初投稿、よろしくお願いします。
「それじゃー、ホームルームはこれで終わります。これから部活がある人は部活に。そうじゃない人は下校時刻を過ぎる前に下校してくださいね」
担任のホームルーム終了を合図に、クラスの奴らはそれぞれの行動に移る。部活や帰宅で颯爽と教室を出てったり、仲のいい友人同士で寄り集まってお喋りを始めたり。そんな中で俺は力尽きたかのように机に突っ伏していた。
「あ〜......疲れた......もうこのまま学校に居座ってやろうかな......」
このまま学校に泊まってしまえば、家に帰るまでの体力も朝遅刻する心配もないし。食堂もコンビニもあるからメシにも困らない。完璧だな。
「なーにぶつぶつ言ってんの、ハル?」
勉強の疲れからか頭の悪そうな思考を張り巡らせていたところに、横から呆れたような声がかかる。顔を上げて声の方を見ると、そこにはよく見慣れた顔の女子がいた。
高咲侑。
俺の幼馴染で幼稚園の頃からの付き合いだ。昔は短髪でボーイッシュな見た目や性格があって男友達みたいな感じだったが、今じゃセミロングの黒髪をツインテールにして体つきも女っぽくなっている。
......いやぁ成長したな、侑。
「侑......俺をおんぶして家まで送ってってくれないか」
「はぁ......? 普通にお断りだけど」
「えぇ......? ったく、しょうがねえなぁ.....ならお姫様抱っこでいいから」
「いや運び方の問題じゃないし! というかそれは私がされる方でしょフツー⁉︎」
「え、なに......俺にお姫様抱っこされたいのお前......」
「なんで私がドン引きされてるの⁉︎」
声を荒げて俺にツッコミを入れる侑。反応が面白いからつい揶揄っちゃうんだよな。
「そんなことより! 今から歩夢と遊びに行くから、ハルも来てっ!」
「えぇ......? 俺今そんな気力ないんだけど...」
「つべこべ言わずに来るの〜!」
「だぁぁ! わかったから腕引っ張んなって!」
俺のささやかな抵抗も虚しく、渋々と鞄を持って教室を後にする。
だだっ広い廊下を歩いて行き、昇降口へと辿り着くと、少し離れた先にいる1人の女子が俺と侑に気づいたかのように反応して駆け寄ってきた。
「侑ちゃん! ハルくん!」
「ごめん、歩夢! 待たせちゃった?」
「ううん、大丈夫だよ」
屈託のない笑顔で答えたこの女子は上原歩夢。侑に続き、もう1人の幼馴染だ。
目を引く綺麗な桃色の髪をお団子でヘアアレンジしたり、花形の飾りがついたヘアピンをつけていたりと女子力が高い。
「ハルがめんどくさいって駄々こねてるから......」
「無理矢理連れてこられたのに責任は俺なのかよ......」
「その......急でホントにごめんね?嫌だったら先に帰っちゃってもいいから......!」
そんな申し訳なさそうに謝られても逆に帰りづらくなるんだけど......
