虹色DREAMER!   作:UkiA

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前回のあらすじ。

「やってみせろよ、高咲ィー!」「なんとでもなるはずだ!」「スクールアイドルだと!?」

 


#10「ココロを叫べ」

 

 

 

虹ヶ咲学園、西棟の屋上。

そこにあるガラスフェンスに凭れながら、侑は屋上からの景色を一望していた。

そして侑のいる場所から少し離れたところ、建物の影に隠れるようにして、俺や歩夢、中須たち同好会メンバーは侑の様子を静かに見守っている。

 

放送委員に協力を得て学園の校内放送を使い、すでに会長を呼び出している。あとは会長がやってくるのを待っている...という状況だ。

 

「なんか、私もドキドキしてきちゃったよ...」

 

ソワソワとしながらヴェルデ先輩が言う。

会長と会うのは侑とはいえ、見ているこちら側も緊張してしまうのもわからなくもない。あいつの対応次第で優木せつ菜の行く末が決まるといっても過言じゃないからな。

 

「彼方ちゃんも、緊張で眠く......」

「わぁっ!?彼方先輩、こんな時にまで寝ないでくださいよっ!」

 

こっちの2人は緊張感ないやりとりというか...とにかく大丈夫そうだ。

 

「侑ちゃんなら、きっと大丈夫だよね...?」

「さぁな......あいつがやるって言い出したんだから、今はあいつを信じるしかないだろ」

 

歩夢も若干不安そうにして聞いてきたが、どうなるかは俺にだってわからない。神のみぞ知るところってやつだ。結局のところ、俺たちはあいつの優木せつ菜への想いを信じて、その可能性に賭けた...それだけだ。

 

「あっ...来たみたいです...」

 

待ち人の来訪に気づいた桜坂。俺は再び視線を侑のいる方へ向ける。そこには面と向かい合う侑と会長の姿があった。当然だが、あまり穏やかな雰囲気じゃない。

それほど離れている距離でもないため、耳をすませば2人の会話はなんとか聞き取れそうだ。

 

「もしかして、私を呼び出したのはあなたでしょうか?」

「うん、そうだよ。せつ菜ちゃん」

 

侑からその名前で呼ばれることを想定していなかったためか、会長は目を見開いて驚いていた。

 

「あぁ、驚かせちゃってごめん。実はエマさんたちから聞いたんだ、生徒会長がせつ菜ちゃんだったってこと」

「...そういうことですか。それで、一体どんな用件で私をここに?」

 

わざわざ自分と優木せつ菜をセットで呼び出した時点で、会長は薄々感づいてはいるだろう。しかしその直後、侑が取った行動は...

 

「───ごめんなさいっ!」

「えっ?」

 

躊躇いもなく思い切り頭を下げて、謝罪の言葉を言い渡した侑。その想定外の出来事にまたしても会長は面食らっていた。

 

「な、なんですか、いきなり...!」

「えっと...まずは昨日のこと、謝りたくて」

「昨日のこと...?」

「あの時はまだせつ菜ちゃんだってことはっきりしてなかったから、本人の前でいろいろ無神経なこと言っちゃったかなって...」

「べ、別に、そんなこと思っていませんよ。それに、正体を隠していた私の方にも非はあるんですから」

 

非礼を詫びる侑に会長も申し訳なさそうに言葉を返した。そこで会話は途切れてしまう。

 

「...話が終わったのなら、私はこれで───」

 

ばつが悪そうに、会長がその場を去ろうと振り返った瞬間、

 

「待って!」

 

会長を呼び止める侑の声。

 

「私は、幻滅なんてしてないよ」

「っ!」

「私はせつ菜ちゃんに、もう一度ステージに立ってほしい。スクールアイドルとして、同好会に戻ってきてほしいんだ!」

 

その言葉が、音楽室で自分が侑に問いかけたことに対する答えだと。そう理解した会長の表情は険しくなるばかりだった。

 

「...今更、戻れるわけないじゃないですか...!」

 

必死に感情を押し殺していたはずのその声は、次第に熱を増していく。

 

「もうわかりきってるはずです...!私がいたら、『ラブライブ!』に出られない!みんなのためにならないんですよ!!」

 

