に手を伸ばしている。

 

 バトルが進むにつれてクラブ亭の喧騒の中に緊迫感が漂い始める。彼らが固唾を飲んで見守るディスプレイには終盤に差し掛かったバトルが映っていた。

 

 

 

 

「ガラガラ! じしん!」

 

「ぐっ、ギルガルド!」

 

 

 チガヤの最後の手持ち、ガラガラの技が決まった。これで彼女が倒したポケモンは5体。ようやく、彼女の目的の第一歩。目前まで来ていた。それを絶対に逃すまいと集中を高めるチガヤ。

 

「オレも残りはコイツだけか……さすがだチガヤ! キミたちの勝ちたいという強い想い、バッチリと伝わってきたぜ! だけどオレだって負けない、負けられない! チャンピオンタイムは終わらせないっ!!」

 

 だが、彼女だけが勝ちたいのではない。彼女だけが、負けられないわけじゃない。この男こそがもっとも期待と、責任感による重圧を背負っている。チャンピオンの果たすべき役割を知っている。

 ダンデも最後のボールを取り出した。その中にいるのは絶対的チャンピオンの頼れる相棒。

 

「頼んだぞ、リザードン‼︎」

 

 

「やっぱり最後はそのポケモンですか……」

 

 

 ここにきてもっとも強いポケモンの登場にチガヤは冷や汗を滴らした。

 すでに自分のガラガラは消耗している。ダイマックスも使い終わっている。……そしてダンデはまだダイマックスを残している。かなり分が悪い状況だ。敗北の二文字が脳裏をよぎる。だが、それでもと彼女は闘志を燃やす。負けたくないと心が叫ぶ! 

 

「最初から全力全開の本気だリザードン! キョダイマックス!!」

 

 間髪入れずにダンデはリザードンをキョダイマックスさせる。そして巨大化が完成した瞬間にリザードンは攻撃体勢に移っていた。ダンデの指示が声に出される前に意思を汲みとったのだ。早く、正確に。それはチャンピオンとその相棒が成す以心伝心。

 

「キョダイゴクエン!」

 

「っ、あきらめないで! ガラガラ、いわなだれ!」

 

 

 一瞬、それを見ていたチガヤは相手の力量に呆気にとられた。しかしチガヤもここまで勝ち抜いてきた猛者だ、数瞬遅れはしたものの正確にリザードンの弱点技を選び指示をだす。渾身の威力で放たれた二匹の技はぶつかりあい、すなあらしのように土煙を巻き上げた。

 

 生まれた風と衝撃は観客席にまで届き、ダンデの黒い帽子が高々と宙を舞う。

 土煙が晴れるとそこには一部が焦げ炎に包まれたスタジアムに倒れ伏すガラガラと無傷のリザードンが佇んでいた。

 

 

『……決まったぁ──ッ! ガラガラ戦闘不能! よって勝者は……ダンデ──!!』

 

 幾許かの静寂、やがて溢れるは歓声。無敗記録はまだまだ続く。

 

『終わらないチャンピオンタイムッ! チガヤも健闘したが届かずっ! ダンデ、チャンピオンカップ8連覇達成──!』

 

 

 

 

 

 

「…………ごめんなさい」

 

 負けた。勝鬨を上げる相手をぼんやりと眺めて、真っ暗になった感情が顔を出す。

 そう、自分は負けたのだ。ボールに自分の相棒を戻してチガヤは誰に対してでもなく呟いた。全身の力が抜け、へたり込む。

 

「ごめんなさい、ごめん」

 

 やれるだけ力を出し切った、はず。それでもまだ足りない。最後のポケモンまで出させたとは言え、そこからは一撃で勝負が着いた。こちらの攻撃は当たっていない。追い詰めた、とは言えないだろう。

 

「ごめっ、ん、っう」

 

 顔は俯き、嗚咽が漏れる。溢れた涙で視界が滲む。

 私がやらなきゃいけないのに。勝たなきゃ、いけないのに。オーレのたために。

 

 

『最後はキョダイゴクエン! いわなだれを真っ向から喰い千切った!! 新人の勢いをものともしないチャンピオンの貫禄!』

 

 

 熱の入った実況も、試合後の両者を讃える観客席の声も、彼女には全て他人事のように聞こえる。もう少しで届きそうに見えた目標も実際の距離はもっと遠くにあった。手を伸ばしても、背伸びしたってはるかに遠く。それほどまでに壁は高く感じた。

 

「チガヤくん。いい勝負だった。ありがとう!」

 

 喜びを分かち合った相棒をボールに戻し、ダンデは対戦相手だった少女に近づき声をかけた。それでも彼女は反応を示さない。落ち込み、俯き、気づかなかった。

 

「チガヤ、顔を上げてくれるか?」

 

 ダンデは少女に手を差し出した。

 目の前に出された手に驚き、ようやく気づいたチガヤ。だが、逡巡し、顔を隠す。

 

「ごめんなさい、無理です……」

 

「どうして?」

 

「こんなっ負けた情けない顔、みんなに見せたくない……」

 

