叛逆の牙in ZEXAL(?)   作:リ・コントラクト・ユニバース

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デュエルはないです
見返したら当初の予定じゃ1話目が30000文字超になりそうだったことに気がついて笑ってしまった。


No.7 幸運

「……?」

 

パチリと目が覚めた。

俺は気絶していたのか?

確か夢を見てて……遊戯王の世界にいて……ブラック・ミストに会って……瑠那とデュエルして……そう、負けたんだ。

 

俺は全力で戦って、それでも負けた。

悔しいなぁ。例え夢でも悔しい。

普通に机の上でカードを弾いてるだけじゃあ味わえない悔しさだ。

確かに全力だった。使えるカードに制限はあったし、俺のデッキの本当の力が発揮されていたとは言えない。

それでも俺はあの場で出せる全力を持ってぶつかった……。

瑠那はあの時ソウル・シェイブ・フォースとブリザード以外にも手札が残っていた。

例えあのシンクロを止めるカードがあったとして———俺に勝ち目はなかったのかもしれない。無力。

 

悔しいが、それが俺の実力。

 

「……いって」

 

身体を起こそうとして、痛みが走る。

頭?腹?胸?足?……全部だ。

起き上がれないぐらいの痛みが全身を駆け巡っている。

肉より奥、骨より更に奥、俺という存在の奥の奥から湧き上がってくるような熱が、沸騰しそうなぐらいに身体を苛んでいる。

視覚がろくに機能していない。が、目が見えないのなら黒い筈の視界が赤い。

何故、と思うより先に、耳に声が振りかかってきた。

 

「良かった……」

「え……?」

「生きてて良かった……」

 

声には聞き覚えがあった。

瑠那だ。

俺の上から聞こえてきた声は確かに瑠那のものだった。

 

俺はまだ夢を見ているのか?夢の中で気絶して夢の中で起きた?そんなバカな。

負けた上にこんな痛みを味わうことになるなんて、俺は一体どんな夢を見ているのか。そこまで抑圧に対して過剰反応するほど、俺は弱かったのか?

 

いや、それとも———これは最初から夢ではなかった?

 

「これ、夢じゃないのか……?」

「……残念ながら、夢じゃないわ」

 

マジか。

夢じゃないのか……。

じゃあ俺が夢だと思ってあれこれやってきたことは……マジか。

 

「ストップ。動かないで。と言っても動けないと思うけど。ただの人間がカオスナンバーズを使うなんて……本当に信じられない」

 

瑠那の声は戦っていた時より優しく、柔らかい。

これが本来の瑠那なのだろうか。仲間を守るのが目的と言っていたし、本当に瑠那の方が光側で、ブラック・ミストを有する俺の方が悪側だったわけだ。

 

『失礼なヤツだな、オマエ。一体誰のおかげで生きてられると思ってんだ』

「ブラック・ミストもいるのか……?お前回収されたんじゃ?」

『全くノーテンキな野郎だぜ。なあ瑠那、こいつに今の状態を説明してやれよ』

 

はぁ、と瑠那はため息をつく。

心底嫌そうに、表情は見えないが歪んでいるに違いない。

 

「……デュエルに負けたあなたは気を失ったわ。ダメージの衝撃だけじゃなく……カオスの力を使った代償、要するに魂に深い傷を負った状態よ」

 

カオスの力?魂を損傷?

普段なら馬鹿馬鹿しいと一笑に付したところだろうが、今は違う。

遊戯王ZEXALの世界に来てしまったことも、俺が瑠那と戦い、カオスの力とやらを使ったことも全て事実なのだ。

 

「普通なら魂をカオスに引き摺り込まれるか……運が良くて一生寝たきりになっていたところでしょうね。カオスの力はただの人間が扱うには強力過ぎるのよ」

 

なら、瑠那は何故大丈夫なんだ?

一回ランクアップをしただけの俺がこうなって、3回も発動した瑠那は無事でいられるのは何故だ?

