前回のあらすじ。
なんか(女子の前だけ)イケメンが同好会にキター。
ジョイポリスでのライブが翌日に差し迫り、今日が本番前の練習最終日。当然俺もその練習に付き合おうと思っている......思っているんだが、その気持ちとは裏腹にホームルームが終わっても尚、俺は自分の机から動けずにいた。その理由は他でもない、天王寺のことを考えていたからだ。どうにも心がざわついて落ち着かない。昨日のことが頭の片隅でひっかかっていて、今日はずっともやもやしっぱなしだった。
「ハールっ!」
「うおっ」
後ろから勢いよく声をかけてきた侑に、意識を戻された俺は思わず驚きの声が漏れ出た。
「いきなり後ろから来んなよ......」
「隙だらけなハルが悪いんだよ。背中の傷は剣士の恥だってせつ菜ちゃんも言ってたよ?」
いや、別にそこまで大袈裟なもんじゃないから。
「ほら、早く部室行こう!」
呆れる俺を気にもせず、いつものようなカラッとした笑顔を見せる侑。だがこの強引さに、固まっていた俺の足もようやく動かす気になれた。
「あ、あぁ......そうだな」
そう言って席から立ち上がる。何はともあれ、まずは部室に行かないとだな。何かあれば、その時はその時だ。
「やぁ」
開き直った気持ちで教室を出たところ、そこには雨宮が俺たちを待っていたかのように立っていた。
「潤くん!」
「こんにちは、高咲ちゃん。今日も元気いっぱいでかわいいね」
侑に名前を呼ばれるや否や、雨宮は目の色を変えて、いつものようにキザったらしい言葉をかける。
「あはは......私にお世辞言ってもしょうがないんじゃない?」
それを受けて侑は困惑したような笑みを浮かべた。
そんな侑に雨宮は、
「お世辞じゃないし、しょうがなくなんかないさ。君の笑顔は見てるこっちまで楽しくなってくるからね。高咲ちゃんはいつも魅力的な女の子だよ」
......今更だけど、こいつのメンタルと自己評価高すぎないか? そんじょそこらのヤツじゃこんなセリフ面と向かって言えないだろ。いや、雨宮がイケメンなのは事実だから否定できないけどさ。だからモテてるわけだし。ただ、俺への対応を思うと素直に尊敬できない。
「えぇっと......そこまで言われるとさすがに恥ずかしいかな〜......!」
侑も侑で満更でもなさそうだった。俺は何を見せられてるんだ?
「んで、わざわざ何の用だよ? そんなこと言うためだけにここに来たんじゃないんだろ?」
「全くせっかちだなぁ、やれやれ」
いや、用があるのはお前の方だろ......
「高咲ちゃん、ちょっとおたくの小日向さん借りてくよ」
「えっ? 私は大丈夫だけど......」
......なんとなく雨宮がここにきた理由がわかってきた気がする。
「......わりぃな。先行っててくれ」
「うん。じゃあまたあとでね!」
侑は足早に部室の方へと向かっていった。
「なぁ、小日向」
瞬間、真剣な表情になる雨宮。一体何が......?
「高咲ちゃん、イイ女の子になってきたよなぁ......!」
..................こいつ何言ってんの?
「いや初めて会った時からずっとイイんだけどさ? スクールアイドルに出会ってからどんどん魅力的になってってるよ。やっぱり好きなものに夢中な女の子は輝いて見えるね───って待て待て」
雨宮の話を無視して部室に行こうとしたら肩を掴まれた。
「スルーなんてそんな寂しい反応したら、お兄さん悲しいゾ☆」
イラッ。
「......あのなぁ。わりぃけど、いつものおふざけに付き合ってる暇はないんだよ。お前も状況わかってんだろ?」
明日は大切なライブが控えてるってのに、今は時間を無駄にしてる場立ちじゃない。
「やだわ小日向くん、"いつもの"だなんて......もしかしてなんだかんだ楽しみにしてたの......?」
「オメェまじではっ倒すぞ⁉︎」
もうダメだ......これ以上続けるつもりなら殴り飛ばしてでも部室に行かせてもらう。
「はははっ。ごめんごめん、からかいすぎたな。この続きはまたあとでやるとして......」
「金輪際やらねえよ!」
この調子だと、まともな話かどうかすら危ういんだが......
