ROMAN DE ドォォォォン!! 作:霧鈴
「ほえ~、魚人島ってこんな感じになってるんだね」
「ええ、とても綺麗ね。それに話には聞いていたけれど……生活もあまり人間と変わらないようにも見えるわ」
俺とロビンは気分転換の散歩を兼ねて魚人島に来ていた。海に潜るために船のコーティングを頼んだレイリーには「ロビンと散歩に出かけてくるから暇ならルフィでも見といて」ってお願いしておいたし、船のコーティングを待ってる間に発見した部下(仮)には「ちょっとロビンと散歩に出かけてくるから引き続き頑張れ。どうせだから偉大なる航路をウロチョロしてみれば?ってみんなに伝言しといて」って言ってある。
魚人島に行く事はレイリーしか知らないかもしれないけれど、俺だってたまにはお小言とか説教から逃れたい日だってあるわけだし……それにちょっとくらい外出したところで何も問題はないはずだ、たぶん。
魚人島ではその名の通り魚人や人魚たちがたくさんおり、ロビンと一緒に散策しながら他愛もない話をして歩いていた。どうやらこの島の住人たちは俺の事は知らないようで、それなのに遠目から見られたりなんか様子がおかしいんだよな。一応話しかけたら答えてくれたりはするんだけど、たぶんこいつらは『七武海の鉄槌』っていう名称は知っていても顔までは知られていないような感じだった。これは恐らく海軍本部で行った演説は映像電伝虫を持っていたりその映像を直接見た人間にしか知られていないんだろうな。その演説の記事が掲載されている新聞だって顔がわかるほどの写真は載っていなかったし……
シャボンディ諸島でも俺の顔を知ってるヤツが少なかったのはそういう事なんだろう。海賊なんであれば手配書が出回り悪名が高くなってしっかりと顔と名前が一致してきた頃に七武海に選出されたりするんだろうけども、俺の場合は無名の一般人からの七武海抜擢なんて前代未聞の事態なせいで通り名だけが先走って実物を認識できないという珍事になってしまったわけだ。
これについては良し悪しあれど、今の状況においては良かったと言える。ただの散歩で来てるのに七武海が来ただとか騒がれてもいいことはないからな。とはいえお忍びで来て後から何か言われるのも嫌だし、ここ魚人島にはリュウグウ王国という国家がある以上挨拶くらいはしておいたほうが無難かもしれない。
「ねぇロビン。一応俺の立場的にこの国の偉いさんには挨拶しておいたほうがいいと思う?」
「……そうね。挨拶の仕方次第だと思うんだけれど、あなた一体どういった挨拶をするつもり?」
「そりゃあノックして出てきたところで『こんにちは七武海のハンマですお邪魔してます』じゃないかなぁ」
「今回はただの気分転換の散歩だし挨拶はしなくていいんじゃないかしら。向こうも突然来られても困るかもしれないし、今回はやめておきましょう」
確かにロビンの言う通りちょこっと観光してシャボンディ諸島に戻るわけだしそこまでしなくていいか。魚人島の国やお城ってのを見てみたいって気持ちもあったけど、確かにお城に行ったりしてたらロビンも余計な気を使う羽目になるかもしれないもんね。
ロビンとの相談の結果『お城には挨拶に行かない』という結論が出たので、ひとまず通りかかった人魚さんにごはん屋さんを教えてもらって行く事にした。空島の時もそうだったけど、その地域の食材とか調理法とかあるみたいで楽しみなんだよね。そういう料理を出してくれるところで昔ながらの調理法とか昔話を聞いたりするのはロビンも考古学者としての血が騒ぐのか興味深く聞いていたりする。
今回もそんな感じで軽く聞いてみたわけなんだけど、なんか思っていたよりも返ってくる返事が暗いというか悪いというか……食べながらこっそりとロビンに聞いてみたら、昔この国というか魚人や人魚たちは迫害されていて人間に良い印象を持っていないという事を教えてもらった。もちろん全員ではないのかもしれないけど、そういった出来事があったので今でも多少の軋轢はあるんだろうとのロビンの談だ。
