転生。リンカーコアSSSの元病弱アルビノ少女   作:ちーと

7 / 7
ヴィータちゃん主役のSS読みたい


use god gift

真っ白の部屋。

ガラス越しに見える白衣の男女。

…見慣れた光景だ。憎たらしい程に。

 

「―――先生。もう、良いですか?」

「何が良いものか、彼女は貴重なサンプルだぞ」

 

相変わらず固有名詞を使いたがらない珍妙な会話。

時折出てくる不穏な単語。

 

「そうは行っても…もう耐えられるような体じゃないんですよ」

「なら、死ぬまでの時間を使ってやれば良いだろうが」

「ナニが出来るって言うんです、あの状態で」

「そうだな…魂の重量を計る、なんてのはどうだ?」

「…まともに取り合う気は無いって事ですね」

「当たり前だ。処分は私達で行わなければならない。アレには残留物が多すぎる」

「でも…っ一般の医療施設に入れれば、まだ助かる可能性はある筈だ」

「そうだな、確かに可能性はゼロではない。」

「ならっ!」

「それが、現実的な数字で無いのはお前でも分かるだろう?」

「………それは、そうですが」

「ハイリスクノーリターンの賭けなんぞ誰がするものか、愚か者め」

 

コレは確か、私が最後に病室を見た日の記憶。

 

「…外出許可は出してやる。条件付きだがな」

「何ですか、その条件は」

「一切の救命活動の禁止。発作を起こして死亡したら遺体を必ず持って帰る。この二つだ」

「...よくそこまで外道になれたものですね、先生」

「好きに言え、私とて好きでやってるんじゃない...仕方なく、やってるんだ」

 

瘦せぎすの青年と、白髪の女が何やら口論してて。

 

「…行ったか。まったくケツの青いガキめ、現実を見ないで理想論ばかり語って」

 

この後、捨て台詞を吐いた青年に連れ出されている途中で私は発作を起こすんだ。

 

「おい『  』どうかな、調子は」

 

残った女は憂鬱そうにガラスを殴ってから、パソコンを向き。

何とは無さそうに声をかけてくる。

 

「返事は無し、か。まあいい」

 

全く気味の悪い、いつも死ぬ寸前までは放置しておく癖に。

いざ死ぬとなった途端に善人ぶられてもいい迷惑だ。

普段はまるで口を聞きたがらない女が、何の心変わりだったのだろうか。

 

「冥途の土産に、一つ聞いていけよ。関係ある話だ」

 

これから、つまらない話を聞かされるのだ。

相槌も打てない私が、青年に連れ出されるまでの間。

 

「...お前に出会えたのは...まぁ、偶然ってやつだったんだろうな」

 

「遺伝的障害と、重篤な免疫不全。雨夜のダンボールで死にかけだったお前がウチに来たのは

...全く、奇妙な事この上なかったよ」

 

「なんせウチは治す機関じゃあない。根本的に治らない物を、治らないままに克服するための技術を研究していた」

 

そこまで一息に捲し立てると、何がおかしかったのかくっくっくと笑う。

 

「...いや、そういう意味じゃ不治の病っていうのは合ってたのかもなぁ」

 

そのたびに長い前髪が揺れていたのを、よく覚えていた。

 

()()()()()()...初めて見た時は自分の目を疑ったね」

 

そう言ってパソコンの画面を見せられた。

まるで理解できない。そもそも文字がぼやけてるし、グラフもまともに認識出来ない。

 

「どんな人間でも、お前の細胞に適合すれば()()を手に入れられる。生死を問わず、男女を問わず」

 

そしてこう言うのだ。惜しむらくは、適性の無い人物に毒性が極めて高い事だ。と。

 

「全細胞に全能性を齎す事によって生まれる再生能力。そして適合した時点から老いることの無くなる不老。どちらも手に入れるまで平均五年を要するが、非常に強力なものだ」

 

次に表示された動画は、前世の私でも理解出来た。

下半身を捥がれた人間が二日ほどかけて新たに生やす光景。

 

「この動画を見ろ。バイオリアクターを装着せず、シルクタンパク質ベースのヒドロゲルで傷口の保護すらしていない。そもそも、ステロイドホルモンであるプロゲストロンの投与すらしていないというのにこの再生速度」

「肝心の再生精度も最高だった。なにせこの子、この後歩いたんだよ?」

「トカゲのしっぽみたく脊椎骨再生に失敗することも無い。哺乳類が内臓や脳までヤモリの手足の如く完璧に再生できるなんて、夢みたいだとは思わないかなぁ」

 

思わない。

そもそも私自身はそんな力の恩恵を受けた事は無いし、知った事じゃなかったからね。

この女、ヒートアップすると口調がフランクになる。

あの青年や他の白衣の前じゃ格好つけてるのに...