「まあ別にいいけどさ。せっかく集まったわけだし」
「む〜......! ハルってば、昔から歩夢には優しいよねぇ......私には意地悪ばっかしてくるのに」
「そんなことないって。嫌よ嫌よも好きのうち、喧嘩するほど仲がいい、ああ言えばこう言うって言うだろ?」
「最後のはフォローになってないじゃん!」
「あはは......2人とも今日も平常運転だね......」
そんな俺たちに歩夢は苦笑いを浮かべていた。
とりあえずと言った感じで俺たちはショッピングモールに足を運んで買い物を楽しんでいた。いや、正確には侑と歩夢がきゃっきゃうふふと楽しそうに商品を見ていて、俺はと言うと、特に欲しいものもないから退屈そうに眺めているだけだ。
「これなんかどう?」
歩夢が商品棚に置かれたパスケースを指差して言う。
「う〜ん......いまいちトキメキが足りないね〜」
「いやどんな判断基準だそれ」
今時の女児アニメでもトキメキなんてワードそうそう聞かないぞ。
「んー、じゃあどうしよっか?」
「他のお店見てみよ〜」
結局侑たちのお眼鏡に適うものはなかったらしく、雑貨屋を出ることにした。
「そういえばこの前取り損ねたぬいぐるみさ〜、ネット見たらオークションに出ててさぁ......」
「ん......?」
会話の途中でふと何かを見つけて立ち止まる歩夢。
「歩夢?」
気になって歩夢の視線を追ってみると、そこにはショーケースに飾られたピンクのワンピースがあった。侑もそれに気がついたようでショーケースのそばへと近寄る。
「わぁ、これすごくかわいい〜! 歩夢に似合うんじゃない?」
「えぇ......!? 確かにかわいいけど私には合わないって......!」
「そんなことないってば。ハルもそう思うでしょ?」
「俺に同意を求めんなよ......まあ歩夢は何着たってかわいいだろ」
「かわっ......!? も、もうっ! ハルくんまで適当なこと言わないでっ」
いや、事実を言っただけなんだけどなぁ......
「あっ! 見て見てこれ!」
お次はワンピースの隣に飾られている、フードに兎の耳がついた子供用のパーカーに興味を示した侑。
「幼稚園の頃、歩夢こんな格好してた時あったよね〜」
「あー、そういえばあったな」
十年以上も前の記憶だから曖昧だけどなんとなく覚えている。
「かわいかったなぁ......あれは今でもときめいちゃうよ〜」
「あゆぴょん......だったっけか? あれ着てる時ずっとピョンピョン言ってたよな」
「そうそう〜! ねねっ、やってみてよ! あゆぴょん!」
「や、やるわけないでしょっ。2人してそんな昔の話掘り返さないでよぉ......!」
歩夢としても今となっては恥ずかしくて封印したい思い出らしい。そりゃまあ当たり前か......
「なんかお腹すいてきちゃった。下降りない?」
「賛成だピョ〜ン」
「俺もだピョ〜ン」
侑が語尾にピョンとつけ始めたから俺もつい悪ノリしてしまった。自分からやっておいてだけど男がピョンとか普通にキッツイなこれ。
「ハルぴょんと侑ぴょんの方がかわいいんじゃない?」
「「それはないピョン」」
一言一句違わずに、俺と侑は綺麗にハモっていた。
ショッピングモールを出て近くの広場に向かった俺たちは、ちょうどそこに来ていた移動販売のコッペパンを買ってベンチで一息つくことにした。
「それでね〜、隣で居眠りしてたハルが『鈴木先生そんなだから毎回男に逃げられるんですよ〜』って寝言言っててさ〜!」
我ながらなんつー命知らずな寝言言ってんだ俺。道理で先生、般若みたいなめちゃくちゃ怖い顔して叩き起こしてきたわけだよ...
「あ、歩夢のそれ美味しそう!」
「限定の塩レモンカスタード。食べる?」
「食べる〜!」
「はい、あーん」
歩夢が自分のパンを差し出すと侑がパクリと一口。
「ん〜! おいしいじゃんこれ!」
と、大絶賛なご様子。
「おいおい、クリームついてんぞー」
「えっ、どこ?」
「ほら、取ってあげるからじっとしてて」
侑の口元についたクリームを歩夢がさっと指で拭う。
「はい。取れたよ」
「ありがとね〜。私のも食べてみる?」
「うんっ。あ、なら写真撮ろ〜!」
鞄からスマホを取り出した歩夢は、カメラアプリを起動して内レンズを自分たちの方に向ける。自撮りなんて、いかにも今時の女子高生って感じだな。
「ハル、なにボーッとしてんの? 早く入ってよ」
そんなことを思っていたら侑からお呼びがかかった。
「んぁ? 俺も撮るのかよ......」
撮られるのは苦手なんだけどな......
