ROMAN DE ドォォォォン!! 作:霧鈴
「
おれたちは結成して数年のしがない海賊。
あの海賊王の最後の言葉に夢を見て必ずワンピースを見つけると約束し、心配する幼馴染を島に残して故郷を飛び出してきた。
その後たまたま似たようなやつらが酒場に集まり、意気投合した結果一緒に海賊をやることになったんだ。
船長はみんなやりたがったが、くじで決めることにした。その結果、おれは当たることはなかったが、あいつが船長をやっていることには納得している。
そこからは冒険の連続だった。他の海賊との戦いもあったし、島で猛獣に襲われることもあった。
そんな大げさなことではないかもしれないが、それでもおれたちは楽しかったんだ。
だが、そんなおれたちの冒険に暗雲が立ち込めることになる。きっかけは…悪魔の実だ。
たまたま見つけることができた何の実かもわからないこれを、どうするかと話し合っているうちに船長が独断で食ってしまった。
そこからは…まるで悪魔に魅入られてしまったかのように船長は変わってしまったんだ。
今までは話し合って決めていた事をすべて自分の判断で決めるようになり、いつしかクルーたちにさえ手を出すようになっていった。
島に上陸しても酒場で騒いで楽しんだら金を払って帰るだけだったのに、気に入った女がいたら力づくで連れてきては相手をさせるようになった。
おれたちは何度も船長を説得し、改心するように求めたが効果はなく、もはや最初の頃にあった結束は見る影もない状態となってしまっていた。
ズルズルとそのまま偉大なる航路へと入っていき、辿り着いた島でも同じことの繰り返し…
いつしかクルーたちも船長と同じように気に入らなければ暴力を振るい、島へ上陸すれば金と女を奪うようなお尋ね者へと変貌していた。
だがそんなおれたちにも天罰ってのが下ったんだろうな…
町でいつも通りに略奪をしていた時、小さな船がこちらへとやってくるのが見えた。
運の悪いやつもいるもんだ…この時はそう思っていたんだ。
しかも船から降りてきたのは男女2人だけ。きっと旅人か何かなんだろう。
更に船から降りてきたその女はとても可愛い上にスタイルも良いという最高の女だ。きっと性格も抜群に良いんだろう。優しさが滲み出ている気がする。
だが、我先にとその女を奪おうとしたクルーたちは見事に返り討ちにあっていった。
一緒にいた男はどこから出したのかわからない巨大なハンマーを使って攻撃してきたのだ。
おれたちは必死に戦った。船長も含め全員が騒動を聞きつけてその男に攻撃していった。
だがその男のハンマー捌きは見事なもので、銃弾も刃物もすべて跳ね返したりいなしてしまう。
きっと相当に名の知れた男に違いない。クルーたちは1人…また1人と倒されていく。
ここがおれたちの終わりか…そう思ったら故郷に残してきた幼馴染の顔が頭に浮かんだ。
帰れなくてごめんな…目の前に迫りくる巨大な鉄の塊を見ながら、最後におれは幼馴染に謝っていた。
っていう物語を思いついたんだけど、なかなか良い出来じゃなかった?」
「
「そう?こいつらの生涯が簡潔に纏められてると思ったんだけどな」
「一方的に叩き潰しておいてまるで激闘だったみたいな表現もだけど、私のところ褒めすぎじゃない?言われて悪い気はしないけど、そこまで言われると恥ずかしいわ」
うーん、さすがに言い過ぎたか?別に嘘を言ってるわけじゃないからいいと思うんだけどなぁ。
俺の妄想ストーリーは置いといて、あれからウォーターセブンを出発して辿り着いた島には海賊がいたんだ。
そいつらは俺たちを、いやロビンを見るなり連れて行こうとか言ってやがったのでそのまま船も含めて粉砕してやった。
だがそれだけだと毎度恒例の事だし、なんとなく思いついたこいつらの人生を俺が脚色してあげてロビンに聞かせてみたんだけど感触はイマイチだな。次は感動させてやる。
町の人たちみんなからお礼を言われ、更には「お礼にぜひ泊まっていってくれ」という町長のお言葉に甘えて町長宅にしばらく滞在させてもらうことにした。
ここに来たのはロビンの目的のほうだから、俺は新しく定められた自身の目標に向かって努力を積み重ねるだけだ。
