前回のあらすじ。
ジョイポリスへ遊びに来た晴陽と璃奈たち。
そこで一行は璃奈のクラスメイト、川井田浅希、若井色葉、桑原今日子と鉢合わせる。
3人からジョイポリスのライブステージについて話を聞いた璃奈は、そこでライブをすると決意した。
───一方、作者は先日アイカツ!シリーズを見終えたのだった。
「最後のいらねーだろ!」
「えぇ〜‼︎ ライブぅ⁉︎」
「うん」
天王寺からのライブ宣言に中須は目を見開いて大きく驚いた。
全員が部室に集まってから、天王寺は大事な話があると切り出して、先日のジョイポリスでの出来事をみんなに説明した。
「それは急な話ですね......」
当然というべきか、優木からも戸惑いの反応が返ってくる。
「いろいろ足りないのはわかってる。でも、みんなに見てほしくなって......」
唐突な報告に申し訳なさそうにしながら、今回のことに対する自分の気持ちをみんなに伝える。
「それにPVはキャラに頼っちゃったから。クラスの子は良かったって言ってくれたけど、あれは本当の私じゃない」
天王寺の自己紹介のPVには、マスコットキャラクターが使われていて、その声を当てているのは天王寺だけど、肝心の天王寺自身がそのPVには全く映っていない。もちろんそのことに関して不思議がっているコメントやらはあったし、川井田たちのように面白いと言ってくれる人たちも少なくはない。
でもそれじゃダメだと、天王寺は感じているようだ。
「ダメ......かな?」
おそるおそる聞いた天王寺に返ってきた答えは......
「いいんじゃない?」
最初にそう言ったのは宮下だった。
「りなりーの好きなようにやってみなよ!」
「うん。決めるのは璃奈ちゃんだよ」
宮下に続いてヴェルデ先輩も、天王寺の気持ちを尊重するようだ。
「璃奈さんの決めたことなら、私も応援しますよ!」
「はい! チャレンジしたいって気持ちは大切なことですから!」
優木、桜坂も天王寺の背中を後押しする。
「それで、いつやるのかは決まってるの?」
「それが、空いてたのが来週の土曜......」
「ホントに急じゃん⁉︎」
ひとつ問題なのが、ライブの開催予定日。それを尋ねた朝香先輩に天王寺が答えると、中須がまたも愕然とする。
そうなんだよな......ライブをやるにはあまりにもかつかつなスケジュールだ。けど、このタイミングを逃すと、次にステージを使わせてくれるのがいつになるのかがわからなくなる。所詮はただの学生の集まりでしかないスクールアイドルにおいて、学園以外のライブ会場を押さえるのはまず難しい。今回のジョイポリスも、俺たち以外にもライブステージとして使いたいスクールアイドルたちは山ほどいるようで、その上で空いているのが来週の土曜日しかないって状況だった。
「まあまあ。璃奈ちゃんがやるって決めたなら、私は手伝うよ!」
「愛さんも!」
「わ、私も!」
「もちろん私もです!」
「ふふっ。結局そうなっちゃうよね〜」
侑の言葉を皮切りに協力的な声を上げるみんなだったが、俺はどうにも不安が拭いきれない......本当に大丈夫なのか? 助け合いの姿勢は結構なことだ。だけど、このまま勢いに任せてしまうのはどうなんだろう。
「ちょっと待ってくれ」
そこでストップをかける俺に、全員の視線が集まった。
「水を差すようでわりぃけど、ライブの日まで準備期間が2週間もない。これは思ってるよりも、かなり厳しい条件だぞ」
「......うん」
「本当に、やり切れんのか?」
場が静まり返り、室内は静寂に包まれた。
天王寺の初ライブ。それは俺にとっても楽しみなことで、応援する気ももちろんある。だけど、あまりにも時間に余裕がない。成功させるには相当な覚悟が必要だ。これから先ライブをやる機会は増えていくだろうし、今焦って無理にやる必要もない。
それに生半可な気持ちで挑めば、絶対に後悔する。
そんなことになってしまうくらいなら、俺は無理矢理にでも天王寺を引き止めるつもりだった。
だけど、そうはならなかった。
「───うん。やってみせる」
俯いて、少しだけ考え込んだ天王寺は、決意に満ちた眼差しで俺を見つめてそう答えた。
数秒、俺と天王寺の視線がぶつかり合い、一触即発の空気が立ち込める。