...今思うと、私は口がきけないから大樹の洞代わりにでもなってたんだろう。

いわゆる愚痴の壺ってやつ。

 

「無論、お前も再生能力は持ってるのさ。惜しむらくは、設計図(DNA)が壊れているせいで病気は治らないってところか」

「健康体のサンプルとしては使えないんだよねぇ」

 

こうして話を聞いていると、私ってまさにモルモットになるため生まれて来たみたいな化け物だよなぁ。

人間離れした再生能力を持つものの、免疫力が無いせいで他者の庇護下でしか生きられず。

話せないからどんな酷い事をしてもバレる心配がない。

どんな傷や注射痕だってキレイさっぱり無くなってしまう。

見聞きできる範囲では証拠が何にも残らないのだ。

 

「ま、お前からすりゃ体質も病気もとんだ災難だろうとは思うけどさ。お陰様で随分と多くの難病患者の命を救えたんだよ」

 

「だから最後に...」

 

その時、私から見て女の反対側にあるドアから青年が出て来た。

 

「『  』さん。少し、外に出ましょうか」

「...時間だな。約束は守れよ」

「はい...大人、ですから」

 

腕から点滴が抜かれ、血塗れの服から綺麗な患者服に着替えさせられる。

無骨な車椅子に乗せられると一般病棟の患者と遜色ない見た目になり。

 

「...相変わらず、気色悪い目だな」

 

最後に悪口を言われて、病室を後にした。

 

――――――――――――――

――――――

 

 

――――――

――――――――――――――

 

「なぁ、なぁ...おい、起きろ」

「んぁ...?」

 

目を開いたら青目銀髪ロングヘアの超絶イケメンがいて、私がベッド脇から揺すられていた。

...なんだこの状況?

確か今朝まで私は公園で『ちーと』を使ってた筈なのに、なーんで暖かい室内のベッドで目覚めたのさ。

 

「...佐神くん?ここどこ?」

「ボクの部屋のベッド。君、ボクが起きた途端に倒れたんだ」

 

はぁ、佐神くんに搬送されたってわけか。

なるほど。よく考えてみずとも午後一時から午前六時まで、十七時間近く集中しっぱなしだったら倒れるのもあたりまえだ。

 

「そっか、ありがとね」

「別に。元々ボク達が君にちょっかいかけて、助けられたんだ」

 

まだ眠い...もう少し寝させて貰おうかなぁ。

流石に寝てる人間を追い出すほどヤバい人はそうそう居ないだろうし。

なんか佐神くん、別人みたいにおとなしくなってるようだから丁度いい。

泊まらせてくれないか後で頼んでみよう。

 

「ん。それじゃおやすみ」

 

しっかし良い布団だ、暖かくてふわふわで柔らかい。頭からかぶると真っ暗になる。

私は寝るとき真っ暗の方が好きなタイプなので、遮光性高いのは嬉しい。

 

「...何も聞かないのか」

「何の事さ?」

「君もボクと同じ『転生者』なんだろ。どうしてあの時ボクを助けた?」

 

鼻から上だけを出して目を合わせると、佐神くんから僅かに何かが噴き出すのを感じた。

何だろう、この感情は。好意、愛、どちらでもない。劣情と言うには綺麗すぎる。佐神くんは魔力が切れた私の眼を、どんな風に見ているんだろうか。

 

「助けられた理由が知りたいってこと?」

「そうだ。何も知らないまま利用されるのだけは嫌だ」

 

そんな事言われたって、別に損得で助けた訳じゃない。

その意味だとアリサの方が適切だろう。

助けるも何も佐神くんをおかしくしたのも私だし、ぶっちゃけマッチポンプ。

あの子は自分の物にしたかったから『ちーと』の餌食にしたんだよね。

 

「嘘や建前だろうと構わない。言ってほしい」

 

悩んでいるとおでこをつついて急かされた。

ええい、頭を揺らさないでくれ。少し頭痛がしてるんだ。

 

理由、理由だな。ええと。

 

 

「強いて言うなら『助けて』って声が聞こえたから助けた。それだけ」

「...」

 

おでこから離れた指が顎を掴み、佐神くんは近くの椅子に座り込んだ。

その姿はまるで、かの有名な像『考える人』のよう。

 

「信じられないかな?」

「...信じたい気持ちはある。だけど、これも『ちーと』で植え付けられた物なのかもしれない」

 

そう言って彼は自分の頬をつねる。

かなり力を込めていたのか、痕がくっきり残って。少しだけ出血もしていた。

 

「自分が信じられないんだ。昨日の事で」

「何がどうなって、あんな風になってたのさ」

「話せば長くなる」

「別にいいよ?」

 

佐神くんの話はこうだった。

まず交通事故で死に、神様の元へ招かれ。

そこで好きな作品の世界に転生出来ると言われて、『アリサ・ローウェル』を救うためにとらいあんぐるハート3の世界を希望。

四つめの『ちーと』として『英雄王の宝具』を選び、えっと?