「とーぜんっ! ほら、早く早くっ」
「はいはい......」
侑に急かされ、仕方なくカメラに映る。なんだかんだ言っても写真なんてこの3人で何回も撮ってきたし今更だよな。
「撮るよ〜。はい、チーズっ」
歩夢が画面をタッチすると、パシャリとシャッター音が鳴る。
すぐさま歩夢が撮った写真を俺と侑にも転送してくれたからチェックしてみると、笑顔の侑と歩夢に対して俺は微妙な表情で完全にアウェイだった。まあいつも通りっちゃいつも通りなんだけども。
「あ、そういえばハルはどんなの頼んだ?」
「『堕天使の泪 〜禁断の紅き果実〜』ってやつ」
「名前が痛々しすぎる! ていうかそれ、すごい赤いんだけど本当に食べて大丈夫なの......?」
「辛すぎて唇がめっちゃ痛ぇ」
「でしょうね! さっきから全然食べ進んでないなと思ってたけど!」
「注文した後にそういや俺甘党だったわって気づいて全力で後悔したよな」
「もはやただのバカじゃん!」
そんなこと言われても男ならこんな名前のメニュー見たら男心がくすぐられるってもんだろ。たぶん。
「もう食えないからやるよ。今なら俺と間接キスができるぞ」
「こんな間接キスは嫌だ2位にランクインだよ!」
いや上の1位はなんなんだよ......!
「ハルくんの間接キス......っ⁉︎」
「なんで歩夢はちょっと物欲しそうにしてるの⁉︎」
なぜだか食いついてきた歩夢を慌てて侑は止める。
兎にも角にも、食べ物を粗末にするわけにもいかず俺は死に物狂いで『堕天使の泪 〜禁断の紅き果実〜』を完食した。
軽食も済ませ、まだ時間もあるからとこの後の予定についてだらだらと3人で考えているところに───
「ん? あっちの方、何かやってるのかな?」
侑が視線を向けたその方向を見ると、確かに人集りのようなものが見え、歓声も聞こえる。
......イベントか何かか?
「めっちゃ盛り上がってるな」
「見に行ってみよっか!」
「そうだね」
この後の予定も特に決まりそうにもなかった俺たちはそのイベントを見に行くことにした。
「これって......」
「ライブ......だろうな」
「すごい......」
人が集まる大階段の前に到着すると、そこには俺たちと同年代と思わしき少女がひとり、赤い衣装を身にまとって歌と踊りを披露していた。
その小柄な身体からは想像つかない力強い歌声とパフォーマンスに魅了された俺たちは彼女から目を離すことができない。
曲が終わると、周りの観客から盛大な拍手と歓声が少女に送られる。少女は深くお辞儀をした後、その場を去っていた。
「〜〜〜〜〜!! すっっっっっっっっごいときめいちゃった!!!」
「うおっ......⁉︎ 急に大声出すなよ......」
ボーッとしたまま立ち尽くしてたと思ったらいきなりなんだ。
「凄くない⁉︎ かわいかったよね⁉︎ かっこよかったよね⁉︎」
「え? う、うん......そうだね......!」
「とりあえず落ち着けっての」
興奮冷めやらぬままぐいぐいと迫る侑の頭に軽くチョップ。
でも確かにあのド派手なパフォーマンスに興奮するのはわからなくもないな。火薬ばりばり使ってたけど消防法大丈夫なのかアレ。
「今のってスクールアイドルってやつだよな......? たぶん」
「ハルくん知ってるの?」
「ネットでちらっと見た程度だけどな」
部活でやるアイドル活動......みたいな感じだったな確か。要するにご当地アイドルみたいなもんだろう。
「スクールアイドルかぁ......なんて子なんだろう、あの子」
「あそこにポスターがあるな」
「本当っ⁉︎」
「っておい⁉︎」
「きゃっ⁉︎」
侑は俺と歩夢の手を引っ張ってそのポスターへ一直線に駆け寄る。
「えっと、なになに〜? 『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』......」
「ちょっと待て、虹ヶ咲ってまさか......」
「「「うちの高校⁉︎」」」
寸分の狂いなく重なった俺たちの声が青空へと響いていった。
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