どうやら天王寺も譲るつもりはないみたいだ。
その熱意を確かに受け取った俺はそっと目を瞑り、口を開く。
「......わかった。そこまで本気なら、俺も手伝うよ」
そこで、張り詰めていた空気が一気に和らぐ。俺と天王寺の様子をハラハラとした面持ちで見ていたみんなも、ほっと胸を撫で下ろしていた。
余計な不安をかけてしまったのは申し訳ないが、これだけはどうしても確認したかった。
天王寺がそこまで覚悟を決めたんなら、俺も覚悟を決めて天王寺をサポートしなきゃな。
「晴陽さん......ありがとう」
そうして、ジョイポリスでのライブに全員の賛成が得られたところで、ライブのための準備に取り掛かるわけだが。
「ステージ演出はある程度希望に沿ってくれるみたいだけど......」
「映像なら、自分で作れる」
演出について意見を求める侑に、天王寺は問題なさそうに言ってみせた。
さすがは情報処理学科だな。ジョイポリスの方も機材はかなり整ってるみたいだし、いろんなことができそうだよな。
「りなりー、得意だもんね!」
「うん、でも......」
声色からして何かが気がかりな様子の天王寺。
「パフォーマンスの方は自信ない......だから、教えて欲しい」
なるほど、そういうことか。でもそれなら......
「当たり前じゃん! 愛さん、とことん付き合うよ!」
「はい! 璃奈さんの大好きの気持ちをきちんと届けられるよう、私もお手伝いします!」
「あぁ! お二人ともズルいですぅ! かすみんが先に言おうと思ったのに〜!」
だよな。みんなが協力してくれないわけがない。
これは天王寺だけじゃなく、生まれ変わった同好会としての初めてのライブでもある。だからこそみんな、他人事ではいられないんだろう。
まぁ、それが一番の理由ってわけじゃなさそうだけどな。
和気藹々と賑わうみんなを見て、俺はそう感じ取っていた。
「よーし! それじゃ、みんなでりなりーの特訓だー!」
「特訓開始の宣言をしちゃってください! せつ菜先輩‼︎」
「はい! 特訓開始ィィィ‼︎」
「なんか決闘始めるノリなんですけど⁉︎」
......本当に大丈夫かよ。
そんな感じで天王寺の初ライブに向けて、同好会総出で特訓が始まった。
......とはいっても、何か特別なことをするんでもなく、いつも通りグループに分かれて練習するだけだ。
まずはアイドルのパフォーマンスの要である歌とダンス。
ダンスの特訓では、以前にも問題視されていた天王寺の柔軟性が懸念だった。けど、今までもコツコツとストレッチを重ねていたおかげか、あの頃とは見違えるほどに身体が柔らかくなっていた。
柔軟性についてはいい傾向なんで問題はなさそうだ。その調子でストレッチは続けていくとして、体幹方面も重視して鍛えていくことになった。
歌の特訓では、腹式呼吸や発声といった基本の練習がメインだ。演劇部で誰よりも声の出し方には心得がある桜坂がコーチとして教えてくれている。歌に関しては俺も練習していたこともあったし、それなりに技術として身についているんで、アドバイスできるところはしていった。
あとはMCの練習......いや、これに関しては中須と侑がはしゃいでただけだな。うん。
まぁ天王寺がMCもやるって決めたことだし、天王寺に合ったMCができるよう、手探りでやっていくしかないか。
そして特訓が始まって数日。いよいよ天王寺の曲を作るべく、俺と天王寺は部室で作曲作業へ本格的に取り掛かろうとしていた。
「よし。じゃあ始めるとするか」
「うん。でも私、作詞なんてやったことないし、ちゃんと手伝えるか不安......」
「おいおい。そんな難しいことさせるつもりないから、もうちょっと気楽にしてくれよ? 楽しい気分じゃないと、楽しい曲は作れないからな」
俺はそう言いながら、ポンポンと天王寺の頭を軽く叩いた。
「......うん。それで、私は何をしたらいいの?」
「天王寺には、曲を作るにあたって、まずコンセプトを考えて欲しいんだ」
「コンセプト......」
「その曲で天王寺は何を伝えたいのか、どんな想いを届けたいのか。それが作詞の下地になる」
まずは曲全体のイメージを決めていこうと思うんだが......
