前回のあらすじ。
晴陽「お前の夢を俺にも応援させてくれ(キリッ」
翌日。すっきりとした寝覚めで玄関を出ると、ちょうど前を通りかかろうとしていた歩夢にばったりと出会った。
「あ、ハルくんおはよう。今日は早いね」
「なんか目ぇ覚めちまったからな」
「ふふっ、そうなんだ」
歩夢とマンションの外へ出て、階段の下で侑を待つ。
他愛無い会話の中、歩夢が何かに気づいたように俺の鞄へ目を向けた。
「あっ、パスケース...もうつけてくれたんだ...!」
俺の鞄につけられたブラウンのパスケースを見て、歩夢が嬉しそうに言う。
見れば歩夢もピンクのパスケースを鞄につけていた。
「つけるに決まってるだろ?......でも俺がつけるにはちょっと変じゃないか...?」
歩夢がくれたパスケースは3人お揃いで花柄のものだったため、一介の男子高校生がつけるには少しかわいすぎかとも思う。
「そんなことないよ!すっごく似合ってる!」
「そ、そうか?ならいいけどさ......」
無邪気な笑顔ではっきり言い切るもんだから照れが出てしまい、思わず頬をかく。とはいえ、そう言ってもらえるのは素直に嬉しいし、微妙な反応されるよりかは遥かにマシだ。
「ハルー!歩夢ー!」
待つこと数分。ようやくマンションから出てきた侑が、階段の上から俺たちを呼ぶ。
「待たせてごめんね〜......ってうわぁ!?」
「うおっと......!」
慌てて駆け降りていたせいか、階段を踏み外してバランスを失った侑は前のめりに倒れ込む。
幸い、俺のすぐそばまで降りてきていたからなんとか抱き止めることができ、怪我に至らずに済んだ。
「大丈夫か?」
「ぁ......ご、ごめんハル......ありがと...」
そう言って俺から離れると侑は頬を赤らめてそっぽを向く。
なんか、そんなに恥ずかしそうにされるとこっちまで恥ずかしくなってくるな......
「ま、まあ怪我しなくてよかったな......」
「いいなぁ...侑ちゃん......」
「え?」
歩夢がぼそりと何か呟いたみたいだが、上手く聞き取れなかった。そしてなぜか侑に羨望の眼差しを向けている。
「歩夢、なんか言ったか?」
「う、ううんっ。なんでもないよっ。それより早くしないとバスに乗り遅れちゃうよ?」
歩夢は自分のスマホを俺に見せる。確かに俺たちが乗るバスのいつもの時刻が刻一刻と迫っていた。
「げっ、急がねえと......!おい侑、いつまで恥ずかしがってんだよ。早くしないと置いてくぞー」
「べ、別に恥ずかしがってなんかないしっ!」
「あっ!2人とも待ってよぉー!」
相も変わらずグダグダな俺たちは慌ただしく走り出した。
*****
昼休み。
担任からの頼まれごとを終えて、自分の教室に向かっていると───
「ぷぎゃっ!」
横から飛び出してきた少女が目の前でドテリと盛大にずっこけた。その拍子にスカートもペラリと盛大に捲れた。
つまり何が言いたいかというと.........パンツさん、どうも。
「いたた......はっ!」
スカートが捲れていることに気づいた少女は瞬時に体勢を整えると、険しい顔で近くにいた俺に詰め寄る。
「み、見たんですか...!」
威嚇するように俺を睨みつける少女。しかし小柄なその体に威圧感はなく、顔立ちもとても可愛らしいものだった。くすんだベージュが特徴的なショートヘアに、1年生であることを示す黄色のリボン。
この学園に入学した時も思ったけど、ここの女子は大半が美人なんだよなぁ......
「なんのことだ?」
「とぼけないでください!み、見たんですよね!?パ、パ......」
「待て待て待て。俺は本当に見てないぞ」
「ほ、ホントですかぁ...?」
少女は訝しげに俺を見る。
「あぁ、黄色の縞々なんて俺は知らない」
「ばっちり見てるじゃないですかっ!えっち!ヘンタイ!スケベ!」
顔を赤くして俺に非難の声を浴びせる。いやいや、事故なんだからしょうがないだろ...
「かすみんのファーストパンチラが......」
「そんな言葉ねえよ」
かすみん......?
というかパンチラじゃなくてもはやパンモロだろアレは。
「これじゃかすみん、お嫁に行けないですぅ...!」
自分をかすみん、という少女はわざとらしく泣く素振りを見せる。
絶対俺のせいじゃないと思うけど、フォローの一つは一応入れておくか......
「まあそう落ち込むなって...俺もつい最近、女子にパンツ見られたことあるし」
「いやどんな慰め方ですか!そんな同情要らないですよぉ!」
どうやら火に油を注いでしまったようだった。なぜだ......
