拙いですが、どうかお付き合い下さい。
1月31日。
運命の日、その2日前。
バイト帰りの坂道。
俺はその少女と出会った。
いや、出会ったというのは語弊があるだろう。
正しくはすれ違っただけだ。
少女はニコリと笑い、足音もたてず坂道を下りてくる。
「早く呼び出さないと死んじゃうよ、お兄ちゃん」
その銀の髪の少女はすれ違いざまにそんなおかしな言葉を口にして、去っていた。
俺はこのときは特に気にも止めなかった。
帰り道を歩いていくと、家には明かりがついていた。
どうやら、桜も藤ねぇも帰ってきているようだ。
居間に入るなり、旨そうなメシの匂い。
既に桜と藤ねぇは夕食を食べているようだった。
「お帰りなさい先輩。お先に失礼していますね」
「ただいま。遅くなってごめんな。もうちょっと早く帰って来ればよかったんだけど」
「大丈夫ですよ。ちょっと待っててくださいね、すぐに準備しますから」
「うん。手を洗ってくるから、人のおかずを食べないように藤ねぇを見張ってくれ」
「はい。きちんと見張ってます」
自分の部屋に戻り、荷物と着替えを済ませて、洗面所で手を洗う。
そうして居間に戻ってくると既に夕食が用意されていた。
「いただきます」
ここ一年で桜の料理の腕は飛躍的に向上している。
こと、洋風に関しては完敗、和食ならまだ勝てそう、中華はお互いにノータッチという状況だ。
恐らくは弟子が師匠を超えるのも時間の問題だろう。
それはどことなく寂しさも感じる。
「む」
やはり巧い。
鶏肉の特性を理解し、絶妙な焼き加減で旨味を損なわずにジューシーな仕上がりになっている。
「どうでしょうか先輩……?」
「文句なし。ホワイトソースも絶妙だ。もう洋物じゃ桜には敵わないな」
「うんうん。桜ちゃんがご飯を作ってくれるようになってから、お肉関係がおいしくなった」
と、食べることに専念していた藤ねぇが顔を上げる。
「あ。だめよー、士郎。学生がこんな夜更けに帰って来ちゃいけないんだからね」
ありゃ。
ご機嫌かと思ったら、俺の顔見てご機嫌ななめになったようだ。
「また誰かの手伝いをしてたんでしょ。それはそれで良いことだけど、こんな時ぐらい早く帰ってきなさい。最近は物騒だってホームルームでも言ったじゃない。アレ、士郎に対して言ったんだからね」
「……あのさ。わざわざホームルームで言わなくても、うちで言えばいいんじゃないか?」
「ここで言っても聞かないもの。学校でつーんと言った方が士郎には効果的なんだもん」
「先生、それは公私混同なんじゃ……」
「ううん。士郎にはそれぐらいじゃないとダメなのよ。いつも人の手伝いばっかりで損しているからさ。たまにはまっすぐに帰ってきてのんびりしてもいいじゃない、このばかちん」
そこからは藤ねぇの昔話に桜が乗っかった形で話が進む。
基本的に本当のことだから、口も挟めないし。
そうこうしている内に藤ねぇは桜に三杯目を所望した。
***
夕食も終わり、自室に居る。
夜の鍛錬にはまだ時間があるから、桜を送っていこう。
夜も遅いし、最近、物騒なのは確かだ。
居間に行くと、桜は既に帰り支度をしていた。
桜に送っていくと言うと、気まずそうに口を閉ざす。
「……ごめんなさい。気持ちは嬉しいんですけど、先輩は休んでいてください。家までなら慣れてますし、一人でも大丈夫ですから」
「いや、それはそうだろうけど、今日は特別だ。しばらくは家まで送っていくよ」
「……でも、その……兄さんに見つかると……」
いや、慎二がなんと言おうが、こんな物騒な時に桜を一人で帰らせる方が問題じゃないか。
そうして、少しの間、問答になったが俺が慎二に対しての正直な意見を言うと、桜は笑って返答に困るようなことを言う。
その桜の笑顔に、知らずに息を呑んでいた。
「と、とにかく送っていくからな。慎二に見つかったら見つかったでいい。妹を送り届けたんだから、あいつだって文句は言えないだろ」
「そうですね。隠すよりはそうした方がいいかもしれません。それじゃあお言葉に甘えていいですか、先輩」
「あいよ。たまには先輩らしいトコ見せてやる」
とん、と胸を叩く。
桜は温かそうな笑顔で頷いた。
そうして、二人で家を出て、坂道を下りて、交差点に到着する。
あたりに人影はなく、見慣れた住宅地はひどく寂しく感じられた。