「..........................................」
まるで時が止まったかのように微動だにしない天王寺。まさかフリーズしてる......?
まあ、いきなり作詞なんて簡単にできるもんじゃないからな。俺も曲を作り始めた頃は、上手く詞を書き起こせなくて一日中ずっと考えてたなんてこともあったし。
「......難しく考えなくていいぞ。ざっくりとで大丈夫だ。単語でもいい。とにかく頭の中に浮かんだイメージをどんどん教えてくれ」
こういう時はだいたい、思い浮かぶものがたくさんありすぎて、どう言葉にすればいいか悩んでるってパターンだろう。だけど、今は何か取っ掛かりが欲しい段階だ。天王寺にはアイデアを出してもらう、それを形にしていくのが俺の役目だ。
初めてのことだからすんなり行くわけもないだろうけど、こればかりは天王寺に頑張ってもらうしかない。
「───繋がりたい」
考え込んでから数分。口から溢れ出したみたいに、天王寺はぽつりとそう言い放った。
「私はこのライブで、見に来てくれたみんなと気持ちを繋げたい」
天王寺にとって並々ならない想いが、そこにはあるようだ。
「......私、小さい頃から表情出すのが苦手で、友達もいなかった」
不意に天王寺は、自分のことについて語り始める。
「誰とも上手く仲良くなれなくて、ずっと1人で......もうこのまま変わらないのかなって思った」
「天王寺......」
さらに天王寺の独白は続く。
「でも、あの時せつ菜さんのライブを見て、胸が熱くなった。せつ菜さんのスクールアイドルが大好きって気持ちが伝わってきた。ううん、私だけじゃない。たぶん、あの場にいたみんなの気持ちがひとつに繋がってた......だから」
あの屋上でのライブを思い浮かべているのか、その目を閉じながらも天王寺は言葉を澱みなく紡いでいた。
そして、目を開いた天王寺は俺の目を見据えて続ける。
「そんな風に、私の楽しい気持ちとか嬉しい気持ちとか......みんなと共有し合いたい。もっともっと私の気持ちを感じてほしい......!」
そうか......だから天王寺はこんなにも必死になって......
感情表現に乏しい天王寺にとって、みんなと気持ちをひとつにできるスクールアイドルは、自分の気持ちを伝えることのできる希望なんだ。
俺が思うよりも、このライブに懸ける天王寺の想いはとても大きなものだった。
「でも、本当に私にできるかなって、思っちゃうこともある......」
そんな今までの自分があったからか、不安そうに俯いてしまう天王寺。
「......天王寺はさ、歌ってどんなもんだと思う?」
「歌......?」
俺にそう尋ねられた天王寺は首を傾げる。
まあ予想通りの反応というか、こんな漠然とした質問に即答できる人の方が少ないとは思うけど。
「まあいろいろイメージはあると思うけど、俺が思うに、歌っていうのは『心の叫び』だと思うんだ」
答えが出せそうにない天王寺に俺は自分の考えを伝えた。
大袈裟な言い方かもしれないが、俺にとっての歌はそれくらい大きな意味を持っている。
「だってさ、普段は素直に言えないような言葉を、歌を通してなら言える。楽しいことも嬉しいことも、悲しいことだってさ」
世界にはいろんな歌があって、いろんな心を歌ってる。その歌たちは歌う人や作る人の実体験、或いは作品の人物なんかの心情をもとに作られるのがほとんどだろう。それに共感して聴いてくれる人がいるからこそ、歌は絶えず作られていくんじゃないだろうか。
それならきっと、天王寺の歌も届くはずだって俺は信じてる。
いや、そんな曲を俺は作らなきゃいけないんだ。
「歌なら、天王寺の気持ちも聴いてくれる人にきっと伝わるはずだ。だから、もっと教えてほしい。天王寺の気持ちをさ」
「......! うん......!」
少しだけ表情が晴れやかになった天王寺はその後、歌に込める自分の想いやイメージを上げていき、作詞は順調に進むことができた。
ご無沙汰してます、UkiAです。
新年に入ってからというもの、リアルの事情で執筆に時間を割くことができず、約5ヶ月という間が空いてしまって申し訳ないです。
今後も更新頻度は少ないとは思いますが、本編1期の内容までは頑張って書いていきたいので、読者の方々には気長に待っていただけたらと思います。
では、また次回にて。