ていうか、普通なら?つまりこの一生寝たきりになりそうな状態よりさらにひどいってわけ?何がどうなってんだ、俺

 

『フン、こいつは小癪にもバリアン世界の技術を知ってやがる。自らRUMを作り出す方法はそれ以外に無い』

「そう。そもそも、No.の力を制御すること自体、常人には不可能。異世界の力を掌握するには、異世界の力で対抗するしかない」

 

ナンバーズがナンバーズでしか破壊できないのは、異世界の力を持っているから。

敵の力を持って敵に対抗する、○面ライダーみたいだな……とは口に出さなかったが。

 

「……で、俺は元に戻れるのか?これ」

 

目の前がずっと赤いままというのはいただけない。血でも出てるのか?

単なる負傷なら治療をすれば元に戻るだろうが……魂の損傷を治す方法なんて俺は分からん。案外LP回復カードとか使えば治ったりするのかな?ディアン・ケトに治療される図とか考えると怖い。

 

「……無理よ」

「え?」

「その傷はどうやったって治らない。カイトや凌牙とは訳が違うわ、あなたは本当にただの人間なのに無理やりCNo.を使ったのよ。……一生、そのままなのよ」

「そんな……」

『神代凌牙はNo.に関する特殊な能力を持っているし、遊馬にはアストラルがついてやがる。それに、バリアンに操られた連中はバリアンの紋章によって力を制御している……が、オマエはそんなのを何も無しに使ったんだ。当然の結果だな』

 

俺は一生このまま目が見えずに寝たきりの状態で生きるっていうのか?

日常を過ごすのも厳しいしましてやデュエルなんかできるわけがない。

本当に夢じゃないのか?これ。夢であってくれよ。

 

『ククク……オイ瑠那。一つ大事なことを言い忘れてんじゃないのか?』

「No.96……この期に及んで、あなたを信用すると思うの?」

『しょうがねえなぁ……お前が言わないならオレ様から言ってやるよ!オイ宿主!』

「はいっ!?」

 

突然声がこっちに向く。

一瞬びびって元気な返事をしてしまう。意外と大丈夫じゃん、俺。

 

『今、消滅寸前のオマエの身体はこのオレ、ブラック・ミスト様が維持してやってんだよ』

「ゑ?」

『つまりだ。オレがオマエの身体から離れた瞬間、オマエは寝たきりどころか存在ごと消滅するということだ』

「ええ?」

 

こいつ、俺のことを隠れ蓑した上に生殺与奪の権を握ってきやがるとは!

許せねえ!でも逆らったら死ぬかもしれない!怖い!

 

『そこでだ。一つ提案がある』

「やめなさいNo.96!あなたは———」

『じゃあ何か?心優しいナンバーズハンターの瑠那チャンは見ず知らずのガキの命を見捨ててナンバーズの回収を優先するってことか?』

「ッ!く……っ」

 

瑠那が歯噛みをした。

凄まじい怒りが伝わってくるようだ。

いや、そんな他人事みたいに言ってる場合じゃない。こいつらはつまり俺の生死に関わる話をしてるんだ、寝てる場合じゃねえ!起きれないけど!

 

『おい宿主。オマエには2つ、選択肢がある』

「苦渋の選択ってわけか?」

『オマエ意外と余裕あるな……ともかく!まず1つ目、オレを瑠那に回収させ、消滅する。つまり死ぬってことだ』

「は?」

 

もうほぼ選択肢無いじゃん!バカにしてんのか!?

