いつもお待たせしてます。愛さん回の山場、ということで今回もどうぞよろしくお願いします!
「行くぜ宮下ァ!今度こそ勝たせてもらうからな!」
とあるゲームセンターにて、某レースゲームのハンドルをグッと握り、俺は豪語する。
ここまでの勝率は2戦やって2敗...このままでは引き下がれず、どうにか一矢報いようと躍起になっていた。
戦況は終盤に突入し、最終コーナーへ差し掛かるところ。ドリフト操作でなんとかヘアピンカーブをクリアして、宮下よりも上位を維持する。
「よしっ、このままゴールまで...ってうおお!?」
最後の直線を突っ切ってゴール。そう勝利を確信したその時、後ろから妨害アイテムをぶつけられ、失速...そのまま宮下に追い抜かれ逆転されてしまった。
「いえーい!また愛さんの勝ちぃ!」
「くっそぉ...あと少しだったのに...!」
最後の最後に油断したせいで...くっ、俺の完敗だ。
「お前強すぎないか...?」
「いや、晴陽がめちゃめちゃ弱いだけだよ?」
「ド直球かよ!?」
う、嘘だ...だって侑とやった時は結構できると思ってたのに。いや...もしかしてそもそものレベルが低かった、ってコト...?
「ってゆーか実は結構手加減してたし...」
...本気すら出されてませんでした。
情けなく惨敗を喫してしまったが、その後もいろんなゲームで対決しよう、協力しよう、なんて柄にもなくはしゃぐ自分がいた。
宮下とこうして遊んだりするのは初めてなこともあってか、何気に俺も浮かれてるのかもしれないな...
「あ!ねえねえ、今度はアレやろーよ!」
「アレ?」
次は何をやろうかと歩き回っていたところで、宮下が俺の袖をちょいちょいと引っ張り出す。その指し示す方向を見ると、そこにあったのは垂れ幕がかかった箱のような筐体。そしてその可愛らしい外観の筐体が並ぶエリアは女の子で溢れかえっていた。
うん...アレはどう見てもプリクラの筐体だよな。まさか一緒にプリクラを撮れと?そんなわけないよな?
「あー...じゃあ撮ってこいよ。俺待ってるからさ」
「なーに言ってんの!1人でプリクラ撮るわけないじゃん!」
で、ですよねー...
「ほらほら、早く行こっ」
「ちょっ、わかったから引っ張んなって!」
がっしりと手を掴まれ、なす術もなく連行される俺だった。
「お、おい宮下っ。もうちょっと離れろって...!」
「だって詰めないとちゃんと写らないよ?」
「だからって、さすがに近すぎだろ...!?」
空いていた筐体が少人数用の小さなものしかなかったんで、その狭さ故にほぼお互いの身体がピタリと密着している状態だった。それに加えて身長差でちょうど宮下の頭が俺の顔あたりにあるんで、仄かにシャンプーの香りが漂ってくる......あ、めっちゃいい匂いするな。
って、何を考えてんだ俺は。
「あ、そろそろくるよ!笑って笑ってー!」
気を取られているうちにカウントダウンが始まっていた。いやこんな状況で笑えって言われても...ええい、どうにでもなれっ。
カシャ、とシャッター音が鳴ると、撮影の結果が画面に表示される。
「ぷっ...!ちょっと晴陽、ぎこちなさすぎでしょ!」
「う、うっせえな!撮られんの苦手なんだよ...!」
俺のギクシャクした笑顔を見るや否や吹き出した宮下。
隣のこいつがいい笑顔すぎて、ぎこちなさがさらに際立ってるんだよな...これだから写真は嫌なんだ。
「いやー、むしろ晴陽らしくて愛さんは好きだなぁ」
何気なく放たれたその一言に、思わず心臓がばくん、と強く脈を打った。
いや...待て待て。宮下は写真に映る俺の表情に感想として言っただけであって、別にそういう意味で言ってるわけじゃないだろ。落ち着け俺...変な勘違いを起こすな。
そう自分に言い聞かせて、なんとか平静を保った。
「で・も〜?」
「み、宮下...サン?」
怪しげな笑みを浮かべながら、両手の指をうねらせる宮下。
「どうせなら、ちゃんと笑った顔も撮りたいよねぇ...?」
「なんか怖いんですけど!」
嫌な予感しかせず、俺は後退りするも、この狭い空間じゃすぐに壁が背につく。逃げ場が、ない...!
