いつもお待たせしてます、年内最後の生存報告(更新)です。2023年も何卒。
PVを撮ろう、という話が決まり、俺たちは早速PV制作のための前準備に取り掛かる。まずはどんなPVにするか、それぞれのイメージをホワイトボードに書き出している最中だった。
「お二人はこんな感じですかね」
宮下、近江先輩の意見を書き終えた中須。
ボードには宮下はダジャレとスポーツ、近江先輩はパジャマに子守唄と書かれている。どっちも2人らしいイメージだ。
「さて、エマさんはどうでしょうか? 何かイメージはありますか?」
順番が回り、次はヴェルデ先輩に優木が問いかける。
「私ね、人の心をポカポカさせちゃうようなアイドルになりたい、って思ってて!」
「ポカポカかぁ。確かにエマさんらしいね!」
「ありがとう侑ちゃん♪ でも、それがどんなスクールアイドルなのか想像つかなくて......」
「心をポカポカ......どんなのだろう?」
具体的なイメージがあまり湧かない表現に、天王寺は首を傾げる。
「じゃあさ、みんなはどんな時に、どんなものに心がポカポカするって感じることがある?」
と、宮下の角度を変えた意見に、それならと各々が発言する。
「彼方ちゃんは枕とお布団かな〜」
「泣ける小説でしょうか......」
「かすみん特製コッペパンに決まってます!」
「断然アニメですね!」
「私はぬいぐるみ、かなぁ」
「愛さんは、おばあちゃんのぬか漬け!」
「スクールアイドルしかないでしょ!」
バ、バラバラだな......あまり参考にはならなそうだ。
「ふふふっ、やっぱりこうなっちゃいますよね」
「そうだね。エマさん自身のイメージが大事かも!」
こうなるのが目に見えていたように、優木と侑は失笑する。
ソロアイドルとして自分の個性をアピールするPVだし、こればっかりは先輩の思うようにやってもらった方がいいよな。
「演劇でしたら、衣装を着るとその役のイメージが掴めたりするんですが......」
「衣装かぁ......あっ、そうだ!」
演劇部ならではのアドバイスを桜坂がぽつりと呟くと、何かを思いついたように声を上げた先輩はスマホを取り出した。
******
「「「わぁ〜!!!」」」
訪れたのは服飾同好会の部室。そこに並べられた様々な衣装に一同が感嘆の声を上げる。
「こんな同好会にもツテがあるなんて、さすがだよ〜、果林ちゃん」
「たまたま部員の子がクラスにいたから、掛け合ってみただけよ」
衣装を眺めながら、近江先輩と朝香先輩は言葉を交わす。
ここにやってきたのは俺たちスクールアイドル同好会だけでなく、朝香先輩も来ていた。というのも、衣装と聞いてヴェルデ先輩が真っ先に朝香先輩に相談してみた結果、こうして服飾同好会の協力を得ることができたわけだった。
「にしても、クオリティの高い衣装ばっかですげえな......」
どれもデザインが凝ってるし、細部まで丁寧に作り込まれてる。とても学生の部活動で作りましたなんてレベルじゃねーな......
「本当にねぇ。どれもかわいくて目移りしちゃうよ〜」
「これとか近江先輩に似合うんじゃないですか?」
「お〜、彼方ちゃんにそれを着させたいなんて、晴陽くんはとんだ変態さんなんだねぇ〜?」
「なんで⁉︎」
さすがにファッションセンスのない俺でも、そんなに変なのを選んだつもりないんだが......?
「間違えた、晴陽くんは天体さんなんだねぇ」
「何を間違えたんだよ!」
「番台さんなんだねぇ」
「銭湯開いてんじゃねえよ!」
「バ○ダイナ○コさんなんだねぇ」
「もはや意味わかりませんけど⁉︎」
ひとしきりツッコんだ後、俺は軽くため息をつく。
「ふふっ、冗談だよ〜。なんか揶揄いたくなっちゃった♪」
「唐突にも程がありません......?」
なんで俺の周りはこうもボケたがりが多いんだろうか......おかげで日に日にツッコむ頻度が増えていってる気がする。
近江先輩の突発ボケに辟易としていたところ、試着室の方から歓声が上がる。気になってそっちへ視線を向けてみると、そこにはメイド服を身に纏ったヴェルデ先輩の姿があった。
「おかえりなさいませ、お嬢様〜♪」
「わぁ〜! ときめいちゃう〜!」
「ぐぬぬ......! かわいい......!」
メイドお馴染みのセリフに、テンション爆上がりの侑と対抗心を剥き出しにする中須。いや別に何かを競ってるわけじゃないから。
でも、確かにかわいいのは事実だよな......メイド服と言っても、アニメに出てくるような萌えを意識したものじゃなく、クラシックタイプのいかにも本場のメイドといった拵えだった。
特にウエストリボンでシュッと引き締められた上半身は、ある部分が強調されていて......
