桜は散らず、奇跡の少女と世界を渡る   作:タイラー二等兵

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2wei入って終わりってのは、自分でもどうかとは思いますが。気が向いたら書きます。


ワッツ アー ユー(あんた誰)

クラスカードを全て回収してから、1か月が経ちました。時折、美遊ちゃんがイリヤちゃん、それにおそらくクラスメイトと一緒にいる姿を見かけますが、美遊ちゃん、だいぶ明るくなったような気がします。これもきっと、イリヤちゃんのお陰なんでしょう。

一方、遠坂さんとルヴィアさんは、共に穂群原学園高等部へと編入しました。しかもなんと二人とも、衛宮さんと同じクラスのようです。なんだか羨ましいです。こちらのわたしが、時々その様子をうかがってるところを見かけますが……、なんだかこちらのわたし、結構重そうな気がします。なんというか、少し英霊のわたしに近いというか。

そしてわたしですが……。実は大きな変化がありました。わたしの左の瞳の色が赤く、染めて目立たなかった髪の生え際が一部白髪に変化していた。理由は単純、自分自身のカードを使った事による、英霊のわたしへ置換。まだ二度しか使っていないのに、既に一部に置換が始まっているのだ。

──あの日は、まだ夜明け前だったことと認識阻害の影響で誰も気づかなかったようですが、流石に明るい内に出会ってしまえば気づかれる恐れもある。なので今は、カラーコンタクトとマメな髪の染め直しで誤魔化してます。まあ、これ以上カードの力を使わなければ、問題はないはず。……なんだろう。こんな事を考えていたら、近い内に使うハメになりそうな気がしてきたんだけど? いえ、きっと気のせいですね。気のせい気のせい。

 

 

 

 

 

そんなわけで、少し問題はあるものの、それ以外は何事もなく過ごしていたわたしでした……が。

 

キキイイイイイッ!

バンッ!

 

「ちょうどいいからあなたも来なさい!」

「……え?」

 

バタンッ!

ブオオオオオン!

 

スーパーのバイトに向かっていたわたしは、こんな感じで自動車に拉致されてしまいました。……って、どういうことですかあああっ!?

 

「実枝さん!」

 

「……え、あ。美遊ちゃんに、イリヤちゃん?」

 

声をかけられたことで少し冷静になり、美遊ちゃんとイリヤちゃんが同乗していることに気がついた。というか、遠坂さんとルヴィアさんもいた。……ということは、ここってエーデルフェルトのリムジンの中?

 

「ようやく落ち着いたみたいですわね」

 

「……ルヴィアさん。これってどういうことですか?」

 

……いけない。どうも怒気が抑えきれていないみたいだ。予想外だったのか、ルヴィアさんは少したじろいている。普段はわたし、強く感情を出さないだけなんですけどね。

そんなルヴィアさんの代わりに、遠坂さんが説明を始めた。

 

「師父からの命令よ。地脈の流れが滞っているみたいだから、高圧魔力を注入して地脈の正常化を図れ、っていうね。そのためにはカレイドの魔法少女の力が必要なのよ」

 

「それってわたし、関係ないじゃないですか」

 

「まあ、そうなんだけど、偶然見かけたから保険にね。あなたが使うカードの力、その魔力量もかなりのものみたいだから」

 

……それは、大聖杯に接続したという概念のお陰で、保有魔力量が普通の英霊よりも多いみたいですが。

 

「……理由はわかりました。けどわたし、アルバイトへ行く途中だったんですけど。このままじゃわたし、無断欠勤になっちゃいます」

 

何とか生活費を工面している現状、バイトの無断欠勤はかなり堪える。手取り額の減少だけでなく、信用においても。

 

「あー。それについては、後でわたし達が何とかするから」

 

「こちらに非があるのですから、謝罪くらいはいたしましてよ」

 

この二人、一般常識があるのか無いのかわかりません。

 

「……わかりました。大人しく着いて行きます」

 

