転生。リンカーコアSSSの元病弱アルビノ少女   作:ちーと

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籠絡()少女

はてさて、今私はどこにいるでしょうか。

 

高町家の道場におります。はい。

なんか結構大きな家にすんでるんだなぁとつまらない感想を吐いたりして。

 

「それで、昨日なのははどうしてた?」

 

なのはのお兄さんと対面しとります。

砂まみれの傷口と若干よだれのかかったワンピースを見かねたそうなんだけど…何かこの人怖いんだよなぁ、雰囲気というか、佇まいと言うか。

いかにも武道に精通してますって顔してるし、何より服装が胴着だし。なんなら竹刀背負ってるし。

 

取り敢えず威圧感凄いから正座っていうのはやめた方が良いと思ったよ。うん。

だってね、幼稚園児なんだぜ?こちとら見た目は。

 

そのくらいの年の子に正座は流石に厳しすぎるだろう。

まぁなのなが家に帰れなかったのは間違いなく私のせいではあるのだけれども。

文字通り神の才能を八割強プレゼントしたんだから昨夜の事は相続税がわりのなんちゃらとして受け止めてほしい。

 

いや、彼が魔法の事なんか知ってる訳がないんだけどね。

うん。だから説明しようにも説明できない。

私ってリンカーコアは強くても魔法知識はさっぱりだから。

それっぽいのは『ちーと』の副産物くらいかな?

 

…でもあれは本能的に理解しただけだしねぇ、最終契約無いと使えなさそうなんだよ。

口先八丁で誤魔化すしかない。

 

「その、なのなちゃんが遊んでたら急に眠っちゃってさ…起こすのも可哀想かな、と思ってね…」

 

どうだ、我が迫真の演技。

どこからどう見ても連絡先を知らずかといって放置も出来なかった幼子にしか見えんだろう…

完璧すぎて才能が怖いね。こりゃ子役やれるよ間違いない。

 

精神年齢が幼いとかは言わないでくれ。

人付き合いが少なかったのはHIVのせいで無菌状態を保たなければいけないという深刻な事情があったんだ。

 

「…ならせめて自分の家に連れて行ってくれても良かっただろう」

 

あのさぁ…幼稚園児にそんな判断力あると思ってんの?

なのははありそうだけども、それを基準として他の子に適応すると下手したら大人げない意地悪さんに見えちゃうと思うよ。

 

「ごめんなさい、家には帰りづらくて」

 

まぁ私は中身が違う、逃げ道は確保済みだ。

神様は家族を用意してくれなかったからね、ぶっちゃけホームレスである。

帰る場所なんて始めっから無いんだよ。

 

ただ、なぁ。

ちょっと厄介な事になっている。

 

「それで友達に風邪をひかせてたら訳ないんじゃないのか?」

「…返す言葉もない」

 

そう。なのはがまだ目を覚まさないのだ。

もうお昼になるっていうのに少し高めの微熱をキープしたまま眠り続けている。

だからお兄さんだけは仕事を休んで家にいるわけ。

 

ただ、一応大まかな原因は特定済み。

『ちーと』によればリンカーコアの変調に身体が振り回されているだけだと出た、いやはやこれ以上正確な要因は図りかねるけどね。

 

どうしたものか、と頭を回してみる。

 

「…悪い、少し冷静じゃなかった。今昼を用意するから待っててくれ」

 

顔を俯かせていたら何を勘違いしたのか急に態度が軟化した。刺々しかった空気も徐々に解れて行き、お兄さんが道場から出て行こうとする。

 

…待てよ?良いこと思いついたぞ。

 

「待ってください」

「ん?どうした」

「なのはから聞きました。最近仕事務めで夜遅くまで…下手したら朝まで帰って来ないって」

「それは、君に関係ないことだろう」

「いえ、関係ありますよ。友達のお兄さんなんですから」

「…ふむ」

「なので、一つ疲労回復に効果のある()()()()()を受けてみるというのは」

「おまじない?」

「はい、おまじないです」

「…悪いがそういうのは信じていないんだ、止めておく」

「そう言わずに。絶対効果ありますから、騙されたと思って!」

 

この人にも『ちーと』を使ってしまおう。

幸いなことに人気はないし、なのはも寝込んでる。

昨日の公園と同じく、今の道場は邪魔の入る可能性が殆どないシチュエーション。良い環境だ。

 

「…すぐに終わらせてくれるか」

 

胴着の端を引っ張られてお兄さんは呆れ顔になった。

…別にいいけどさ、何だろうこの視線。恥ずかしくなってくる生暖かさだ。

 

「ええ、善処します。それじゃ名前を教えてください、必要なので」

「高町、恭也だ」

 

なるほど恭也…ね

ふふん、こうなればこっちのモノだ!