『宝具は…座?っていうとこにある魂と紐付けされているので、融合する必要がある』という前置きを承諾し、転生。

覚醒後すでに『アリサ・ローウェル』が死亡しており、身体の主導権を失った…そうだ。

 

「それならあのアリサは一体何者なのさ、平然としてたけど」

「死亡直後に魔法で生き返らせた」

 

…ん?魔法?

どういうことだ。リンカーコアを持たない佐神君が魔法を使える訳が無い筈なのに。

 

「リンカーコア無いのにどうして魔法が使えるの?」

「『チート』にあったろ?祈願実現型魔法。それだ」

 

……祈願実現型魔法?なにそれ。

死者蘇生が出来るなんて凄まじい力じゃないか。

私は正直、神の間は適当に頷きまくってただけだから忘れてた。

だって明確に頼んだのは容姿の『引継ぎ』だけで、あとは神様のおススメのままだし。

『ちーと』って他にもあったんだね...

 

「...覚えてない。『ちーと』のラインナップってどんなだったっけ」

 

佐神くんに眉を寄せて尋ねた結果、選べる『ちーと』は九つあったらしい。

 

まずはこの三つから一つ。

『神の才能』 ありとあらゆる分野の才能や資質を与える。個人差あり。

『鋼の精神』 決して折れることない精神を得る。

『祈願実現型魔法』 払った代償に見合う願いであれば、何でも叶えられる。

 

二つ目

『引き継ぎ』 前世の能力を来世に上乗せ。

『デバイス』 好きなタイプを自作出来る。

『英雄王の宝具』 人気だったから選択肢に入れたらしい。色んな物を取り出せる。

 

三つ目と四つ目はこの内二つ。

『有償の愛』 様々な愛に関する能力付与。

『リンカーコアSSS』その名の通り、凄まじい魔力を保有する。

『痛覚無効』 痛みを感じない。

 

...多分私は上から順番に取っていったのだろう。

余りに適当すぎるね。

 

「ボクが取ったのは『祈願実現型魔法』『英雄王の宝具』『有償の愛』『痛覚無効』だ、君はどれ選んだ?」

「多分私は『神の才能』『引き継ぎ』『有償の愛』『リンカーコアSSS』...だと思う」

「...『引き継ぎ』なんて無意味だろ」

 

言わないで、自分でも分かってるから。

いや本当に引き継ぎは微妙…だって無敵バリアあるし、どう考えても痛覚無効の方がいい。再生能力なんかあったって痛いものは痛いんだから。

 

「なぁ、君は原作をどれくらい知ってる?」

 

私がそれなりに後悔していると、佐神くんが口を開いた。

…原作?なんだそれ。とらいあんぐるハート3の事を言っているのなら、名前すら聞いた事がない。

 

「全く知らない」

「それじゃ、『リリカルなのは』は?」

「リリカル、がどうかは知らないけど…なのはとは一昨日出会ったかなぁ」

「小学校には入学していたか?」

「いや、まだだったね。多分」

「…成る程な」

 

そう呟くと、ポケットからボールペンと手帳を取り出して何やらすらすら書き始めた。

時に眉間を抑えながら。

 

「こんな事聞いて何になるのさ、佐神くん」

「万が一を想定しての行動、ってやつだ」

 

書き上がった手帳が投げて寄越される。

 

「それに、知る限りの原作知識が書かれている。ボクは海鳴市以外の小学校に()()するから...もう君と合う事は無い」

「原作知識って何?」

「見れば分かるものだ、とにかく読め」

 

言われるままに皮の丁装を開くと目次が出て来た。

一応本としての体裁を取っているのか、ページも割り振られている。手書きで。

 

「...ここまでこだわる必要あったのかなぁ」

「とにかく設定が多いからな。時系列ごとの考察まで入るとなると、殴り書きじゃ不都合だ」

 

黙々とページを読み進めて、リリカルなのは(無印)の情報をあらかた広い集め。

とらハ3とリリカルおもちゃ箱の設定と照らし合わせていくと...どうも今の状況と合致しない部分が出てくる。

 

「あのさ、昨日居たのはアリサ・ローウェルなんだよね?」

「そうだ」

「矛盾してない?」

「してるな。アリサ・ローウェルは孤児だ」

「それに、とらハ3の時系列だと死亡したのは十歳の時で、二年後に八歳のなのはと出会うって書いてあるんだけど...」

「この世界だと二人は恐らく同い年...だな」

「これじゃ、まるで『リリカルなのは』みたいじゃないか」

「...夜の一族の項は見たか」

「見たけど?」

「この世界に、月村すずかは存在しない。彼女の両親はとらハ3と同様の末路を辿ったらしい...この意味は、分かるだろ」

 

...へ?

 

 

「ここは『とらいあんぐるハート』でもなければ、完全に『リリカルなのは』という訳でもない世界って事だ」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。