この二人にとやかく言うのは時間の無駄だと思い、結局はわたしの方が折れたのでした。

 

 

 

 

 

柳洞寺の階段の途中から、林の中へと分け入って行くわたし達。このルートは、大空洞への……。

──大空洞。そこはエインズワースが、美遊ちゃんを聖杯として利用とした時に使われた場所であり、先輩が美遊ちゃんの幸せを願い、アンジェリカと戦った場所でもある。そしてこちらの大空洞はわたしが、そしておそらく美遊ちゃんも、この世界へと現れた場所。

遠坂さん達の目的地も、おそらくそこだろう。その様な場所で行われる儀式。もしかして、わたし達がこちらへやって来たのが原因なのでしょうか?

 

「リンさん! ルヴィアさん!」

 

え? イリヤちゃんの声で現実に引き戻されたわたしが見たのは、罠の底なし沼に嵌って沈んでいく遠坂さんとルヴィアさんの姿。……って!

 

「何やってるんですか、二人共おおおお!?」

 

あまりにもな姿に、私は思わず絶叫してしまった。時計塔の首席候補って、こんな罠に簡単に引っかかる程度なんですか? それとも、遠坂家のうっかりは感染するんでしょうか?

 

 

 

 

 

二人は美遊ちゃんとイリヤちゃんに助け出され、再び歩を進めていく。やがて現れた洞窟の中へと入ってゆき、その最奥に辿り着くと。

 

「わぁ……。すごい大空洞。こんなところがあったんだ……」

 

イリヤちゃんが感嘆の声を上げた。でも、わたしも初めて……先輩と一緒にここへ来た時には、同じ様な感想を抱いてましたが。

そんな様子には目もくれず、遠坂さんは儀式の準備を着々と進めていく。こういうところを見ると、確かに優秀だと実感できるんだけど、どうしてもさっきの姿が脳裏に過ぎる。

 

地礼針(じらいしん)設置完了。後は魔力を注ぐだけよ。……ちょっと、桜谷さん? 何でそんな生暖かい眼差しでわたしを見てるのかしら?」

 

「いえ、気になさらないでください」

 

「その、気を遣った笑顔も気になるんだけど!?」

 

別に、遠坂(ねえ)さんの魔術師としての能力は些かも疑っていない。ただ、わたし自身にも時々降りかかる、遠坂家の呪い(うっかり)を哀れに思っているだけだ。

 

遠坂凛(トオサカリン)、落ち着きなさい。儀式はこれからでしてよ」

 

「そ、そうだったわね。……イリヤ、美遊、魔力注入開始よ!」

 

遠坂さんの号令に、美遊ちゃんとイリヤちゃんは地礼針に向かって魔力を放出する。

 

「充填率、20……40……」

 

なるほど。地礼針に魔力を溜め込んで、それを一気に放出するんですね。なんだかトイレが詰まった時に、ラバーカップで押し出したり吸い出したりするのに似てます。

 

「80……95……100……115……120!!

Öffnen(開放)!!

 

一気に開放された魔力によって、衝撃波による強い振動が大地を揺らし、やがて収まっていく。

 

「……これで終わり?」

 

「一応はね」

 

イリヤちゃんの疑問に答える遠坂さん。取り敢えず、無事に済んだみたいです。……そう思った、その直後。再び大地が揺れだし、それは激しさを増していく!

 

「ノックバック!? 出力は充分だったはずよ!?」

 

「不味い! 逆流がきますわっ!」

 

まさにその直後、魔力が激しく吹き出して天井を直撃する。いけない! 落盤が……!

その時、わたしは咄嗟に[アヴェンジャー]のカードを手に取り、イリヤちゃんは遠坂さんに向かって駆け出し手を伸ばし。

 

「[アヴェンジャー]……」

 

「クラスカード[アーチャー]……」

 

「「夢幻召喚(インストール)!!」」

 

わたしとイリヤちゃんが夢幻召喚をする。わたしは影の帯を伸ばして結界を作り、イリヤちゃんは。

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!」

 

四枚の花弁の様な光の盾で落石を防いでいる。よかった。これでみんなを……。

 

ドクン!