ロビンが町長や町の人たちから話を聞いたりしている間に、俺は新しくやってきた
イメージするのは最強の自分だ。古代兵器すらも凌駕し、あらゆる攻撃が効かずこちらから攻撃すれば世界を滅ぼすほどの自分の姿…それを明確にイメージして全身に武装色の覇気を纏いながら海賊たちの攻撃を一身に受け、それでも傷1つないという状況に絶望する海賊たち。
最後は白旗を掲げて降参してきたんだが、もうちょっと粘ってほしかった俺は「もっと頑張れよ!敵わないからって諦めるな!お前たちの眠っている力を開放しろ!」と海賊たちを鼓舞してみたんだけど、もう心がポッキリ折れてしまっているみたいだ。
どうやらもう俺の修行としては使い物にならなくなってしまったので、そのままホームランで海の向こうへと叩き出して海賊船に積まれていた食料や金などはロビンが話を聞かせてもらってる礼にと町に寄付しておいた。
そこからはまた1人での修行になったから、全身を武装色の覇気で纏いながらしばらくやってなかった空中移動とかやって過ごしていた。
「ハンマ。もうここで聞ける話は全部聞いたと思うから、いつでも出発して構わないわよ」
「りょーかい。それじゃ次の島にでもいこっか」
「町の人たちは随分と喜んでいたわね。私までたくさん感謝されちゃったわ」
「別にいいんじゃない?友好的に接してくれるならそれに越したことはないと思うよ」
俺が海賊を倒したことでロビンのほうにも協力的になってくれるのなら言うことはない。ロビンが聞いたことで町の人にはわからないことでも調べてくれたりしたみたいだし。
だが一通り調べ終わった事で、この島での目的は果たしたみたいだから次の島へと移動することにした。
俺たちは世話になった町長や町の人たちに別れを告げ、大勢で見送ってくれる中次の島へと出発していった。
ところで魔の海域ってどこにあるんだ?
ロビンから「ハンマは行っておきたい場所とかないの?」って聞かれたんで、そのまま予定を伝えたんだけど「それで、その海域はどのあたりにあるか知ってるの?」って更に聞かれて答えられなかった…
てっきりロビンなら「ああ、あそこね」とか言ってくれるもんだと思ってたから、海軍本部でも詳しい場所を聞いてない。
元帥に「ちょっと会ってくるよ」とか言っといて会えなかったとかマズイかな?別にいいか。
適当に進んで行って、辿り着ければそれでよし。辿り着けなかったら魔の海域が俺から逃げたってことにしとこう。なんか運命に身を委ねるみたいでカッコいい気がする。
…
……
………
やっと見つけた…あれから船を進めていったはいいけど、全然魔の海域とかいうところに遭遇することができなかったおかげでとにかく探し回ったよ。
本当は見つからないならそれでも良かったんだけど、ロビンから「私だけ行きたいところに行くなんてダメよ。ちゃんとハンマの行きたいところも行きましょう?」と言われてしまったからな。
こんなことならロビンに予定を言わなければよかったかもしれん。つーかゲッコー・モリアも潜んでるなら潜んでるで、どこにいるのかわかるようにしとけよな!
霧の深い中を進んでいき、やっと陸地を見つけたから上陸してみたんだけど誰もいない。
なんか船は停泊してたから誰かいると思うんだけどなぁ。これで違ってたらもうロビンを説得してでも先に進もう。
ゲッコー・モリアに会いに来たのだって、ちょっと挨拶程度のつもりだったんだ。一応王下七武海の新参者ではあるから「これから同僚だよ。よろしくね」くらいの用事なんだ。
まぁここまで来た以上は、ちゃんとゲッコーさんのお宅訪問してご挨拶はしておくけどさ…
しかし森ばっかだな。ロビンと一緒にしばらく先に進んでいると、どこかから戦闘してるっぽい感じの音が聞こえてきた。あれ?なんか静かになったぞ。もう終わったのかな?
「おや?ゾロと…………だれ?」
「ハァハァ…ハンマか。がはっ、なんで…こんなところ、にいるんだ…?」
「なんか死にそうになってね?あとこちらさんは知り合いか?」
「…鉄槌か」
「俺の事は知ってるのか。どちらさん?」
「お前と同じだ。暴君、と言えばわかるか?」
あれ?七武海の暴君くま?もしかして…ここゲッコーさん家じゃなくてくまさん家だったのか?
