虹色DREAMER!   作:UkiA

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 ピロン。

「ん? 雨宮からメッセージ?」

『前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回粗筋粗筋粗筋粗筋粗筋粗筋粗筋粗筋粗筋前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回前回』

「いや説明しろや!」
 
 


#30「俺の妹がこんなにしっかり者なわけがない」

 

 

 

 

 日曜日。学校も同好会も休みで、完全オフの今日。春の季節も半分は過ぎた頃だろうか。それでもぽかぽかとした暖かい日々は変わらず、天気もいい。

 

 そう、つまり絶好のお出かけ日和! こんな日はきっといいことがあるかもしれない!

 

 ......なんて陽気じみた考えは生憎持ち合わせておらず、俺はちょっとした買い物のためにお台場の商業施設をひとり歩いていたところだった。

 目的のものも買ったし、時間もそろそろ昼時なんで家に戻ろうかと思ったその時。聞き馴染みのある声が俺の耳に入った。

 

「あれ? おにーちゃんだ!」

 

 その声の正体は俺の妹の陽鞠(ひまり)。その隣には陽鞠の友達で、以前うちに来ていた茶髪の子もいた。陽鞠のヤツ、朝からいないと思えばここに出かけてたのか。

 

「やっほー!」

「こ、こんにちはっ」

「よう2人とも。ここで買い物か?」

「うんっ。まあそれだけじゃないんだけどね」

 

 ......? なんか含みのある言い方だけど......まあいいか。

 

「あ、ねえねえ! おにーちゃんはお昼食べた?」

「いや、まだだけど」

「じゃあ一緒に食べに行こうよ! ほら、この前言ってたおすすめのお店とか行ってみたいし!」

「俺は別にいいけど......キミもそれでいいかな?」

 

 視線を陽鞠の友達に向け、確認してみる。

 さっきまで2人で仲良く遊んでいたところに、俺がいて居心地を悪くさせてしまうのも申し訳ないしな。

 

「わ、私もお邪魔していいんでしょうか......?」

「そんなの当たり前だよ〜!」

 

 渋がられると思った俺の予想とは反して、陽鞠の友達の返答は謙虚なものだった。もちろん俺たちがそれを断るわけもなく、快く了承した陽鞠は茶髪の子にぎゅっと抱きついた。

 というか、むしろ俺の方が後から割り込んできたわけだし、どうしたいかは陽鞠たちの自由だろう。

 

「決まりだな。そんじゃま、店が混む前にとっとと行こうぜ」

「りょーかいでありますっ」

 

 

 

 そして俺は、十数分ほど移動したところにある行きつけのカフェへ2人を連れてきた。別になんてことないシンプルなカフェだけど、値段が手頃でメニューも豊富だから、外で軽く食べたいって時によく行く場所だった。

 

 4人分のテーブル席へ座り、各自メニューを選ぶ。俺はいつも頼むメニューがあるけど、2人は初めて来たからか、何を頼もうか迷っているようだ。ま、ここのはハズレはないからどれを選んでも大丈夫だろう。

 

 それから注文を済ませて、しばらくするとメニューが運ばれてくる。

 

「「わぁ〜......‼︎」」

 

 陽鞠たちの手元に並べられたのは、シンプルなメープルシロップのパンケーキ。ふんだんにかけられたシロップと、甘い匂いがほんのりと香るそのパンケーキに2人は目をキラキラと輝かせていた。

 

「いただきまーす!」「いただきますっ」

 

 食前の挨拶の後、2人は一口サイズに切り分けたパンケーキを口に頬張る。果たして2人の口に合っただろうか......その答えが返ってくるのを、俺は静かに待つ。

 

 そして、

 

「おいしいです!」

「......そうか。そりゃよかったよ」

 

 陽鞠の友達からは絶賛の声が上がり、思わず俺も嬉しくなる。そう言ってもらえると、ここへ連れてきた甲斐があったってもんだ。

 美味しそうにパンケーキを食べる彼女からふと、陽鞠の方へ目をやると、

 

「すごいふわふわ......味もしっかり染み付いてるし、何か特別な材料でも使ってるのかな? それとも工程に工夫が......」

 

 ぶつぶつと呟きながら、パンケーキを睨みつけるように凝視していた。

 出た出た......陽鞠の料理分析。その道に携わる人間の性なのか、気になる料理があると、こうして考え込んでしまう癖が陽鞠にはたびたびあった。研究熱心なのはいいことだけど、こうなってしまうと独り言がしばらく続いてしまうんで、止めるべく俺は陽鞠に声をかける。

