前回のあらすじ。
なんやかんやあって膝枕してもらったらしい。
「ぐすっ......ぐすっ......」
とある公園。その
どこか怪我をしたわけでもなく、誰かに泣かされたわけでもない。その原因はもっと大きな存在だ。
彼女の実家はもんじゃ屋を営んでおり、ちょうど繁忙する時間帯だった為に、近場の公園で暇を潰そうと遊びに来ていた。だが、突如として降り出した大雨は少女を四阿へと追い込む。積乱雲による一時的な大雨。おまけに雷雨ときた。
少女は雷が苦手だった。『雷様がおへそを取りに来る』、そんな言い伝えを祖母から聞かされ、なんとも言い難い恐怖を感じてしまったからだ。それに加えて周囲には自分以外に人はいない。身動きも取れず、助けを求められる人間もいない状況で、ゴロゴロと鳴り響く鈍い音に少女はただ怯えることしかできずにいた。
不安、それだけが彼女を支配する。この絶望的な時間が永遠に続くかとも思った、その時。
「くっそぉ〜......急に雨ふるなんてツイてねーな......」
耳に入ったのは、少年の不機嫌な声だった。少女は顔を上げ、その声の方へ視線を移す。
雨に濡れ、張り付いた茶髪。綺麗な顔立ちに左目元のほくろが目を引くが、表情は声の通り無愛想としていた。年頃は同じくらいだと思われるが、少女はもともと人見知りな性格故に萎縮してしまう。
「んぁ?」
そこで、少女の視線に気がついた少年は少女と目が合う。すぐさま少女は目を背けるが、それを見逃すはずもなく彼は詰め寄った。
「なんだよ、オレのことジロジロ見て?」
「ひっ......! ごめんなさい......」
威圧的に感じた少年の物言いに、少女は小さく悲鳴を漏らして謝罪する。だが、少女の目に涙が浮かんでいたのをそこまで怯えられるとは思わなかった少年は慌て始める。
「な、泣くことないだろ......! ほら、ふけよ......」
「あ、ありがとう......」
少年は持っていたハンカチを差し出すと、少女は少し戸惑いながらそれを受け取る。
「えっと......ごめん。まさか泣くとは思わなかったんだよ......」
その気が全くなかったとはいえ、女の子を泣かせてしまったことにばつの悪さを感じた少年はぎこちなさそうに謝る。そんな少年の対応に少女は意外そうに目を丸くさせつつも、思っていたよりも怖い人じゃないのかもしれない......そう感じ始めていた。
ともあれ、涙の理由は少年にあるわけではなく、少女は誤解を解くために口を開く。
「ち、違うの。これはキミのせいじゃなくて───」
その瞬間、凄まじい雷鳴が2人の鼓膜を駆け抜けた。
「うお......今のはデカかったな......」
あまりの轟音に思わず驚きの声を漏らした少年は、外に向けていた視線を再び少女に戻す。そこで少年の視界に映ったのは、耳を塞ぎ、極限まで体を縮こまらせて蹲る少女だった。よく見ると身体は小刻みに震えていて、少年にはそれが恐怖によるものだと一目で察することができた。
そして、少女が涙していた原因だということも。
「......もしかして、雷が怖いのか?」
返事はない。が、これほどの有り様を見れば、言葉にされずともそれが答えだと少年はすぐに判断できる。ちょっとやそっとじゃないその怯えように、少年も心配そうに目を細めて少女を見つめていた。
少年は無愛想であれど冷酷ではない。むしろ困っている人間を見たら放ってはおけない善人気質な方であった。故に、彼は行動を起こす。
「ふぇ......?」
不意に、頭部に感じた微かな温もりに少女は顔を上げる。その温もりは少年の手のひらから伝わる体温であり、ゆったりとしたリズムで撫でる手つきに少女は不思議と落ち着きを取り戻していくようだった。
少年は少女の頭を撫でながら、ある一つの情景を思い出す。
過去に、少年が取り組んでいた物事が上手くいかずに不貞腐れてしまった時。或いは気持ちが落ち着かなかった時。姉妹がいる彼は決まって姉にいつもそうされてきた。そしていつしか妹が不安に駆られた時、今度は少年がそうしてきた。
頭を撫でるという行為は、少年にとって1番心が落ち着く行為として次第に認識され、少女に対してもそうするよう半ば無意識的に体が動いていたのだった。
