彼方さんみたいな姉がほしかったと思う、今日この頃です。
「ん......今何時だ...?」
翌朝、目を覚ました俺はスマホを手に取って時刻を確認する。
完全に遅刻というわけでもないけど少し急がないとやばいな。侑と歩夢もたぶん待ってるだろうし。
寝起きでだるい身体を気合いで動かしてベッドから抜け出す。
ひとまず制服に着替えようと部屋着のズボンを下ろしたその瞬間───。
「ハルく〜んまだ寝てる......の......?」
突如としてガチャリと開いたドアから歩夢が入ってきた。
そしてパンツを丸出しにした俺を見て数秒フリーズしたのち、
「ご、ごごごご、ごめんっっっ⁉︎ てっきり寝てるかと思って......⁉︎」
顔を真っ赤にして両手で顔を覆い隠した。と思いきや指の隙間からしっかりガン見してた。
いや......家族同然のような幼馴染にパンツを見られたところで恥ずかしいとは思わないけど、じっと見られると俺もさすがに困るわけで。
「お、おう......今から着替えるとこだからちょっと待っててな」
「う、うんっ......!」
慌てて部屋を出ていく歩夢。
やれやれ、こんな朝っぱらから某消防隊漫画の如くラッキースケベられを発動するとは。
......いや男のラッキースケベって需要ねえな。
って、そんなこと考えてる場合じゃない。歩夢も待ってるし早く支度しないと。
気を取り直して俺は制服に着替えていった。
支度を済ませて歩夢と一緒にマンションの外へと出ると、壁にもたれかかって待っていた侑が口を尖らせた。
「あ、やっときた。遅いぞ〜」
「悪い悪い」
「既読つかないから寝てるだろうって思って、歩夢に起こしに行ってもらったんだけど......どうしたの?」
未だに顔がほんのり赤い歩夢を見て侑が不思議に思う。
「う、ううんっ。私は大丈夫だから早く行こっ?」
そう言ってスタスタと先を歩いて行く歩夢に侑は首を傾げる。
後で侑に事情を説明したらめちゃくちゃ笑われた。
******
放課後。いつものように3人で集まって帰る───はずだった。
「スクールアイドル同好会に行ってみようよ!」
突然、侑が言い出した。
十中八九昨日のライブを見た影響だろう。授業中やけに眠そうにしてたと思ったら、昨晩遅くまでスクールアイドルの動画を見漁っていたっていうし。
「お前はまたそんな急に......」
「スクールアイドルってすごいんだよ! みんな、かっこよくって...かわいくって......輝いてて......」
「話を聞け」
「完っ全にときめいちゃった‼︎」
ダメだこいつ聞く耳持たねえ......!
「でもやっぱり一番ときめいたのは、昨日のあの子! 優木せつ菜ちゃんって言うんだって!」
優木せつ菜......か。
なんか自分がガ○ダムとでも言ってそうな感じだな......
「なんでも神出鬼没、校内じゃ同好会の活動以外で見かけた人は1人もいないんだって......」
都市伝説かよ。
「ファンクラブとかあるのかなぁ......次のライブとか決まってるなら見に行きたいなー!」
「で、でもそんな暇あるの? 3人で予備校通うってこの前......」
ゔっ.......予備校か......そういえばそんな話もしてたな......
「うん。でもまだ後でもいいかな〜って。昨日せつ菜ちゃんの歌聴きながら勉強してたらすっごく捗ったんだよ! 今日の小テストだってバッチリだったし!」
得意げに笑って侑はVサインを見せる......単純すぎやしないか。
いや待てよ、ここで侑に合わせておけば予備校へ行かなくて済むかもしれないな......
「ま、まあ、こうなった侑は何言っても聞かないし俺は別にいいけどな〜」
「ハルくんはただ予備校に行きたくないだけでしょ?」
「......ソンナワケナイジャナイカ、ハッハッハ!」
歩夢には俺の魂胆などお見通しだった。
「それにさ、なんかすごくやる気が湧いてくるんだよ〜! こんな気持ち、生まれて初めてかもっ。えへへっ......!」
「侑ちゃん......」
淀みのない侑の笑顔に釣られて歩夢もくすりと微笑む。
確かに侑がこんなにも何かに夢中になるのは初めて見たかもしれない。
「よーし、まずはサインをもらわなくっちゃ! 2人とも、行こっ!」
「あ、待ってよ〜」
我慢の限界といった感じで走り出した侑を歩夢は慌てて追いかける。
「ったく......しょうがねえ奴だな......」
軽く嘆息して、俺も2人の後を追いかけた。
「うわっ......うちの部室棟、広すぎ......!」
部室棟に入るなり、一昔前のネット広告みたいなリアクションを見せる侑。でも驚くのはわからんでもない。
ここ、虹ヶ咲学園は自由な校風と専攻の多様さから人気を博する中高一貫校であり、故にその生徒数も高等部だけで3000人はいるという。いわゆるマンモス校というやつだ。
必然的に学園の敷地はとんでもないスケールを誇り、部室棟だけでもまるで一つのイベント会場のような無駄な広さがあった。
「そういえば私たちここに来るの初めてだもんね」
高校に入ってから部活なんて一度も入らなかった俺たちにとって、一切足を踏み入ることがなかったここは未知の領域だった。
「それで、スクールアイドル同好会はどこにあんだ?」
「わからないっ!」
ドヤ顔で言うことじゃないっすよ侑さん。
「ホームページは更新止まってるし、案内図にも載ってないんだよ〜」
「ホントだ。どこにも書いてないね」
歩夢が近くにあった校内図で探しても、侑の言う通りどこにもスクールアイドル同好会の文字は書かれていなかったようだ。
「じゃあどうすんだよ? まさか片っ端から聞いて回るなんて言わないだろうな?」
「え? そのつもりだけど?」
「えぇ........?」
然も当然かのように言った侑。
さすがに歩夢もそれには気が引けてしまっていた。
「大丈夫だって! きっとすぐ見つかるよ!」
その根拠のない自信はどこからやってくるんだ......