現状がクソだから現状維持もできないじゃん!どうせ二択目もこの世の終わりみたいな選択肢なんだろ!?苦渋の選択どころか終わりの始まりだよこれ

 

『2つ目は———』

「———ブラック・ミストをあなたの魂に取り込み、欠けた部分の代替にする……」

『その通り!やっとその気になったのかぁ?』

「……」

 

えっとつまり、俺は死ぬか、ブラック・ミストと融合して生き残るかの2択って訳だ。上出来じゃん。

 

『さあどうする?こんな訳のわからねえ事で死ぬよりは、オレの提案の方が魅力的だとは思うがなぁ〜』

 

非常にウザい声で煽ってくるブラック・ミスト。

瑠那は黙っているが、恐らく怒りを堪えているのだろう。若干歯噛みする音が聞こえてくる。

 

瑠那としてはNo.使いとはいえ俺という一般人を巻き込んでこんな2択を迫った形になっている……それは確かに迷うか。

ほぼ選択肢は無い。俺が生き残るには回収対象であり邪悪なナンバーズであるブラック・ミストを手助けする羽目になる。

そりゃあ……決められないなぁ。

俺が同じ立場ならどうしただろうか……。

 

「……ごめんなさい。私にはもう、どうすることもできない。だから選ぶのはあなた。どちらを選んだとしても……」

 

言葉の続きは聞こえなかった。

瑠那も口に出したくなかったのかもしれない。

瑠那は本当に優しい。

さっき会ったばかりの俺に対してここまで心を砕けるのか。

俺にはそんなこと絶対できない。

 

『さぁどうする?死か、それともオレを受け入れるか———2つに1つだ』

「わかったよ……わかったわかった。俺はやっぱ死にたくない。だからブラック・ミスト、お前の力を借りることになりそうだ」

『契約成立だ……!』

 

心底楽しそうにブラック・ミストが言った。

デュエルの最中隣で何回か見えた、あの邪悪なニヤケ面になっているのだろう。想像したらちょっとムカついてきた。

 

ムカつくから……このままあいつの思い通りにはさせない。

きっと俺と一体化したら俺の身体を奪って何か良からぬことを始める気でいるのだろう。

そうなったら瑠那はちゃんとブラック・ミストを止められるだろうか……。

いや、デュエルの実力はともかくとしてデュエルマッスル的な。リアルファイト的な。相手はナンバーズの化身だ、どうなるかわからん。

 

『バカが。魂の欠けた状態のオマエなら入り込んで操る事なんざ造作も無い。さぁ、人生最後の瞬間だぜ?何か遺言はあるか?』

 

ブラック・ミストは俺にだけ聞こえるように囁きかけてくる。正直言って、怖い。

……いずれにしろ、ブラック・ミストに俺の身体は乗っ取らせない。

俺の身体は俺のものだ。俺の身体で悪事を働くなんて許せない。

いや、悪事なら散々働いてきた気もするが。

ともかくだ。俺は意地でもブラック・ミストに負けるつもりはない。

瑠那に負けて、ブラック・ミストにまで負けたら俺はもう敗北者一直線だ。負け犬になってしまう。それだけは避けたいもんだ。

 

「遺言なんてあるかよ……!俺は負けないぜ!」

『そうかよ!へっ、あばよ宿主サマぁ!短い間だったがよくやってくれたよお前は!』

「……っ」

 

瑠那が息を呑む。

きっと瑠那は俺がこいつに乗っ取られたら即座にぶっ倒す気でいるのだろう。そんなことさせてたまるか。2回瑠那に負けてその上意識も奪われるなんてまっぴらごめんだ!

だから俺は負けられない!

うおおおおおおおかっとビングだ俺!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤かった視界が黒くなる。

黒・黒・黒、闇・闇・闇。

どこまで行っても真っ暗闇。

これが死か?いや、意識があるなら死んでいないはずだ。

 

これは多分……俺の魂の内部?

頭の中……この状態でそんなものあるかどうかは別にして、イメージが浮かんできた。

 

黒い球体がある。多分これが魂。

黒すぎるだろ、これみんなこんなに黒いのか?

