ROMAN DE ドォォォォン!! 作:霧鈴
「おはよう、ハンマ」
「…なんで俺はロビンに膝枕されてるの?」
「あなた、間違ってお酒飲んじゃったのよ。あとはいつも通り暴れて、戻ってきた途端に私の膝枕で気持ちよさそうに眠ったんじゃない」
マジデ!?そんなことしちゃってたの!?まったく覚えてないんだけど…
もしかして俺ってばお酒飲むと甘えるタイプなのかな?だからロビンは何があったか教えてくれないのか?
しかも起きるまでずっとそのままでいてくれてたってことか…怒ってはいないみたいだけど、それは申し訳ないことをしたな。
しかしなんでお酒なんて飲んじゃったんだろ?シャッキーのお店でロビンを待ってて、ルフィたちが入ってきたような気がするんだが…そのあたりから曖昧だな。シャッキーに聞いたらわかるかな?
「ねぇロビン、今日もレイリーに特訓してもらいに行く?」
「そうね…少しでも早く身につけたいと思ってるから行くつもりよ。そうしないと先に進めないでしょう?」
「進めないこともないけど、習得してくれてると俺が安心して戦えるかなぁ」
「なら決まりね。私もがんばるから、もう少しだけ待っていてくれる?」
別に急がせるつもりはないから、レイリーの元でしっかりと見聞色の覇気を習得してくれればいい。
戦いは全部俺が受け持つつもりだけど、これから先どんな相手がいるかわからないからな。不意をついた攻撃なんかを避けることができるだけでも十分だ。
それじゃあロビンと一緒に朝ごはんを食べてからシャッキーの店に行くとしよう。
…
……
………
「レイリー!今日もよろしくねー!ってお前らもいたのか。雰囲気暗いけど何かあったのか?」
「おはよう。鉄槌ちゃんって本当に何も覚えてないのね」
「そうそう、シャッキーに聞きたかったんだ。俺お酒飲んじゃったらしいんだけど、間違って飲んだのかな?」
「…ちゃんとあの子たちに謝っておきなさいよ?はい、あなたにはミルクね」
どうやら俺は何かやらかしてしまってるみたいだな。ルフィたちに何かしたのか?そういえばケガしてるような…気分が良くなって大魔王ムーブとかでもしたのかな?
「おっす。よくわからんが悪かったな。まったく覚えてないんだが何かあったのか?」
「アンタ…まぁいいわ。ちょっとこっち来なさい」
「なんだよ…イテェ!なんでナミはすぐにゲンコツするんだよ?」
「これで許してあげるわ。結果的にみんな無事だったし、こっちのせいな部分もあるしね」
うーん…何かしてるんだろうが、ゲンコツで許されて特に何も言われないってことは大したことじゃなかったってことかな?それにしては神妙な表情をしてるような気がしないでもないが…
「なぁハンマ。ハンマくらい強くならないと仲間を守れねェのか?」
「うん?今の俺がどれくらい強いのかは正直なところ自分でもわからんが、俺の目標は世界の全部を敵に回してもロビンを守りきるくらいの強さだ。これから戦う相手が全部自分より弱いなんて有り得ないだろ?そして自分と敵が比例して強くなっていくのなんて物語の中だけだぞ」
「おれは…弱ェ。もう少しで仲間も何もかも無くしちまうところだった…もうあんな思いはしたくねェ」
なんか思いつめたような顔したルフィから強くないと仲間を守れないのか聞かれた。そんなことは当たり前のような気もするが、俺だって自分がどれくらい強いのかわからんからなぁ。
俺の目指すところは古代兵器超えなわけだし、世界を海に沈めるくらいの古代兵器より強くなれれば世界中を敵にしたとしても戦えるだろう。
ふと『宇宙からの侵略者』って単語が頭に浮かんだが、さすがにそれはないだろうと思いたいな。
しかし「何もかも無くすところだった」って、一体何があったらそんな悩みにぶつかるんだ?