「うんうん。やっぱりすげえよなぁ......」
「どこを見て言ってるのかなそれは〜?」
「ハハハ、衣装に決まってるデショ。何言ってんですかパイセン」
「ふーん......」
近江先輩のジトリとした鋭い視線がぐさりと突き刺さる。
くっ......だってしょうがないじゃん、男の性なんだもの。あんなの見るなって方が無理だろ。
なんてしょーもない弁明を心の中でしているうちに、ヴェルデ先輩は次の衣装へ着替え始めていた。
浴衣、チアガール、アラビアン風......果ては特攻服と、ありとあらゆる衣装を試していく先輩。
なんで特攻服なんてあんだよ......途中からコスプレ鑑賞会みたいなノリではしゃいでるし。でもまぁ、実際何着ても似合ってるし、はしゃぎたくなる気持ちもわからなくもないけど。
「がおーっ! クマ・ヴェルデだよ! 食べちゃうぞ〜?」
「かわいい〜! 癒されるなぁ〜......!」
今度は熊をイメージした顔出しの着ぐるみを着た先輩に、侑はぎゅっと抱きついた。
「確かにかわいいですけど、これは衣装なんですかぁ?」
「着ぐるみだってちゃんとした衣装だよ。舞台で使ってる劇団だってあるんだから」
中須の発言が聞き捨てならなかったのか、桜坂が少しムッとした表情で返す。
ちょくちょく垣間見えてはいたけど、演劇のことになると人が変わるタイプだよなぁ、桜坂って。そういう二面性こそが役者に向いてるってことなのかもしれないが。
「ねぇエマ、これなんてどうかしら?」
朝香先輩が手に持っていたのはフリルのエプロンドレス。白のワンピースに黄緑のエプロン、袖口にはオレンジのラインが施されている。その自然な色合いがヴェルデ先輩に合うと思ったんだろう。
「おっ、さすが現役モデル! センスあるね〜!」
モデルとしての確かなその感性に、宮下も感心の様子。
「あ! その前にエマさん、一緒に写真撮ってもいい?」
「もちろん!」
「じゃ、じゃあ私もっ」
「私も入りたいです!」
そこで侑が写真撮影を提案すると、歩夢、優木と続き、全員で撮影することになった。
着ぐるみ姿のヴェルデ先輩を中心に、賑わいながら位置取りをしていく。
............俺は入るつもりないけど。
「天王寺、俺が撮ってやろうか?」
代わりにと言っちゃなんだけど、先ほどから撮影係をしていた天王寺にそう声をかける。俺だけ何もしないのも、なんか悪いしな。
「いいの?」
「そんくらいお安い御用だ」
「じゃあお願いする。ありがとう」
俺は天王寺からスマホを受け取り、みんなが画面に入る距離まで下がってスマホを構える。
「よし......んじゃ撮るぞー」
「あっ、果林ちゃんも一緒に撮ろうよ!」
「え?」
自分も誘われると思ってもみなかったのか、キョトンした声を上げる朝香先輩。
しかし返ってきたのは首を横に振る仕草だった。
「私はいいわよ。部員でもないし」
「部員とかそんなの関係ないよ。みんなで撮った方が絶対楽しいもん!」
「............」
なおも誘うヴェルデ先輩に朝香先輩は俯いてしまう。
すると、不意に朝香先輩のポケットからスマホの通知音が鳴る。
「......悪いけど私はここで。それじゃ」
「あっ......! 果林ちゃん......」
内容を確認した朝香先輩は、そっけなく言葉を残して部屋を去っていく。
その後ろ姿を、ヴェルデ先輩は寂しげな瞳で映していた。
結局、俺を除いた9人での撮影になり、撮った写真はみんなに共有された。
「もー、ハルも入ってくればいいのに」
楽しそうにその出来栄えをチェックする中で、侑は不満そうに口を尖らせる。俺だけ混ざってないのがよっぽど不満らしい。
「勘弁してくれよ、俺が撮られるの苦手なの知ってるだろ」
