「君の食べた二種類の怪異のおかげで、君自身は低級の呪いには襲われたりしない。でも特級を超える呪いや呪詛師なんかは君の力、不死に未来視なんてものはそれこそ喉から手が出るほど欲しいものなんだ」
「私の力が悪い奴に利用されると困るから保護するってことですか?」
「んー、確かにそれもあるけど、やっぱり僕達呪術師は呪いの被害を減らすのが第一だから、君を狙う呪いも術師も一網打尽にしたいんだよ、特に上の人達なんかは、君自身を危険視して処刑しろーなんて言ってる人もいるしね」
死なないのにね、と付け加えて笑う五条。
いきなり死刑だった可能性があると聞かされた身としては、全くもって笑える話ではなかったが。
「私は、結局どうすれば?」
「高専で呪いについて学んで、自衛と、これから一緒に過ごす人を守れる程度の実力を付けてもらえれば良いと思うよ。僕ともう一人、君をここに連れて来たいって言った子は呪術師になってくれると嬉しいんだけど」
断っても、こんな理不尽が服を着ているような存在に付きまとわれるのは変わらないんだろう。
「いいですよ、私、呪術師になります───呪いなんて、最高に悪い子じゃないですか?」
散々振り回されるんだから、私だって利用してやる。
「お、高専来るのか」
「あなたは……パンダと一緒にいた」
「禪院真希、真希でいいぞ。ていうか苗字で呼ぶな」
「はぁ、竜胆駆です」
「かける……ね」
「男子みたいな名前ですよね、笑いますか?」
「いや、お前と同じ歳に恵って男がいる。そいつも高専来るらしいから、仲良くできんじゃねーの?」
同じ歳の男子……いやらしい眼で見てくる男しか知らない。私を見てくれる人なんて
「私は……仲良くできる自信ないです」
「まぁお前猫被りだもんな。性格悪そうだ」
「な……!?」
いきなりなんてことを言うんだこの人は
「私も同じだからわかるんだよ。入学まで後一月くらいか。悟、こいつシゴいてやってもいいか?」
「どしたの真希ちゃん?ヤル気だね?」
「まあ、な」
四月。高専入学の日。
和服を基調にした、首元と袖が赤い制服を身につけ教室で先生を待つ。
「ん」
「あ」
教室に、トゲトゲ頭の無愛想な男が入ってきた。
細身かと思ったが学ランの袖にガッチリとした筋肉のラインが出ている。手の甲のタコを見るに、かなり殴り慣れているのが見て取れる。
つまり、コイツはヤンキーだ。
真希さん式呪術界処世術第一項(全一項)『舐められるな』
「私は竜胆駆です。よろしくお願いします」
「伏黒恵……禪院先輩の言ってた通りだな」
「真希さんが!?なんて、なんて!?」
「いや、腹黒いところもあるけど可愛げがあって自分に正直で、あと───」
ゴクリ、と生唾を呑み込む音が聞こえる。自身の心音も、顔が熱くなるのもわかる。
初対面の同級生にどんな風に思われても、真希さんがとりあえず最優先。
教室のドアの前で、自分の親戚だという先輩から聞いた同級生になる女子の事を思い出す。
腹黒いところもあるけど、可愛げがあって自分に正直で、猫とか犬とかに近い感じの奴だと。
扉を開けると同時に、少し猫背気味だった背筋をピンと伸ばしこっちを品定めするように、冷たい野生動物のような目でこちらを見ている少女がいた。
長い黒髪をポニーテールに結ってあり、慕っているという先輩をイメージしているのがわかりやすい。
立ち上がり自分の方に歩いてくる際も、足音を立てずしなやかな足どりで歩く。
自己紹介もこちらを威嚇するように、少し低めにしているのがわかる。
小声で漏らした言葉も聞き逃さず、すぐに食いつく辺りさらにそれらしい。
おやつを見せられた犬とか、こんな感じなのだろうか。
五条先生の話では、二人とも単独任務につける等級らしいから組むことは少ないかもしれないが、こいつも悪い奴ではなさそうだと思った。