聞いて回る体力はあってもそれをやろうという気力はないぞ俺には。
しかし今更何を言おうが、既にやる気に満ちている侑が止まるわけもなく、侑の脳筋的思考による部室棟ローラー作戦が始まった。
まずは聞き込み1件目。
侑が適当に選んだ部室のドアをノックする。
「あの〜......」
おそるおそる侑がドアを開けると、ドアの近くにいた人が俺たちに気づく。
「あ! 流しそうめん同好会へようこそ!」
中には箸と茶碗を持った部員らしき人たちと、部室のど真ん中に設置された流しそうめんに使う竹の水路。
......1発目からわけのわからないところに来てしまった。なんだ流しそうめん同好会って。ツッコミどころはいろいろあるけどそんなもん部室でやるな、せめて外でやれ。
「もしかして入部希望?」
「いえ......スクールアイドル同好会を探してるんですけど......場所わかります?」
「スクールアイドル同好会.....うーん、知らないなぁ......」
そしてずるずるとそうめんをすする。
見れば見るほどシュールな絵面だなここ...
「美味しそ〜.....」
「よし次だ。行くぞー2人とも」
「えっと......失礼しましたっ!」
これ以上侑の食欲が加速する前に、俺たちは部室を離れた。
続く聞き込み2件目。
「占い同好会へいらっしゃい......」
電気を消して怪しげにライトアップされた部屋に黒い装束のようなものを着た人たち。黒い敷物が敷かれたテーブルの上には水晶玉やタロット、筮竹などいかにもといった道具が並んでいた。
さっきの流しそうめん同好会に比べたら同好会としてまだ納得できるけど......
「あの、スクールアイドル同好会の場所ってわかります?」
とりあえずスクールアイドル同好会について聞いてみる。
「さぁ......?知らないわ。それよりもせっかくここに来たのだから、あなたを占ってあげる......」
「い、いや結構です......」
占ってもらうためにここに来たわけじゃないし、そもそも俺はどちらかというと占いはあんまり信じないタイプの人間だ。
「遠慮なんてしなくてもいいのよ......」
それでもこの人は食い下がってくる。
「いーじゃんハル、占ってもらいなよ」
「はぁ......? そんな暇ないだろうよ」
「というか、ハルくんが占ってくれるまで諦めてくれないんじゃないかな......?」
歩夢の言う通り、この人は引き下がる気はなさそうだ。だったらさっさと占ってもらって次に行った方がよさそうだな。
「......じゃあ手短にお願いします」
「わかったわ......早速そこに座ってちょうだい......」
椅子に座り、いざ占いが始まる。
さて、どんな結果が出るのやら。
占い同好会の人は水晶玉の上で意味ありげに手を動かす。
「キェエエエーーーーーッッッ‼︎」
「うるさっ⁉︎」
目の前で急に叫ぶから身体がビクッてなったじゃねえか......
普通、こういう占いって静かにやるもんじゃないのか......?
「ごめんなさい......ルーティンなの、これ......」
「どんなルーティンだよ!」
初見の人絶対驚くだろこんなの......
「とりあえず見えたわ。あなた、これからいろいろと苦労するわよ......特に異性絡みで」
「は、はぁ......」
女友達も対していない、というか侑と歩夢しかいないのに異性絡みで苦労? いきなり的外れな結果だな。
「それと、周囲に気を配った方がいいかもね......救いを求めている、そんな人がこれからきっと現れるわ......」
救い、ねぇ......そんなこと言われてもな。ま、当たるも八卦当たらぬも八卦っていうし、一応は頭の片隅にでも置いておこう。
「まぁ......あなたなら全然気にする必要はないかもね......フッ」
なんで鼻で笑ってんだ!つーかどういう意味だそれ!