「乙女心をわかっていませんねぇ...もっとこう、『かわいいキミに涙は似合わないよ』...とか!『泣き顔もかわいいよ』...とか!」
この子の乙女心というのはお花畑でいっぱいらしい...
そもそもそんな歯が浮くような台詞が許されるのは怪盗キ○ドかサ○ジくらいだ。
「って、やばっ...こんなことしてる場合じゃなかった...!」
突然、思い出したかのように少女ははっとなる。
「かすみん、友達待たせてるので失礼します!」
それだけ言うとバタバタと走り去っていった。
なんか...嵐のような奴だったな......
それから放課後。外を歩きながら今後のこと...スクールアイドルの件について侑、歩夢と話していた。
「スクールアイドルってどうすればなれるんだろ?」
「スクールっていうくらいだから、たぶん部とか同好会で活動しなくちゃいけないよね...?」
いくらアマチュアのアイドル活動とはいえ、仮にも学園の名を背負うのだから無断で活動することはできないだろう。
「でもその肝心の同好会は潰れちまったしなぁ」
突如として優木せつ菜が抜けたことで、うちの同好会は廃部になってしまった。詰まる所、今現在スクールアイドルになる手立てはないというわけだ。
「新しく作り直すとか?」
「だとしても人数が足りないだろ」
「せつ菜さんは理由があって辞めちゃったけど、他の人たちなら戻ってきてくれたり?」
「どうだかな......」
廃部になったスクールアイドル同好会には優木せつ菜のほか、4人はいるはず。そりゃ呼び戻すことができれば同好会も再建できるかもしれないが、そもそも他に誰がいたのかすら把握しきれていない。
「あのぉ〜、もしかして...スクールアイドルに興味あるんですかぁ?」
幸先悪く途方に暮れていたところに、背後から声をかけられた。
どっかで聞いたことがある声だな...そう思いつつ後ろを振り返ってみると────
「キミは確か......」
その人物には見覚えがあった。
この外見とかわいこぶったような声色と仕草......間違えようもない。昼休みに出会った1年生だ。
「え?どこかでお会いしました?」
......覚えてないのかよ。
そして1年の少女はジロジロと俺を凝視していると、思い出したのか目を見開いて驚く。
「.........って、あぁーっ!?かすみんのパンツ覗き見した先輩!」
「「パンツ......?」」
「あれはそっちが目の前で勝手にずっこけただけだろ!」
あの、ホント誤解を招く言い方はやめてもらっていいですか......2人の視線が痛いんで。
「いやそんなことより...さっき、スクールアイドルがどうって言ってなかったか?」
「むぅ、そんなことで済まされるのは不本意ですけど...とりあえず座って話しましょうか」
少女の言う通り、道中で立ち話するのも邪魔になるだろうし近くのベンチへと場所を移す。
「まずは自己紹介ですね!普通科1年、そしてスクールアイドル同好会2代目部長のかすみんこと、中須かすみですっ」
くるくると回って中須という1年はポーズを決める。
まさかこの子が同好会の部員だとは思いもしなかった。いや、こんなキャラをしている理由がスクールアイドルだからこそと思えば少なくとも納得はできるな。
しかしそれは重要なことではなく、それよりも気になったことが一つ。
「おい待て、スクールアイドル同好会は廃部になったはずだろ?」
あまりにも軽いノリで言っていたからスルーしかけたが、確かにスクールアイドル同好会の部長と言ったはず。
「今は自己紹介の時間ですよ?質問タイムはそのあと!」
俺の疑問は応じられることなくきっぱりと跳ね除けられた。
少しむっとしたけど仕方ない。さっさと済ませてしまおう。
「......小日向晴陽だ」
「高咲侑です!」
「上原歩夢です」
「では先輩方、お近づきの印にこれをどうぞ!」
そう言って手渡してきたのはコッペパン。チキンとレタス、レモンがサンドされたもので見た目はとても美味しそうだった。ラップを開けてまずは一口食べてみる。
気になるその味はというと、
「美味っ......」「「美味しい!」」
見た目に違わぬ味に思わず声を上げる俺たち。
具材のおいしさはもちろんだけど、なによりパンがふわふわしていて程よい甘味。これは文句なしに美味い。
「お口に合って良かったですっ!」
「これ、どこのパン?」
「これはかすみんの手作りですよ!」
「まじか......」
これが手作りか...普通に人気店とかで売ってそうなレベルだったぞ。
「さすがスクールアイドル!こんなにかわいくて、料理もできるなんて!」
「スクールアイドルは関係ないんじゃないかなぁ...?」
ごもっともな指摘をする歩夢だが、二人は意に介さず。
「そうですかぁ?侑先輩って見る目ありますね〜!」
「そう?誰が見たってかわいいと思うよ。ね?ハル」
「なんで俺に聞くんだよ...」