「とりあえず本題だな。ここに来たワケなんだが......昨日の天王寺ちゃんの様子、覚えてるだろ?」
「情緒どうなってんだお前......まぁ、なんかおかしかったよな」
「それがどうにも気にかかってな......嫌な予感が止まらないんだよ」
ただの気のせいだろ、とは言えない。俺もさっきまで同じように考えていたからな......
「そこでだ。練習の前に、天王寺ちゃんと話をしてみたい。何か悩み事があるんなら、できる限り解消しておかないとね。ただの思い違いなら俺たちの杞憂で済むし」
「ふーん......ちゃんと考えてるんだな」
「モチのロンさ。俺はいつだって女の子第一だぜ?」
そのセリフさえなければカッコよく締まったのにな。
「それに、俺の予感は結構当たりやすいんだよね。いい意味で当たったことはあんまりないケド」
変わらずへらへらとした物言いに対して、言葉の端々にどこか憂いを帯びている。その様子に若干引っ掛かりつつも、俺は一歩踏み出す。
「そういうことなら、さっさと行こうぜ。時間もないんだし」
何よりもまず、目の前の問題を解決しなくちゃならない。
じわりと染みるような不安を感じながら、俺と雨宮は天王寺のところへと早足で向かった。
1年生の教室棟。そのうちの、天王寺が所属する情報処理学科の教室のすぐそばまで、俺たちはやってきていた。
「ちょうどホームルームが終わったみたいだな」
「あぁ、行こう」
そう言って天王寺のクラスへ向かおうとした瞬間。
「あ! 潤先輩だ!」
廊下にいた女子の1人が、雨宮の存在に気づいて声を上げた。
「本当だ!」「なんで1年の教室棟に⁉︎」「やっば......マジでかっこよすぎるよね......」
それに連鎖するかのように、いろんなところから黄色い歓声が湧き上がる。爆発してくれ。
「えっ⁉︎ なんか私のこと見てない? ナズェミデルンディス⁉︎」「はぁ⁉︎ あんたなんか見るわけないでしょ! 何を証拠にズンドコドーン!」「次そんな妄想口にしてみなさいよ。私はあんたをムッコロス!」
一部興奮しすぎて何言ってるかわかんないけど、ちょっと騒ぎになってきたな......どんだけだよ。
「さすがに見てみぬふりはできないかなぁ......ちょっと落ち着かせにいってくるよ」
「お、おう......大変だな」
争いの火種になってしまった責任からか、女子たちの仲裁へ向かっていた雨宮。しょうがねえヤツだな......とりあえず俺だけでも先に話を聞きに行くか。
教室の入り口から中を見渡す。天王寺のヤツは......いないのか?
「あれ? 小日向先輩?」
天王寺を探していると、不意に名前を呼ばれ、そっちへ視線を向ける。
そこには川井田、そして桑原と若井がいた。
「ほんとだ。どーしたんです? こんなところで......」
物珍しそうな感じで若井が尋ねてきた。
「その、天王寺と話がしたいんだけど......」
「天王寺さん? 今日はお休みですよ?」
「や、休み!?」
思わぬ返答につい声を張り上げてしまった。
「えっと......そのリアクションだと、同好会のみなさんには連絡が来てない感じですか......?」
「あ、あぁ。初めて聞いたぞ......」
遅刻や休みの連絡は大抵、同好会のグループチャットにみんな送ってくるんだが、天王寺からはそういった連絡は一言も送られていない。天王寺の性格からして、こんな大事な時に練習をサボるなんて考えにくいし、明らかにこれは異常としか思えなかった。
「そっか。天王寺ちゃん、来てないのか......」
そこで仲裁を終えたらしい雨宮がぬるっと入ってきた。
「わぁっ! 潤先輩⁉︎」
驚いた若井の声で、今度は教室の中の女子たちが騒然とする。もうお前来ない方が良かっただろ......いや、そんなことはどうでもいい。
「どうすんだよ? 本人がいないんじゃどうしようもなくないか?」
当初の予定が破綻した今、俺たちにできることがなくなった。それどころか天王寺が不在という事実に、明日のライブすらままならない状態になってしまった。
「......いや」
八方塞がりの中、雨宮がおもむろに口を開く。そしてその眼差しを川井田たち3人へと向ける。
「3人とも、時間大丈夫かな?」
「「「えっ?」」」
場所を移して、俺たちは比較的人の少ない場所にやってきた。
「昨日の天王寺さん、ですか?」
「うん。昨日話してた時に、何かおかしなところとかなかったかい?」
雨宮は天王寺ではなく、川井田たちに話を聞くことにしたようだ。確かに、それまで普通に練習に取り組んでいたはずの天王寺の様子がおかしくなったのは、3人と接触してからだ。そこに原因があるとすれば、川井田たちも当事者といえる。
「なんでもいいんだ。些細なことでも、気づいたことがあれば教えてくれないかな」
「......そういえば」
心当たりがあるように川井田が、
「昨日天王寺さん、私たちに何か言おうとしてたよね......?」
「確かに。でも、急に落ち込んじゃった感じで、なんでもないって......」
桑原も共感して頷いていた。
「なるほど......」
「間違いなく、そこで天王寺に何かあったんだろうな......」
決定的ともいえる証言。だけど、何があったのかまではわからないな......
