それを義勇が助けるお話。
「ねぇねぇ。冨岡さん」
今日もつんつんと彼の背中をつつく。これが私達の挨拶がわりだった。2年前に彼が柱になり、同僚として頑張ろうと挨拶をしようとした。のに、彼は『俺に構うな。俺はお前達とは違う』と言ってすぐどこかに行ってしまったのだ。そこで私は理解した。
(ああ。彼は私と同じだ)
境遇、立場、過去...。要するに放っておけなかったのだ。だから、合同任務終わり、偶然街で出会った時、傷を見に蝶屋敷へ来た時。冨岡さんと何かと行動することが多いので、会話をする機会が多かった。これは後に分かったことだが、意外と冨岡さんはああ見えて天然ドジっ子だった。何もないとこでつまづいたり、口の周りに米粒などが付いていたり、任務の最中にもボーっとしている時もあった。手間の掛かる子供のような成人男性。思わず母性本能をくすぐられる。
「とーみーおーかーさんっ」
今もこうして、街を歩いていた冨岡さんに声をかけている。案の定、冨岡さんは無表情で前を歩く。それが寂しくもあり、楽しくもある。冨岡さんとお話しをすると気分が上がって体温が上昇し、鼓動が速くなるのだ。これが【恋】だと知ったのは親友の甘露寺さんから教えて貰った時。一緒においしいと評判の三色団子を食べていると急に好いている殿方はいないのか、と聞かれ、『冨岡さんといると動悸が速くなる』と答えたら、それは間違いなく恋だと言った。経験したことがないから分からないけど、彼女が言うには正真正銘これは恋らしい。さすが甘露寺さん。
だからと言って告白はしない。この恋というものもなかったことにする。でもそれは少し悲しいから、時々揶揄う振りをして彼に甘える。これだけでも充分満たされるのだ。
「きゃっ、」
ガタイの良い男がぶつかって来た衝動で尻もちをついた。人はそんな多くもなく、ぶつかるほど道も狭くない。わざとだ。
「いってぇなぁ。ちゃんと前見ろよ、嬢ちゃん」
よろめいてもなければ、痛がる素振りも見せない。ほんとは痒くもないくせに。彼に助けを求めようとしたが、生憎彼は随分先へと行ってしまった。足が速い、これでは叫んでも聞こえないだろう。
「これはこれは、申し訳ありません。ですが、ぶつかって来た貴方にも非があると思いますよ」
至って冷静に、冷徹に。冷めた笑顔を向ける。これで一般人は逃げ出す人が多いのだが...。
「あぁ?人のせいにすんのか?嬢ちゃん。いくら別嬪さんでもさすがに許されると思うなよ?」
隊服の胸ぐらを掴まれ、宙に浮く。
「私は正論を言ったまでです。人のせいにしているのはむしろ貴方のほうでは?」
殴られるのを覚悟していた。ひ弱な私の力ではこの腕を振り解くことは不可能。せめてこの手さえ離してくれれば。
「...オイ、クソガキ。今の言葉訂正しな。そんなら犯すだけでチャラにしてやっからよぉ」
「訂正?何を言っているんですか?訂正するのは貴方の方ですよ」
胸ぐらを掴んでいる方とは違う手を上げた。殴られる。反射的に目を瞑った。
「うっ...!」
涙は出ないが痛みはかなりあるだろう。傷を作るのは慣れている、どう言い訳しようか悩んでいた。...が、その衝撃はこなかった。一向に拳が飛んでこない。おそるおそる目を開けると、そこには彼がいた。
「女に手をあげるなど笑止千万。その汚らしい手を離せ」
自分の頬に飛んでくるはずだった拳は彼の手の中で丸く収まっていた。力は冨岡さんのほうが強いようで、男は唸り声を上げながらゆっくり降ろしてくれた。良かった、来てくれたんだ。安堵で視界が霞む。
「くっ、覚えてろよ...!」
そう言って走り去って行った。
しばし沈黙。チラッと横目で冨岡さんを見ると彼も此方を向いていた。
「ありがとうございました...冨岡さんが来てくれなかったら今頃頬が腫れていましたよ」
正直、怖かった。あのままだとどうなっていたか...何度も殴られていたかもしれない。犯されながら、何度も、何度も。
「胡蝶の気配がなくなったから、探していたら、ここにいた」
それだけだ、と言ってまた歩き出した。私がいなくなっていたこと、気づいてくれていたのだ。それに、探してくれた。そのまま帰っていたかもしれないのに、わざわざ、探してくれた。
「ねぇ。ねぇねぇ、私が急にいなくなって慌てましたか?心配しましたか?」
つんつんしながら背中をつつく。身長差のせいで貴方の顔は見えないけど、いつも通り無表情なんでしょうか。
「貴方のせいなんですよ?」
口下手で、ドジで天然なのに。優しくて、不器用に助けてくれて。
そんなとこに惚れてしまったのは、全部、
読んでいただきありがとうございました。
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