「大丈夫だよ〜、悪いようにはしないから...」
これから悪いことをするやつのセリフだろそれ!
「フッフッフ...覚悟ぉ!」
「ちょ、ま、らめええええええええっっ!!」
十指が俺の脇腹に襲いかかるが、それでもシャッター音は無慈悲に再び鳴り響くだけだった。
******
「ほい」
自販機から取り出した2つの缶ジュース。俺はその片方を宮下に手渡した。
「あ、ありがと。えぇっとお金お金...」
「別にそんぐらいいいって...あ、でもそれで、ぬか漬けのツケは払ったってことで」
それを聞いて宮下は一瞬、きょとんとした表情を見せると、
「あははははっ!」
盛大に笑い出した。
「やっぱり晴陽って面白いなぁ〜!」
「...別に面白くはないだろ」
「面白いよ!愛さんのボケに笑ってくれる人はいても、こんなにツッコんでくれる人は中々いないし〜」
そりゃあんな頻度でボケられてたらみんな相手するの疲れるだろうな...俺のツッコミ云々に関しては、もはや条件反射というか、癖みたいなもんだし。
そして少しの間を置いてから宮下は再び口を開いた。
「...ありがとね」
「え?」
「愛さんがくよくよ悩んでたから、こうやって誘ってくれたんでしょ?」
「まあ...そうだな」
歯切れが悪いが、そう答える。気分転換...確かにそれもあるけど、俺がこうしたことには実は他に理由があった。
先日、同好会でどんなライブがしたいかという話し合いの時。宮下は『とにかく楽しいのがいい』って言ってた。
この"楽しい"って気持ちこそ、宮下のライブで大事な要素じゃないかと思って、俺なりに宮下に楽しんでもらえるよう行動したわけなんだが...
「なんか、見つかりそうか?」
「うーん...まだわからないかも」
「そうか...」
少しでもイメージを掴めればと思ったけど、やっぱそう簡単には上手くいかないか...
でも、俺にやれることなんてこんなことしか思いつかないし、他にもう打つ手はない。
...結局、役には立てなかったんだろうか。
「ごめんね...せっかくここまでしてくれたのに...」
「いや、いいんだ。気にすんな」
そもそもが思いつきの行動だったわけで、宮下が謝るようなことじゃない。むしろ、こんな手間をかけさせた俺の方こそ申し訳ないぐらいだ。
「...そろそろ帰るか」
「う、うん。そうだね...」
気づけば時刻は19時を過ぎていた。明日は土曜日だけど、朝から同好会の活動で集まりもある。とりあえずあんまり遅くならないうちに、明日に備えたほうがいいだろう。
募る無力感を流し込むかのように、俺は缶ジュースを一気に飲み干した。
店を出ると、夕焼け空はとっくに星が瞬く夜空へと姿を変え、外はすっかり暗くなっていた。
「うし、じゃあ近くまで送ってくよ」
「えっ?だ、大丈夫だよ!」
「バカ。夜道に女の子1人で帰せるかっての」
さすがにそこまで気が利かないほど、男として廃れるつもりはない。
「でも、それじゃ晴陽が回り道になっちゃうし...そんなの悪いよ」
「俺がそうしたいんだから、そんなこと気にすんなよ」
まあ、余計なお世話だとは思うけど...
「もう...意外と心配性だなぁ、晴陽は」
断固として引く気がない俺の様子に、宮下は諦めたように肩を竦めた。
それからバスに乗り、宮下の家があるという下町の商店街の最寄りで降りた後、街灯に照らされた道を俺たちは歩いていた。その間、お互いほとんど無言のままだ。
き、気まずいな...さっきまで遊んでた時のテンションが嘘みたいだ。
話題を振ろうにも、ボーっとしてるのか、何かを考えているのかわからない宮下の様子に、声をかけるのを躊躇ってしまう。
そんな状況が続く中で、不意に宮下が足を止めた。
「ここで大丈夫だよ。すぐ近くだから」
いつの間にか、宮下の家の付近まで来ていたみたいだ。
「そ、そうか」
「送ってくれてありがとっ。気をつけて帰るんだぞ!」
「...ああ」
そう告げて、宮下はその先を歩いていく。俺はただ遠ざかっていくその背中を、呆然と見つめて立ち尽くしていた。
まだ何か伝えたいはずなのに...喉につっかえたみたいにうまく言葉が出てこない。
いや...俺に伝えられることなんて、初めからなかったのかもな...
