転生。リンカーコアSSSの元病弱アルビノ少女   作:ちーと

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早く一期に行きたい


勉学()少女

翌朝。東雲のころ。

私は『ちーと』を使用するべく、美由紀さんのお部屋に夜這いならぬ朝這いを仕掛けていた。

作戦は単純。寝惚けさせたまま最終契約までこぎつける。以上。

 

誤魔化す為の言い訳も既に準備済みだ。

昨夜一緒に風呂へ入ったとき、身体が鍛えられているのを見抜いて朝練をお願いしておいた。

始めてのお泊まりで良く眠れなかったから時間より早めに起こしに来た...という体を取る。

 

 

~終~

NHK

 

という訳で早速布団の中に潜り込んだんだけども。

何故か体液の饐えた匂いがする。

開きっぱなしの携帯には風呂上りらしき恭也の写真が表示されていた。

写真整理をしたまま寝込んだのだろうか、服装も乱れていて非常にだらしない。

 

特にパンツはいてないのはどうかと思うね。

別にいいけどさ。

 

「...『おはよう、美由紀』」

 

一段階め。せっかくなので恭也の声真似をしてみた。

昨日ちょっと話しただけの私の声よりも、聞き慣れてるであろう家族の声の方がヘンに刺激しなくて良いだろうしね。

 

「んぁ、れ、恭ちゃ、ん...?」

 

おお、良い感じだ。

っていうかこの声真似自分でも驚くくらい似てる。これも神の才能ってやつだろうか、ほんと文系だけが惜しまれるね。

頭の撫で方はちょっと乱暴に。四段階以上は意識が無いとだめだし。

あとほら、撫で慣れてなさそうなのを演出する目的もある。

 

「『最近随分頑張ってるじゃないか、えらいな』」

「...えへへ」

 

うっわあざとい。でも間違いなく素なんだろうなぁこの人。

かわいい。

二段階めあっさり終了。この調子なら五段階までいけるかも。

 

「…突然だが、一つ話しておきたい事があってな」

「な、に……?」

 

そうと決まればスピードアップだ。ムードを壊さないように、さりとて目を覚ましすぎないように。夢心地のまま押し切る...!

 

「『...これから俺は、美由紀の事をずっと守っていきたいと思っている』」

「ふぇ...?」

 

え、この人ほんとに恭也さんの血族だよね...?何で嬉しそうにしてるのかな。

いやまぁ良いけどさ。どんな男の趣味してようが人の勝手だし。恭也はかわいいし。

 

「これまでさんざん寂しい思いをさせて来て、悪かった」

「それ、って...ま、さか...」

 

あ、魔力が抜けてく。

そう言えば神様が言ってた。三段階以上の副産物を利用するには、どんな形であれコアが必要だって。

無い人もいるって聞いたからどうするのかと思ったら、こうして解決するのか。

共有(シェア)』するために必要な、『疑似リンカーコア』とでも呼べそうなものが生成されてく。

ってことは美由紀さんコア持ってなかったんだね。姉妹だから持ってると思ってたよ、意外。

ともあれ脱力もしてるし、三段階目成功だ。

...いけるぞ。

 

「無理にとは言わない。『だから、お前を愛しても良いか』」

「...ぁ...っ...は...い...」

 

美由紀さんが私をふんわり包み込むように抱いた。非常に動きやすくてよろしい。

意外と『ちーと』は柔軟性が高く、やや変則的だが四段階めも成功した。あとは抵抗さえなければ完了である。

 

「最終契約『無限の母性(アンリミテッド・マターナル)』」

 

疑似コアとは既にかなり強い繫がりがあるので、後は『共鳴』で、波長を私のものから美由紀さん固有のものに調律するだけだ。

 

確か…魂?で波長は決定されているのだとか。

それを読み取れるのはさすが『ちーと』といったところ。

 

良し、それらしいのを見っけ。一分もしない内に五段階めが終わった。

 

