ありそうでないぎゆしの   作:やゆよよ

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怪我してしまったしのぶさんを蝶屋敷まで運ぼうとする冨岡さんの話


「俺はこれで失礼する」

あぁ、やってしまったなぁ。

 

薄暗い森の中、木々の間から漏れる月明かりを頼りに傷口の状態を見た。そこからはドクドクと血が滲み出ている。

「…結構深いですね」

怪我をした場所はふくらはぎ。たとえ包帯を巻いたとしても脚絆は確実に血濡れになるだろう。しかし、問題はそこじゃない。

「………どうしましょう」

歩いて帰れない事だった。このまま帰れば、余計に傷が悪化してしまうのは目に見えている。隠に背負ってもらおうか。否、セッセと忙しく働いている隠にこれ以上負担は掛けたくない。

ならば、素早く応急処置をし悪化上等昼までにはなんとか蝶屋敷に戻れるだろう。そう決断した。

「____ッ!!」

立とうとした時、ふくらはぎに激痛が走った。直ぐに懐にある鎮痛剤を飲む。が、痛みは和らがない。そのせいで全集中・常中が出来ないでいた。これでほんとうに昼までに帰れるだろうかと不安に思っていた、その時。

「胡蝶」

「……………とみ、おかさん…」

聞き慣れた声がし、後ろを振り返ると同僚の水柱がいた。いつもの無表情でそこに立っている。

「………………?何か、御用でしょうか」

なにも言わない彼に対し、痺れを切らして問うと数秒考えた素振りを見せ、こちらに歩み寄ってくる。そして、何も言わずに横抱きにされた。

「と、冨岡さん…!?」

「…………なんだ」

ズンズン先を行く彼の肩を押し返し下ろしてと抗うがびくともせず、次第には少し黙れと言われる始末。段々と腹が立ち子供のように足を動かしジタバタと暴れる。鎮痛剤が効いてきたのか痛みが少し引いていた。

「何なんですかっ、嫌がらせですか!?早く下ろしてっ!」

「やめろ、動くなっ」

「冨岡さんは何がしたいんですか!?言わないと分かりません!」

「足を怪我してるだろうっ」

「………………え?」

ピタッ。

自分も彼も、動くのをやめ互いの顔を見合わせる。呆れたような、心配しているような絶妙な顔をして「だから、動かなよ」と言った。

………え?足を怪我してるだなんて、彼には言っていない。包帯を巻いて間もなかったから脚絆に血はついてなかったはず。そもそも暗かったから怪我しているのかすらも分からないだろうに。どうして彼は、気付いたの?

「………胡蝶?」

急に黙り込んだのを見て不思議に思ったのか、彼は再度歩みを止めた。

「……下ろして…」

「しかし、」

「鎮痛剤は飲んであります。大丈夫ですから…」

先程の自分の態度が恥ずかしい。これ以上彼の顔が見れる気がしない。今は痛みもないから昼までには帰れる(はず)。それに、彼だって任務終わりだろう。これ以上、迷惑は掛けられない。

「すみません…先程のご無礼はお詫びいたします。だから、下ろしてください」

「いや、」

「自分で歩けますから。鎮痛剤もまだありますし」

「ちがっ」

「きっと、艶が援護で貴方の事を呼んだのでしょう?もう大丈夫ですよ」

そう言うと、彼は黙ってしまった。援護を頼まれたから疲れていても来てくれた。そう考えると、何故怪我している事が分かっていたのも納得がいく。彼の肩を押すと、先ほどよりも簡単に下りられた。