俺にそんなラブコメ主人公みたいな展開はないって言いたいのかこのヤロー......!
「はい、次行こ次っ」
「し、失礼しました〜」
俺の不満げなオーラを感じ取ったのか、侑と歩夢は俺の両腕をガシッと掴む。そのまま引っ捕らえられた犯人のように俺は引っ張られ、部室を後にした。
その後も俺たちは部室各所を巡り、エントランスにいる人たちにも聞いて回るものの、手ががりは何も得られず。
「はぁ〜......見つからないね......」
「そんな簡単に見つかるわけないだろ......」
「同好会だけで100個以上あるらしいよ......?」
「うへぇ......まじか......」
「うちもハンパじゃない生徒の数だしなぁ。その分だけ部活の数も多いんだろ」
気の遠くなる話だ。
オーソドックスな部活や同好会に加えて、『絡まりイヤホンほどき同好会』『下校時白線だけ踏む同好会』など、なぜ承認されたのかわからない同好会が多々見つかった。
いやなんだよ下校時白線だけ踏む同好会って。ただの帰宅部の遊びじゃねーか。
「ま、他にどうしようもないしテキトーに聞いて回るしかねえか......」
「そうだねぇ。あっ、すいません! ちょっといいですか?」
と、ちょうど俺たちの近くを通りかかった女子に侑が声をかける。
パッツンとした鮮やかなピンクの髪に、150にも満たないであろう小柄な身長。そしてリボンの色から一年生であることがわかる。
「スクールアイドル同好会の部室を探してるんだけど......どこにあるかわかるかな?」
「..................」
返ってきたのは、無言。表情一つ変えずこちらをただじっと見つめているだけだった。
「き、聞こえなかったんじゃない?」
「なぁ、スクールアイドル同好会の部室って知らないか?」
俺が代わりに聞き直してみても変わらず無言のままだ。表情もぴくりともしないから何を考えているのかわからない。
「あー......もしかして急ぎだった───」
「あれ? りなりーじゃん」
俺が言いかけたところで、一年生の子が背後の階段から声をかけられる。反射的に俺たちもその声の主へと視線を向けた。
ド派手な金髪、爪にはマニキュア、腕にはシュシュや髪ゴムをつけ、カーディガンを腰に巻いたその人物の姿はまさしくギャルとも呼べる風貌だった。
「愛さん」
ようやく口を開いた一年生。どうやら知り合いのようだが、まるで接点が予想できない。
この一年の子も実はとんでもなくギャルなのか? まさかこれで目をつけられていじめられるんじゃ......俺の平穏な高校生活もここまでなのか......
「ここがスクールアイドル同好会の部室だよっ」
と、金髪ギャルは校内図でその場所を指差す。
話してみればこのギャル、人当たりはいいわ同好会の場所を知っていたわでばり善人だった。数秒前の偏見まみれの俺を全力で殴り倒してやりてえ......
「おお、誰に聞いてもわからなかったのに......」
「最近できたばっかりだし、知ってる人の方が少ないからねぇ」
そういうことだったのか。
校内図に載っていないのは単純に反映されるのが遅れているということだろうか。
ともかく部室の場所を突き止められたのは幸運だった。
「ありがとう! すっごく助かったよ!」
「困った時はお互い様だよ。それじゃね!」
侑が礼を言って、金髪ギャルが立ち去ろうとしたその時に。
「あの......」
おずおずとした様子で、一年生の子は俺の制服の裾をきゅっと掴んでいた。
「ん? どうした?」
「別に、急ぎじゃなかった。いきなり声をかけられてびっくりしてただけ。気を悪くしちゃったならごめんなさい......」
......あぁ、さっきのことか。
「全然気にしてないから謝んなくていいって。こっちこそ迫るようなマネして悪かったな」
一年生の子の頭をポンと軽く叩く。
考えてみれば初対面の先輩3人にいきなり問い詰められたら誰だって驚くよな。
「......スクールアイドル、好きなの?」
「え? あー、俺がというよりこいつがな」
隣にいる侑を親指で指す。
「そうなの?」
「うん。昨日ハマったばっかだけどね」
「そう......」
相変わらず表情が動かないなこの子は。たぶんこの子なりに頑張って話しかけてはいるんだろうけども。
「あなたも?」
「わ、私?」
同じ質問を歩夢にも聞く。
「私は......まだわかんない、かな?」
「......そう」
気持ちがまだはっきりとしていないような返答。
......なんだろう、歩夢の様子が妙に引っかかる。何か遠慮してるような、気のせいだろうか。
「......好きになれるといいね」
「......う、うん」
「2人ともどうもありがとね。それじゃ行こっか」
金髪ギャルと一年生に別れを告げ、俺たちはスクールアイドル同好会の部室へ向かった。
感想、お気に入り登録ありがとうございます。
励みになりすぎてハゲになりそうです(?)