 

突然の激しい動悸とともに目が霞み、さらに左手に痛みが走る。……え? 一体何が? そんな疑問を残したまま、わたしは意識を手放してしまった。

 

 

 

 

 

わたしが意識を取り戻した時、辺りは落石に覆われていた。

 

『みなさーん! 無事ですかー?』

 

相変わらずの気の抜けたルビーの声に、わたしはあたりを見渡し、そして硬直する。

 

「イリヤ! どこ!?」

 

遠坂さんの声が聞こえるけど、わたしとしてはそれどころではない。

 

「う〜、ここだよぅ」

 

「よかった。イリ……!?」

 

「はぁ!? 何ソレ!?」

 

「どういうことですの!?」

 

……? 何か向こうでも、パニックが起きてる気がします。

 

「ちょっと、桜谷さん、も……!?」

 

どうやら遠坂さんも、こちらの異常事態に気づいたようだ。わたしは遠坂さん達に声をかけようと振り返り、またもや硬直してしまう。……そうですか。あちらもでしたか。

イリヤちゃんの横には、アーチャーの衣装に似た姿の、もうひとりのイリヤちゃんがいた。わたしの横に、子供姿のもうひとり(英霊)のわたしがいるのと同じ様に。

 

「な……なんじゃこりゃああああっ!!」

 

遠坂さんが声を張り上げるけど、「なんじゃこりゃ」はわたしもおんなじだ。

するともうひとりのイリヤちゃんは、すくりと立ち上がり、ダッシュで入口の方へ逃げていった。……は、速いですね。

 

「しまった! 取り逃がしたか!」

 

『そりゃあ皆さん、呆気にとられてましたからねー。逃げられる内に逃げるのは当然でしょう』

 

……ですね。言い訳はできません。

 

「……でも、貴女は逃げない様ですわね」

 

そう言うとルヴィアさんは、わたしの隣へと視線を移した。

 

「……ええ。わたしは逃げませんよ。そんな無意味な事はしません」

 

無意味?

 

「それ、どういう意味よ?」

 

今度は遠坂さんが尋ねると、彼女は夢の中で見たような蠱惑的な笑みを浮かべて答えた。

 

「だってわたしは彼女の、……桜谷実枝のサーヴァントですから♡」

 

……え?

 

「ちょ、ちょっと待ってください! わたし自身、初耳なんですけど!?」

 

「それは当然ですよ。今回の召喚はイレギュラー、本来わたしが召喚されることは無いはずだったんです。一つの例外を除いては」

 

「例外?」

 

遠坂さんが訝しんで聞き返す。でもその答えは、わたしが返した。

 

「……彼女はわたしが持つ、……ううん。()()()()()、[アヴェンジャー]のカードの英霊なんです」

 

「「なんですって!?」」

 

遠坂さんとルヴィアさんの声が綺麗にハモる。

 

「ただ[アヴェンジャー]のカードは、他のカードよりも[英霊の座]からの影響が強く、しかもわたしは彼女との波長が良すぎて、使い続けると徐々に彼女に置換されていって、最終的には彼女自身に置き換わってしまう……筈だったんです」

 

「な……、実枝さん!?」

 

わたしが秘密を打ち明けると、美遊ちゃんが驚きの表情でわたしに詰め寄ってきた。……いえ、驚きと言うより、怒ってますね。でも、それも当然です。比喩ではなく、自分の身を削る行為をしてたのだから。

 

「美遊ちゃん、怒ってくれてありがとう。でも、さっきの落盤が起きるまでは、わたしももう使う気なんてなかったんですよ?」

 

そう言って宥めすかす。もちろん、嘘ではなく本当の事だけど。

 

「自身を犠牲にするやり方には些か思うところはありますけど、魔術師の立場からすれば、目的が叶いさえすれば自身の命などどうでも良いという考え方も、わからなくはありませんわね」

 

ええと、ルヴィアさんがそういったフォロー……フォロー?をしてくれるのは有難いんですが、そんな魔術師らしい考えじゃなくて、どちらかと言えば先輩の在り方に近いんですよね。あ、英霊のわたしが、わたしに呆れた眼差しを向けてます。

 

「まあ、桜谷さんの自己犠牲の精神は今は置いておくとして」

 

今は……って、後でとやかく言われるんでしょうか?