えー……俺としては「この料理おいしいね。どうやって作ってるの?」とか「それはこうやってるんだぜ!昔こういう事があってこうやって工夫して今の味になったんだ」みたいな話で盛り上がると思ったんだけどなぁ。これはアレか?ここをいつから縄張りにしてるか知らんが、白ひげが「ここは今日からおれたちの縄張りだァ!人魚も魚人も逆らうヤツは皆殺しだぜェ!」とかやってるとかなんだろうか?そもそも白ひげってそんなキャラだったっけ?エースの処刑に突撃してきて頂上戦争して死ぬのは覚えてるんだけど、もうそんな知識なんてほとんど覚えてないし昔の白ひげなんて更に知らんからわからんとしか言いようがないなぁ。
まぁ白ひげも海賊なわけだし、魚人島を縄張りにすることによって海賊たちが前半後半の海を簡単に移動できるようにしている可能性だって考えられる。いわば関所みたいなもんとして魚人島を抑えているといったところか。
今の俺が白ひげを相手にして確実に勝てるとは言えないけど、でも確実に負けるとも言えないわけだし……まぁ今はそれはいいか。いずれ新世界を旅していけば会う事もあるだろう。そしてせっかくの魚人島観光が微妙な感じで終わりそうな恨みはその時に晴らしてくれるわ。
「とりあえず白ひげに鉄槌を食らわせるのは確定として……」
「どうしてあなたはそう唐突に四皇と戦おうとしているの…?一応言っておくけれど、白ひげは世界最強と呼ばれている海賊なのよ?」
「でも世界最強くらい軽く倒せないようじゃ俺の求める強さにはならないんだよねー」
ふと思った事が口に出てしまっていたのか、それを聞いたロビンの反応は俺が白ひげと戦う事はあんまりよろしくない様子だった。まぁ相手は言う通り四皇の一角だし、ついでに世間的にも世界最強って事だったから進んで戦ってほしくはないんだろう。つまり俺はまだまだロビンに心配されるくらいの強さしかないって事か……要精進だな。
「でも今すぐに白ひげと戦うわけじゃないし、ロビンが心配するような事はしないから安心してよ」
「本当かしら…ハンマを信じていないわけじゃないけれど、違う意味で裏切られる事があるから何をするのかはちゃんと教えてね」
「基本的に俺がやってる事って忘れてない限り全部言ってるはずなんだけどなぁ」
「確かにちゃんと言ってくれてると思うわよ?でもそれが勘違いだったりもするんだもの」
うぐぐ……さすがロビン。なかなか痛いところを突いてくるな。というかまだあの勘違い事件を引きずってるの?そろそろ忘れてくれたほうが俺のためになるんだけど……せっかくの観光だし白ひげの事はいいや。そういう事を忘れて気分一新するのが目的なんだからね。だからロビンも余計な事は思い出さないで魚人島を楽しもうじゃないか。
…
……
………
「人間がこんなところで何をしていやがる!!」
「ただの観光だな。シャボンディ諸島でいろいろと疲れたから散歩がてら二人で魚人島まで足を伸ばして来てみたんだが……」
「わざわざ観光とはご苦労なこったな。それならここへ来た事を後悔して死んでいけェ!!」
ロビンと一緒にウロウロしてたらだいぶ外れの方まで来てしまったみたいで、そこにいた魚人たちにものすごい睨まれてしまった。てか別に魚人の島だからって人間が珍しいわけじゃないだろうに……海賊たちが後半の海へ行くのに通る裏道になってるって事はそれなりの人間が通ってるって事だろ?更に白ひげの縄張りになってるんなら白ひげ海賊団のヤツらだって来てるはず。まぁ海賊の縄張りにされてる上に海賊がひっきりなしに来るんならこれくらい当然の反応か。しかし後悔して死ねとか大袈裟すぎじゃね?
