ギャグ要素がない............だと............?(あと今回短めです)
翌日の昼休み。この日は侑と歩夢に断って1人で昼飯を摂ることにした。
侑にピアノを教えることになり、しばらく作曲のために費やす時間が少なくなりそうだと考えた俺は、こういう昼休みなんかの時間も作曲の時間に回そうと考えた次第だ。
落ち着いて作業ができそうな校内のカフェに足を運び、メニューを頼んだ後、空いている席を探す。
そこで、席に座っている見知った後ろ姿が目に入った。
朝香先輩だった。
だが、先輩はこちらに気づく素振りはなく、手元にある何かに集中している様子だ。
......今ならバレずに通り過ぎれるかも。そう思ってそろりと横を歩いた時。
「......!」
先輩の手元にあったものが見えて、思わず立ち止まってしまった。
「あら、晴陽じゃない」
う......バレた。
「ど、ども......」
「1人なんて珍しいじゃない、
「あー......いつもは一緒に食べるんですけど、今日は1人で集中したいことがあるんで......」
「ふぅん、そうなのね」
特に当たり障りのない会話をした後、朝香先輩はコーヒーの入ったカップを持ち上げ、口につける。
さすがは読者モデルというべきか......ひとつひとつの所作に品があるようで、どこを切り取っても絵になるような美しさがあるな。
だがそう思ったのも束の間、カップを置いた先輩の表情は、一転して暗い雰囲気へと変わる。
「あの......何かあったんですか?」
「......どうしてそう思うのかしら?」
質問に質問で返される......いや、あからさまに落ち込んでるみたいでしたよ。
でも否定から入らないってことは、何かがあったという裏付けにもなる。
「えっと......なんか浮かない顔してたもんで」
「そう......でもあったとしても、キミには関係のないことよ」
そっぽを向いて、突き放すように先輩は言った。まるでわざと人を遠ざけるように、冷たい口調だった。
俺には関係ない......確かにそうだ。先輩のことなんて何も知らないし、わざわざ必要以上に首を突っ込むことだってしなくてもいいはずだ。
でもなんでだろう......今の先輩を見て俺は、どうしようもなく苛つきを覚えてしまった。
「相席失礼します」
「えっ?」
唖然とする朝香先輩を気にも留めず、俺は向かいの席に座った。
「ちょっと......キミ、やることがあるんじゃなかったの?」
「ありましたけど、気が変わりました」
そんなことはどうでもいい。そう言わんばかりの気迫で即答する俺に目を丸くする先輩。
「で、何があったんです?」
「何って......さっき言ったじゃない。キミには関係ないことって......」
「なら、俺にとっても、その言い分は関係ないです」
きっぱりと言い切ると、気圧されたように先輩は口を噤んだ。
よし......これで話の主導権は俺が握れただろうか。しかし、こっからどう聞き出せばいいもんか......
そこでふと、昨日の先輩の言動が頭によぎる。
「そういえば先輩......昨日、ヴェルデ先輩と話していた時もなんか様子が変でしたよね」
「っ......」
ヴェルデ先輩の名前を出した途端、朝香先輩はぴくりと顔を引き攣らせた。
2人の間に何かあると踏んだ俺はさらに追及する。
「もしかして、ヴェルデ先輩と何かあったんですか?」
問い詰められた先輩は数秒の沈黙の末、観念したようにようやく口を開いた。
「......そこまで心配されるほどのことじゃないわ」
カップに残ったコーヒーの水面を見つめながら、先輩は続ける。
「なんてことないのよ。私のつまらない意地で、エマを困らせた......ただそれだけよ」
「先輩の、意地?」
「エマから誘われたのよ。スクールアイドルをやってみないかって」
「それを、先輩は断った......?」
ヴェルデ先輩が朝香先輩をスクールアイドルに誘った......それはさほどおかしな話でもない。
ヴェルデ先輩の友人として、朝香先輩はみんなの練習に付き合ってくれたりしてるし、もしかしたら興味を持ってくれているかもしれない。そう考えるのは普通の流れだろう。
だけど、そうはならなかった。
「......ええ」
返ってきたのは力のない、肯定の声。いつもの凛とした声音は完全に鳴りを潜めていた。
尚も陰鬱に話を続けようとする先輩に、俺は虚心に耳を傾ける。
「同好会の活動見てきて、みんな一生懸命で、楽しそうで......眩しかった」
「だったらなんで......」
「そんなキラキラした存在は、私には似合わないと思ったから」
自嘲気味に微笑んだ朝香先輩。
「そ、そんなこと───」
「あるのよ」
否定しようとした俺の言葉はピシャリと遮られてしまう。
「モデルでも、プライベートでもそう。私はそういうキャラじゃないって......そう思われてるのよ、きっと」
そう語る先輩の片腕は、自分を守るようにぎゅっと力が込められていた。
......でもそれは、先輩の本当の気持ちなんかじゃない。周りからのイメージに縛り付けられているだけだ。
「......先輩自身はどう思ってるんですか?」
「え......?」
「朝香先輩はスクールアイドル、やりたくないんですか?」
「............」
問いかけても、答えが返ってくる様子はなさそうだ。
それでも、やりたくないと言わないのは、先輩の中で答えはもう出てるから。
......ただ、踏み出せないだけ。
ちょっとやそっと背中を押しただけじゃ、その足は動かないくらいに。
「......もう一度、2人で話した方がいいと思います」
「そんなの......無理よ。あの子にどんな顔すればいいのか......」
よっぽど棘のある言い方をしてしまったんだろう。憂いを帯びた瞳がそれを物語っている。
だけど、このままでいいなんて俺は思わない。きっと先輩たちだってそう思ってるはずなのに......
「ごめんなさい。私はもう行くわ」
「あ......」
耐えかねた様子の先輩は、席を立ち、カップの載ったトレイを持って行ってしまった。
......これ以上は、俺にはどうすることもできない。
やるせない気持ちが渦巻く中で、俺は拳を固く握りしめた。
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