異常な位な静けさだ。
そんな風に感じつつも、桜と一緒に道を歩く。
道中では、桜の家の更に上の洋館に住む、遠坂の話をしながら。
冗談交じりに話していたつもりだけれど、桜は真面目な様子で話していた。
そうして、坂道を歩いてる途中、桜ははっとしたように声を上げた。
どうにも最近、見慣れない金髪のモデルのような男を見かけるらしい。
不審な奴なのかを聞いたけれど、桜は判断がついていないようだ。
俺がどうにかすると言うと、桜は微笑みかけてくる。
俺は動揺して、つい桜から目線を逸らす。
なんか最近、桜の仕草に目を奪われることが多くなった。
ちょっと前まではなかったのに。
そんなことを考えている内に桜の家に着く。
「それじゃあおやすみなさい先輩。送ってもらえて嬉しかったです」
「ば、ばか、礼なんて言うな。晩飯を作ってもらってるんだから、お礼を言うのはこっちの方だ」
桜はニッコリと微笑み、家の中に入っていく。
「先輩、また明日ですね!今日はありがとうございましたー!」
桜はそう元気よく言って、間桐邸に消えていった。
俺も帰ろうと思った時、何かが聞こえたような気がした。
「………あれ?」
聞こえてくるのは、虫の鳴き声だった。
しかし、今の季節は冬。
虫が鳴くには季節外れも良い所だ。
そんなことを考え、なんとなく間桐邸を見渡す。
「もし。なにか、この家に用があるのかね」
「……!?」
背後から声がかかる。
咄嗟に振り返ると、そこには見慣れない老人が居た。
よほど高齢だろうに凛とした眼と、小さな体とは不釣り合いな威圧感。
生きてきた年月の差を感じさせる、威厳があった。
「どうした若いの。なぜ答えん。答えねばこちらで極め付けてしまうぞ?」
「あ……、いや、違いますっ……!俺は慎二の同級生で桜とは知り合いで散歩がてらに様子を見にきた衛宮士郎という者です……!」
老人は僅かに目を見開く。
「ほう。そうか、慎二と桜の知り合いか」
「はい。あの……、お爺さんはもしかして慎二と桜の……」
「そう、祖父じゃ。名は間桐臓硯」
間桐臓硯氏はそれだけ言うと、玄関に向かって歩き出す。
俺のことには興味はない、という風である。
と。
「衛宮士郎。アインツベルンの娘は壮健かね?」
「……は?アインツ、なんですか?」
「とぼけるでない。アインツベルンの娘が衛宮を訪ねるのは道理。此度の座の出来はどうか、と問うておる」
「?????」
お爺さんは急に訳の分からないことを言う。
……失礼だけど、桜。
お前のお爺ちゃんは、なかなかの難物だ。
「……………ふむ。どうやら本当に知らんらしいな、これは」
「はぁ、すいません」
「いやいや、おぬしが気に病む事はない。ワシの勘違いじゃ、つまらぬ事を言って済まなかった。年寄りは隠居している身でな、孫たちに用があるなら、気兼ねなく訪れるが良い」
「お爺さん、この家に住んでいるんですか?」
「住んでいるとも。もっとも、見ての通りの老体でな。日がな一日、奥座敷でくたびれておる」
だからなのか。
一年前には、慎二と桜以外に住んでいる雰囲気はなかったけど。
「では失礼するぞ、衛宮士郎君。うちの孫たちと善くしてやってくれ」
見かけとは裏腹に、軽い足取りで老人は去っていった。
虫の鳴き声が、唐突に止んでいた。
***
家に戻り、毎日の日課を終える。
そうして、目を瞑る。
体は疲れを感じて、徐々に意識を手放していく。
そうして眠りにつき、また、あの夢を見る。
10年前のあの火災。
今はもう、だいぶあの時の記憶が抜けてきている。
覚えているのは、あの時の息苦しさと人の死体だ。
俺はあの日、体以外の全てを失った。
次に目が覚めた時、そこには見知らぬ天井だった。
体中にグルグルと包帯が巻かれていた。
俺はこの時に、自分が何もかもを失ったのを認めた。
……周りが皆同じようだから、認めるしかなかったんだけど。
そうして、包帯を解けるようになった頃、その男は突然現れた。
男は問いかけた。
自分の所に来るか、孤児院に行くかを。
俺からしたら、どちらも知らない所だ。
だから、俺はその男に着いていくことを選んだ。
そして、男は嬉しそうな様子を見せると、いそいそと準備をし、ふと気づいたようにこんなことを言った。
「うん。初めにいっておくとね、僕は魔法使いなんだ」
