仄かにランタンが照らす部屋、炎が揺れ部屋の全容が顕になる。
周りには綺麗に整頓された紙の束、本棚にはぎっしりと敷き詰められた本の数々、辺りにはペンのインクと紙の匂いが漂っている。
そんな部屋に老人が椅子に腰掛け机に突っ伏している。どうやら紙に何かを書いているようだ。
ふと老人が手を止め重いため息をついた。
「はぁ…」
すると老人の後ろにいた魔物が心配げに老人を見つめる。
「おっと…いかんいかんこの歳になるとつい気が緩んでしまう。」
そういうと老人は伸びをすると手を動かし始める。
この老人の名前はグマ、この国のモンスターマスターの1人である。
「儂はあの子もそろそろ旅をしてもいいと思うんじゃがの…。」
また老人は手を止め独り言を言い始める、もしくは自分の後ろの魔物に話しかけているのかもしれない。
グマの言葉に同意するように後ろの魔物も低く唸り声をあげる。
「お前もそう思うかシャルル。」
グマが後ろのシャルルと呼ばれた魔物もといシャドウパンサーのシャルルに声をかける。
「まあお前が心配するのもわかる、あの子ももうちょっと明るくなったらのう…ユーグリットのじいさんにでも相談してみるか…。」
そう言ってグマの言葉は部屋の中に消えていった…
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ところ変わってここは街の中、辺りからは客を呼び込む客引きの声や元気な子供の声が聞こえてくる。
ここは鉄錆が香る機械作りの街「メカニカル」、人間と魔物が共存するこの街は至る所に金属製のパイプが伸び、地面が銅板や鉄板といったもので舗装されている、まさに機械作りの街だ。
今日もそんなメカニカルの大通りは賑わっており活気がある、そんな街の大通りを1人の少年がフードを目深に被り、足早に荷物を持って道を進んでいく、その後ろには一体の魔物が一定の距離をとって着いてきている。
「遅くなっちゃったねロビン、早く帰らないとね。」
少年が後ろの魔物に声をかけると後ろから間を置かず、すぐ機械的な返事が帰ってくる。
「目的ノ物ガナカナカ見ツカリマセンデシタカラネ。」
「そうだね。でも見つかってよかった。」
短い会話を済ませると2人はまた大通りを足早に進み始める。
少年の名前はテトラ、ここメカニカル に住む駆け出しのモンスターマスターである。テトラがロビンと呼んだ魔物、キラーマシンのロビンは青色の装甲に剣を持ち、左手には直接ボウガンが取り付いており、背中には矢筒を背負っている、その姿はまさに機械兵のようである。モンスターマスターというだけあってこのキラーマシンはテトラが連れているパートナーのようである。
その後もテトラは大通りを進んでゆく、しばらくすると段々と道の舗装は途切れ地面と雑草が剥き出しになる、どうやらいつの間にか大通りは通り過ぎたようだ。
テトラは迷うことなく剥き出しの地面の獣道を進んで行く、すると目の前の視界が開け、ひとつの家が目に入る。
その家は外装がレンガ造りになっており、至る所に壁を修正した跡が残っている。周りには近くから引いてきたのか小川の流れにより、家に備え付けられた水車が鈍い音を出して回っている。扉の横には「機械整備、修理屋『ネジキ』」、と書かれた看板が垂れ下がっていた。
テトラがドアノブに手をかけ扉を開けると、扉に付いていたベルが軽い音を鳴らして来訪者が来たことを告げる。
「ただいま…。」
「タダイマカエリマシタ。」
テトラとロビンが家の奥にそう声をかける、どうやらここが彼らの家のようだ。少し間を置いて家の奥から「おかえり」と言う返答がかえってくる。
返事を聞いたテトラとロビンは家の中に入っていく。部屋の何には1人の老人が椅子に腰掛け手元で何かをいじっていた。
その様子をしばらく見ていたテトラに目を向け老人が声をかける。
「それで頼んだパーツは見つかったかな?」
「はいユーグリットさん、南通りのパーツ屋に置いてました。」
「ふむ、まだあの店潰れとらんかったか。」
そう言って老人が軽口を叩く。テトラが呼んだとおりこの老人の名前はユーグリットというようだ。
「お代は紙に書いて机の上に置いといてくれ。」
そういうとユーグリットは再び机に目を落とし作業を再開した。
「はい」
短く返事を済ませるとテトラは自室に入っていく。部屋の中にはクローゼットや机、ベットといった日用品から本棚などが置かれている。
クローゼットを開き、自分が今来ているフード付きの上着を脱ぎ始める、フードをとったことによりテトラの頭部があらわになる。くすんだベージュの髪を後ろでまとめ、顔立ちはかなり整っている、瞳は紫紺で、肌は色白である。服装は白色のタンクトップの上にデニムのオーバーオールを着ている。このような服装でなければ男とは気づかないほどその容姿は整っていた。
服を片付けたテトラが部屋の隅に目をやるとそこにはロビンが立っていた。
「ロビンも休んでいいんだよ。」
そう言って声をかける。
「ワタシハ機械、休息ハフヨウデス。」
何度目になるか分からない問答が行われる。
