前回のあらすじ──────
「があると思いましたか? 残念、かわいいかすみんでしたっ☆」
いや、今回あなたの出番ないですよ......?
「え゙っ゙」
お台場、ヴィーナスフォート。
俺はとある人物との約束のために、この場所へ訪れた。足早に待ち合わせの場所へと向かい、そこに佇んでいた1人の人物へと声をかける。
「よう。待たせたか?」
「いいや全然」
相も変わらずヘラついた笑顔でそう返したのは、俺の数少ない男友達である雨宮そいつだった。
「......な、なんだよ?」
物珍しそうな目で俺を見る雨宮に、身を引かせながら聞く。
「いや、意外にも私服のセンスはあるもんなんだなぁと」
どうやら俺の私服に興味を示していたらしい。
「別に、これは俺の趣味じゃねーよ。うちの姉貴が服にうるさいんだ、俺は見繕ってもらったものをただ着てるだけ」
姉はファッションデザイナーの仕事をしている。そのデザイナーとしての性なのか、味気ないファッションセンスの俺を見兼ねて、いろんな服を姉に見立ててもらっていた。
俺としても派手目のものじゃなければなんでもよかったし、その道に詳しい人が見てくれるんならそれでいいと任せていた次第だった。
「ふーん......というかお姉さんいるんだな。初耳だぞ?」
「聞かれてないからな」
「つれないねぇ」
そっけなく返すと、雨宮はやれやれと肩を竦める。
「ここで立ち話もなんだ、どっかで時間潰すとしようぜ」
「あ、あぁ」
歩き出す雨宮の少し後ろを俺はついていく。
思えばこいつとは中学時代からの仲だけど、2人で休日を過ごすというのはほとんどなかった。だから今のこの状況がどうにも慣れなくて変な感じだ。
まあこいつのことだから穏やかに過ごせる可能性は低そうだが、誘いに乗っちまったのは俺だし、なるようになるしかないよな......
事の発端は昨日の金曜日。週最後の学校日だった。
「おやおやぁ、そこにいるのは小日向くんではありませんか?」
「......なんだよ雨宮」
廊下を歩いていると、背後から掛けられたおちゃらけた声。姿を見ずとも誰なのかは分かりきっていたんで、振り向かずに俺はその名前を呼んだ。
そんな塩対応を気にも留めず、雨宮は俺の横に並び立つ。
「なんだよとはご挨拶だなぁ。そんなにムスッとしてるとモテないぞ〜?」
「余計なお世話だっ」
これは生まれつきだからモテないのはしょうがない............しょうがないよな?
「まぁ......全くってわけでもなさそうだけど」
「......? なんか言ったかよ?」
「いーや、なんでもない」
けろりとはぐらかされた。まったく......こいつの考えてることは読めないな。
「......あっそ。それじゃあな」
「あぁちょっと待てって」
そそくさとその場を後にしようとする俺を、少し慌てた様子で雨宮は引き止める。
「なんだよ、まだ何かあんのか?」
「ああ。お前の明日の予定でも聞いておこうかと思ってさ」
「明日? なんでそんなこと聞くんだよ?」
思いがけない質問に俺は怪訝な反応を見せた。
女の子に対してならまだしも、俺にそんなことを聞くのは一体どういう了見なんだろうか?
「いやなに、俺とデートでもどうかなーって」
「ぶっ!」
不意打ちを喰らい、思わず吹き出す。
「き、気持ち悪い冗談言ってんじゃねえぞ⁉︎ なんで俺がお前と......!」
「はははっ、ピュアかよ! ただ単に遊びにでも行かねーかって話じゃんか!」
「それならそうと言えや!」
もはや性別見境なくなっちまったかと思ってゾッとしたわ......
「つーか、なんでまた急に......」
「いやぁホントは他の子と約束があったんだけど都合が悪くなっちまってさ。明日の予定がパーになったんだよ」
「なら別のヤツでも誘えばいいのに......」
「まあまあ、たまには男同士親睦を深めるってのもいいじゃん?」
まさか雨宮からそんな言葉が出てくるとはな......