「大丈夫、大丈夫だって」
優しい声音。小さな笑み。それは雲を割る日差しの如く、少女の心に光をもたらす。
とても暖かく、とても眩しい。そんな太陽のような少年に、少女は憧れを抱いた。
******
「ん......」
そこでふと、アタシは目が覚めた。
アタシが小さい頃に、ある男の子と初めて出会った時の夢を見ていた。泣き虫で人見知りだったアタシが、自分を変えたいって思った、とーっても大切な思い出だ。
でも、その思い出も随分と昔のことで、さっきまで夢で見たことも朧げになってよく思い出せない。その子のことで覚えているのは、すごくムスッとしてて、最初は怖いとも思っちゃったんだけど......本当は優しくて、雷が苦手なアタシを不安にさせないように頭を撫でてくれたんだよね。人は見かけによらないって、よく言ったもんだよ。
そういえば......似たようなこと、前にもあった。晴陽と雨宿りした時のことだ。あの時も急に雨が降っちゃって、雷まで鳴って。さすがの愛さんも雷には降
1人だったらやばかったけど、そばに晴陽がいてくれて、同じように頭を撫でてくれた。すっごく暖かくて、安心したなぁ。
晴陽ってば、なんだかんだ優しいんだよね。前にりなりーも言ってたけど、ツンデレってやつ? アタシやみんなが困ってたりしてると、いつも手伝ってくれたり、相談に乗ってくれたりする。
スクールアイドルを始めて悩んだこともあったけど、あの子が一緒に悩んで考えてくれて、愛さんのことを励ましてくれた。
『楽しそうだからスクールアイドルをやる......そんなんでいいんじゃないか? それぐらい、単純なことでも』
あの時の言葉を聞いて、モヤモヤしてた気持ちが晴れるような感じがした。結局は簡単なことで、最初から目指す場所は決まってたんだ。その道を晴陽が照らしてくれた。
まるであの時の男の子みたいに。
......あれ? まさか。まさかだけど───
「子供の頃会ったことがないか? 俺とお前が?」
放課後。
同好会の時間になって、そのことを晴陽に聞いてみたけど、すごく変な顔をされた。まー、いきなりこんなこと聞かれたら、そりゃそうなるか。
最初から微妙な反応が返ってきたけど、さらにプッシュしてみる。
「うん。この顔を見てよーく思い出してみてっ」
「そう言われてもな......」
眉間にしわを寄せながら、晴陽は考え込む。
「いや、心当たりねえよ。第一、宮下みたいなはっちゃけたヤツに会ってたら、そうそう忘れないと思うし」
あ、そっか。そもそも今と昔じゃ、アタシの印象全然違うよね。
「あ、昔の愛さんって今みたいな感じじゃなくて───」
「ハルー! ちょっと手伝ってー!」
それを伝えようとしたけど、間にゆうゆの声が割って入る。
「おう。わり、俺行ってくるわ」
「あっ! う、うん......」
そう言って晴陽はゆうゆのところに行っちゃった。
うーん......結局わからず仕舞いだったなぁ。あの感じじゃ、本当に晴陽じゃないのかも。それに確証があるわけじゃないし、晴陽じゃないかなって直感で思っただけで、そんなすごい偶然がそうそうあるわけないよね。
───でも、晴陽だったらいいなぁ。
..........................................なんて思っちゃったり?
「愛さん」
「うわぁっ⁉︎ り、りなりー......」
後ろに来ていたりなりーの気配に全く気づかなくて驚くアタシ。
「大丈夫? 具合でも悪いの?」
「ぜ、全然大丈夫だよっ。ちょっと考え事してただけ!」
「そうなんだ。悩みがあるなら私も相談に乗るから、いつでも言って」
「うん。ありがと、りなりー」
りなりーの優しさに感謝しながら、アタシはその頭を撫でる。
あの男の子にはもう一度会ってみたいけど、それは当然簡単なことじゃない。でももしまた会えたら、あの子とはちゃんと友達になりたいな!
「よーし! 今日も張り切って行きますかっ」
いつかその時が来るって、アタシは信じてる。
だからそれまでに、あの子がびっくりするような、サイコーのスクールアイドルになるぞー!
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