生きてます。(挨拶)
今回からアニメ4話の内容に。あの2人がやってくるぞッ。
「では、失礼します」
優木はお辞儀をした後、その部屋のドアを閉めて、そばに置いていた椅子を手に持つ。そして一緒に来ていた俺と近江先輩の方へ向き直った。
「さて、部室に戻りましょうか」
「部室の椅子、なんとか集まってよかったね〜」
俺と近江先輩も同じようにいくつか椅子を抱えている。
俺たちがなぜこんなことをしているのか。それは今日からスクールアイドル同好会の活動が再開するわけなんだが、新しく手配された部室はしばらく使われずに放置されていた部屋だったらしい。
なんでまずは部室の掃除と、備品の整理整頓や移動を始めたところだった。それで俺たちは今、足りない備品を他の部から借りてくる仕事を担っている。
「これだけあれば十分だな」
「あの、すみません...!晴陽さんにだけ多く持たせてしまって...」
「大丈夫だって。そんなこと気にすんなよ」
優木に気を遣わせたくないがため、笑顔を浮かべながら対応する。
とは言っても俺はあんまりガタイがいい方でもないし、特別筋力があるわけでもないが、そこは男の意地というべきか。情けないところを見せて、頼りなく見られるのだけは避けたい。
「さすが男の子、頼りになりますなぁ〜♪」
「それはどーも。でもずっと持ってるのも結構辛いんで、早く行きましょう」
「らじゃ〜」「はいっ」
少し見栄を張りながら、俺は2人の先を歩いていった。
部室に戻ると他のメンバーたちが掃除をしていた。
侑と中須は熱心に雑巾がけ、歩夢とヴェルデ先輩は箒で隅々までゴミをかき集め、桜坂は窓を丁寧に拭いている。
「みなさんお疲れ様です。余ってる椅子、もらってきましたよ」
「おぉ〜、随分キレイになったねぇ」
室内を見渡しながら、近江先輩は感嘆の声を上げた。
「3人ともおかえりなさい。とりあえず、掃除はこんなところかな?」
「ああ。いいんじゃないか?」
初めて来た時は、塵やら埃やらでどんよりとしていたこの部室だったが、歩夢たちが掃除をしてくれたおかげで一気に見栄えが良くなっている。部屋の広さもこの人数で部室として使うにはまだ余裕があるくらいだ。まあ、部室は広いに越したことはないけどな。
それからテーブルや椅子、棚、そのほか装飾品の配置に全員で協力すること数十分。これでようやく粗方の作業は片付いたはずだ。
「ふぅ、とりあえずこれで完了か?」
「まだですよ!最後にこれがあります!」
「ん?あぁ、それもあったな」
ようやくひと段落、と思ったのも束の間。中須が取り出したものを見て俺は納得した。確かにそれがないと部室って感じしないよな。
その最後のひと仕事を終わらせるために、全員が部室のドアの前に集まる。
そして、スクールアイドル同好会のネームプレートを枠にはめた。
「くふふ...!この時を待ってました!」
「ようやく復活だね♪」
念願だった同好会再建を果たし、中須とヴェルデ先輩が嬉しそうに笑みを浮かべる。
ここまでいろいろありはしたけど、結果オーライって感じだな。
「それでは!スクールアイドル同好会、これより活動を再開しま───」
「おーい!」
そのまま勢いよく号令をかけようとした中須だったが、それを遮るように、明るく弾けた声がすぐそばにある階段の方から聞こえた。見れば俺たちに向かって手を振る女子とその連れらしき女子の2人組が歩いてきている......って、あの2人は......
「もしかして、スクールアイドル同好会の人たち?」
「そうですが、あなたたちは確か...」
「宮下、天王寺」
優木の言葉を引き継ぐように俺がその名前を呼んだ。
宮下愛と天王寺璃奈。以前この部室棟で偶然出会った2人だ。
この2人とはこの前の昼休みで知り合って以降、それなりに親睦は深まっているところ...だと思う。学科は違うから校内ではたまに会うぐらいだけど、電話やメッセージでのやりとりはよくしている。
「あれ?晴陽じゃーん!」
「晴陽さん、こんにちは」
俺の姿を見るや否や、宮下はニコニコと、天王寺は相変わらずの真顔で接してくる。
「......あっ」
「もしかしてあの時の!」
何気なく2人を見つめていた歩夢と侑も、気が付いたようにハッとして声を上げる。
「そっちの2人は確か晴陽と一緒にいた人だよね......ってことは、3人とも同好会に入ってたんだ!」
「まぁ、そういうことだな」
「じゃあそれならそうと、教えてよ〜!愛さんたち聞いてないぞー?」
「いや別に、聞かれてないからな...」
「えー?晴陽と愛さんの仲じゃ〜ん」
「仲って、お前が単にフレンドリーすぎるだけだろ......ん?」
そこでふと、強烈な視線を感じる。そっちに目を向けてみると、
「............」「じー......」
歩夢と侑が訝しげな目でじっと俺を見ていた。 侑に至っては口に出てるし......アホだ。
「な、なんだよ...?」
「ハル、最近やけに女の子と知り合ってない...?」
「かすみちゃんの時もそうだったよね...」
「いや...偶然だぞ?」
「とか言って、ホントはこそこそナンパでもしてるんじゃない?」
侑に懐疑の目を向けられるが...そう言われてもな。確かにここ数日、女の子の知り合いが増えてきた気がするけど。
「してるわけないだろ...まじで偶然だって」
「そうですよ侑先輩。晴陽先輩にそんな度胸はないです」
「お前急に割り込んできたと思ったら失礼だな!」
なんで中須にまでそんなこと言われなきゃならないんだ......でも実際その通りでもあるわけで、否定ができないのが悲しい。
「あははっ!やっぱ晴陽ってめっちゃ面白いよねー!愛さんのボケにもツッコんでくれて楽しいし♪」
「俺は別に面白いことしてるつもりないんだけどな...」
「もー、つれないなぁ。もっと仲良くいこうよー!」
「ち、近いって...!」
人目も憚らずグイグイと身を寄せてくる宮下に、俺はたじろぎながら両手で制す。
誰にでも気さくに接してくる奴だってことはわかってるつもりだけど、一応俺も男なんだし、もうちょっとそこらへんの距離感を考えてほしいところなんだが......