「そんで、どーよ?」
「......いや、遠慮しとく。俺もあんまし暇じゃねーからな」
せっかくの誘いではあるけど断っておく。
俺も特に予定らしい予定はないけど、作曲のこともあるし、なるべく空いた時間はそっちに注力したいところだ。
「話はそんだけか? じゃ、俺は教室に戻るから」
「そうか、残念だな。せっかく
......................................................ピタッ。
「しょうがない。別の子を誘って───」
「おぉい待て待て待て!」
「どうした? 本当は俺と行くのが面倒だったけど、ちょっと気になっていたメニューを奢ってくれると聞いて揺らいじゃったか?」
「全部言ってる! 全部言っちゃってるから!」
こいつわかっててやってんだろ!
「それで、どうするんだ?」
「はぁ......わかったよ。お前の暇つぶしに付き合えばいいんだろ」
「ははっ、決まりだな。待ち合わせとかはまたあとで連絡するわ」
......みたいなやりとりがあって
パンケーキに釣られる俺チョロすぎだろ......自分で言ってて悲しいけど。
「なーにぼんやりしてんだよ。考え事か?」
「別に......なんでもねーよ」
「もし俺が女の子だったら、デートに集中できない男は減点だなぁ」
「安心しろ、そもそもそんな相手はいねえ」
「自分で言っててそれ虚しくならないか?」
「こういう時だけマジに返すのやめてもらえませんかね!」
くっ、非リアの自虐の虚しさなんぞ、雨宮には絶対わからないだろうよ......
「そんなら俺が紹介してやろうか? 年上年下、ゆるふわ小悪魔不思議ちゃんに人妻、なんでもござれだ」
「なんかやばいの混じってますけど⁉︎」
「そういえば最近、とある女性から離婚した旦那さんと俺がそっくりって理由で言い寄られてるんだけど、どう対応したらいいと思う?」
「そんなこと俺に聞くなよ⁉︎ 頑張ってどうにかしろ!」
うわ......なんだその面倒そうな人。絡まれたのは可哀想だが、俺に聞かれてもどうしようもねえわ......
足を進めるうちに目的の店先に到着する。そこからちらりと中の様子を伺ってみると、内装は小洒落た感じで、そのせいなのか女性かカップルの客しかいなかった。
は、入りづらいぞこれは......場違い感が半端じゃない。
だが、ここで臆していては目的のブツには辿り着けない......!
「ほら。日和ってないでとっとと入るぞー」
「あ、待てって......!」
雨宮はそんな空気をものともせずに、先立って店内に踏み込んでいく。いつもは飄々とした雨宮だけど、こういう時に限っては非常に頼もしく感じてしまった。
案内された席に座り、オーダーを済ませる。
数分ほどして、待ちに待ったマウンテンパンケーキがテーブルの上にその姿を現す。マウンテンと言うだけあって7層に積まれた厚焼きのパンケーキ。そしてフルーツとクリーム、ソースがこれでもかってくらいに盛り付けられていた。
「おぉ......すげえなこれ......」
そのビジュアル自体は雑誌やネット記事なんかで見たことはあるけど、こうして生で見るとボリューム感がまるで違うな......
さすがの雨宮もその迫力に目を丸くさせていた。
「圧倒的っ......! 圧倒的物量っ......!」
なんでカ○ジっぽく言うんだろう......しかも妙に雰囲気が似てるのが腹立つ。
まあそんなことはさておき、早速一口。
「美味っ......!」
見た目がカラフルでちょっとアレとは思うが、味に関してはフツーに、というかめちゃくちゃ美味い。
「小日向、お前それホントに1人で食べれるのか......?」
あまりの量に不安そうに尋ねる雨宮。
「甘いものは別腹って言うしへーきへーき」
「いや限度ってもんがあんじゃん......絶対無理だろ」
「バカだなお前。限界なんてないし、絶対なんてないんだよ」
「こんなにもフレーズと言うべきタイミングが噛み合ってないのは初めてだよ」
雨宮から珍しく呆れた声が出る。
ったく......やる前から無理って、やってみなくちゃわからねーだろうよ。人間、自信があればなんでもできるってどっかで聞いたしな。
「......ところで、同好会の方はどうよ? 上手くやれてんのか?」
一つ咳払いをした後、雨宮は同好会について話題を切り替える。
「んー......まぁ、ぼちぼちってとこ。うちはソロアイドルってことで方向が固まって、みんな張り切ってるよ」
「ソロねぇ......確かに、あの子たちの個性を活かすなら最適かもな」
「あの子たちって......お前、みんなと面識あったのか?」
「当然だろ。なんなら小日向よりも先に面識はあるんだぜ?」
「......ちゃっかりしてんな」
侑と歩夢はいいとして、他のメンバーとも顔見知りってのはもはや流石としかいいようがないな......
