虹色DREAMER!   作:UkiA

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ちょっとした小話になります。
 
 


#20「小日向晴陽の憂鬱」

 

 

 

「みなさん、少しお話があるんですが......」

 

練習が終わり、部室で雑談する声が飛び交う中、神妙な面持ちをした優木の声に会話がぴたりと止まる。

 

「せつ菜先輩、どうしたんですか?」

 

その様子を見て中須が疑問の声を上げた。

 

「実は......ソロ活動をするにあたって、一つ盲点があることに気づきまして...」

「もーてん......ですか?」

「はい。私たちの曲のことです」

 

その答えに全員があっ、とした表情を浮かべる。

確かに......今までどんなステージをやりたいかは話し合ってきたけど、そのための曲については、まだ何も決まってなかったな。

 

「優木には自分の曲があるよな。それはどうしたんだ?」

「私の曲は、作詞はなんとか自分で......作曲のほうは経験がある音楽科の方に協力してもらったんです」

「なるほど...」

 

専攻の分野が幅広い虹ヶ咲学園(うち)なら音楽科ももちろん存在する。それに加えて生徒のレベルもかなり高いんで、作曲できる人も少なからずいるだろう。

 

「ですが...人数も増え、ソロ活動を行うとなると、その分だけ曲が必要になります。部員ではない方にそこまで頼んでしまうのは...」

「ちょっと申し訳ないよね...」

 

ヴェルデ先輩もその意を察したようで、苦笑を交えて言う。

つまりだ......優木の言いたいことは自分たちの活動は自分たちでなんとかするべきだと。

 

そうしたいのは山々だが、生憎、俺たち同好会の中に音楽科の生徒はいない。

作詞はそれぞれ自分たちでなんとかするにしても、作曲は初心者がそう簡単にできるものじゃないだろう。

どうにか解決策を見つけようとみんなが頭を悩ませる。

 

「それだったら───」

 

そこで、何か案があるような口ぶりで侑が手を挙げる。そして俺の方へと視線を向けた。

 

「ハルが適任なんじゃない?」

 

............そう来たか。

 

「晴陽さんが...ですか?」

「もしかして、作曲の経験があったり?」

 

優木と近江先輩から意外そうな顔を向けられる。

 

「えぇっと......まぁ、多少は」

「ハルくん、中学の時は軽音部でバンドやってたもんね」

「晴陽、バンドやってたん⁉︎すごいじゃん!」

「そうそう。それで自分で曲作ったりしてて、私たちに聴かせてくれててたもんね〜」

 

そんなことも確かにあったけどさ......

 

あの頃はとにかくバンド一筋だった。

ギター、ベース、ドラム、ピアノ。バンドで主流の楽器はある程度使えるよう、子供の頃からひたすら練習してきたし、いつか自分の曲をステージで歌いたいと思って、作曲にも力を入れていた。

 

......まあ結局、何もできないまま終わったわけなんだが。

 

「晴陽さん。お願いできますか?」

 

縋るような眼差しで懇願する優木に、俺は思わず目を伏せる。

 

「......俺は───」

 

言いかけて、一旦口を噤んだ。

 

断るのはきっと簡単だろう。無理強いをするようなみんなじゃない......俺が嫌といえばそこまでになる。

 

............でも、それでいいんだろうか?

ここまで頼りにされているのに、それを断ってしまったら、それこそ俺がここにいる意味がなくなるんじゃないか?

 

そう考えたら、首を横には振れなかった。

 

「.....いや、わかった。やるよ」

「ほ、本当ですか⁉︎」

「あぁ。一応、俺も同好会の人間だしな。やれることはやりたい」

 

俺の返答に優木はパァっと顔を輝かせた。

ぶっちゃけ気は進まない......だけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。決めたんだ......みんなの夢をサポートするって。やれることはやるって。

 

だからそれが今、俺にしかできないことなら───やるしかない。

 

「んでも、さすがにこの人数分を1人じゃ骨が折れるから、みんなには協力してもらうことになるけど......」

「はい!それはもちろんです!みなさんもそれでよろしいでしょうか?」

「うん。私も手伝えることがあったら、なんでも手伝う」

「そうですね。上手く分担してやっていきましょう」

 

優木の呼びかけに天王寺と桜坂が了承の意を示す。他のみんなも賛成のようだった。

 

「決まりですね!では晴陽さん、よろしくお願いします!」

「あ、あぁ。頑張るわ......」

「はいはーい!最初の作曲は愛さんからどう?」

「あぁ!ずるいですよ愛先輩!まずは部長のかすみんが先ですぅ!」

「じゃあ間を取って私が〜!」

 

どっちが先に曲を作ってもらうかヒートアップする宮下と中須。そして全く間を取れていないヴェルデ先輩。

 

「いや、お前ら気が早いって......」

「彼方ちゃんのベストアルバムはいつ出せるかな〜?」

「気が早いってレベルじゃねーぞ!」

 

作曲担当、思ったよりも大変な役割じゃねーか......?

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

「ただいまー......」

「あ、おかえりおにーちゃん」

 

学校から帰宅して、リビングに入ると、俺の妹─陽鞠(ひまり)がソファで寛いでいた。

陽鞠は、パッとしない俺の表情を見て、怪訝そうな反応を示す。

 

「どうしたの?なんかすごい気難しそうな顔してるけど......?」

「いや、別になんでもない......」

「そう?あ。おねーちゃん、今日も泊まり込みでお仕事だって」

「またか......無理してなきゃいいけど......」

「大丈夫じゃない?大変だけど燃えてきたわ〜、なんて言ってたし」

 

職人気質だな......仕事がひと段落ついたら何か奢ってやるか。

 

「さてと......おにーちゃんも帰ってきたことだし、今からご飯作るね」

「あぁ。頼んだ」

 

夕飯の支度は陽鞠に任せて、俺は自室へと向かう。

 

「はぁ............」

 

部屋に入るなり、俺はベッドに飛び込んで、どっとため息をつく。その原因は一つしかない。

 

あの時はみんなの役に立つために、作曲を引き受けたけど......やっぱり気が滅入るな。

 

「もう、お前とは縁はないと思ってたんだけどなぁ......」

 

チラリと視線を移した先には、俺が愛用していたギターやベースが部屋の隅にポツンと置かれている。親のお下がりで結構年季の入った代物だけど、きちんと手入れはしていたため、今でも問題なく使えるはず。

 

ただ、コイツを見ていると胸が締め付けられるような感覚に陥ってしまう。

いい思い出がひとつもない......とまではいかないけど、どうしてもイヤな記憶ばかり思い出してしまう。

 

でも、今更こんなこと思ったってしょうがないよな......引き受けたからには中途半端な気持ちでやるわけにはいかない。

 

強引に気持ちを切り替えて、俺はギターを手に取る。

物は考えようだ。これは自分のためじゃない、みんなのため。みんなの力になるために必要なこと。

そう言い聞かせながら、俺は弦にピックを当てる。ブランクもあるし、まずはあの頃の感覚を取り戻すところからだな......

 

「............よしっ」

 

意識を集中させて、徐に、俺は音を奏でた。

 

 

 




 
 
 
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