そんな、まるで子どものようなことをその男は言った。
***
目が覚める。
「朝飯、朝飯っと」
昨日は桜に任せきりになってしまったから、今日はこっちがお返ししないと。
桜がやってくる前にササッと支度を済ませてしまおう。
そう思い、朝食を作る。
準備は意外と簡単に済み、二人が来るまでまだ30分も残ってしまった。
ならば、もう一品増やすかと息込んで作っていたら、随分と品数が増えてしまった。
しかも、知らぬ間に桜も来ていた。
「それで先輩はこれからお弁当を作るんですよね?」
「ああ、流石に朝食では食べ切れないしな」
「それじゃあ、私もいいですか?ちゃんと自分で作りますから」
「それなら、おかず、俺のと同じでいいなら分けられるけど」
「はい。さっきから見ていて、先輩の焼き物が食べたいなっって思ってたんです」
そうして二人でお弁当作りに励む。
ちょうど、藤ねぇも家に来たが、少しの間待ってもらうことになった。
「学校前に台所に立つコトのどこかが楽しいっていうんだ?」
「え?そんなことはありませんよ?藤村先生の言う通り、台所に立つのは楽しいです」
桜はそうしてニッコリと笑う。
しかし、朝早く準備するのは大変だろうし、朝も夜も作って貰ったんじゃ桜の自由時間がなくなる。
「手伝ってくれるのは嬉しいけど、桜はもっと楽にしてもいいんだぞ。何も好き好んでうちの手伝いをしなくたって」
「はい、だから楽にしてます。私の趣味はお料理と弓だけですから。ちなみに将来の目標は先輩の味を超えるコトで、もうすぐ射程距離だったりします」
桜はそう言って胸を張る。
「ですから気にしないでください。わたし、ここでお料理をするのが嬉しいし、上手くなるのが楽しみなんですから」
「それはつまり、日々俺の技術を盗んでいるということか?」
「はい。先輩のお手伝いをするだけで、好きなコトがメキメキと上達しちゃいます。ですから、覚悟してくださいね。今に先輩にまいったって言わせるんですから」
うわ。
今、いい切ったぞ、桜のヤツ!
これなら料理も教えなければ良かったかとも思ったが、しかし、悪いことばかりでもないだろう。
弁当の盛り付けを終わり、朝食の為に桜から皿を受け取ろうとした時。
「え?」
桜から驚きの声が漏れる。
桜は俺の手を凝視すると。
「先輩。その手の痣、どうしたんですか?」
「は?」
言われて左手の手の甲を見ると、大きな痣が出来ている。
「あれ……?本当に痣が出来てる。おかしいな、ぶつけた覚えはなかったんだけど」
昨日今日を思い返しても、やっぱりそんな記憶はなかった。
とすれば睡眠中にでも負ったのだろうか?
取り敢えず、手当だけでもしようと桜に準備を任せて、移動する。
ただ、台所にいた桜は気まずそうに俯いてた。
***
結局、桜が朝飯を一口も食べれずに学校に行った。
随分と調子が悪そうだから、放課後に少し話しかけた方がいいだろう。
昼休みに一成と昼食を取ると、そこで近所で殺人事件が起きていることを知った。
そうして、放課後。
今日はバイトがあるからあまり寄り道は出来ないが桜の様子が気がかりだ。
一応の確認と思って、桜のクラスである1年B組を覗く。
そこで桜は元気がなさそうに座っていた。
「先輩?どうしたんですか?うちのクラスに何か御用でも……」
「いや、桜のクラスに用事はない。単に桜の様子が気になったんだ。朝から体調が悪そうだったろ?」
桜は更に顔を暗くさせると、
「私どこも悪くありません。いつもどおり部活に出て、終わったら先輩のところで夕飯をご馳走になるんです」
鞄を持って、部活に行こうとする桜を引き止める。
「ばか、そんな顔でなに言ってるんだ。いいから、今日は部活は休め。だいたいな、そんなんで弓を引いても返ってくるもんなんかないだろ」
「でも……」
「でも、何もない。とにかく今日は部活に行くな。俺も今日はバイトを休むから、今日は大人しく家に帰ろう」
「でも、兄さんが呼んでるから」
桜は俯いて、押し黙る。
間桐家の事情は複雑らしく、慎二と桜の関係に口出し出来ない。
「……部活には、慎二の顔を立てる為だけに行くのか?」
「は、はい。わたしだって今は弓は引けないって分かってます」
「なら、部活に少しだけ顔出しをして、そうしたら今日は一緒に帰ろう。送っていく」