「……っ」

着地したは良いが、怪我したほうの足にビリビリとした電流が流れる。鎮痛剤といっても全部が全部痛くないわけではない。

「冨岡さんもお疲れでしょう。私の事などお気になさらず、先に帰っていても良いのですよ」

「いや…」

「私の歩幅に合わせると、家に着くのが遅くなってしまいますよ」

「………」

「ふふ、大丈夫ですって。艶には私から話しておきますから」

責任感が強い彼は、それでも納得のいかない顔をして首を縦に振らない。

「はぁ……貴方が何を考えてるかは知りませんが、私は平気です。それに、お疲れの貴方にこれ以上ご迷惑は掛けられません」

そう言うと、さらに眉間に皺を寄せた。怒っているような、悲しそうな表情。どうしてそんな顔をしているのかは分からないが、どうやら彼の逆鱗に触れたらしかった。

「今、なんと言った」

聞いたことのない、低い声が鼓膜を震わす。

「え…?だ、だから、貴方にこれ以上、ご迷惑は」

「迷惑?迷惑だと?」

彼の大きい手が、顎を通り越し頬まで掴まれた。手加減はしてくれているのだろうけど、それでも痛い。

「い、いたっ、とみ、おかさっ」

「お前は、俺に迷惑を掛けていると思ってるのか?」

ギギッ…。

骨にヒビが入るのではと不安になる程痛い。咄嗟に彼の腕を握るが、無論離してはくれない。

「俺は、」

「う、ぅ…っ、ぃたっ、い…」

痛みで泣きそうになった時、パッと手が離れた。と、同時に、力強く抱きしめられた。背中に腕を回され、顔に刺さる髪の毛がちくちくする。

驚きで、頭が真っ白になり脳は考えるのをやめている。それでも唯一理解できたのは、彼が泣いていることだった。

まるで、迷子になった子供のように。

「俺は…迷惑だと思っていない…」

「あ、の…とみおか、さん…」

「胡蝶が、そんな風に思っていたなんて…心外だ」

「………」

「迷惑だと、思ってないから…」

その真剣な声に、なんと返せばいいか分からなかった。いつものように「やだなぁ冨岡さん。そんな泣かなくても」と軽い口調で揶揄えば良かったの?「本当は迷惑だと思っているんでしょ」って辛辣に言い放てば良かったの?いや、どっちみち彼を悲しませることには変わりない。ならば、今することは。

「……冨岡さん」

「…なんだ……?」

「まだ、足が痛いので、蝶屋敷まで送って下さいませんか?」

 

きっと、今することは、彼に身を任せることではないのか?

 

ぎゅっ、と背中に腕を回して、抱きしめ返した。彼は一瞬固まったもののすぐにまた泣き出して、うん、とだけ返事をした。

 

 

 

 

 

「なあんて事もありましたねぇ?」

「………忘れた」

「あら?四ヶ月前の事ですけど、もう忘れたんですか?」

「…………………知らん」

「へぇ?私は覚えてますけど?」

あの後、無事蝶屋敷まで運んでくれてアオイが慌てて手当てをしてくれたのだ。冨岡さんは疲労で患者用の寝台でぐっすり。

「冨岡さん珍しく泣いてましたもんねー」

「………………覚えてない」

そっぽを向きながらなんて、説得力は皆無に等しいのに。

変な所で抜けてる人。

「もしかして冨岡さん、記憶力ないんですか?」

「むっ…そんな事はない」

「だって、もう忘れてしまったんでしょう?」

「忘れてない」

「あら?さっき忘れたって言ったではありませんか」

「あの事は忘れたが、胡蝶がキスしてくれた事は覚えている」

「キスなんてしてな…………え?」

「寝ている俺に、小声でありがとうと言ってから頬にキ」

「ああああっ!だめです!それ以上言ったらだめですから!」

何故バレてるの!?冨岡さんが言った通り、私は寝ている彼の頬に軽くキスをした。それは認める。が、彼は寝ていたはず、なぜ!?

「…………起きてたんですか…」

「いや、胡蝶が来るまで寝ていた。が、扉が開いたような気がして、起きた」

「…………すみません…」

「いや、嬉しかった」

「…えっ。それって、どういう…!?」

追求しようと彼の顔を見ようとするが、彼は勢いよく立ち上がり蝶屋敷の門へと向かっていく。そして、私の顔を見ようともせずに言い放った。




ここまで呼んでくれてありがとうございます( ^ω^ )
サブタイトル最初は「俺が好きでしている事だ」だったのに冨岡さん泣いちゃうししのぶさん冨岡さんにキスしちゃうしで結局やめました笑
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