……わかったぞ!こいつらはきっと海賊しか人間を見た事がないんだ!そんでもって海賊なんて無法者たちばっかりなわけだから、きっと魚人島に来て「後半の海に渡る景気づけにいっちょ暴れるかギャハハハハハ!」とか言って略奪とかしていくんだろう。それならこいつらの俺に対する反応も納得できる。俺の予想が確かならばこいつらは
襲いかかって来られて俺が戦わない理由にはならん。ちょっといいこと思いついたし、たまには善意で教えてあげるとするか。
「なんでどこに行ってもこういうヤツっているんだろうねー」
「彼らからすれば人間は恨みや恐怖の対象でしょうし仕方ないかもしれないわね」
「俺がやるからロビンは下がっててね。ちょっとこいつらに気合入れてくるわ」
「……気合?」
襲いかかってくる魚人どもをちぎっては投げ……の代わりにひらすら叩きのめしていく。一緒に貝殻っぽいデザインの家とか色々と壊れてるけど、そこはまぁご愛嬌的な感じでいいだろう。こいつらがケンカ売ってきたわけだし襲ってきたわけだし、あとこいつらも自分たちの攻撃で周囲に被害与えてるからお互い様だ。
巨大ハンマーを振り回して瓦礫の山を量産しつつ襲いかかってきた魚人たちを叩きのめしていき、その場にいた全員がボロボロになって這いつくばったのを確認したので攻撃を止めて魚人たちを見回してみる。どいつもこいつも根性だけはあるみたいで俺のことを睨みつけてるな。うん、なかなかいい顔をしてるじゃないか。
「くそォ……人間ごときに……」
「覚えとけ!力とは……パワーだ!!」「……でしょうね」
人間ごときとか負け惜しみにも程があるだろって言葉を聞きながら、俺は魚人たちにこの世界の真理を説いてやった。今回はロビンもツッコミどころがなかったんだろうな、普通に納得してた。
こいつらもきっと白ひげや他の海賊たちにいいようにされて悔しいんだな。この国の王様がどんなヤツなのか知らんが、こういう反骨心のあるヤツは嫌いじゃないぞ。そういや人魚とかも拐われたりしてたらしいし、そういった負の感情が海賊=人間という形になっていってしまったんだろう。
「お前ら!どんだけ睨もうが恨もうがその程度じゃ相手を倒す事なんてできねぇぞ!人間がどうこう言う前にもっと強くなれ!」
「うるせェ!てめェに言われなくたってそんなことァわかってんだよ!」
「いいやお前らは何もわかっちゃいねぇ!いい加減自分たちの小ささを自覚しろ!」
ハンマーを突きつけて魚人たちの浅はかな考えを間違いだと断じてやれば、きっとこいつらだって理解できるだろう。偉大なる航路の前半と後半を隔てる場所にある魚人島がどれだけ海賊の被害に遭ってきたのかなんて俺にはわからない。なにせ後半の海にある島出身の海賊以外はほぼ全ての海賊たちがこの島を経由しているはずなんだから……その被害はきっと俺の想像以上に凄惨なものだったんだろう。
だからと言って海賊を人間全部と置き換えて中途半端に恨んだところで何も変わらない。こいつらは海賊に襲われて海賊が嫌いな人間たちと何も違いなんてないんだから。だからきちんと教えてやろう。そう思って更に言葉を重ねようと思っていたら、何やら町中のほうが騒がしくなっていた。
「ん?なんかワーキャー聞こえるけど何かあったのかな?」
「恐らくどこかの海賊が後半の海へ行こうとこの島にやってきたんじゃないかしら」
「なるほどねー。なら俺の出番かな?おいお前ら!ちょっと海賊ぶっ潰してくるからここで待ってろ!」
「ふざけんじゃねェ……おれたちがやってやる……」
「来てもいいけどお前らの出番はないからな?ロビン、とりあえず行こっか」
せっかく今から魚人たちに大切なことを教えてあげようとしていたのに……間の悪いことにどこかの海賊たちがやってきたらしい。気持ち急ぎつつロビンと一緒に船を停めた場所へと移動してみたら、本当にロビンの予想通り海賊たちが船を着けるところだった。
残念だったな海賊ども……意気揚々と後半の海へ渡ろうとしていたんだろうが、俺がここにいたのが運の尽きだ。
船を停泊させて上陸しようとしているところに巨大化させて覇気を纏わせたハンマーを振りかぶり……一気に海賊船に向かって振り下ろした。
…
……
………
「「「「ぎゃあああああああああ」」」」
ハンマが振り下ろした黒く染まった巨大な金槌によって、魚人島にやってきた海賊船は叩き壊されてしまったわ。別に海賊船を襲うのはいいんだけれど、ここが深海の中にあるってことを忘れていないかしら?