原因がわからんからその悩みを解消してやることはできないし、ありきたりではあるが俺は自分の経験なんかを元にして参考程度に話してやることしかできない。
「何が言いたいのかわからんが、無くしたくないなら抱えて守れるだけ強くなるしかないだろ。俺が強くなるのは自分とロビンのためだぞ。それに守るのは命だけじゃない、心も守れないと意味がないからな。俺が七武海になったのも、六老星になろうとしてるのも全部そのためだ」
「命だけじゃない…心も守る…」
あんまり説教というか、こういうのは柄じゃないから少々こっ恥ずかしい気持ちがあるが、考えてみればこいつらって俺よりかなり年下なんだもんな。
たまには若者に対して助言をするってのも悪くはないだろう。とか思っていたらロビンから待ったがかかった。
「ねぇハンマ?ちょっと私の知らない単語が出てきたんだけど、六老星って何かしら?」
「あれ?ロビンには言ってあったと思うだんけど…七武海になれなくても五老星の仲間に加えてもらえれば問題ないよねっていう画期的な計画だよ」
「…あなたそんな事を考えていたの?私には言ってあったって、初耳なんだけど」
「うそ!?」「嘘なわけないでしょう…」
マジカ…てっきり伝えたと思ってたよ。てことは『六老星になろう』計画をロビンは知らなかったってことだよな。まぁ今言ったから問題ないか。
ただロビンさん?「どうやら洗いざらい話してもらう必要があるみたいね…」とか呟いてるの聞こえてるんですが…なるべく、なるべくお手柔らかにお願いしますね?
まぁそれは置いといて、きっとルフィたちも俺が知らない間に仲間を失いかけるような何かがあったんだろう。
俺には応援することしかできないが、がんばって強くなれよ…とか思っていたらレイリーから思わぬ提案が飛び出した。
「ふむ…それならばハンマくんが少し鍛えてあげればいい。きみも自分の能力の使い方を考えているところだろう?お互いに得るものがあるんじゃないかね?」
「えー…それならレイリーがやればいいじゃん。未来ある若者に手を差し伸べるのも老人の役目なんじゃないの?」
「ならばこうしよう。私が彼女に教えている間に、きみが彼らを鍛える。これならば対価としては十分だろう?」
「ぐっ…交換条件とは卑怯な。でも俺は我流だったからレイリーみたいにうまく教えることはできないし、とにかく追い込むことしかできないけどいいの?」
「構わんさ。アレは意思の力だ。それくらいしなければ、ただ聞いて使えるような代物ではないからね」
ロビンに見聞色の覇気を教えてもらってる手前、断るのも悪いし仕方ないか。ついでにこれを貸しとしてガープ中将あたりに返してもらうとするかな。
あの爺ちゃんなら「孫を鍛えてやったぞ」って言ったら頼み事くらい聞いてくれるだろ。
ただ、最初にこれだけは聞いておかないとな。
「さてお前たちに確認しておく。聞いての通り、これから俺がお前たちに強くなるための修行を受けさせる事になったわけだけど、もしかしたら死ぬかもしれないが構わないか?」
「「構うわこのアホ!!」」
「じゃあお前らは参加しなくていいさ。別に俺はお前らが強くなろうが弱かろうがどっちでもいいんだからな。なんなら全員不参加のほうが俺としては楽なんだが…」
「「「望むところだ!!」」」
ルフィ、ゾロ、サンジは参加でナミとウソップは不参加かな?チョッパーは医者だから治療要員でいいだろ。ケガしても遠慮しなくて済むし俺としてもありがたい。
ウソップは震えながら「お、おれも勇敢なる海の戦士だからな。もちろんやるぞ」とか言ってるが、みんながやるからなんて思ってると痛い思いをするだけだぞ。
…
……
………
「さて、始める前にお前らに今回の修行のゴールを見せておく。そうしないとイメージが掴めないだろうからな。ルフィ、帽子とってこっち来い…そんで今からお前を殴るから痛いかどうか言ってみろ」
「ん?わかった…いたくねェ……なんだその腕?ってイテェ!!」
わかりやすい説明のためにゴム人間であるルフィを普通の拳で殴って、その後に武装色を纏った状態で同じ力で殴ってみせる。これなら口頭で説明するよりも理解するのは簡単だろう。