それとも俺が陰湿すぎるから黒いのか?いや、知らないが。

昔見た60代喫煙者の肺の画像みたいな。こわっ。

 

……そこに何かが飛び込んでくるような感覚がした。

これは多分ブラック・ミスト。

大きくヒビが入り、大部分が欠けている俺の魂を変幻自在の身体で覆い、融合していく。

同時に俺の頭にも痛みが走る……気がする。

肉体を乗っ取られるってのはこういう気分なのか?

 

またイメージが浮かぶ。

声だ。

声が聞こえてくる。

これはブラック・ミストの声?

 

『一つに……』

『全てを一つに……』

『オレだけが……』

『神となる……』

 

……何?

聞き取れないばかりか聞こえてくる内容が支離滅裂すぎる。

一つにとかお前は覇王龍か何かなのか?

とかそんなことを言っている場合じゃないんだった。

早く奴を止めなければ、僅かに残っている俺の魂の半分も食われてしまう。

 

とは言っても今の俺に身体は無い。

一体どうすればいいのか。

やめろと言ってやめる奴でも無し。

負けたくねえと言った割には考え無しだったツケが回ってきたってワケ。ふざけんな!

 

『———!———!』

 

ん?

またイメージが浮かんできた。

黒い球体を取り囲むブラック・ミストは哄笑を上げながら僅かに残った俺の魂を食い尽くそうとしている。

そこに光が放たれる。光と言っても、みんなが想像するような白色の光じゃない。

 

空間を埋め尽くす漆黒よりもっと黒い、闇そのものみたいな黒い光が放たれて、ブラック・ミストに襲いかかった。

オイオイオイ、とかなんとか言ってる暇もない。

驚愕したブラック・ミストが見上げた先には———龍がいた。

 

顎からは奇妙な発達をした鋭利な牙が生えている。

翼からは紫電がバチバチとスパークし、尾は蛇のように蠢き、鋭い眼光がブラック・ミストを睨みつけ、威圧する。

暗闇の中に108の文字が浮かび上がる。

No.108ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン。

俺の最も好きなカードにして、エースモンスター。

俺は感動して涙が出そうになった。

俺のピンチに、俺の大好きな1番かっこいいカードが助けに来てくれたのだ。こんなに嬉しいことはない。

 

ブラック・ミストは舌打ちをして抵抗するが、流石に敵わなかったようだ。

首に絡みつきに行った触手は尾の一振りで一蹴され、苦し紛れの噛みつきも素早く動いてかわされた。

悲鳴をあげるブラック・ミストを顎で突き刺すと、ダーク・リベリオンは俺の魂たる黒い球体に向かって突進して行った。

 

いや、ちょっと待てよそれ俺の———

 

叫ぼうとして、黒い光が炸裂する。

何も見えなくなる。

そして、何も感じない。

 

ただただ闇だ。

闇の中に呑まれていく。

 

落ちていくように。

吸い込まれていくように。

浮き上がっていくように。

 

闇に溶けていく意識の中———突如光が俺の両眼に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———っはぁっ!はぁっ!なんだ今のは!」

 

目が覚めた。

息が荒い。

目がチカチカする。

まるで5年目を閉じた後に太陽を直視したみたいな明るさだ。

赤い光が復活した視覚を貫いて爆発させる。せっかく見えるようになったのに!

それに一瞬息が止まっていたような気がする。

睡眠時無呼吸症候群か?そんなことを言ってる場合じゃない。

俺は起きあがろうとして———額を抑えられて止まった。

眩しくてよく見えない。

まぁ、見る必要はなかった。

 

「……あなたは、どっち(・・・)?」

「俺は……」

 

俺を見下ろす形で話しかけたのは、瑠那。

光っていたのは瑠那が首元につけているペンダントだった。赤い光を放つ不思議な宝石。

良かった……俺は無事に戻って来れたらしい。

質問に答えようとして……思い出した。

そういえば名前を名乗っていなかった。 

デュエル中の名前も「??」になっていたし、何かがバグっていたのかもしれない。

 

「……えー、ブラック・ミストじゃない方、かな」

「……っ」

 