今の天王寺に影響を与えるもの......天王寺の......
そこでふと、あいつの言葉が脳裏に過ぎる。
『小さい頃から表情出すのが苦手で───』
『もうこのまま変わらないのかなって───』
くっ、もうちょっとで何かが掴めそうな気が......
「ん?」
ふとポケットに入っているスマホが震え出し、画面を確認すると歩夢からの着信だった。
『もしもし、ハルくん?』
「おう、どうかしたか?」
『実はね───」
歩夢からはみんなの動向を説明してもらった。天王寺が来ないことに違和感を覚えたみんなは、どうやら直接話を聞くことにしたらしく、天王寺の家へと向かうことになったようだ。
「雨宮」
「聞いてたよ。やっぱり直接聞いた方が早いよな」
ここで推測したところで事態が変わるわけでもない。俺たちも天王寺とは話をしてみたいし、歩夢に頼んで位置情報を送ってもらった。
「よし。俺たちも急ごう」
「ああ。3人とも、話を聞かせてくれてありがとね」
礼を伝えて、天王寺のところへ向かおうとしたところ、
「あ、あのっ!」
川井田から呼び止められ、振り返ろうとした体を再び3人へ向ける。
「天王寺さん、大丈夫なんでしょうか? ライブ、明日なんですよね?」
不安そうに天王寺への心配をあらわにする。それはそうだ。川井田たちだって明日のために天王寺がこれまで頑張ってきたことを知ってる。それが報われないのは......俺も嫌なんだ。
「それは───」
「大丈夫だ。あいつなら絶対にやり遂げられる」
雨宮が何かを言う前に、俺は言葉を返した。
俺は信じてる。ライブを決意した時の、天王寺の目を。だから、大丈夫。俺がなんとかしてみせる。
「うん。今はちょっと気持ちに整理がついてないだけかも。天王寺ちゃんなら、きっと立ち直れるよ」
そんな俺の意を察してか、雨宮もフォローを入れてくれる。
そんな俺たちの言葉に川井田は何かを決めたような顔つきになった。
「あの、おふたりにお願いが!」
******
「あっ、ハルたち来たよ!」
マップアプリのナビ通りに移動し、大きなマンションの入り口前に着くと、侑たちの姿を見つけた。
「わりぃ、待たせた!」
「大丈夫だよ。こっちこそわざわざ来てもらってごめんね?」
「こんな状況なんだ。みんなに任せっきりってわけにはいかないだろ」
申し訳なさそうにする歩夢に、俺は首を横に振った。
「はぁ〜......かすみんびっくりしましたよ〜! りな子が来ないって思ったら、愛先輩が一目散に走り出して行っちゃうんですもん!」
「ごめんごめん! りなりーに何かあったって思ったら、居ても立っても居られなくなっちゃって。それに、あのままじっとしてても何も始まらないし!」
そんな経緯があったのか。なんとも宮下らしいけど。
「さすがだな」
「別に褒められることじゃないよ〜。それにもしあの場に晴陽がいたら、同じようなことしたと思うよ?」
「え、そうか?」
「自覚ないんかいっ」
えぇ......? まさか宮下にツッコまれるとは......
「とにかく、璃奈さんのところに行きましょう!」
「優木ちゃんの言う通りだよ。イチャつくのは問題が解決してからね?」
いや、どこがイチャついてるように見えるんだよ......と、反論したいものの、急いでるのは事実なんで口を閉じる。なんでか歩夢の視線がギラついてるのはよくわからないが。
「よぉーし! いざ、りな子の部屋へ! カチコミですっ!」
なんか物騒な掛け声とともに、マンションの中へと俺たちは足を踏み入れた。
どうも、UkiAです。
ニジドリ2024年最後の更新となります。なかなか更新頻度を上げることができない拙作ですが、来年も読んでいただけたらと思います。よいお年を。