「わかったか?攻撃にも防御にも使えて、悪魔の実の能力者に対しても効果がある。これを使えてればあの時凍らされることもなかったかもな」
「イテテ…こんなんあるならもっと早く教えてくれよ」
なんで俺がいちいち教えてやらにゃいかんのだ。とにかく追い込むだけ追い込んでみるか。
ここには麦わらの一味全員いるが参加するのはルフィ、ゾロ、サンジと薬箱のチョッパーだけだ。ナミとウソップは何をするのかわからないから離れたところでとりあえず見学するらしい。
そこからはハンマー振り回しては追い回す作業の連続だった。まぁ一朝一夕で身に付くような力じゃないし、俺にできるのはとにかく窮地を演出することだけだ。
数日ほど叩いてはボロボロにしてチョッパーが治療するサイクルが続いていたが、経験値は積めてるんだろうけど大きな進展はない。何かいい方法ないかなぁ。
そういえば俺が武装色を使えるようになったのっていつだったかな…思い出した。あれはロビンが海賊に連れ去られて助けるのに必死だったときだ。
閃いた!これならあいつらもきっかけになるかもしれないぞ。
今日の特訓はきっと効果があるはずだ。何せ俺という実体験者がいるんだから…
そして女帝のところで悪役を演じさせられたことによって、俺の演技力も上昇しているはずだ。
ナミとウソップは初回に特訓内容を見て「自分たちで考える」と言って次回から来なくなった。なので次回以降の観客はいつもチョッパーだけで見守っていたんだが、今はチョッパーと共にナミも一緒に来るように言ってある。それじゃあ俺の演技力に驚くがいい!
「さて、今日も特訓をするわけだが…俺もいつまでも付き合う気はない。よってお前らに進展が見られなかった場合…ナミちょっとこっち来い」
「いいけど…何もしないわよね?」
「何もしないわけがないな。もし今日お前らが少しも成長していなかったら、ナミの手足を折ることにした。全ては強くなれないお前らが悪い」
「「「「なっ!?」」」」
そう、これこそがきっとこいつらに足りなかったものだったんだ。仲間を守るために強くなりたいのに、強くなれないがために仲間を傷つける。なんかポエムみたいだな…
これなら怒りの感情と共に目覚めるきっかけになるはずだ。俺は実際それで武装色目覚めたような感じだったし。
「ちょっと!なんで特訓で手足を折られなきゃいけないのよ!?アンタおかしいんじゃないの!」
「簡単な答えだ。お前らはたぶん危機感が足りなすぎる。ここらで大事な仲間が傷ついておいたほうが本当の意味で守ることの難しさを理解するだろう。それとも先に仲間が死にそうになったほうが力が出せるか?なら今からナミを文字通り砕いてやろうか。もし死んでしまったとしても俺は事前に死ぬかも知れないって言ってあるし、海賊だから文句も言われないしな」
やってから言うのもなんだが、これってマジですごい悪役だな。レイリーとの交換条件で鍛えてやってるから実際に実行したりするつもりはないが、この方針は案外悪くないのかもしれない。
3人とも目つきからして変わってるし、どうやら覚悟も決まってきてるようだ。
…
……
………
「「「「…………」」」」
「気迫は良かったんだが、コレでもまだダメか…」
「ルフィ!ゾロ!サンジくん!チョッパー!」
ナミにハンマーを振りかぶったところで3人が勢いよく襲いかかってきたんだが、それでも俺の武装色を抜くには至らなかった。
黙って見守るはずだったチョッパーまで攻撃してきたから返り討ちにしてしまったが、医者がそんな短慮じゃダメじゃね?
たぶん時間かけてちゃんと修行すれば目覚めるとは思うんだが、そもそも俺がちゃんとした修行っていうのを知らないからなぁ。
レイリーは俺のやり方でいいって言ってたけど、これ以上追い込む方法を思いつかんぞ。
まぁいい。チョッパーも一緒に寝てるんじゃ治療もできないし、今日のところは戻ろうかな。なぜかナミが棒を構えて目に涙を溜めながらこっちを睨んでるが、もしかしてナミ覚醒フラグだったのか?