今までの落ち着いた会長からは想像もできない、荒々しくて、悲痛な叫び。

 

自分のせいで、みんなの夢が、大好きが叶わなくなる。

もはや冷静でいられなくなるほど、会長が背負っていた責任と罪悪感は肥大していた。

 

しかし。

 

「だったら...!」

 

侑の握りしめた手に力が入る。

 

「だったら、『ラブライブ!』になんて出なくていい!!」

「っ!?」

 

負けじと大音声で侑の口から飛び出たのは、会長だけでなく見ていた俺たちをも愕然とさせる一言だった。

 

『ラブライブ!』に出なくていい。それはスクールアイドルにとっての1番の夢を諦めろと言ってるみたいなもんだ。

 

「あっ...いや、『ラブライブ!』がどうでもいいとかそういうわけじゃなくてね...!」

 

さすがに自分の言ったことの重大さに気づいたのか、慌てて訂正する侑。

 

「私はただ、せつ菜ちゃんが自分の大好きなことで幸せになれないのは嫌なだけ。『ラブライブ!』みたいな最高のステージじゃなくたって、せつ菜ちゃんの歌が聴ければ私はそれでいいんだよ」

 

侑が望んでいたのは、たったそれだけのこと。

 

「スクールアイドルがいて、ファンがいる。そういうのでいいんじゃないかな?」

 

自分の好きなライブができて、それを応援するファンがいる。それこそが、スクールアイドルが輝ける最高のステージなんだ。

侑が言いたいのは、きっとそういうことなんじゃないだろうか。

 

「で、ですが......」

 

それでも会長は中々踏み切れない様子だった。

 

...会長はまだ、怖がっているんだ。

同じ過ちは繰り返したくない、みんなの大好きを傷つけたくないって。

そんな不安を抱える会長に、俺も何か力になってやれれば...。

 

でも、俺には何がしてやれる?会長の大好きの気持ちに俺はどう向き合えばいい?

 

...いや、その答えは一つしかないだろ。

 

俺は導かれるようにその場から飛び出て、侑と会長のもとへ近づき、そして言った。

 

「いつまで自分の気持ちに嘘をつくつもりだよ、会長」

「え...?」

 

物陰から現れた俺に会長は驚きを隠せずにいた。隣にいる侑も。後方の物陰から覗いているみんなもたぶん。

 

「こ、小日向さん...!?聞いていたんですか?」

「盗み聞きするようなマネして悪りぃ。でも居ても立っても居られなくなって」

 

俺がこの場にいるということは、きっと他のみんなもいるんだろうと、会長は気づいているのかもしれない...でも今はそんなのはどうだっていい。

 

「会長はもう...自分がどうしたいかなんて、本当はわかってるんだろ?」

「............」

 

会長の返事はない。ただ俺から視線を逸らすだけだった。

そんな会長に、俺はあることを切り出す。

 

「会長、ひとつ聞いてほしいことがある」

「...なんでしょう?」

 

目を背けたままの会長に、俺は構わず語りかける。

 

「俺は......」

 

いろいろ言葉を考えてみたけど...やっぱりこれしか思いつかねえや。いや、これしか言い表しようがない。

 

「───俺はスクールアイドルが"大好き"だ!!」

 

その言葉に反応するように、会長は俺を見た。

 

「最初はそこまで興味がなかった。そういうものがあるんだってくらいの認識でさ...」

 

スクールアイドルは俺にとって微かな存在だった。認知こそすれども深く知ろうとはしなかった。

 

あの日までは。

 

「でも、あんたのライブを見てから...少しずつ興味が湧いてきた。あんなに心が熱くなったのは久しぶりだったんだ」

 

始まりは同じだった。侑も、歩夢も、俺も。

あのステージを見て、熱くなったナイフが心を貫いたようで、そこから全てが始まった。

 

「んで、気づいたら俺もスクールアイドルにハマってた。本当にすげえよ、スクールアイドルって」

 

侑があんなにトキメキを感じて。

 

歩夢がなりたい自分を見つけて。

 

中須や桜坂、近江先輩にヴェルデ先輩もスクールアイドルが大好きで。

 