「あははっ。晴陽、この前プリクラで撮った時もそうだったもんね〜」
「ん......? 愛ちゃん、プリクラってどういうこと?」
サラッと言い放った宮下の一言に、すかさず歩夢が食いついた。そういや俺たちがゲーセンで遊んでたってことは誰にも話してないけど、なんだろう......とてつもなく嫌な予感がする。
そう思った直後、
「あぁ、そういえばみんなには話してなかったね。実はこの前2人で遊びに行ってさー、その時に撮ったやつなんだけど......」
「待て待て待てェ! なんで見せようとしてんだ⁉︎」
スマホを操作する宮下を止めようとしたが、時すでに遅し。あの時撮ったプリクラの写真が写っているであろう画面が、全員の目に晒される。
「い、いつの間に......」
「晴陽先輩と愛先輩、最近やけに仲良いと思ったらこういうことだったんですね......」
「愛さん、積極的ですね......!」
「晴陽くんも隅に置けませんなぁ〜」
冷めた目つきで俺を見る侑と中須、興味深そうな桜坂。そして近江先輩はニヤニヤしながら俺を茶化す。
「ま、待て! これはいろいろ事情があってだな......」
あの時は宮下のために何かをしてやりたい、その一心だった。
とはいえ、確かにこれ、傍からみたらなんか誤解されるよな......
「でも、仲良しなのはいいことだよ〜♪」
「そうですよ! 友情はジャ○プの三大要素の一つですから!」
どうにか弁解しようとしたところに、フォローを入れてくれるヴェルデ先輩と優木......優しいかよ。後者は何言ってんのかちょっとわからないけど。
「うんうん! 愛さんたち、結構いいコンビだと思うんだよね!」
そう言って宮下は俺の隣に立つ。ったく、毎度毎度距離が近いんだよ......なんて言ったところで、今更変わるもんじゃないよな。ぶっちゃけ半分諦めてる。
「コンビはコンビでも、俺とお前じゃお笑いコンビだろ......」
「お、それもいいねー! M-1目指しちゃう?」
「そんな軽いノリで行けるトコじゃねーわ!」
お笑いの過酷さ舐めてんのか......この世にどれだけ干された芸人がいると思ってんだ───って、別にそんなことはどうでもいいわ。
いつもの馬鹿げたやりとりを繰り広げ、それを見たみんなは笑う。
違うんです......別に漫才したくてしてるわけじゃないんですよみなさん......
払拭できないレベルで、俺と宮下の関係性が確立してしまった事実に嘆いていると、ある視線が向けられているのを肌で感じた。
「............むぅ」
視線の主は歩夢だった。そしてなぜだかご機嫌斜めだった。
「あ、歩夢? どうしたんだよ?」
「別に......なんでもないもん」
「......なんか怒ってねえか?」
「怒ってないっ」
いや、怒ってますねこれは......間違いない。というか拗ねてるのか?
「ハルもまだまだだね〜......」
「はぁ......?」
なぜか侑にめちゃくちゃ呆れられてるけど、まったく意味がわからない。侑には歩夢が拗ねてる理由がわかるんだろうか。だが、問いただしてみても、適当に遇らわれるだけだった。
「なんなんだよ一体......」
「あ、あのっ! ちょっといいですか!」
幼馴染のよくわからない異変にぼやいていると、聞き慣れない声が俺を呼ぶ。見ると、服飾同好会の部員である少女だった。
少女はおそるおそるといった感じで口を開く。
「ひとつお願いがあるんですけど......」
「お願い?」
一体俺になんの......?
そう思いながら聞き返してみると、
「これを着てほしいんです!」
そして出てきたものを見て、俺は少し固まってしまった。
その理由が......