「どうした?お前も
「ふざけんじゃないわよ!このまま黙って手足を折られるくらいなら抵抗するに決まってんでしょ!」
「何言ってんだお前?あー、そういうことか」
俺の悪役演技が迫真すぎてこのまま最初に言っていた通り骨を折られると思ってるのか。
とりあえずここで説明するのが面倒だったので「やらないからこいつら運ぶの手伝え」と言ってチョッパーを持たせる。ナミに持てるのはチョッパーくらいだろ。あとの3人は引きずっていくだけだ。
「ただいまシャッキー。ロビンたち戻ってきた?」
「まだよ。今日も絞られたみたいね。お疲れさま」
「あれ?こいつらだけ?俺には労いの言葉はないの?」
「はいはい鉄槌ちゃんもお疲れさま。ご褒美にミルクあげるわ」
戻ってきてぞんざいに扱われたけど、俺ちゃんとがんばってるよ?いろいろ工夫もして速成できるように考えてるしさ。
ナミから「早くちゃんと説明しろ」みたいな目で睨まれてるし、寝てるこいつらにはナミが説明してくれるか。
そこからちゃんと俺には俺の考えがあったことを伝えていく。
自分が武装色を使えるようになったのはロビンが海賊に連れ去られた時だったことや、大事であればあるほどきっとピンチになれば怒りやら何やらでパワーアップするかもしれなかった事。
手足を折るって言ったのは、単純に殺すとかだと現実味がないかもしれなかったからだ。あくまでも修行の中での事なのに、そんなこと言ったらこいつらだって「ああ、ハッタリなんだな」って思うだろう。ナミを選んだのは一味の中で一番手を出されたら怒るかなと思って選んだだけだ。
「言いたいことはわかったけど、それなら私にくらい言っておいてくれてもいいじゃない!」
「もしかしたらそんなピンチになれば、こいつらだけじゃなくナミも覚醒してパワーアップするかもしれないだろ?大体お前にそんな演技できるのか?」
「失礼な!むしろアンタよりマシよ!」
おいおい、俺はTAKARADUKA…じゃない。女帝たちに即興で悪役を振られても演じきった男だぞ。あと五老星たちとも強者ムーブで渡り合った演者だぞ?
まぁちゃんと説明はしたし、気絶してるこいつらにはナミのほうから言っておいてくれるだろう。
「おや、随分と賑やかじゃないか」
「レイリーおかえり!ロビンもお疲れさま!」
「ええ、ハンマもお疲れさま」
そうこうしてるうちにロビンとレイリーも戻ってきたわけだが、ナミのほうはまだ気が収まってないらしく「わたしはアンタみたいに見境のない理不尽暴力バカじゃないのよ!」とかすごく失礼な事を言ってる。
誰が見境ないんだよ…俺ほどわかりやすい見境持ってるヤツなんていないだろうが。まぁわからないって言うんなら教えておいてやる。
「ナミ、俺は理不尽なわけじゃない。ちゃんと明確な判断基準があるんだぞ」
「…その基準って何よ?」
「ロビンか、ロビンじゃないかだ!!!」
「なっ…」「ほう…」「あらあら」「ハァ…」
これほどわかりやすい明確な基準はどこを探しても他にないだろう。ナミは驚愕し、レイリーは感心し、シャッキーは微笑ましく見ており、ロビンはため息…ため息?ナンデ?
「あんたねぇ…いくらロビンが大事だからって、それ以外は全員攻撃対象なわけ!?」
「だが彼のようなタイプは芯が強いのも事実だ。特にハンマくんの場合は迷いや躊躇いがない。ここまで言い切れる者はなかなかいないよ」
「レイリーさん!こんなヤツ褒めちゃダメよ!ほら、なんか自慢げな顔して腹立つわ!」
ナミめ、レイリーに褒められた俺に嫉妬してるな。フハハハ!俺のようになれるようにしっかりと励むといい。
さて今日はここまでにして戻ってゆっくりしようかな。
だが、そうは問屋がおろさなかった…ロビンと一緒に船に戻り、ご飯を食べたところまでは普通だった。
食後にコーヒーを飲んでゆっくりしてた俺は微笑みながら放たれたロビンの言葉に、これから何が始まるのかを理解した。
「ハンマ、ちょっと私と