返答に困るような質問を急に振ってくる。
けどまあ、わざわざ嘘をつく必要もないだろうし、素直に答えてみる。
「そりゃまあ、かわいいかかわいくないかで言ったら...かわいいだろうけど」
「えっ......?」
俺の返答を聞いた中須は一瞬意外そうな反応を見せたが、すぐに顔を背けて、
「か、かすみんがかわいいのはとーぜんですっ!一応、晴陽先輩も見る目があったわけですね...!かすみんがかわいいのはとーぜんですがっ!」
なんで2回も同じこと言ったし。
もしかして照れてるのか...?なんだ、ちょっとはかわいらしいところもあるじゃないか。
......って、まずいまずい。このままだと話が明後日の方向に行きそうだ。
「んで......話を戻すけど、2代目部長ってどういうことだ?同好会は無くなったんだろ?」
さっきと同じ質問を中須に投げ掛ける。
昨日、生徒会長に目の前で廃部宣言されたわけだし。
「ふっふっふ......諦めなければ同好会は永遠に続くのです!たとえ部室を奪われようとも!」
「いや......やっぱり無くなってんじゃん」
「無くなってません!このかすみんが、絶対に同好会を復活させるんですから!生徒会長の横暴には屈しませんよ!」
横暴って......廃部にする明確な理由があるんだからあの人に非はないだろ。
「そのためにも部員が必要.......と、いうわけで!かわいいかすみんとスクールアイドルやってみませんか?」
「えっと......だ、大丈夫かなぁ?」
そんな中須の誘いに歩夢は困った様子で俺に聞く。
「...まあ、ちょうどいいんじゃないか?」
もともと始める予定だったわけだしむしろ好都合だと思う。
「じゃあ...やろうかな...?」
一抹の不安を残しながらも歩夢はそう答える。
「侑先輩もどうですか?」
「私も入りたい!...けどアイドル志望ってわけじゃなくて、歩夢を応援したいんだよね」
「それって、専属マネージャーってことですか?」
「んー、そうなるのかな?」
「歩夢先輩だけズルいですよぉ〜!かすみんのサポートもしてください!部長命令ですっ」
「あははっ、わかったよ。それにハルもいるしね」
......ん?この流れはまさか...
「......ちょっと待て。俺も同好会に入らなくちゃダメなのか?」
「えっ......まさか入らないの?」
俺も同好会に入るだろうと思っていた侑は耳を疑う。
確かに俺も歩夢を応援するとは言ったけどさ?何も俺まで同好会に入る必要はないだろう。それに......
「いや、だって俺男だし...」
「別に男子禁制という決まりはありませんよ?ただ男の人が入部してきた前例がないだけで」
そうは言ってもどう考えたって男が入るような部活じゃないし、ましてや男子部員が俺一人なんて肩身が狭すぎる。
「昨日の威勢はどうした〜」
「まったく、思い切りが悪いですねぇ」
踏ん切りがつかない俺を焚きつけるかのようにやじを飛ばす侑と中須。
「ハルくん...一緒に来てくれないの...?隣にいてくれるって言ったのに......」
「ぐっ.........」
しまいには歩夢までうるっとした上目遣いで俺を見つめてくる。これでも尚断ろうものなら、俺が薄情な男だと思われるのは言うまでもないわけで......
「わかったわかった!入ればいいんだろ、入れば...!」
3人から放たれる、いいから黙って入れと言わんばかりの圧に根負けした俺は、腹を括って入部することにした。
「これで3人とも入部決定ですねっ!」
「よろしくね!中須さん」
「堅いですよ、侑先輩。もっと気軽に呼んでください!」
「気軽に......じゃあかすかすとか?」
「んなぁっ...!かすかすはやめてくださいっ!」
歩夢が提案した渾名を聞いた途端に、ものすごい剣幕で中須は歩夢に迫る。
「中須かすみだからかすかすかなって...!」
「なんで2回も言うんですか!かすかすじゃなくて、かすみんですぅ!」
ぷくりと頬を膨らませて再度激昂する。
「そんなに嫌なのか...」
「かわいくないし、中身スカスカな人間みたいに言われてるようで嫌なんです!」
別にそういう意味合いは込められてはいないと思うが、中須としてはどうしても受け入れられないようで却下される。
「散々、かすみんってアピールしてるのに...!」
「アピールだったんだ......」
「いやもう普通に呼びゃいいだろ......」
「そ、そうだね...!かすみちゃん、よろしくね!」
「まあそれならいいですけど...」
かすかすだのかすみんだの正直どうでもよくなり、結局名前呼びということで落ち着く。
「では早速、これから同好会の活動をしますよー!」
斯くして、俺たちのスクールアイドル同好会(?)の活動が始まった。
なんだろう、この先不安しかない.........
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