「そんなことないぞ。キミのその涙は努力の証拠さ。どれほどの思いでここまでやってきたのか、そしてここまで悔しがってくれるほどにこの試合に、ジムチャレンジに向き合ってくれたことオレはうれしく思う! みんなだってそう思ってるはずさ」

 

「けどっ負けた! 負けたんですよ、私は……。バカにされちゃいますよ。期待してくれた人にっ申し訳ない……っ!?」

 

 

 なおも動かないチガヤの手を彼の手が掴んだ。この地方のチャンピオンの大きく強い手が、小さく強い挑戦者を立ち上がらせる。

 無理やり上げられた瞳に映ったのは自分を負かした相手。その手が上を指差した。

 

「この景色を見て、まだそんなことが言えるかい?」

 

 釣られて視線を上に向けると、そこは観客席。人は皆口々に今日の試合の主役たちへ気持ちを伝えようと叫んでいた。ようやくチガヤの耳にその声たちが届く。

 

『いい試合だった!!』『よく頑張ったよ! チガヤ!』『ダンデさーん!』

 

 

「これ、は……」

 

「……オレの試合はいつも満員になる。だけどもここまで気持ちのいい光景はオレ一人では作れない。オレと、キミで! ここまでみんなの心を動かせたんだ! 胸を張って! さあ、みんなにチガヤの勇姿を見せよう」

 

 ダンデは少女の手を取り、一緒に腕を掲げ、そしてスタジアムを見渡して声を張り上げた。

「みんな! このチャレンジャーは今回のジムチャレンジをここまで盛り上がらせてくれた!! 必死に戦い、その力を魅せてくれた! そんなポケモントレーナーにオレは心からの賞賛を送りたい!! そしてこれからもガラルのみんなで競い合って強くなっていこう! それがオレの願いだからね!」

 

 

 言い終えて、わっ、と拍手と声が上がる。スタンディングオベーション。オーレのチガヤをガラルの人々は暖かく迎え入れ、褒め称えた。

 

「また、バトルしようぜ」

「っ、っう、うあああん!」

 

 少女は外聞もなく泣いた。悔しさと嬉しさ、それとほんの少しの恥ずかしさと。感情の高ぶりが見せた涙はそれはとても綺麗なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふう」

 

 閉会式も終わって、選手控え室。あれほど多かった人並みもまばらになり、夜は思い出したと言わんばかりに静寂を取り戻す。

 

「負けちゃった、か……」

 

 やっと涙は引いて、心が敗北を受け入れ始めている。彼女はユニフォームから着替えずに一人でぼーっとしていた。そうして考えれるのはこれからのこと。

 

「次は、どうしよう。ジムチャレンジはまた来年。他の地方のリーグに挑む? まだまだ力不足だろうしなあ……」

 

 

 勝てなかった。それが事実。他の地方に挑戦したところで勝てるのだろうか? 今日チガヤは最高峰のトレーナーの力を目の当たりにした。そこに横たわる差を痛感した。そもそも本当に自分はチャンピオンになれるのだろうか? 

 負けて落ち込んでるせいか普段は考えないようにしている不安が心を支配する。

 

「ちょっと疲れたかな……」

 

 一度故郷に帰ろうか。ふと彼女の胸に郷愁が去来する。

 そこへ突然、控え室のドアが開かれた。現れたのは一人の男性。

 

「ああ、ここにいましたか。いやー探しましたよ」

 

「ローズ、委員長?」

 

「チガヤくん、きみに協力してほしいことがあるんですよ。お願い、とでも言った方がいいでしょうか」

 

「私に……?」

 

「まあ、きみにとっても悪い話じゃないと思うんですがね……」

 

 その日、ローズ委員長の一つの提案で、チガヤの未来は動きだした。






tips!

オーレ地方はバトルが盛ん: 実際にダークルギアで遊べるバトル施設は6種類。ついでにトレーナーズスクール的な施設もある。そういえばガラルにトレーナーズスクールってない気がする…

オーレは治安が悪い: 警察署のような建物がある町が出てくるのだが脱獄者とかもいるっぽい。あと砂漠のあたりにホームレスっぽい人とかもいる。

各地方との距離が遠い: オーレ産のポケモンを他のカセットに送るとどの地方でも『とおくはなれたとちやってきたようだ』と表示される。ちょっとネットで調べてみたら知恵袋とかで改造か?とか疑われてて草。そりゃ知名度低いっすわ。

十年前の事件: この二次小説の中だとダークルギア本編のことを指す。オーレの悪の組織『シャドー』によって奪われたポケモンがダークポケモンに改造された事件。

リブラ号の海難: ポケモン輸送船リブラ号。ゲームのプロローグでシャドーに操られたダークルギアに襲われる。この事件によって各地方のポケモンたちがシャドーに奪われた。
本文中に出た各地方との関係が悪化したというのはリブラ号を襲った犯人がオーレの人間ならそりゃ関係もオーレはヤバいと思われちゃうだろうという考えに基づいた捏造設定です。でも実際、現実であったら海賊行為だと思うし。

それではまた次回に。
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