嘘だと思われた?いや、瑠那ならきっと信じてくれる。

何が起きたのかよくわからないが、俺はブラック・ミストに勝ったのだ。

いや、俺じゃなくてダーク・リベリオンの力だけど。

きっと俺の愛がカードに伝わって助けに来てくれたんだ、ここは遊戯王の世界なんだしそんなことが起きても間違いない。

 

「良かった……」

「……うん、俺もそう思うよ」

 

瑠那の声は震えていた。

俺も怖くて震えまくっていたが、今はカッコつけるためにナイショにしておきたい。言うなよ!誰にもな!

 

「……でも、一体何が———?」

 

それは本当にそうだ。

一体何が起こったんだ?

ブラック・ミストはどこに行ったんだ?

あいつが離れたら俺は死ぬんじゃ……?

———いや、確かあの時ダーク・リベリオンは……

 

『クソッ!!オーバーハンドレッド……やってくれやがったな!』

「まだいたのか、お前……」

『チッ、上手く行ったと思ったところをあのクソドラゴンめ!』

 

俺の中からさっきみたいにスッとブラック・ミストが現れて恨みを吐き散らしている。

つまりこれは———

 

「……魂の融合はしたけれど、意識は乗っ取られずに済んだ———そういうことで、いいのね?」

「はは……多分、そういうことだと思う」

『チッ』

 

ブラック・ミストの反応を見るに、多分本当にそうなのだろう。

でなければ俺はまたブラック・ミストの攻撃を受けているはず。精神干渉を受け付けないとか記憶を読めないとかなんとか言ってた気がするが、それも関係あるんだろう。

まあそもそもこの世界の人間じゃないし、俺。

 

なし崩し的に始まった即席コンビなのに出会ってからたった数時間で魂と魂が融合した相方。

何を言ってるのか本当に意味がわからん。

これじゃあブラック・ミストがナストラル状態……もとい遊馬に対してのアストラルと同じ状態になってるみたいなもんじゃないか。

 

「信じられない……あなたは一体」

 

信じられないのは俺も同じだ。

俺は何もしてないし、ただ助けられただけだ。

まぁ、名前ぐらいは名乗ってもいいかもしれない。

 

「まぁ、ただの人間だと思うよ……俺は夕陽才人(ゆうひさいと)。友達からは、よくユートって呼ばれてる」

 

最大限かっこつけた口調で、ニヤリと笑った。

ブラック・ミストはまだ舌打ちを続けている。うるせえなこいつ。

瑠那は少しだけ笑った。普段から美人だけど笑うとめっちゃ可愛い。

けどそんな表情はすぐに消えて、申し訳なさそうな顔になってしまう。もうちょっと笑っててもいいんだけど?

 

「改めて……ごめんなさい。才人、あなたがこんな事になったのは私の責任よ」

「いやいや。俺が馬鹿だったんだよ。けど夢じゃないとは思わないだろ、まさか遊戯———」

「?」

 

遊戯王ZEXALの世界に来ちまうなんて〜とかなんとか言おうとして踏みとどまった。流石にこれは言わない方がいいだろ。

夢気分でホイホイナンバーズを召喚したりナンバーズの化身に協力しちゃったりカオスナンバーズを召喚して死にかけたり……。

いやこれ完全に俺が悪いな?瑠那何も悪くないよこれ

 

「瑠那は悪くないよ。だからそんな悲しそうな顔すんなって」

「……けど、それじゃ私の気が済まないの。少なくとも、その怪我と体調が治るまでは私が責任を持つわ」

『フン、偽善者が』

 

ブラック・ミストが何か言ってるが瑠那は完全に無視した。

ブラック・ミストのヤツ負けた上に計画が失敗して拗ねてんだ。けどあの調子じゃそのうち元に戻ってまたよからぬことを考え始めるんじゃなかろうか。

まぁ、俺の魂と一体化してる以上、俺が精神を乗っ取られたりしなきゃあいつも何もできないはずだ。

 