「え?でも、先輩は……」
「こうなったら桜が心配で、バイトなんて行ってらんないからな」
「は、はい」
桜は申し訳なさそうに俯く。
困ったが、あんまり長居も出来ない。
桜の手を引いて、弓道部に向かう。
桜があまりにも弱々しい様子だった。
これでは、まともに弓を引くなど無理だろう。
弓道場に行き、美綴と藤ねぇに事情を説明する。
二人は桜の様子を見て。
「確かに具合悪そうだね。こりゃあ、仕方ないね」
「士郎。ちゃんと桜ちゃんを送っていきなさいよ」
と、送り出してくれた。
ただ、慎二はこちらを一睨みしていたが。
そうして、二人で日に沈む太陽を眺めながら歩く。
歩いていくうちに桜はぽつりぽつりと話し始めた。
「先輩、覚えていますか?」
「?何を?」
「四年前のことを」
桜が言うには、ある日の放課後。
その男の子は延々と高跳びをしていたそうだ。
自分よりも高い棒を乗り越えようと何度も何度も跳んでいたそうだ。
3時間もずっと。
結局は跳べずに片付けて帰ったそうなのだが。
桜はその様子を見て、自分が出来なかったことに負けまいと意地を張っていただけだと思ったそうだ。
あんまりにもまっすぐすぎて、心配をした位に。
その人は頼りがいのある人だと。
そんな昔の話をしてくれた。
俯いて、でも、最後には微笑んで。
そんな話をしているなかで、鈍感な俺でも流石に気づいた。
「ええと、つまりそれは」
「はい、いまわたしの前にいる上級生さんでした。わたし、その時から先輩のことを知ってたんですよ」
「そ、そっか。それは、初耳」
つまらないものを見られたなと、目を逸らす。
「はい。わたしたち、おなじものを見てたんです」
桜はそうおかしなコトを口にしていた。
家に着き、まずはバイト先に休む連絡を送る。
桜は相変わらず、調子が悪そうなので今晩は俺が夕飯を作った。
藤ねぇもやってきて、三人で夕飯を食べる。
朝とは異なって、比較的食べれている桜の様子に安堵しつつ、俺も夕飯を頬張った。
そうして、帰り道。
桜の調子も悪そうなので送っていく。
特にトラブルもなく、送り届ける。
そうして、家に戻る帰り道、またその少女が昨日と同じように坂の上でこちらを見下ろしていた。
最近、引っ越しでもしてきたのだろうか?
それにしては、この時間に一人で出歩かせるのは危険だと思うのだけれど。
少女はまた同じようにすれ違うと。
「アインツベルンの次は間桐?随分と節操ないんだね」
と、拗ねたようにこれまたおかしなコトを口にしてた。
あれ?
でも、アインツベルンはどこかで聞いたような気がする。
そうして、家に戻り、いつもの鍛錬をして、眠りにつく。
***
夢を見る。
剣の夢。
明確な形はぼんやりとして分からないが、それが剣だということは分かる。
ただそれを眺めるだけの夢。
目が覚める。
いつも通りに朝食の準備をする。
桜や藤ねぇもやってきて、いつもの食事。
ただ、桜は昨日ほどではないがどこか体調が悪そうだった。
そして、学校に登校する時。
「今日の夕食からしばらく、お手伝いに来れませんけど」
「分かってる。桜にだって、付き合いがあるんだから」
「違います!ホントに個人的なことでちゃんと部活には出るんですから!」
桜は大きな声で主張する。
「それと、先輩は今日から早めに帰ってくださいね。……最近は物騒ですから」
「ああ、分かってる」
そうして、二人で学校に向かう。
学校に着くと、部活のある桜と別れた。
校庭には走り込みをしている陸上部の姿があった。
いつも通りの学校の風景。
「………」
にも関わらず、酷い違和感があった。
なのに、目を閉じると雰囲気が一変する。
校舎には粘膜のような汚れが張り付き、校舎を走る生徒たちはどこか虚ろな人形みたいに感じられる。
「疲れてるのかな」
目を抑えた。
***
土曜日の学校は早く終わる。
午前中で授業は終わり、一成の手伝いを終えた頃には、日が沈もうとしていた。
「さて、そろそろ帰るか」
荷物をまとめて教室を後にする。
と。
「なんだ。まだ学校にいたんだ、衛宮」
慎二と顔を合わせた。
「やることもないクセにまだ残ってたの?ああそうか、生徒会にごますってたワケね」
「生徒会の手伝いじゃないぞ。学校の備品を直すのは生徒として当たり前だろ」