あっという間にオトしてやろう。

 

一段階め、実行。

恭也さんを正座させて膝上で対面し、抱き締めて頭を撫でる。

出来るだけ自然に、身体に負担を掛けないよう注意しながら。

 

「…えと、『お話をしませんか、恭也さん』」

「ん…いき、なり何…を、……う、ん?…?」

 

え?

 

は、何。精神の傾きを検知された?訝しげな表情なんだが。

不完全とはいえ神の御業なのに……とんでもない人がいるもんだねぇ、空恐ろしい。

でもセーフっぽい。二段階めに移行。耳元に口を近付ける。

体格が良いから背中で腕をすりすりさせるのがギリギリだった。

いやその分私の胸に頭を密着させられるから効果は高まっている…筈なんだけど。

 

「『恭也さん。体、良く鍛えているんですね。応援したくなります』」

「…まぁ、…恥じない鍛え方をしてきた自覚は、ある」

 

手応えが薄いなぁ。

やはり母性愛を与えるってのは、自我の形成が十分に行われている思春期以降の相手に相性が悪いのかもしれない。

それか既に愛を十分与えられながら育って来たのか。

はたまたとんでもない精神力の持ち主なのか。

いずれにせよ相当厳しい相手になりそうだ。

 

三段階め、ここで脱力させられなかったら中止とする。

そのまま四段階めが成功しても五段階めの契約中に失敗しそうな気配がプンプンしたからね。

繰り返し重ね掛けして警戒心をほどいていけば、いずれ絶対成功すると神様も言っていたし、今は焦るべき時じゃない。

 

「『でも、凄く大変そう。恭也さん、辛くないですか?』」

「…大丈夫だよ、今は好きでやってるから」

 

く、口調は明らかに変わった…が。

完全に正気を取り戻したっぽい。撤収。

なのはの時は一回で上手くいったのに……歳の差だろうか。

いや、やはり胸か?男は胸に母性を感じてしまうのか?

…無念だ。

 

「これでおしまい。どうかな?」

「…確かに、身体のコリが解されて。凄く楽になった」

 

その場で立ち上がり、軽く腕を回して満足げなご様子。

まぁ間違いなくリラックス効果はあるからね。

失敗しても大丈夫ってわけ。

 

「また、機会があれば…頼み……」

 

ん?

何だろう、拳を顎につけて何やら思案しているご様子。

顔を覗き込んでみる。身長がほぼ倍なので見上げるだけだ。

 

「…俺は、何を考えているんだ、こんな小さい子に」

 

一言呟き、頭を振るって道場から出ていってしまった。

 

ほうほう。ちゃんと『ちーと』の効果は出ているらしい。

成功したのは二段階めまでだけだったが、それなりに依存心を植え付けられたようだ。

 

「うーん…」

 

しかし手強い。

後少しで『ちーと』の副産物が使えるようになる筈だったのだが。

 

神様いわく。

三段階以上から使用可能になるのが、魔力的な繋がりを通しての五感と思考、感情の共有。

起動ワードは共有(シェア)

 

四段階以上でリンカーコアの波長の調律。応用すれば対象のリンカーコアから魔法を遠隔で発動したり、魔力を頂いたりできる。逆も可。

起動ワードは共鳴(レゾナンス)

 

そして五段階め。

対象の意識と自分の意識を繋げる。

起動ワードは接続(リンク)

 

まだどれも試せていない。

だって、共有はなのは寝てるから寝言を盗み聞くくらいだったら出来そうなもんだけど、やっぱり分かりやすい視覚で発動してみたいし。

共鳴は神様もコツがいると言っていたから、調律に失敗してただでさえ不安定ななのはとリンカーコアに負担をかけるのは如何なものかとも思う。

接続?ははっ。

寝てる人間の意識をトレースしたらぶっ倒れるに決まって…

 

決まってん……ん?