 

「あんた……アヴェンジャーだっけ? そんな英霊が桜谷さんのサーヴァントってどういう事よ」

 

「ああ、そちらが本題でしたね。実枝はさっきまで、わたしのカードを使ってました。ですが、強力な地脈の真上で、大量な魔力の噴出、そしてわたしの特性と()()()()()()()()が原因で、カードを触媒としカードを核に、わたしが強制的に召喚されたんです」

 

……やっぱり。目が醒めた時には夢幻召喚は解けていて、なのにカードは見当たらなかった。そしてこの場所は、向こうで美遊ちゃんを聖杯に据えた場所であり、英霊のわたしがいた世界では大聖杯の降臨地だった。

 

「……あんたの特性とここの特異性ってのは何なの?」

 

「そんなの、秘密に決まってるじゃないですか。今はまだ、全てのカードを切る場面じゃないですよ? ……あらわたし、上手いこと言っちゃいました」

 

くすくすと嗤う、英霊のわたし。遠坂さんとルヴィアさんが精神を逆撫でされて、怒りを押し殺しているのがよくわかる。

 

「あ、わたしが実枝のサーヴァントの理由でしたね。わたしが召喚される直前に、わたしを夢幻召喚していたのが原因で、実枝がわたしを召喚した事になってしまったんです。その証拠に、実枝の左手の甲には三画の令呪がありますから」

 

え? わたしが慌てて手の甲を見ると、確かに三弁の花のような模様がそこにあった。

 

「それはある儀式において、召喚した英霊を従わせるための絶対命令権を宿した聖痕。ひとつの命令につき一画を消費します」

 

ある、儀式。多分、英霊のわたしがいた世界の、聖杯戦争……。

 

「それじゃあ逃げるのが無意味ってのは、その令呪があるから逆らえない、ってことでいいワケ?」

 

「うーん、それはちょっと違いますねぇ。極端に言えば、令呪を使われる前に召喚者を殺してしまえばいいんですから♡」

 

ぞわり、と肌が粟立つ感覚。子供の姿になっても、やっぱりあの英霊なんだと再確認する。……子供の姿? あれ? そういえばどうしてこんな姿に……?

 

「理由は単純です。()()()()()()()、実枝には勝てないからです」

 

「「「は?」」」

 

わたしと遠坂(ねえ)さん、ルヴィアさんが、自分でもわかるくらい間の抜けた返事を返してしまった。

 

「わたしのこの姿が、英霊としての本来の姿だと思ってるんですか? わたしは、あなた達と同じくらいの歳で座に記録されてるんですよ?」

 

確かに、夢の中で対話した時には、見た目はわたしと同じくらいの歳に見えた。

 

「わたしがこの世界に顕界した時、実枝はよりにもよって、わたしの魔力の殆どを奪っちゃったんですよ」

 

「ええっ!?」

 

どんどんと、わたし自身が知らない事実がでてくるんですけど!?