 

「ったく......おい、こういう時くらい普通に食えっての」

「......へ? あ、ごめんごめん! あんまりにも美味しくってさ〜」

 

 やってしまったと言わんばかりに、苦笑いを浮かべる陽鞠。

 

「ふふっ。でも、陽鞠ちゃんはすごいね。こういう時でもちゃんとお料理のこと考えてるなんて」

 

 そんな陽鞠の癖を咎めることもなく、長所として陽鞠の友達は受け入れていた......なんていい子なんだ。それに対し、照れくさそうに陽鞠はえへへ、と笑みをこぼしていた。

 

「おにーちゃんのそのパフェもおいしそうだよね〜」

 

 と、今度は俺が頼んだチョコレートパフェに、陽鞠は目をつけ始める。

 

「......やらねーぞ?」

「ええ〜っ⁉︎ 一口だけでいいから〜!」

「騒ぐなよ......! はぁ......しょうがねえヤツだな。ほら」

 

 駄々を捏ね始めた陽鞠を宥めるため、一口分をスプーンで掬って、陽鞠に差し出した。

 

「あーん......ん〜♪ こっちもおいしいね!」

 

 落ちるほっぺたを押さえる陽鞠。ま、お気に召したんなら何よりだし、美味いもんを誰かと共有するのも食事の醍醐味だもんな。後でちゃんと対価のパンケーキはもらうけど。

 

「間接......」

「ん?」

 

 そこで、ボソッと小さな声と、強烈な視線を向けられているのを肌で感じた俺は、その視線の元を辿る。原因は他でもない、陽鞠の隣に座る少女からだ。

 

「どうかしたか?」

「い、いえっ。なんでも......」

「?」

 

 なんかソワソワしてる様子だけど......まあいいか。

 

「って陽鞠、ほっぺたついてんぞ」

「えっ、取って取ってー」

「自分で取れよ......」

 

 そう言いながら俺は陽鞠の頬についていたチョコクリームを指で掬い取った。すると───

 

「はむっ」

「⁉︎」

 

 クリームのついた俺の指を、陽鞠はぱくりと口に咥える。それを見ていた陽鞠の友達は驚愕の色に染まった。

 

「ひひひ、陽鞠ちゃん⁉︎」

「んー? どうしたの? そんなに真っ赤になって......」

「男の人の......! 咥えて......!」

 

 ......もうちょっと言葉を増やした方がいいと思いますけど。

 ともあれ、この子にとっては少し刺激的すぎたか? 確かに男女間の行為としては結構距離感が近いけど、子供の頃からのやりとりだしな......けど、ここは変に誤解される前に軽く弁明を挟んでおくか。

 

「あー、昔っからこういう()()()()()とこあるんだ。気にしなくていいから」

「むっ......! おにーちゃんだって負けず嫌いなくせに! この前も一緒にゲームやった時に、私に勝てなくて意地になっちゃってさ!」

「そ、そんなの今関係ねえだろっ!」

「まったく失礼しちゃうなぁ......親の顔が見てみたいっ」

「オメーと同じとこから生まれてんだよ!」

「それっておにーちゃんの感想だよね?」

「紛れもない事実だわ! つーか俺のことおにーちゃんって言ってるだろ!」

「2人ともっ、お店の中だから静かに......!」

「「......すみません」」

 

 俺の言葉が気に障ったらしく、反抗してきた陽鞠と言い合い(?)になってしまいそうになったが、すかさず陽鞠の友達から諌められたんで自重する。年上の俺がしっかりするはずが......反省だ。

 

「本当に2人とも、仲がいいんですね」

 

 喧嘩するほど仲がいいと思われてるのか......まあ別に普段から喧嘩してるわけじゃないけどさ。さっきのも戯れ合いのうちだとお互いわかっててやっていることだ。

 

「なんだかんだ家族の中じゃ1番一緒にいる時間が長いからねー。おとーさんとおかーさんは家空けちゃってるし、おねーちゃんも仕事があってそこまで家にいるわけじゃないからさ」

「あ......そうなんだ......」

 

 俺たちの家庭事情を知った陽鞠の友達は、申し訳なさそうに眉を曇らせる。それを見兼ねて、陽鞠は慌ててフォローを入れた。

 