 

 

待てよ?

 

…コレ、夢を覗けてしまうのではなかろうか。

いや冷静になってみると共有と接続でイケそうな気がしてきた。

危なっかしい共鳴は不要だし…有りだな。

うん、やるか。やろう。

 

「良し、試運転。『共有』」

 

目を閉じ、なのはとの繋がりを意識して読み取る。

視覚と聴覚の情報を受け取り、自分の五感を切断。そしてなのはの思考、感情をトレースして脳に行き渡らせる。

下準備、完了。

 

「『接続』、なの」

 

 

 

 

……何?言ってるのかな私は。

なのはに呑まれかけたっぽい?

怖い。

 

とまぁそれはさておき、此処がなのはの夢の世界か。

雲一つない見渡す限りの青空と、水平線が見えるほど広いウユニ塩湖っぽいところ。現実味薄い幻想景色の典型って感じ。

ただ、さっきから『印象』を叩き込まれるような感覚に襲われてる。

 

夢の中だとコレはこういうものだっていう絶対認識があるのは有名な話だけど、侵入している側からすると不自然極まりないね。

 

「何だろう、このイメージ…」

 

呑まれないように意識を保ちながら湖面を見た印象。

恐らくなのはの中で強い意味を持っている概念なのだろう。

色々ごちゃごちゃしているけれど、何となく疎外感のようなものを表しているような気がする。

やはり、夢って不自然で訳がわからない。

 

やはりって何だやはりって。まるで体験してきたみたいだ。

 

 

「あ、なのは!ねえ、待って!」

 

「…は?」

 

私は水面に写った自分に向かって思い切り腕をブンブン振った。

水面の私はなのは…?いや、腕を降っていない。なんだこれ?

いや私はなのはなんだ。私が腕を降っているんだから、なのはが腕を振っていないのは当然だろう。なのはは腕を振っていないんだから。

 

あれ?

 

「…ヤバい、頭おかしくなりそうなの」

 

うん、ウユニ塩湖をじっくり見て観察なんかしたからだな。

間違いない。

 

今の私はなのはの意識と視聴覚を共有しているに過ぎないのだ。この世界はなのはの認識であって私の認識ではない。

なのに私は自分の意思で行動出来てしまうから、受け取る情報と齟齬が生じてしまうのだろう。

他人の夢世界では傍観に徹した方が良さそうだ。

干渉も出来なくはなさそうだが…今の私には難しいと思われる。

 

「んぁ」

 

幾ばくかの暗転。

次に現れたのは何処か神聖な雰囲気を纏った場所だった。

前方に下り階段があって、出口なんて何処にもない。

降りたら何故か左階段に私は居て、何故か怖くて怖くて堪らなくなり上の階段に飛び降りた。

どうして怖い?どうやって存在しない床に着地した?そんなのは分からない。あるのは結果と認識のみ。

 

「……身体が勝手に動くってのは不気味だねぇ」

 

翻弄されっぱなしだ。かなり夢に呑まれてる。

自分の中の常識が、夢の世界のルールにすっかり服従してしまっているのだろう。

一応現状認識が出来ているけれど、感情と行動のコントロールはかなり危うい。

 

そろそろ脱出するべきか。

そう考え始めた矢先に、神が現れた。

どうして、とかわからない。なのはじゃないことは確かだが。

神は神なの。とても神聖でたまに降りて来て、沢山の幸福と救いをもたらしてくれる。

それが

 

 

……いや、神様って割と俗物だった。

結構セクハラとかしてくるし、デリカシーないし。サービスいいけど服装は正直みすぼらしかったし。

 

「…そうなの?」

 

確かに救いは与えてくれるし優しいけど。慈母ってよりかは飄々とした爺さんって感じ。

 

というか、あの神様さっきまでぼやけて良く見えなかったけど、どうみても大人になった私なんじゃなかろうか。

 

「いや、そんなことはないよねぇ…うん」

 

長い白髪でややスレンダーな身体。

慈母のような微かな笑みを携えて椅子のような物に座り込んでいる、神。

それだけならまだ分からないのだが、問題はその特徴的な目の色にある。

 