 

「お陰で顕界に必要な魔力リソースが削られて、こんな幼い姿になってしまったんです。しかも美枝に宿った魔力がわたしの魔力を邪魔してしまうので、美枝には攻撃が届かないんですよ? なんですか? わたしに包丁を持って、ひと刺ししろって言うんですか? いくらわたしが真っ当な英霊じゃないとはいえ、流石にそんな惨めな手段は使いたくないですよ?」

 

……なんだかわたしまで惨めな気持ちになってくるんですけど。いえ、相手もわたしなので、当然なのかも知れませんが。

 

「……はぁ。言いたいこと言ったので、少し落ち着きました。ともかく、わたし自身の弱体化と実枝の対わたし特攻がある上に令呪まで用いられたら、わたしにはどうしようもないので逃げるだけ無駄だと思ったんです。

まあ、実枝がわたしの膨大な魔力を奪ったお陰で、わたしが顕界し続けるのに必要な魔力が供給されるので、悪いことばかりじゃないんですけどね。マッチポンプですが」

 

「うん、まあ、一部思考が拒絶反応起こしてるけど、だいたい理解したわ」

 

その気持ち、わかります。当事者のはずのわたしにも、一杯一杯ですから。

と、ここでルヴィアさんからの質問に変わる。

 

「ところで貴女は、真っ当な英霊ではないと仰ってましたわね。では、我々……いえ、人々に危害を加える気はあるのかしら?」

 

それは……! 英霊のわたしは反英霊であり、[この世全ての悪]と同化した存在……。

だけど、彼女の答えは意外なものだった。

 

「そうですね。そういった衝動は確かにありますけど、不思議とそれほど強くは感じてません。

……わたしはあくまで、[英霊の座]の本体からコピーされた分身です。なのでもしかしたら、イレギュラーの召喚の不具合で、わたしを反英霊たらしめる呪いと切り離されたのかも知れませんね。とは言っても、完全に分離できるものでもありませんから、わたしを怒らせたらどうなるかわかりませんよ♡」

 

そういった言葉が出てくる段階で、本質はやっぱり英霊のわたしのままですね。でも、狂気や恐怖といったものは今でも言葉の端々に感じさせるけど、確かに[英霊の座(夢の中)]で感じた、あの時ほどの威圧感 ──多分[この世全ての悪]による、本能からくる恐怖は薄れてる気がします。もちろんなくなったわけじゃないので、油断はできませんけど。

 

「では、もうひとつ。質問と言うより意見を伺いたいのですけど。先程逃げ出した、もうひとりのイリヤスフィール。アレは貴女と同じ、英霊だと思いますか?」

 

『ようやく主人公にスポットが当りましたかー』

 

「ホント、忘れられたかと思った」

 

……すみません、イリヤちゃん。わたし、忘れてました。

 

「……って、主人公って何のこと!?」

 

『ああ、すみません。この作品ではただのレギュラーでしたねー』

 

「作品って、レギュラーって何のことーーー!?」

 

イリヤちゃんの叫びもわかります。ルビーは一体、何を言ってるんでしょうか?

 

「……あちらの騒々しいのは無視して、どうなんですの?」

 

「そうですね。誕生のしかたはわたしと同じかも知れませんけど、純粋な英霊かと言われたら、多分違うんじゃないですか?もっともわたしは魔術関係には疎いので、断言はできませんけどね」

 

いかにも興味なさげに言ってるけど、視線はもうひとりのイリヤちゃんが去っていった方を見つめている。少し、羨望の眼差しに近いような気が……あ。[アーチャー]のカードの英霊は、真名エミヤ。先輩のあったかも知れない未来のひとつ、英霊に至った先輩だ。多分そのカードを核にしている、もうひとりのイリヤちゃんが羨ましいんだ。

 

「……知った風な顔をしてますね?」

 

「まあ……」

 

そこは同じわたしですから。

 

「……ねえ、わたしからもいいかしら?」

 

今度は再び遠坂さんが質問をするつもりらしい。その表情は、今までで一番真剣だ。

 

「いいですよ。まあ多分、黙秘させてもらうと思いますけど」

 

「……あんたは何処の、何ていう英雄なのかしら?」

 

!? それは! ……ああ、そうだ。考えてみたら当たり前のことだった。子供の姿とはいえ、その顔立ちはわたしと同じもの。なら、その正体を怪しむのは当然のことです。

 