「そういういい子ぶりが癇に障るって言わなかったっけ?」
「む?……すまん、よく覚えてない」
「なら、学校の備品ならなんでも直すんだ、衛宮は」
「なんでもは直せないぞ。面倒を見るぐらいだ」
「よし、なら頼まれてくれよ。うちの弓道部さ、今わりと散らかってるんだよね。暇ならさ、そっちの方もよろしくやってくれないかな」
「ああ、かまわないよ」
慎二は一瞬、苦々しげな顔をすると去っていった。
***
弓道部の整理は苦もなく終わった。
これだけ広いと時間がかかったが、一年前まで使っていた道場を綺麗にするのは楽しかった。
時計を見ると、門限をとうに過ぎている。
ここまでの時間になると、むしろ早く帰る必要もなくなった。
ざっと、周りを見渡すと細かな汚れが目立つ。
「……ま、ここまできたら一時間も二時間も変わらないか」
そうしてとことんと掃除をした。
掃除を終えて、外に出ると風が出ていた。
校庭の方で物音がしたのを感じ取ると、そちらに足が向いてしまった。
そこで俺はあり得ないものを見た。
それはヒトの形をした別の何かだった。
赤いソレと青いソレは武器をぶつけ合い、殺し合っていた。
その殺気にまるで金縛りにあったように身動きがとれなくなった。
次に体が動くようになったのは、青いソレがこちらに向けて殺気を放った時だった。
必死に逃げ出した。
ただ、無我夢中で走り、気付けば校舎の中に居た。
乱れた息を整えながら、後ろを振り向く。
そこには誰もいなかった。
「はは、ハァハァハァ」
「もう終わりか」
前から声をかけられた思った時、心臓を貫かれた。
よける間などなかった。
「ぁ……ぁ」
世界が歪む。
体は冷め、感覚がなくなってくる。
死んでいく感覚。
まともに音も聞こえない。
何を話しているのかさえ、分からない。
………………………。
…………………。
……………。
…………。
***
気がつくと、俺はまだ生きていた。
誰に助けられたのか。
ともかく、近くに落ちていたペンダントを拾って、家に帰る。
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
床に寝転がり、深く息を吸い込む。
破られていた心臓が痛んだ。
殺されかけたのではなく、殺された。
それでも生きているのは誰かが助けてくれたお陰だ。
助けてくれたのは誰だったのか。
一言、礼を言いたかったけど。しかし、そこで鐘の音が鳴る。
敷地に見知らぬ人間が入ってくれば警鈴が鳴る結界が張られている。
悪寒がした。
あの出来事の後だ。
つまり、ここで来たのは。
「よう」
青いヤツは天井から槍を突き刺そうとしてくる。
咄嗟に体を転がして、槍が当たるのを回避する。
そうして回避した先で藤ねぇの置いていったポスターを掴む。
まともな武器になりそうにはないけれど、今はこれしかない。
「
自己を作り変える暗示と共に、ポスターに魔力を通す。
「変わった芸風だな。微弱だが魔力を感じる。心臓を穿かれて生きてるのはそういうことか」
青い男の槍は俺を突き刺そうと迫ってくる。
それをギリギリで回避するも、避けきれない。
窓を割りながら、外へと放り出される。
「ぐぁっっ!」
「なんだ、そんなもんか」
青い男は退屈そうに俺を蹴りを入れる。
「ごふっっ!」
俺の体はそのまま宙を飛び、土蔵まで吹き飛ばされる。
意識が朦朧とする。
しかし、青い男は間髪入れずに槍で突き刺しにかかる。
咄嗟にポスターを広げ、盾の代わりにする。
防ぐことは出来たが、ポスターは粉々になる。
「ほう、今のは驚いたぞ。筋はいいようだが……、もしかしたらお前が7人目だったのかもな」
そうして、今度こそ防ぐすべのない俺は殺される。
確実に。
けど、それでいいのか?
助けてもらったのに。
何も出来ずに。
そんな訳。
そんな訳はない!
「助けて貰ったからには簡単には死ねない。俺は生きて義務を果たさなきゃいけない。こんなとこで意味もなく、お前みたいなやつに!」
左手に熱が集まるのを感じた。
そして、次の瞬間、青い男は弾き飛ばされ、目の前には月の光に照らされて、一人の少女が立っていた。
「問おう。貴方が私のマスターか」
一日目から三日目って、改変のしようがなさすぎるよね。
どうすればいいのか分からん。