黒と赤が規則的に混じったグロテスクな目。

アルビノと健常者成分が時計回りに螺旋を描いて混ざり合うあの目。

 

神が持つものとしては余りにも不釣り合いなアレは、前世と現世で私が持っている目と同じものだ。間違いない。

 

「んぁ」

 

世界が桃色の光で破滅して、神聖な場所は良く分からない感じに壊れる。

私はウユニ塩湖の底へと沈んで。

 

 

 

…次に目を開いた時、そこには恭也がいた。

 

「…もう昼飯できてるぞ?早く来い」

「あ、はい。助かる」

 

場所は道場。遠くから聞こえて来る車の走る音。

正座しっぱなしだったせいか足が痺れている。

 

物事に整合性があるって素晴らしい、そんな当たり前の尊さに感謝し。私は生まれたての鹿のようにふらつきながら、リビングへ移動した。

 

「…にゃはは、おはよう」

 

丁度テーブルに座ったとき、なのはが階段から姿を表して挨拶を投げ掛けてくれた。

 

「おはよう、天使ちゃん」

「?」

 

せっかくなので、夢の中のネタを話したのだが。

残念。覚えていないようだ。

まぁ、人は毎晩複数の夢を見てほぼ全てを忘れているのだから、むしろピンポイントに覚えている方が不自然なのだろうけれど。寂しいものである。

 

そう思いつつ、私はテーブルの上にあるスパゲッティのラップを取って食べ始めた。

 

「なのは、もう身体の方は大丈夫なのか?」

「平気だよ。むしろ元気が有り余っちゃったかも」

「そうか、それは良かった…今日は夕方まで家に居るから、何かあったら言ってくれよ」

「うん、ありがとうお兄ちゃん」

「…ところでなのは?一つ聞きたい事があるんだが」

「何?」

「この子、いつ知り合ったんだ?」

「昨日なの」

「そ、そうか。…名前くらいは知ってるよな」

「知らない」

「…別にこの子のお父さんやお母さんに文句を言いに行こうって訳じゃないんだ。それはさっきお話して済んだ事だから…」

「ううん、本当に、一文字も知らないの」

 

何だ、その変な目は。

せっかく美味しいスパゲッティを作ったのだから大人しく食わせてやればいいじゃないか、恭也さん。

 

しかし、名前か。

考えた事も無かったなぁ。

病院では名字にさん付けが当たり前だったし、私物や名札の付くような類いの物は一つも持っていなかったから下の名前は忘れてしまった。

 

かといって私を捨てた親の名字を名乗ってやるのも何だか腹立たしいし、そうすれば名前が無くなってしまう。

 

うーむ、どうするべきか。

 

「君、名前は何て言うんだ?」

 

ええい、今考えているんだ、ちょっと待ってくれ。

名字、名字。自分以外の名字で、それなりに実在しそうなやつ…田中。流石に地味過ぎるし偽名っぽいか。

鈴斑。確か最初のオムツマンがそいつだったはず。嫌だ。

築館。これで『つきた』と読む。うん分かりづらい。

ただ、つきの響きは気に入った。下にそれっぽいのを入れれば良いかもしれない。

月下、月沢、月河、月田…うーむ、沢と河は良いな。

悩む。

自分で名前を決められるというのは中々に楽しいし、悩む。

 

「…月村」

 

結局、名字は変則的なニコイチに決めた。

築館のつき、を月にして、鈴斑のむら、を村に。それで月村。

中々に綺麗で響きが良いし、目以外真っ白の私にも良く似合っているだろう。

 

肝心の下の名前なんだが、これはそれほど悩まずに済んだ。

キラキラネームなるものが存在するのだから名字よりハードルは低い。神様から貰ったリンカーコアをもじって、鈴華。

 

月村鈴華(つきむらりんか)。世界で一番、好きな名前さ」

 

何せ自分で付けたんだ。これ以上相応しい名は存在しない。

 

「よろしくね」

 

完成したフルネームを名乗る。

ニヤリ、と。私は充実感に擽られて頬を緩めた。

奇妙な瞳も相まって悪魔のように見えるかも知れないが。

それはきっと、

 

……錯覚だろう。




主人公はほんの微かに原作知識があります。
タイトルも覚えていないくらい、ほんの微かに。
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