「もう、そんな顔しないでよ〜! 別に私は平気だし! おにーちゃんもいるから、退屈はしてないよ!」

「陽鞠ちゃん......」

「まぁ、全然寂しくないって言ったら嘘になるけど......」

 

 一旦間を置いて、陽鞠は続ける。

 

「でもみんな頑張ってるから。私も頑張らなきゃなって!」

 

 両手を握りしめて、意気込む陽鞠に、俺はどこか心苦しさを感じる。その内心を悟られないよう、俺は陽鞠にそっと微笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 昼も済ませたところで、俺は2人と別れて自宅に戻ろうとしたが、陽鞠の要望でもう少し付き合うことになった。

 

「あ! ここ、ちょっと見てってもいい?」

 

 近場にあったショッピングモールに入り、いろんな店が並ぶ施設内を眺めながら歩いている中、陽鞠の目に留まったのはかわいらしい小物が並ぶ雑貨店。そこに立ち寄っている客も、大半が中高生の女性客で賑わっていた。

 

「好きにしろよ。俺はあそこのベンチで待ってるから」

「私もちょっと足が疲れちゃったから、少し休んだら行くよ」

「おっけー!」

 

 トコトコと店の中へ入っていく陽鞠を見届けた後、俺と陽鞠の友達はベンチに向かい、座る。そこで、ある問題が発生してしまう。

 

「「............」」

 

 そう。仲介役の陽鞠がいないんで、すごく気まずいということだ。俺はそこまで世間話ができる人間じゃないし、それはきっとこの子もそうなんだろう。今まで会話の切り出しがだいたい陽鞠だったから、いざこの2人だけってなると、こういう状況になるのはもはや当然の結果だった。

 

 無言の時が流れること数十秒。さすがに我慢しきれなくなった俺は、この居た堪れなさを打開すべく、無いコミュ力を振り絞って声をかける。

 

「そ、そういえば、学校での陽鞠ってどんな感じなんだ?」

「えっ? うーん......」

 

 当たり障りない話題を選んだつもりだが、こういうのって普通親が聞くようなもんだよな......まあでも、他人の目から見た陽鞠がどんな風に映ってるのかは気になるのもまた事実なわけで。

 数秒の思考の末、考えがまとまったらしい陽鞠の友達は口を開く。

 

「お兄さんと一緒にいる時の方が、少し甘えん坊さんみたいに見えます」

「そうなのか?」

 

 どうやら学校にいる時とじゃ、陽鞠の印象が若干違うらしい。

 

「はい。学校にいる時の陽鞠ちゃんは、明るくてしっかり者で、どんな人にも優しくて。全然自分のワガママとか言ったりしないんです」

 

 なんだその優等生っぷりは......アイツのことだから別に疑ってはいないけども。

 片や人当たりが良く人徳に恵まれ、充実した学校生活を送る陽鞠と、片や高校2年生にもなって数えられる程度にしか友人がいない俺。本当に同じ血が流れてるのかと思うくらい、俺と陽鞠の人望の差は雲泥だった。

 

 だのに、陽鞠の友達はあまり浮かない顔をしている。

 

「だから時々、無理してるんじゃないかなって思う時もあって......」

 

 無理してる......か。

 俺にとって陽鞠は昔からああだった......いや、昔は今よりも甘えん坊でよく俺や姉貴に引っ付いていたからな。歳を取るにつれてだんだんとその度合いは鳴りを潜めてきたけど、今でも子供っぽいところはある。

 俺といる時の方が本来の陽鞠だとしたら、学校での陽鞠は無理をしてるんじゃないかと、この子はそう考えてしまったわけだろう。

 

「ありがとな。陽鞠のこと、心配してくれて」

 

 ともあれ、妹のことを大事に思ってくれるのは、兄として頭が下がる想いだった。

 

「さっきの話......陽鞠はああ言ってたけど、あいつ結構な寂しがり屋だからさ。やっぱりどっかで我慢してるんだと思う」

 

 陽鞠が高校に上がってからというもの、家族全員でいる機会は滅多になくなった。それに加えて、今まで人に甘える、頼る側だったのが頼られる側になったことで精神的に負担があるはず。

 そしてそれを助長している要因が俺にもある。

 

「俺も、最近は学校での同好会の活動で、帰りが遅くなったりする時が増えたりしてて......1人きりにさせて、なんか申し訳ないなって思っちまう」

「......その気持ち、なんだかすごくわかります」

 