……多分。きっと。

 

「……No.96。また何かしようとしたら……わかってるわよね」

『ハイハイわかったわかった。大体オレは今んとこ何一つできやしねえんだ。関係あるかよ』

「そうなのか?」

『嘘ついたって意味ねえから教えてやるがなぁ……あのクソドラゴンのせいで俺の力は完全にお前の魂と結びついてんだよ。オレが離れれば確かにオマエは死ぬが、そのついでにオレも死ぬ。馬鹿げた話だぜ、ニンゲン如きと一蓮托生とはなぁ』

 

ブラック・ミストは嘘をついていない……。

勘……というか何となくわかるんだ。こいつは嘘をついていない。

多分魂ごと融合した関係でその辺のこともわかってしまうんだろう。

確かにブラック・ミストは前から俺の心を読んだような言動を取ることがあったし、そういう事だろう。

 

『あーあーせっかくアストラルのとこから逃げ出したってぇのに、とんだ災難だぜ』

 

(だがこいつはある意味好都合だぜ。こいつのナンバーズの力を使えばアストラルも遊馬もブッ倒せるかもしれん)

 

……とかなんとか考えてるのが伝わってくる。

先に言っとくが、そんなことしねえからな、絶対。

嫌でもやらせるって言われた。こわっ。

精神力を高めとかないと身体の自由を奪われてあんなことやこんなことをさせられてしまうのかもしれない。助けてくれ誰か

 

「……当面の間ブラック・ミストは身動き取れない、ってことでいいのよね」

「そうらしいな。だろ?クロちゃん」

『あ?なんだクロちゃんって』

「ほら、96だからさ」

『オレにはブラック・ミストってちゃんとした名前があんだよ』

 

少なくとも今のところこいつに敵対の意思は感じられない……というか、敵対すれば共倒れになるのが目に見えてるからか。

あいつからすればしばらくはアストラルや遊馬からは逃れられるし、回収も避けられるからゆっくり脱出方法を考えればチャンスが巡ってくる———とかそんな感じだろう。だが瑠那がいる以上どうだか……便利なもんだな、これ

 

「あなたの事はアストラルに伝えに行くわ。それから引き剥がす方法と、才人の魂を治す方法を探しましょう」

「……治らないんじゃないのか?」

「……今は(・・)ね。けど技術っていうのは時に凄まじいスピードで発展するものよ。異世界の力というブレイクスルーを経て、私たちの技術は大幅に進化してきた。……だからきっと大丈夫よ」

 

治るのか。

そうか。

じゃあいつかブラック・ミストともおさらばして完全な肉体で生きていける日が来るってわけだ。上出来。

 

元の世界への帰り方、とかなんでここに来てしまったのか、とかはまたの機会に考えようか……。

というか、来て早々死にかけるってちょっと幸先が悪すぎるな。

 

なんせ俺はZEXALを見てないしネタをちょっと知ってる程度の知識しかない。ここは瑠那のお言葉に甘えさせてもらって、しばらくはおとなしく休んでよう。

今この状態で世界の危機だの闇のゲームだのに巻き込まれたら生きていられる自信がないからな。

 

「まだ夜が明けるまで時間がかかるし……私の隠れ家に連れて行くわ。明日、アストラルに会いに行くから今夜はゆっくり休んで」

「えっ」

 

 

いや〜女の子に自宅に誘われるなんてモテる男は困っちゃうぜ!

ブラック・ミストに違うと思うって言われた。うるさいよ

俺を抱えて立ち上がろうとする瑠那。

今の動きでなんとなく察したんだけど俺ってもしかしてずっと膝枕されてたの?