宮下のペースに巻き込まれる前に俺はそろそろ話を戻すことにする。
「それより、なにか用があって来たんじゃないのか?」
「あ、そうそう。実は愛さんたち、この前屋上でやってたライブ見てさー!」
「!」
思いがけない報告に優木がぴくりと反応する。まさか宮下たちも見てたなんてな。
「なんか胸がドキドキしたっていうか、こう...グッと来ちゃったんだよね!」
「わかる...わかるよ!2人ともトキメいたんだね!」
「そう、それそれ!」
興奮気味に手を取り合う2人。早くも意気投合してるっていうか...この2人はたぶん似たような感性があるんだろう。
「本当にすごかった...!」
「あ、ありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しいです...!」
天王寺の口調もいつもの淡々としたものじゃなく、どことなく少し熱がこもってるように感じる。
天王寺にとってもあのライブはいい刺激になったんだろう。それに対し、優木は照れ臭そうにしつつもお礼の言葉を返した。
「そういうわけで!2人とも入部希望です!」
「おぉ〜!早速新しい部員が!」
「大歓迎だよ〜♪」
宮下の入部宣言に中須とヴェルデ先輩は快く迎え入れる。
「やるからには全力でやるし、みんなのサポートもするね!それで、スクールアイドル同好会って、何するの?」
腕をグッと曲げ、意気込みは十分の宮下。しかし何をするのかという質問に、少し困った感じで優木は答える。
「実は、それを今から探すところでして...」
「え?」
宮下から出たのは、出端を挫かれたかのようなぽかんとした声だった。
廊下から場所を変え、部室内。
運動着から制服に着替え直した俺たち同好会メンバーは、新たに宮下と天王寺も加え、大きな円卓を取り囲んで会議のような体裁をとる。
これから同好会はどのように活動していくか。前回の優木ひとりが引っ張っていくやり方じゃ散々な結果だったために、一からみんなで話し合うことになった。
「もちろん!やりたいことはあるんです!」
「スクールアイドルですから、やっぱりライブですよね」
「結局、彼方ちゃんたちはまだやれてないからねぇ〜」
豪語しながらホワイトボードにバンッと手を打ち付ける中須。そこにはデカデカと『ライブがやりたい』と書かれていた。それに桜坂も共感するように答える。
ところが近江先輩のふとした発言に、
「うっ...本当に私のせいで申し訳ないです...」
......優木が罪悪感に浸ってしまった。
気にするなとはみんな言ってるんだが、本人としてはなかなか拭いきれない様子。
「ち、違うよ〜!そういうつもりで言ったんじゃないってば〜...」
「いえ...私がみなさんの活動を妨害したのは事実ですから...」
完全に自己嫌悪モードだな......