今のところは覇気を纏うことなくただの巨大ハンマーで殴りかかっているだけだから一応配慮はしているのかもしれないけれど、何が切っ掛けでこの魚人島が海に沈むかもわからないんだから気を付けてもらわないと…
ハンマからの説明では理解できなかった覇気という力も、レイリーさんに会ったことできちんと習うことができた。この『武装色の覇気』『見聞色の覇気』という2つを使いこなすことがこれからの海…新世界では必須であり最低限であるということだったわ。もう1つ『覇王色の覇気』というものがあるらしいけど、これは誰でも鍛えれば使える前2つと違い素質が必要になるらしいわね。
その素質というのが血筋なのか経験なのかわからないけど、少なくともハンマも私も今のところ使えないということ。ハンマは覇王色の覇気が使えないことを一切気にしていないから「使えなくても構わない」と言っていたし、それに「威圧するならハンマー振り下ろせば済む」と笑ってもいたわ。
私にはとにかく『見聞色の覇気』を鍛えて欲しいらしいから、戦うよりも索敵や身を守ることを優先させたいようね。わざわざレイリーさんに会いに行って鍛える時間を設けてまで力を蓄えようとするのは決して間違っていない。ここから先は新世界…四皇だけでなく強力な力を持つ海賊たちがひしめき合う海なのだから、油断などしていなかったとしても力負けしてしまう可能性だって十二分に考えられる。
そんな考え事をしながら眺めていたら終わったようね。
「待ってくれ!おれたちはピースメインだ!ここを襲おうなんて思っちゃいない!」
「なに意味のわからん事を言ってやがる!海賊船を襲って何が悪い!?」
……ところでもしかしてハンマって海賊にも大別して二種類いるのを知らないのかしら?いえ知らないはずはないわ。かなり昔にきちんと説明したもの。主に冒険や宝探しなどを行い、海賊というよりも冒険家みたいな存在のピースメイン。もう1つはピースメインとは反対に略奪などを行い世間的に海賊だと認識されているモーガニア。彼らの言い分を信じるのであれば、この魚人島を通過して後半の海へ行こうとしていたということ。
まぁハンマにとってはどっちでも関係ないことかもしれないけれど……
それに海賊旗を掲げてハンマの前に現れたらああなっても仕方ないわ。さっきハンマが叩きのめしていた魚人さんたちも追いついてきたみたいで、ハンマの暴れっぷりを見て驚いているみたいね。
この魚人島は、かつてひどい差別によって人類とすら見てもらえなかった過去を持つ。確か200年ほど前に世界政府に加盟し表向きは差別もなくなったはず。その後海賊白ひげが縄張りとした事で他の海賊たちも白ひげを恐れて怒らせるような事をしなくなった……だったかしら。
更にハンマのせいなのかおかげなのかわからないけれど、天竜人が大半いなくなってしまった事によって今までよりも状況は良くなっていると予想しているんだけれど……彼らの言動を考えれば何も変わっていないのか、それともそれだけ恨みが深いのかどちらでしょうね。
魚人島へやってきた海賊たちを船ごと文字通り叩き潰していたハンマは…なにかスッキリしたような顔をしているから、理由は不明だけれど本当にストレスでも溜まっていたのかしら?
「ロビンお待たせ!なんだか久しぶりに海賊を叩き潰した気がするよ」
「そういえばシャボンディ諸島に来てからは海賊と戦っていなかったわね。麦わらくんたちくらいじゃない?」
「あれはレイリーからの交換条件だし特訓だからねー。それ以外だと……全然海賊と遭遇すらしてないんじゃないかな?」
今までの旅でハンマが暴れない日のほうが少なかった事を考えると、もしかしてシャボンディ諸島に来てから暴れてないのがストレスになっていたのかしら?楽しそうに海軍本部に行ったり同じ七武海のところに行っていたからそんな事はないと思うんだけれど……
「失礼…貴殿は王下七武海の鉄槌殿とお見受けする。我々はリュウグウ王国の近衛部隊。できれば王がお会いしたいという事なので宮殿までお越しいただけないでしょうか?」
「王様が?どうするロビン」
「やめておきましょう。ここは白ひげの縄張り…ただでさえ暴れているのに、これ以上余計な刺激はしないほうがいいわ」
「んー…わかった。それじゃ悪いけど俺たちはもうシャボンディ諸島に戻るからまた今度ね」
さすがにこれだけ暴れたら騒ぎになるでしょうし、海賊船を叩き壊すハンマーなんて振り回してたら誰が来ているかなんて一目瞭然よね。今のところ新七武海とはいえ『鉄槌』という名前と巨大なハンマーが目立つからなのか、ハンマの顔自体は一般にそこまで知られているとは言えない。
ちょうど海賊たちを殲滅したところでやってきたこの国の近衛部隊のようだけど…さすがに七武海の一角ということを考えれば慎重に行動したほうが無難でしょう。慎重にというなら暴れなければいいだけかもしれないけど、過ぎた話を言っても仕方ないわ。
それに魚人島に来れたのは気分転換もだけど、歴史を探求している私にとっては…魚人や人魚たちには悪いけどとても有意義なものだったわ。本で読むだけでは決してわからないものが現地にはある。私たちが何も思っていなくても魚人たちの中には『人間への畏怖や憎しみ』が小さな火種として残っているということを知れた。
『次』にいつここに来れるかわからないけれど、その時は王様たちからも話を聞いてみたいものね。
「ただいまレイリー!魚人島はなかなか楽しかったよ!」
「ほう、それは良かった。君たちの事だから
「え?普通に観光して交流してきただけだよ?」「待ってハンマ。レイリーさん、もしかして魚人島に……あったの?」
「ん?それを知っていてわざわざ行ったんじゃないのかね?」
「ハンマ、戻るわよ」「……え?」
思ったよりも『次』は早かったわ。