みんながどんどん夢中になっていく世界。その世界を俺ももっと知ってみたいと思った。もっといろんなスクールアイドルを見てみたい、そんな大好きの気持ちが芽生え始めていた。そして気づいたんだ。

 

「...あんたのステージ、俺はもっと見てみたい!力強い歌声も、熱いパフォーマンスも!全力でスクールアイドルを楽しんでる笑顔も!」

 

俺はもう一度、その言葉を声に出す。

 

「俺は...スクールアイドルが、優木せつ菜が大好きなんだッ!!」

 

俺はスクールアイドルが好きになっていた。

変に着飾った言葉は必要ない。会長に伝えたいのはシンプルなその気持ちだけだ。

 

気持ちを全て曝け出したせいか、左胸が強く高鳴っている。俺は一つ深呼吸をして、それを落ち着けると、再び口を開く。

 

「俺はあんたにありったけの"大好き"を伝えた。今度は会長の番だ」

「わ、私の番?」

「あぁ。聞かせてくれよ、会長の大好きの気持ち。周りが見えなくなっちまうほど、あんたを夢中にさせてくれた...スクールアイドル("大好き")をさ!」

 

大好きはもう隠さなくていい。自分の大好きに怯えなくていい。

 

「その"大好き"は俺が全部まとめて受け止めてやるから!」

 

"大好き"を受け止めてやること。それがたったひとつ...俺が会長にできることだ。

 

...でも、ちょっとカッコつけすぎたような。どうしよう、俺今すごく恥ずかしいことを言ってる気がする!絶対なんだコイツって思われてそう!

 

内心で今更すぎる羞恥心に襲われる俺に、侑がそっと近寄ってきた。

 

「ちょっと、いきなり出てきて何1人だけいいカッコしようとしてんの」

 

少しムッとした顔で侑は言った。それもそうか。任せるって言っておきながら、いきなり飛び出てきて勝手に話進めちまったし。なにより...誰よりも優木せつ菜を大好きなこいつが黙っていられるはずがない。

 

「それに。そこは『俺が』じゃなくて、『俺たちが』にしてよね!」

 

にかっとした笑みで、某ライダーさながらのセリフを放つ侑。俺と侑は2人で1人の探偵だったのか...ってそういうことじゃねえ。

あんなにクサいこと言っていても、本気で付き合ってくれる...最高の幼馴染だよ、お前は。

 

「どうしてこんな私に..そこまで言ってくれるんですか?」

「言ったでしょ!大好きだって!」

 

迷う素振りも見せず、即答する侑。

 

「......あ、あなたたちみたいな人は初めてです...」

 

はにかみながら、会長は続ける。

 

「...期待されるのは嫌いじゃありません。ですが本当に...本当にいいんでしょうか...?私の我儘を、私の大好きを貫いてもいいんですか...?」

 

そんなこと、端から決まってる。

 

「ああ!」「もちろんっ!」

 

俺と侑は確かめるまでもなく同時に言葉を返す。そんな俺たちを見て、はっとした様子で会長は固まっていたが、やがて張り詰めていたその表情は綻びを見せ始めた。

 

「...わかっているんですか?あなたたちは今、大変なことを言ってしまったんですからね?」

 

不敵な笑みを浮かべた会長は俺たちの横を通り過ぎると、眼鏡を外し、三つ編みをほどき、結び直す。その姿はまさしく俺たちが待ち続けていた、優木せつ菜そのものだった。その瞳は迷いなく真っ直ぐに俺たちを捉える。

 

「どうなっても知りませんよ?」

 

拳を前に突き出して俺たちを見据える優木。

 

「私の"大好き"を...ちゃんと全部受け止めてくださいね!」

 

俺たちがその言葉の意味を理解する前に、優木はフェンスの前に立って外にいる生徒たちを見渡す。

 

優木は一体何を...?

困惑と期待が入り混じったそんな思考が張り巡らされているうちに、その幕は上がろうとしていた。

 

「これは───始まりの歌です!!」

 

優木は高らかに言い放つと、光が差し込んだ曇り空に、一つの歌が響き渡った。

 

 

 




 
 
 
スパスタ5話、ラストが衝撃すぎた...それはそうとクゥクゥちゃんかわい。

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