初ライブはみんなで出るはずだったのが、優木1人ってことになったからな。せっかくのステージを独占してしまったようなものだろう。どうしても負い目を感じてしまうのも無理はない。が、このままじゃ埒があかなそうだ。
「そこまでにしとけ、優木。過ぎたことをあーだこーだ言ったってしょうがないだろ」
「晴陽さん...」
「今あんたがするべきことは失敗を後悔することじゃない。これからのスクールアイドルで、今までの分を取り返すこと...じゃないか?」
「晴陽先輩の言う通りですよ。せつ菜先輩に振り回された分は、しっかり同好会に貢献してもらいますから!」
「それ、お前が偉そうに言える口か...?」
「ちょっと先輩!せっかくかすみんが大人の対応でキメようとしたのに余計なこと言わないでくださいっ!」
さっきのセリフのどこが大人の対応なのか聞いてみたいところだが...ま、これでも中須なりに励ましてやってるんだろう。うちのエース的存在がいつまでも後ろ向きでいられちゃ他のみんなに示しがつかないし、それに優木の過去の所業について追及しようなんて人間は誰一人としてここにはいない。
「...本当に、ありがとうございます」
みんなの顔を一瞥した優木は微笑んで静かにそう言った。
「そういうことでしたら、今まで以上に気合を入れていかなくてはいけませんね!みなさん、これからもよろしくお願いします!」
優木が徐々に調子を取り戻し、全員が安堵の表情を見せる。やっぱり優木はこうでなくちゃな。
「話が逸れてしまいましたね。では、どんなライブをしたいのかみなさんで意見を出していきましょうか!」
「はーい!かすみんはぁ〜、全国ツアーがやりたいですぅ!」
我先にと先陣を切って発言する中須。いきなり全国はだいぶ飛躍しすぎだろうよ。まぁそのくらいの気概を持つのは良いこととは思うけど。
「私は、ライブに来てくれた人と輪になって踊ってみたいなぁ〜」
「曲の間にお芝居とか台詞を入れたりするのはどうでしょうか?」
「お昼寝タイムも欲しいよね〜。ステージと客席にベッドを置いたりとか〜」
ほんわかと微笑ましそうなヴェルデ先輩のライブ。
ミュージカルを思わせる桜坂のライブ。
奇抜だが斬新なスタイルの近江先輩のライブ。
話には聞いていたけど、ここまで方向性が違うとはな......
「私はもっと、みんなの大好きを爆発させるようなライブがしたいです!火薬もドーンと使って!」
「私は派手すぎるのはちょっと...シンプルにかわいいのがいいかなぁ」
優木と歩夢も自分の思い描くライブのイメージを挙げていく。
それからは火がついたように、みんなのやりたいことが次々と出てくる。
その様子を宮下と天王寺は呆然として眺めていた。
「なんだかすごい白熱してる」
「みんな言ってることバラバラだけど、すごいやる気だねー」
その一言にみんなの熱論はピタリと止まり、宮下に困惑の色が表れる。
「ん?どしたん?」
「それが原因でちょっといろいろあったからな...」
「えっ、じゃあ不味いこと言っちゃったカンジ...?」
「い、いえ...気にしなくて大丈夫です」
中須はそう言うが、明らかに笑顔がぎこちない。
当人たちからすれば、できれば思い出したくないことだろうけど...さすがにその問題を放っておくわけにもいかないだろう。いずれ答えは出さなくちゃならない。そのことはみんなも理解してるはずだ。
「あはは...ちなみに、愛ちゃんたちはどんなライブがしてみたい?」
「んー、なんだろう...?」
また重くなりかけた空気を変えようと、苦笑いしながら侑が問いかけると、宮下は少し考える。
「愛さんはとにかく、楽しいのがいいかな!」
「確かに、それもそうだね!」
「はい!最初は人が集まりにくいかもしれませんが、いつかたくさんのファンの前で歌えるようになりたいですね!」
宮下の意見に同意を示す歩夢と優木。
一見シンプルだけど、"楽しい"という要素はどんなライブでも必要不可欠なものだろう。それをとことんまで突き詰めたライブってのも、一つの形なのかもな。
とまぁ、ライブについての意見も一通り出し終えたところで、中須が一つ咳払いをして、次の話題に切り込んでいく。
「ライブをやりたいのも山々なのですが...その前にやるべきことがあります」
「やるべきこと?」
「ズバリ!特訓です!」
中須は人差し指を誰にともなく差し向けながら、ビシッと言い放った。
「どんなライブをするにしても、素敵なパフォーマンスができなくちゃ、見に来てくれたファンががっかりしちゃいますからね!」
「特訓っていっても、歌とダンスがメインになりそうだけど...」
桜坂の言う通り、アイドルのライブにはその2つが重要視されるといってもいいだろう。しかし......
「ダンスか〜。彼方ちゃん、ちょっと心配なんだよねぇ」
「私は歌の練習がしたいかなぁ」
近江先輩と歩夢を始め、ここでも見事にみんなの意向はバラバラだった。
そこでヴェルデ先輩から一つの提案が。
「じゃあグループに分かれて、それぞれやりたいことを練習するっていうのはどうかな?」
「なるほど、それはいいアイデアですね!」
ヴェルデ先輩の提案に優木が乗っかる。この場合ならそれが1番無難だろうな。
「あっ!じゃあ私たち、全部の練習に参加してみてもいい?」
「それなら俺も見て回りたいかな。どんな感じか把握しておきたいし」
「もちろんです!」
俺たちの要望に、優木は快諾してくれる。
「楽しみになってきた〜!りなりー、晴陽、頑張ろうね!」
みるみるとやる気が上がっている宮下に、俺と天王寺はこくりと頷いた。
不安や緊張のかけらさえ感じることのないぐらい楽しそうな宮下を見ていると、心なしか俺もテンションが上がっていた気がした。
気づけば今年も1ヶ月ちょっとに。来年の二期ガサキが楽しみだぁ。
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