「ソレニ、ゴ両親ニハアナタヲ守ルヨウイイツケラレテオリマスカラ。」
ロビンがそういうとテトラの顔に僅かに影が差す。そんな彼の表情からは何があったのか窺い知ることはできない。
「そっか…。」
そう呟くとテトラは椅子に座り机の上の本を開き始める。本には『魔物大全』という表紙が書かれている。
しばらく本を読んでいたテトラがロビンに再び声をかける。
「ねぇロビン旅に出たらこんな魔物にも出会えるのかな。」
そう言ってテトラが指したページにはオリハルコンと呼ばれる魔物の絵が描かれている。ゴツゴツとした肌に巨大な体躯を持つドラゴンのようなモンスターだ。
「世界ヲ見テ回ッタラ出会エルノデショウカ。」
「そうだね…でも外の世界は危ないって聞くし…。」
「旅ニ出ルト言ウノナラ、オトモイタシマス。」
「うんそうだね旅に出る時はロビンも一緒にね。」
そんな2人が外の世界についての話をしていると。外からユーグリットがテトラ達を呼ぶ声が聞こえた。
「テトラちょっと来てくれ。」
「はい、ただいま」
短く返事をすると机の上の本を手早くしまいユーグリットの待つ部屋に向かう。
自室を出てユーグリットの部屋に入る、中には先程までいなかった老人がもう1人椅子に腰を掛けていた。
「グマ…さん?」
どうやらテトラの知り合いのようだ。
「おぉ…テトラ君大きくなったのう、それとロビンも久しぶりじゃの。」
「お、お久しぶりです…。」
「ゴブサタシテオリマス。」
「ホッホッホッ相変わらず人間味のあるキラーマシンじゃのう…まあ座りなさい、今日は話が合ってきたんじゃ」
そう言ってロビンについて短く感想を告げたグマがテトラ達に座るよう促す。
「はい」
椅子に掛けたテトラがグマに何の用件かを問う。
「そのことについては私から話そう。」
先程から静かだったユーグリットが声をあげた。何やら大事な話なのか少し重い口調で喋りだしたユーグリットに少し身構える。
「テトラももう少しで駆け出しのモンスターマスターとして年少の大会に出ることになるだろう、その時の為に今から経験を積まようと思ってな、どうだテトラ………。」
そう言ってユーグリットが息を飲む。
「旅に出てみんか?」
一呼吸置いてのその一言にテトラは驚く。
「旅、ですか。」
「そうじゃ」
その言葉を口の中で転がす、思い出すのは先程までロビンと話していた会話の内容だ。旅に出るということは非常に魅力的だ、今とは違う世界を見て、ここにはいないようなモンスターに出会えるかもしれない、そんなことを思うと自然と心が弾み、好奇心が生まれる、しかしそんな気持ちに自制をかけるかのように旅への不安などがごっちゃになってテトラの頭の中で回っていく。そう悩んでいたテトラにグマから声がかかる。
「何、旅と言ってもこの街にある旅の扉を使っての旅じゃ、その先で色々なものを見て、様々なことを経験する、時には苦労することもあるかもしれんがそれも旅の楽しみのひとつじゃよ。もし、パーティーが全滅してもルーラを唱へて帰って来ればええ。」
そういいグマがテトラを諭す。
「それに儂の孫はこの話を聞いたらすぐに行くと即答じゃったよホッホッホッ」
「エディが?」
エディとはグマじいさんのところの孫の名前である。
「そうじゃよ全く怖いもの知らずなのか最低限の荷物を持ったらすぐに旅の扉を潜りおった、それでどうじゃテトラ、お主も旅に出てみんか?」
旅の扉それは青色の光が渦が巻いたような形をしており潜るとこことはまた違った世界に行くことが出来るという。
そんなテトラの悩む姿を見たユーグリットが声をかける。
「すぐに返答を出せとは言わない、ただ今日中には決めなさい。時間をかければ決心が揺らぐ。」
そんなユーグリットの言葉を受けテトラは逡巡すると、顔を上げた。
「僕も…行きます。旅に出ます!」
「ほう…言いきったのう。」
「それでこそ儂の孫じゃ。」
テトラの言葉を聞いてかグマはしたり顔で、ユーグリットはうんうんとうなづいている。
「そういうと思ってな、荷物はもう準備しておいた。」
そういうとユーグリットが自分の脇に置いてあったカバンを掴みテトラに渡してきた。
「必要な物はユーグリットとわしで鞄に入れておいた。」
そう言って鞄を開くと中には地図や薬草、路銀といったものから魔物エサなどが入っていた。
「お主が潜る旅の扉は「旅立ちの扉」まぁ、この街のもんがモンスターマスターになるなら最初に潜ることになる扉じゃよ。」
グマから簡単な説明を聞く。
「許可はもうとってあるからの…では話は以上じゃ!自室に戻って準備出来たら旅の扉の間まで来なさい。」
「はい!」
そういうとテトラは席を立ち自室に戻っていく。自室に戻るとロビンに声をかける。
「ごめんね、ロビン勝手に旅に出るなんて決めて。」
「イエ、ソレガテトラノシタイコトナラヨロコンデオ手伝イイタシマス。」
「ありがとう!ロビン!」
ロビンの言葉を受けこれからの冒険へ期待を膨らませる。
これは1人の少年テトラの長い旅の物語。
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