それにあの宮下だ。なんだかんだ自分で解決しそうだし、これ以上俺なんかが出しゃばったところで、きっと碌なことになんてなりやしない。
そう無理やり納得させて、俺は振り返り、来た道をゆっくり辿る。
そう、これでいいんだ。
これで───
「.........!」
ふと、脳裏にあるものが過り、何かに掴まれたみたいに足が止まる。
頭の中に思い浮かんだのは...楽しそうに笑う宮下。そして釣られて楽しそうに笑みをこぼす同好会のみんなだった。
...そっか。物足りないんだな、俺。
宮下から悩みを聞いた時も、帰り道の静かな時間も、ずっと心がモヤモヤしてた。やっぱり宮下には笑っていてほしい...楽しさを感じてほしいんだ。
だから......ほうっておけない。これでいいわけなんかあるか。
宮下だからとか、俺なんかがとか...そんなの関係ない。悩みがあるってんなら、全力で支えてやるのが友達だろ。
「...やっぱ伝えなきゃな」
誰にともなくぽつりと、決意を呟く。そしてもう一度振り返って、全速力で駆け出した。
「宮下!」
「は、晴陽...?」
見失う前になんとか宮下に追いついた俺は急いで呼び止める。少しだけ強くなってしまった語気に、振り向いた宮下は戸惑った顔を俺に向けた。
「どうしたの、そんな慌てて...!」
「い、いや...ちょっと、お前に言っておきたいことがあってさ...」
「言っておきたいこと?」
荒くなってしまった呼吸を整えながら、俺は考える。伝えなきゃ、なんて意気込んだのはいいものの、なんて言えばいいんだろうか...?
とりあえず、今俺の思っていることを口にしてみる。
「...難しく考える必要なんてないと思うぞ」
「え?」
「えっと...お前はお前の感じたままにすればいいっていうか...なんていうかなぁ...」
いまいち要領を得ない反応の宮下。上手く言葉にできないもどかしさに、俺は頭を掻く。
「楽しそうだからスクールアイドルをやる...そんなんでいいんじゃないか?それぐらい、単純なことでも」
我ながら論理性の欠片もないことを言ってるとつくづく思う。でも、間違ってもいない...とも思う。
だって、どんなことも、最初は単純な気持ちから始まるから。今はまだ先がはっきりとしていなくたって、その気持ちと向き合い続ければ、そのうち見えてくる...俺はそう思うんだ。
そして、
「それに...それが宮下らしいって、俺は思う」
「アタシ、らしい...?」
初めてのスクールアイドル活動だって。
ありふれたようなみんなとの会話だって。
どんなことでも一番に楽しんで、それに釣られて周りのみんなも楽しそうに笑う。
そんな風に『楽しい』を広げられるのが、宮下のすごさで...宮下らしさなんだって。
そのことを、俺は1番に伝えたかったのかもしれない。
「悪いな...まともなアドバイスできなくて」
「ううん、そんなことないよ。なんか...大切なこと言われた気がする」
そんないい加減みたいな俺の言い分に、宮下は茶化すことなく真剣に受け止めてくれた。
「つ、伝えたかったのはそれだけだ。そんじゃ───」
「あっ、晴陽!」
言いたいことは大体言えた気がしたんで、そそくさと帰ろうとしたところに宮下が待ったをかける。
「愛さんも、ひとつだけ伝えるの忘れてたんだ」
「な、なんだ?」
改まった様子の宮下に、俺は僅かな緊張を感じながら言葉を待つ。
「今日はめっちゃ楽しかったよ!」
「......!」
その一言を聞いた瞬間、なんともいえない感情が無性に込み上げてきた。
決してマイナスなものなんかじゃない。嬉しさにも似たその感情で、表情が緩んでいくのを実感した。
「じゃ、また明日ね!」
「...ああ!またな!」
さっきとはまるで違う、少しだけ晴れやかになった表情で、俺たちはもう一度別れの挨拶を交わした。
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