これだよこれ。リンカーコアが死にかけたりもしないし、何時間も姿勢維持し続けるなんて拷問染みた真似なんかしなくてもいい。

馬鹿げた精神力で抵抗されたりもしない。

これが『ちーと』のあるべき姿だろう。

例外二連発で若干懐疑的になってたけど、やっぱり『ちーと』は強いね。

 

美由紀さんの腕を振りほどき、体をベッド脇から揺する。

 

「…あれ、恭ちゃんは?」

「美由紀さん、寝ぼけてるの?恭也は昨晩からバイトに行ったっきりじゃないか」

「え?それじゃ…今までのって、夢?」

「今まで、が何なのか知らないけど。多分夢なんじゃないかな」

「そんなぁ…残念」

「どんな夢を見てたの?良い夢?」

「あーいや、あんまり覚えてないんだけどねーうん」

 

ばつが悪そうに目線を外された。多分覚えているんだろう。

まぁ、流石に相手が幼児とはいえカミングアウトはムリらしい。そこは良識的だったか。

 

「それで、どうしたの?まだ時間には早いと思うんだけど」

「ちょっと良く眠れなくてね...目も冴えちゃって、つい」

「…もう。時間っていうのは、早くても遅くても駄目なんだからね?わかった?」

「はい、わかりました...」

 

うーむ口だけの反省。

神様によれば、私はそもそも罪悪感というものを覚えづらい精神構造をしているらしいからね。

自然に人の尊厳を無視するというか、独自の価値観を至上のモノとして、それ以外の全てを否定するんだとか。

 

自覚はなかったんだけど、かなりの人でなしっぽい。

 

「ま、私も目ぇ冴えちゃったし。やろっか、朝練。鈴華ちゃん何したい?ランニング?」

 

枕元の眼鏡をかけた美由紀さんがベッドから立ち上がって私に尋ねてくる。

 

ふむ。朝練の内容とな。

ランニング、心肺能力を確認するには向いている。

 

いやしかしだ、私が今最も興味を向けているのは他でもないこの高町家の道場で行う競技。

床が板張りなのだから柔道ではなく、剣道だろう。

それをやってみたい。

 

理由?

バスケやサッカーと違って剣道をやれる場所というのは非常に限られているし、道具も必要。自分で始めるにはハードルがやや高い。

 

それがどうだろうか高町家は。

 

私有地内の道場なんてレア中のレアを抱えて、昨日のお話中に見たところ道具の手入れも十分。

美由紀さんも指導を渋るようには見えないし、これほど良い環境を使える機会なんて多分滅多にないと思う。

 

ならばいつでもできるランニングなんかより優先するのは当然の帰結だろう。

 

「道場で、高町家の剣を振ってみたいです」

「え、うちの道場の?」

「...何か問題でも?」

「いやー、教えたいのは山々なんだけど...門外不出の剣っていうか、剣道じゃないからさ。教えちゃ駄目なんだよ、私」

「なら普通の剣道は」

「そっちもまだまだ見習いっていうか...教えられるような腕前じゃなくて」

 

門外不出の剣?

え、何それは。何だか凄く強くて恰好良さそうな響きをしているぞ。

古武術とか殺人術とか、そういうやつ?

 

面白いな、好奇心をいたく擽られる存在じゃないか。

盗もう。

『共有』で全身の感覚と思考を受け取れば良い。

 

…我ながら悪党で笑えてきた。今更か。

 

「じゃあ諦めます。私は外でランニングしてくるので、美由紀さんはその剣の練習でも...」

「いやいや、それじゃ私が起きて来た意味ないじゃない!一緒に走ろうよ、鈴華ちゃん」

 

く、筋が通っている...むしろ私が失礼すぎるレベル。

だって朝四時に起こされて朝練要求からの別々でやろう宣言である。冷静に考えてみるととんでもないね。

これ笑顔で許せる美由紀さんってもしかして聖人でいらっしゃる...?