でもまあ、女の子に声をかけるのが日常茶飯事の雨宮なら、既に声をかけていてもおかしくはなさそうだけどさ。
「なんにせよ安心したよ。小日向が上手くやれてるようで」
「なんか親みたいなこと言うのなお前......」
「ほらたかし、お友達から借りたゲームソフト返してきなさい」
「たかし誰だよ⁉︎」
「俺の兄貴だけど?」
「お前の兄貴なのかよ! テキトーにつけたみたいな名前しやがって!」
「なんだとお前全国6千万人のたかしさんに謝りやがれゴルァ!」
「うわぁめっちゃブチギレられた!」
つーかたかしそんなにいねえだろ!
「俺たちの世代からすればちょっと親父くさい名前かもしんないけどよ、それでも親が立派な願い込めてつけた名前なんだぞ?」
「そ、そうだな......いくらなんでも無神経だった、悪りぃ」
「まあ俺一人っ子なんだけどな」
「削ぎ落とすぞ!」
くだらなすぎる会話をしながらもパンケーキを無事完食した俺たちは、その後、雨宮の要望で書店の方へと足を運ぶことになった。どうやら買いたい本があるらしい。
書店に着くと、目的の本を探す雨宮とは別行動で、俺は店内をぶらりと見回っていた。
「ん......?」
いろんな本の表紙を眺めながら移動していると、奥の方で立ち読みをしていた1人の客が目に留まり、慌てて棚の陰に隠れる。
あの特徴的なウルフカットヘア......間違いなく朝香先輩だ。あの人もここで買い物だろうか。
いや、それよりも先輩が読んでいるその本に目が行っていた。
だってアレ............
「待たせたな......って、何してんだ?」
そこで、紙袋を持って雨宮が怪訝そうな表情で戻ってきた。
空気を読んだのか、覗き込むようにして雨宮は俺の視線を辿る。
「あれ、朝香ちゃん先輩じゃん。なんで隠れてんだ? 声かければいいのに」
「いや......別にわざわざ話すこともないし......」
とりあえずそれっぽいこと言って誤魔化す。
どうにもあの人に対する苦手意識が拭えないんだよな......もちろん悪い人じゃないのは百も承知なんだけど、この前の惨劇(?)もあってか少し警戒気味になっていた。
とはいえ、話すことがないっていうのも嘘じゃないからな......
朝香先輩は同好会にちょくちょく顔を出してはいるけど、それで気軽に絡めるって関係ってわけでもないし。単なる顔見知りってレベルに過ぎないだろう。
ひとまず、ここは俺の存在がバレてないうちにさっさと退散したいところだ。
「そ、それより、買い物済んだんなら早く行こうぜ」
「そうだな。これからどうする?」
これからどうするって言われても......
「帰る」
「帰るのかよ」
「だって俺の目的はもう済んだし......」
「薄情なヤツだなぁ。もうちょっと付き合ってくれよ?」
まだ解散するには物足りないのか、少し不服そうな目で訴える雨宮。しょうがねえヤツだな......
「ハイハイ......わかりましたよ」
ま、今日は土曜日だし、作曲なんかは明日にでも時間をかけてやれる。今回はこいつに付き合ってやるか。
「よっしゃ。それじゃあ、まだ見ぬ女の子探しの旅へ───」
「それには行かねえよ!」
............やっぱ帰ってもいいですか。
というわけで雨宮くんとの小話+本編5話のちょっとした導入でした。次回からは本編に沿った流れになりますのでどうぞお楽しみに。
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