触覚が死んでるのを今ほど恨んだ事は無いよ。畜生

 

しかし瑠那の体格じゃあ俺1人運ぶのはキツいんじゃ?とか思ってたら、瑠那が俺に肩を回して立たせ、ペンダントに触れた。

赤い光が強くなって———一瞬で景色が変わる。

光が収まると、真っ暗闇のハートランドから、いかにもな薄暗い隠れ家へ。

え、瞬間移動?異世界の力すごいなオイ

 

「ここが私のアジトよ。取り敢えずあなたはゆっくり休みなさい。寝ている間に治療もしておくわ」

「おっ、おう……なんていうか、ありがとう」

「……いいのよ。あなたはもう充分大変な目に遭ったわ」

 

慈しむ目はまるで母親のよう……いや、瑠那って年齢そこまで俺と変わらないよね?何この歳の差感は。

俺がガキなだけとか言うのやめろ!

心の中で口喧嘩をしていると、いつの間にか寝かされていた。

見るからに置いてるだけですって感じのベッドに横たえられていて、デッキとディスクは取り外された。瑠那の匂い……はしない。というかこれ使ってないだろ。新品同然だろ。

 

薄暗い隠れ家は見渡すと辺り一面謎の機器とコードが張り巡らされていて、どれも謎の赤い光を放っている。

バリアン世界の力で動く特殊な機械ってとこか。

古い倉庫でも改造したのか、中は相当広い。けど面積の7割は機械が占めていて、生活空間らしきものは確認できない。

 

瑠那は俺を寝かせた後、この機器たちのメインコンピューターらしい画面に張り付いて謎のデータを弄っている。

自力で本来扱えないRUMを開発し、カオスの力を制御してしまうぐらいなのだから研究者としても相当優秀なのかもしれない。

これ以上俺の敗北感を強くしないでいただきたい。

 

その後、しばらくはカタカタとキーボードを弄る瑠那をなんとなく眺めていたが、あんまりにも疲れていたのか、いつの間にか眠気に襲われていた。

 

 

……確かに今日1日だけで色んなことがありすぎた。

遊戯王の世界に来てしまった。

ナンバーズの精霊と出会った。

時間が止まった。

ナンバーズハンターと出会った。

デュエルをした。

……そして負けた。

死ぬ寸前ギリギリでなんとか生き残った。

そして瑠那に助けられて、今ここにいる。

 

何故?とかどうやって?とか、今は関係無い。

ただあるのは事実だけ。

俺はこうして何かの因縁に巻き込まれ、こうしてここにいる。それは変えようも無い事実。

なら俺は逃げるわけにはいかないんじゃないのか?

こんな普通じゃありえないことが起きた裏には、必ず何かがあるはずなのだ。となれば、俺が呼ばれたことには必ず何かしらの意味があって、誰かの意図が存在して、今こうなっている筈だ。

 

それは一体何なのか、今の俺にはわからない。

それがわかるまでは、きっと元の世界に戻れないんだと思う。俺が勝手にそう思うだけ……だけど、多分本当にそうだ。

戻れるならとっくに戻れてる筈だ。それこそ夢から覚めるみたいに……。

 

夢なら良かった?

夢じゃなくて良かったのかもしれないし、良くないのかもしれない。

けど、瑠那と戦って得たあの高揚感と、心地よさすら感じる悔しさは、この世界でなければ味わえない感情だった。それは確かだ。

 

まぁ、何であろうが今は身体を休めなければならない。

これから先、何が起こるのか、何に巻き込まれるのか、俺は何をすればいいのか———どこに逃げたって来るもんは来る。来た時に、負けないようにするだけだ。

 

幸運その1。

瑠那に出会えた。

幸運その2。

ダーク・リベリオンが助けてくれた。

幸運その3。

俺のメンタルは意外と強かった。

 

 

これからも、こんな幸運が続いてくれるといいな……。

俺はそんな楽観的なことを考えながら、ついに眠気のダイレクトアタックを喰らってしまった……。

 

 

 

続く

 

 

 




俺とお前でオーバーレイ!(不本意)

ブラック・ミストさんは色々あって原作より色々なことを知ってます
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