……ま、まぁ結果的には七武海に会えたんだし良かった事にしよう。ゲッコーさんには会えなかったがきっと人見知りでシャイなんだろう。七武海として致命的だと思うんだが、そんなところを五老星や元帥は気に入ってるのかもしれないしな。俺ならごめんだが。
「初めまして暴君。俺はクロコダイルの後任のハンマだ。さっき言った通り鉄槌でも構わんよ」
「海軍本部からお前がここに来るはずだと聞いて来た。お前の船には連絡手段がないそうだからな。世界政府からの言葉を伝える…『新世界へと渡り、与えられた任を全うせよ』…以上だ」
「うん…?俺ってなんか任務とか与えられてたの?」
「詳細は聞いていない」
「いや今言っても仕方ないけどさ、相手に伝わらなかったら伝言の意味なくね?」
「なるほど、的を射ている。だが伝言は確かに伝えたぞ」
確かに伝えられたわけだが、肝心のその言葉の意味が俺に伝わってないぞ?
しかしなんで俺への伝言を持っててゾロと戦ってるんだと思って聞いてみたら、くまさんが「海賊を狩っているだけだ」と納得できる答えをくれた。
おお!仕事熱心な同僚がいて嬉しいぞ。人前に出るのが苦手で隠れてるどこかのゲッコーさんにも聞かせてやりたい言葉だな。
くまさん家に訪問ができたからもういいだろう。ゲッコーさんには、いずれどこかで会うことがあれば「近くまで行ったけど場所はわかんなかったよ」って言えば理解してくれるだろ。
あーでも、せっかくだからくまさんの戦い方とか見てからでもいいかな?もう終わっちゃったかな?
俺の用事は終わったし「俺の事は気にせずにやってていいよ」って2人に伝えてロビンと並んで状況を見守ってみることにしてみた。
すると、このまま麦わらの一味を狩ってしまうのかと思ったら、ゾロから「おれの首だけにしてくれ」と命乞いコールがかかり、くまさんは「麦わらの蓄積したダメージを肩代わりして生きていたら見逃してやる」ということだった。
どうやらくまさんは俺と同じくゲームが好きなようだ。むしろ俺の「攻撃するから耐えられなかったら負け」というゲームより優しい気がする。だって俺の場合は
てかゾロのやつ、なんで俺に助けを求めなかったんだ?くまさんのゲームでワンチャン狙うよりも俺にヘルプコールしたほうが助かる確率高いとは思わなかったのか?
いくら俺でも瀕死のやつらを甚振って遊ぶ趣味はないんだぞ。せいぜい「俺に傷を付けることができたら助けてやる」って言って中途半端になってる武装色防御の修行相手になってもらうくらいだ。
最後まで眺めててもいいけど、用事も終わった上に同僚のお遊びをガン見するのも悪いので退散することにしようっと。
「ロビン、人は違うけど俺の予定は達成できたから次行こうか」
「え?もういいの?」
「うん、ただの挨拶だからね。ところで世界政府から与えられた任務ってなんだと思う?全然心当たりないんだけどさ」
「…………何か特別な事を言われてないのであれば、七武海としての役目を果たせってことじゃないかしら?」
あーそういうことか。つまり五老星は『いつまでも前半の海にいないで、さっさと後半の海に行って凶悪海賊どもを狩ってこい』って言いたかったんだな。それならそうと言えよ。言葉が足りなすぎるだろ。
どちらにせよ後半の海には行くんだしそこまで急かさなくてもいいと思うんだが…もし後半の海に行った後に「前半の島に重大な歴史のヒントがあるよ!」とか言われたらどうするつもりなんだ。
それに誰にも知られてないから仕方ないけど、これでも俺は世界の危機を未然に防いだ英雄なんだぞ。
俺があの設計図を奪わなかったら、今頃世界は火の海に包まれていたのかもしれないなんて思ってもいないんだろうな。
こんなことなら修行しながら先に進んでいたほうが有意義だったんじゃね?なんか余計な寄り道をしてしまったせいで無駄に疲れたわ。