「やっぱり。残念ですが、それには答えられません。真名を明かすということは、自分の弱点を教えるのと同じ事。召喚主……マスター以外に教えるものじゃないですから」

 

彼女の説明は多分本当の事だけど、教えない理由はおそらく別。わたしが自分を[間桐桜]と名乗らないのと、きっと同じ……ううん、もっと深刻なんだと思う。彼女(わたし)が英霊になった理由を考えれば。特に遠坂(ねえ)さんには……。

はぁ、とため息をつく遠坂さん。

 

「やっぱりか。素直に答えてくれるとは思わなかったけどね。まあいいわ。それで、あんたはどうしたいの? ……言っとくけど、答えによってはそれなりの対処をさせてもらうわよ? 主にイリヤと美遊が」

 

「うえええっ!?」

 

「他力本願……」

 

英霊に対抗出来そうなのが二人なのはわかるけど、とんだとばっちりですね。

 

「本来のわたしなら、徐々に呪いの影響が強くなって、人々に不幸を振りまく存在になってたと思います。けれど、今のわたしは呪いの影響が極めて弱いので、そうなる可能性も低いでしょう。

……なのでせっかくですから、今、この時を謳歌したいですね。わたし、生前はあまり良い記憶がないので」

 

ふっと、英霊のわたしの表情に暗い影が差す。彼女は衛宮先輩に倒されたことが救いだと言った。わたしも……、間桐の蔵で色々とされてはいたけど、5年前に間桐が滅んだことで解放されました。それじゃあ、解放されなかったわたしはそれ以降、一体、どんな辛い思いをしてきたのだろう。

彼女の、演技ではないその表情を見て、遠坂さんもルヴィアさんも困り顔になってしまった。やっぱり二人は、魔術師としては優しい人達ですね。二人はもしょもしょと短い意見交換をしてから、代表してルヴィアさんが軽く咳払いをして、結論を話し始めた。

 

「わかりました。出来るだけ貴女の意思に添いましょう」

 

「ええっ、いいのっ!?」

 

イリヤちゃんがツッコミを入れてますが、わたしも同じです。いえ、同じ存在のわたしとしては、英霊のわたしにも幸せを享受してほしいですが。

 

「……ですがしばらくの間は、エーデルフェルトの許での保護監察処分とさせていただきますわ。その上で危険がないと判断できたなら、一般的な生活を保証いたしますし、桜谷実枝(サクラヤミエ)との生活を望むのなら許可もします」

 

な、なるほど。まずは様子見からですか。……というか!

 

「わ、わたしが面倒を見るんですか?」

 

「彼女が望めば、よ。桜谷さんがアヴェンジャーのマスターなんでしょう? なら本来、桜谷さんが管理するのが道理ってもんじゃない。ただ桜谷さんの場合、魔術師としての教育は、本当に基礎の部分だけしか習わなかった。だからわたし達が一時的に引き受けて、安全性の確認をしてあげるってだけの話よ」

 

うう。遠坂さんの意見は正論過ぎて、ぐうの音も出ない。

 

「実枝、楽しみにしてますよ♡」

 

英霊のわたしは、わたしの所に来る気満々ですね。というか、絶対にイジワルで言ってます。

 

「えっと、実枝さん、がんばって」

 

「わたしには祈ることしか出来ないけど……、頑張ってください」

 

イリヤちゃんと美遊ちゃんが(ねぎら)ってくれたけど、これってほぼ決定事項ってことですよね? わたし、これからどうなってしまうんでしょうか?




ラバーカップ:通称スッポン。柄の先にでっかい吸盤が付いたアレ。

というわけで、アヴェンジャー(黒桜)実枝()のサーヴァントとして召喚されました(重要なのに、扱いがラバーカップより下)。オマケに実枝の魔力量アップイベント付き(笑)。
一応黒桜(小)の偽名も考えてありますが、こちらは書くかわからない続きを書いた時に判明します。

なお、黒桜(小)の包丁のくだり。どうやらタイころ時空での黒桜は知らなかったようです。
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