「......えっと。これってもしかしなくてもさ......」
「は、はい。私の好きなアニメに登場するキャラクターの衣装なんですが......」
でしょうね......何のアニメか知らないけど、女性向けのアイドルものか何かだろうか。見るからにキラキラしてるし。
つまり端的に言えば、俺はコスプレをしてくれと頼まれているわけだ。いやしかし......というか当然、俺がそれを着たいと思うわけもなく。
「悪いけど......他を当たってくれないか?」
「そこをなんとか......!」
丁重にお断りするも、少女はなおも食い下がる。
「いやそう言われても......大体、なんで俺なんだ? 他にもっと似合うヤツなんていっぱいいるだろ?」
何千と生徒がいるこの学園のことだ。俺よりも見てくれがいいヤツなんて山ほどいるだろうに、なんで俺なのか。
「それは私の直感です!」
......かなりフワッとした理由だった。
「そもそも、ここに立ち寄る男子なんてあまりいないですし、だからといってわざわざ頼みに行くのも恥ずかしくて......」
「そんでちょうどよく俺が来たから......ってわけか」
服飾同好会の部員としては、せっかく作った服を着てもらえないままってのも思うところがあるんだろうか。少女も引き下がってくれる様子はなさそうだ。
どうしたもんかと頭を悩ませていると、ある考えが脳裏に浮かぶ。
こ、これなら......
そして俺は、意を決して言葉を返した。
「......わかった。着るよ」
「ほ、ホントですか⁉︎」
「ただし、こっちの条件を飲んでくれるんならな」
「条件、ですか......?」
その言葉に少女の表情が少し強張った。
このままじゃ俺が恥を忍んでまで着るメリットが一切ない。なら、交換条件に持ち込んでしまえばいい......俺はそう考えた。
そこで、見かねた様子の中須が会話に割って入った。
「先輩、何えっちなことさせようとしてるんですかっ」
「まだ何も言ってねえしそんなこと考えてもねえよ!」
「まさか私をエロ同人みたいに......?」
「あんたも乗ってんじゃねえよ!」
こいつら......打ち合わせでもしてたのかよ。
「あはは......すみません、つい。それで、その条件とは......?」
「なに、単純な話だ」
ひとつ前置きを入れて、俺の条件へと話を切り出す。
「知っての通り、俺たちはスクールアイドル同好会だ。そこであんたたち服飾同好会に、みんなの衣装を作るための協力をしてほしい」
「みなさんの衣装をですか......⁉︎」
提示された条件に少女は目を見開いて驚く。
相手は衣装作りのエキスパート。ならその力を借りない手はないだろう。
たかが衣装を着てもらうのにその条件は......とも思われそうだが、そこは一か八かの賭けだ。
だが、そんな俺の懸念とは裏腹に、少女は悩む素振りもなく返答する。
「そんなの! 私たちにとっては嬉しい条件ですよ! いいですよね、部長!」
少女が部長らしき人物に向けてそう言うと、その人はこくん、と頷きを返した。
「決まりだな」
「さすが晴陽さん、ナイス交渉」
「私たちのために......ありがとうございます、晴陽さん!」
天王寺と優木から称賛され、少しむず痒い気持ちになる。
ま、俺だって部員だし、何かやらなくちゃな。少しでもみんなの負担を減らしていかないと。
「それでは早速......!」
「......わーってるよ」
待ちきれないと言わんばかりに、目を輝かせる少女。気乗りはしないが俺は衣装を受け取る。
う......やっぱり何度見ても小洒落た衣装だな......まじで人選間違えてねえか?
でも今更ごねてもしょうがねえし、サッと着てサッと終わらすか......
覚悟を決め、試着室に向かおうとしたその時。
「それが終わりましたら、こちらもお願いします!」
「まだあんのかよ⁉︎」
数種類の衣装がズラリと並んだハンガーラックを、いつの間にか少女が引っ張ってきていた。
「当然じゃないですか。あの1着だけとは言ってませんし、だいたいそれだけじゃ、そちらの条件とあまり釣り合ってませんよね?」
「ぐっ......」
この少女、まさかのやり手だった......
確かに向こうの条件をちゃんと確認しなかったし、こちらから交換条件を申し込んだ手前、もちろん取りやめれるわけもない。
..............................やるしかないのか。
「───こうなりゃもうヤケだ......なんでも着てやらぁ!」
言い逃れる術もない俺は、もはや何も考えずに意気込むことしかできなかった。
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