いや『ちーと』のおかげか。五段階までバッチリかけたんだし。

 

 

「...ワカリマシタ」

 

この後メチャクチャ運動した。

 

成果としては、肉体もちゃんと神の才能を持っていたことが確認できたくらいかな。

逆立ちで飛び上がって肩車に移行できるとか最早人間業ではないと思ったよ。

ランニングもたっぷり一時間やって息が切れず、汗すらかかなかったのには美由紀さんも驚愕してたし。

 

後は身体が思い通り以上に良く動く。

なんていうか、バク宙をしようと体を動かすと、自分が考えていたのとは全く別のバランスや重心で飛び上がったりして、そのくせ綺麗で理想的な動きが出来るのだ。

 

身体が勝手に最適解を選ぶと言えば適切だろう。

頭でごちゃごちゃ考えるよりも適当にやったほうが完璧に出来る。

何も考えなくて楽と言っちゃ楽かもしれないけど、私としては中身が体の足を引っ張ってるみたいで少し悔しい。

だって、せっかく授かった才能なのに、使いこなせないなんてそれこそ神様への冒涜だろう。

だから、少しむきになってトレーニングを積んでしまったのも致し方ない事なのだ。うん。

 

「おつかれさま。すごいね鈴華ちゃん、私よりずっと良い走りじゃない」

「まだまだ未熟で...情けない」

「もう、そんなに謙遜しなくても良いのに」

 

ランニング後の柔軟を済ませ、休憩がてらそこらに転がっていたスポーツドリンクのペットボトルでジャグリングしていると、美由紀さんがすぐ傍のベンチに腰掛けて私を見つめた。

何かあるのだろうか。

 

「一つ気になったこと、聞いてもいい?」

「何かな」

「うちのなのはもそうなんだけど、どうしてそんなに大人びてるのかなって」

「...私となのはが?」

 

そんなことは無いと思う。

夢からの憶測にはなってしまうのだが、なのはは大人びてるだけで大人じゃない。人並みには寂しさを感じてる。でも、それを知らせまいと我慢するのが人より少し上手なだけだ。

 

あと私はむしろ卑怯で我儘放題の弱虫だな。大人?アダルトチルドレンにはなれるかもね。

 

「どうして、なのはが大人びてるなんて思ったのか?」

「ん?だってなのはってさ、勉強も家の事も全部一人で出来ちゃうし。何かで失敗しても気付いたころには克服しちゃってるんだもん。鈴華ちゃんは大人びてると思わない?」

「...ずっと一緒に暮らしてきた家族を差し置いて、一昨日出会ったばかりの私が言えたことじゃないですけど。一つ聞いても良いですか」

「何?」

「美由紀さんは、なのはが辛そうな顔をしてるのって見たことあるのかな」

「...えっと、たぶん一度も無いと思う」

 

...イヤな予感。

 

ああ、既視感というやつだ。

夢の中で映し出されていた、水平線まで視界を埋め尽くす疎外感。一人で佇む姿。

なーんか身に覚えがあると思ったら。

 

わ た し だ

 

うん。

今のなのは、前世の私と大して変わらない精神状態なんじゃないか?

 

いや、素の才能がある程度恵まれてる時点で私とは天と地の差だろうけども、無理してるのに変わりない。

そういや美由紀さん『ちーと』一段階目ではまだある程度喋れてたのに、なのはは言葉をロクに話せなくなってたし。

 

道理で随分『ちーと』がかかりやすかった訳だ。あんなちみっこが愛に飢えてるなんて、ドストライク過ぎていっそ笑えてくる。

 

「あの、最後に遊んだのっていつ頃?」

 

何で口をつむぐのかな。

少し顔を俯かせるって、どれだけ放置してたの。

 

 

「二か月以上は、前かも」

 

 

 

...幼児にとっての二か月がどれだけ長いと思っているのだろうか。

私は知識でしか知らないが、本物の幼児のなのはにはかなり辛いと思う。

 

「...かなりですね」

「前は居候の人が居たんだけどね」

「へぇ、それじゃお泊りって明日以降もOK?」

「今はちょっと無理かも」

「どうしてで?」

「お父さんが仕事中の事故で大怪我しちゃって、病院でもまだ目を覚まさないの」

「...ああ、お金の問題ですか」

「そういう訳だから...ごめんね、今は余裕なくて」

「大丈夫。でも、外で会う分には問題ないよね?」

「うん。それなら大歓迎だよ、なのはも友達いた方が楽しいと思うし」

 