 ぽつりと共感の意を示す陽鞠の友達。

 

「私にも姉がいるんです。だけど、うちはあまり裕福じゃなくて......仕事で忙しい母の代わりに、姉が家のことをやってくれているんです」

 

 どうやらこの子にも自分の家庭環境に何か思うところがあるようで、それを重ねていたみたいだ。

 

「それだけじゃなくて、奨学金で学校に通ってるから勉強も頑張ってるし、バイトもやってて......」

 

 聞いているだけでも、この子の姉は相当ハードな生活を送っているらしい。そしてこの子はそんな姉に対して、負い目を感じている様子だった。

 

「それに比べて私は何もしてあげられなくて......このままでいいのかなって思っちゃって......」

「......そっか」

 

 正直、なんて声をかけてあげればいいかわからず、俺は相槌を打つことしかできなかった。

 この子の気持ちは理解できるつもりだ。だけど、俺自身、陽鞠のことに対して何も答えを見出せていないのに、まともなアドバイスができるわけがない。

 

「す、すみませんっ。突然こんなこと言われてもしょうがないですよね! 忘れてください!」

 

 その反応が迷惑がられていると思ったのか、陽鞠の友達は立ち上がり、バッと頭を下げた。

 

「いや、謝ることないさ。気にすんな」

 

 宥めるようにそう言って俺は彼女を座らせた。悩み事は少しでも口に出せた方が、いくらか気も楽になるだろうしな。

 

「いいお姉さんなんだな」

「......はい! 自慢のお姉ちゃんなんです!」

 

 俺の言葉を聞いて、陽鞠の友達はパッと顔を輝かせる。その笑顔を見るだけで、この子は本当にお姉さんのことが好きだってことがすぐにわかった。一生懸命頑張っているお姉さんと、そんなお姉さんを尊敬しているこの子。その関係性は、姉妹としてすごく素敵なものだと思う。

 

 ......それに比べて、俺は陽鞠にとって誇れるような兄になっているんだろうか。そんな不安が密かに俺の中で渦を巻いていた。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

「はぁ......」

「近江先輩、なんか今日ため息多いですね......何かあったんですか?」

 

 翌日、同好会部室にて。やたら落ち込んでいる様子の近江先輩は本日何度目かのため息を吐く。さすがに放っておくわけにもいかないんで、何があったのかと聞いてみると、

 

「晴陽くん聞いてよ〜。昨日()()()()がね〜......」

 

 遥ちゃんとは先輩の妹さんのことだ。先輩はシスコn......妹さんへの愛が強すぎるんでこうしてよく妹さんのことを嬉々として話してくるんだが、今日はいつもと違う口振りだった。

 

「妹さんがどうかしたんですか?」

「昨日、遥ちゃんとお話してたらね......遥ちゃんの口からが男の人の話が出てきて......」

「......はぁ」

 

 そんなことか、とは少し思ってしまったが、先輩にとっては一大事みたいだし、グッと堪えて話の続きに耳を傾ける。

 

「聞いたら、その人は遥ちゃんの友達のお兄さんみたいでね......」

 

 先輩が言うには妹さんとその相手は昨日、一緒にお昼を食べたり、買い物に付き合ってもらったという。そこだけ聞けば、何も不安がらなくてもいいんじゃないかとも思うけど......

 

「もし......もしだよ?」

 

 激情を押し殺しているような、近江先輩の低い声。これは......ヤバイ。

 

「遥ちゃんを誑かしてるなんてことがあったら............ふふっ」

 

 あのふわっとした近江先輩からは想像つかないくらいドス黒いオーラが溢れて出ている。もし万が一だった場合、一体どうなるんだろう......いや、考えるのはちょっとやめておこう。なんか怖いし。

 

「お、落ち着いてください近江先輩。まだそうと決まったわけじゃないんですし、ひとまず様子を見てみたらどうです?」

「......うん。確かにそうだよね。ごめんね晴陽くん、彼方ちゃん、つい取り乱しちゃったよ〜」

 

 慌てて近江先輩を落ち着かせようとする俺に、先輩はハッとして我に帰り、いつもの雰囲気へと戻る。

 

「はは......お気になさらず......」

 

 相手側の人もまさか自分が危険視されてるとは思わないだろうな......

 ともかく、最悪の事態が訪れないためにも、その人が良い人であることを切に願いながら、苦笑いを浮かべるだけだった。

 

 

 




 
 
 
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