なるほどねぇ。家を見る限り経済的に困窮しているようには見えなかったんだけど、大黒柱が死にかけてたってわけだ。

それで慌てて穴埋めをしてるうちに家族間での営みが少なくなって、結果としてなのはを放置してしまった。

私と話してる内に気付いたのだろう、美由紀さんは沈痛な面持ちをしている。

 

何というか、よその家には複雑な事情があるんだなぁ...

 

私としては当面の拠点確保兼、なのはのメンタルセラピーとしてつきっきりで構いたおしたり甘やかしまくったりしたかったんだけど。残念だ。

 

「それじゃ、なのはに別れの挨拶でもして来るかな。何も言わずこのままバイバイってのも可哀相だしね」

 

そして走る事はや数分。高町家へ到着した私は、速攻でなのはに『ちーと』キメに行った。

一度やったとこは飛ばせるので初っ端から五段階めと四段階めのループ。時折一から三を混ぜて目いっぱい甘やかした。

...調子に乗ってキスとかしちゃったりしたけど、まぁ微笑ましいものだろう。

 

たぶん。

 

「り、鈴華ちゃん...いきなりどうして...?」

「いやね、もうこの家からは出ていこうと思ってさ」

「...え?」

「これからもその辺うろついてると思うから、それじゃ!」

 

満足いくまで『ちーと』を使い切った後、私は速攻で高町家を飛び出して公園へ。

到着してみるとわいわいがやがや...とまではいかなくともそれなりに人がいた。

遊具はみな使われているので、公園が見渡せる位置のベンチに座ったのだが。

 

 

「...どうなってるんだろ?」

 

思わず口からは疑問が零れる。

神様は私をどんなトンデモ世界に転生させてくれたんだろうか。

目覚めた時は前世と大差ない世界だと思ったけど、どうも常識がおかしい。

 

なんせ、道行く老若男女、みんながみんなカラフルな頭してる。

驚かない方がおかしいと思うね。

何より驚くのはその多彩さだ。

赤は分からんでもないし、茶色や金色もまぁ実在する。

だが青や緑の連中はいったい何者なんだろうか、人間はそんな色素持ってない筈。

 

それと、遊んでいる連中を見て気付いたこともあった。

精神年齢がどいつもこいつも年齢の割に高すぎる。

感情の振れ幅は年相応に見えるが、それが介在しない判断が大人染みている。

前世の私に初めて見た人間のクセや意図を見抜くような眼は無かったので、この観察力も神の才能だろうけど...率直にいって全員気味が悪い。鳥肌すら立つ。

 

魔法がある世界、それ以外は前世と同じだと思っていた。

なまじ高町家の人間はまだまとも寄りの色をしていたから気付けなかったんだろう。

 

しかし...ここは全くの異世界だと今になってようやく理解させられる。

あまり知りすぎると不気味の谷現象を起こしそうなくらいに違和感まみれで、だからこそとても近いと分かる世界。

 

私以外誰も違和感を感じないという事実に背筋が冷える。

 

「...怖いねぇ」

 

暫し唖然としていると。

呼吸が乱れていたのだろう、喉が随分乾いてる事に気付いた。

膝に手をつき、水を飲みに行こうと腰を上げる。

すると、赤と黒の螺旋に気付いたちびっこの一人が此方に近づいて来た。

なぜか不安そうに。

 

「ねえ、どうしてさっきからこっちを見つめてるのよ」

 

眩しいくらいに綺麗な金髪の女の子、強気だけど優しい目。

視線を合わせたら、うっ、と微かな悲鳴が聞こえる。

 

まさか、この眼はこっちでも有効なままなのか?

 

...だとしたら迷惑してるんだろうな。

明るい所だと見えなくて良いモノも良く見えて鬱陶しい。

 

 

「何なのその目...気持ち悪い」

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