White fairy   作:シュガー&サイコ

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物語が変動する今日この頃。


7日目 大英雄と少女

今日も目を覚ます。

硬い地面の感触で今自分が土蔵の中に居ることを思い出した。

 

「やばっ。こんな所で寝ちまった」

 

霞がかった頭を上げて、体を起こす。

少しぼぅーと扉を見たところで、昨日のことを思い出した。

 

「っ…………」

 

昨日の黒いナニカ。

キャスターはあれを影だと言っていたか。

黒い影。

セイバーは確実に追い詰めていたランサーを一瞬で消し去った存在。

そんなものが、この町に居る。

………止めなければならない。

アレが具体的にどういうものなのかは判らない。

だが、アレは確実に人に害を為すものだ。

放っておくことは出来ない。

だが、どうやってアレを止める?

キャスターの言う限りではセイバーでもアレには勝てない。

キャスターが正しいことを言っているとは限らないが、ランサーがああしてやられた以上は英霊でもまともに太刀打ち出来ないと考える方が妥当だ。

ならばどうする?

サーヴァントでも敵わないものが魔術師が勝てるのか?

まして、半人前の俺でそんなこと…。

 

「クソッ!グダグダ言っても仕方ないじゃないか!マスターとして戦うって決めたんだ。この町の人を守るって決めたんだ。なら迷うな。方法は後からで良い。今はアレと向き合う気持ちが必要だろ」

 

恐れてばかりではいらない。

まずは動かなくては。

と、扉が開く音が聞こえる。

扉を開けたのはセイバーだった。

 

「シロウ。ここに居たのですね。シロウの部屋に居なかったのでどこに居たのかと思いました。シロウ、昨日はキャスターと遭遇したのです。もう少し、警戒をもって欲しい。何かしらの呪いの類をつけられてるとも限らないのですから」

「あ、ああ。すまないセイバー。本当は部屋で眠るつもりだったんだけど」

「……昨日の黒い影を気にしていたのですか」

「……ああ」

 

セイバーは少し厳しい顔をする。

 

「シロウ。あなたはあの黒い影と戦うつもりですか?」

「セイバーとしては好ましくないのか?」

「はい。アレと戦うことは貴方にとって通常の聖杯戦争以上に過酷なものになります。それを簡単に容認は出来ない」

「でも、アレは聖杯戦争と関わってる。これからも聖杯戦争を戦っていくなら絶対にアレとぶつかる。それに俺が聖杯戦争で戦うと決めたのはあんな悲劇を二度と起こさない為だ。それを譲ることは出来ない」

 

しばらくは目線を合わせ続ける。

それは1分なのか、2分なのか、3分なのか。

そうして睨み合っているとセイバーは少しため息をつく。

 

「シロウは本当に頑固ですね。良いでしょう。ですが、十分に注意してください。アレと対峙するからには相応の覚悟が必要です」

「分かってる」

 

***

 

ひとまずは朝食だ。

桜が来られないかもしれないとは聞いていたけど、藤ねぇも来る様子がない。

どうにも料理が余ってしまう。

まぁ、ラップをして夕飯に残しておけばそれでいいか。

しかし、朝に桜も藤ねぇもいないことにどこか寂しさを覚える。

 

「シロウ?どうかしたのですか?」

「いや、なんでもない」

 

セイバーの問い掛けで意識を戻す。

あまり呆けてもいられない。

しっかりしなくては。

まずは。

 

「セイバー。今日の予定なんだか……。イリヤの城に行こうと思う」

「っ!それはどうしてですか」

「あの影と戦うとは決めたけど、あれが何なのか、今の俺たちじゃ判らない。キャスターは知っている風だったけど、現状こちらからは会えないし、信用もあまり出来ない。でも、イリヤだったら何か知ってるかも知れないし、協力出来るかもしれない」

 

セイバーは俺の言葉に眉をひそめる。

何か疑われているみたいな感じだ。

 

「しかし、それならリンでも良いのでは?イリヤスフィールよりも会いやすいでしょうし、彼女の方が協力をしてくれると思いますが。無論、一切の対価なく、とはいかないでしょうが」

「…………」

 

言われてみれば確かにそうだ。

遠坂の方が会いやすいだろうし、前に相談もした。

それに聖杯戦争自体の異変というなら、多分遠坂も動くだろうし、そちらの方がメリットがあるのかもしれない。

そう考えながらも、頭にはイリヤの顔が離れない。

勿論、イリヤはマスターだ。

聖杯戦争では敵で、明確に俺の命を狙っている。

それに遠坂と会えるだろう学校は人の目も多くて、相手の陣地でもない。

だけど、イリヤの城はイリヤの陣地で、もし戦いになったら逃げられるとは思えない。

それでもーーーー。

 

 

 

「イリヤだ」

「それは何故ですか?」

「遠坂とは前に話した時に敵対宣言をしてる。いきなり戦闘ってことにはならないしても、こっちの話を聞いて貰えるとは限らない。遠坂はやると決めたらやる奴だしな。それに遠坂とイリヤで明確に違うものもある」

「……サーヴァントの差、ですか」

「ああ。遠坂のアーチャーが弱いって訳じゃない。でも、あのバーサーカーは今回の聖杯戦争でも最強に近い位置にいる。あの影に対抗する為に力を借りられるなら借りたい」

「なるほど。そのシロウの意見には一理ある」

 

セイバーはそう認めた後、少し考えるように目を閉じる。

数分後、考えは纏まったようで。

 

「分かりました。それではイリヤスフィールの居る城に向かうとしましょう」

「ありがとうセイバー」

「礼はいりません。サーヴァントはマスターに付き従うものですから」

 

セイバーはそう区切ると。

 

「しかし、向かう場所が相手の本拠地であり、相手のサーヴァントも強大なものである以上、失敗した際の策も考えなければなりません」

「そうだな。セイバーは何か案はあるのか」

「私は剣士(セイバー)です。確かに軍を率いた経験はありますが、しかし全員を無傷で帰還させられるようなものはありません。退きどきの見極めは出来ても、退く手段までは思いつかない」

 

互いに頭を悩ませる。

恐らくはセオリーならこういう手段を講じるのがマスターの役割なんだろうが、半人前の俺じゃあ、出来ることがあまりに少ない。

自分の手を見る。

俺が使える魔術なんて、安定して成功しない「強化」と切嗣に使えないと言われた「投影」位しかない……。

あ。

 

「なぁ、セイバー」

「いい考えが浮かびましたか、シロウ」

「怒るかもしれないけど、令呪を使うのはどうだろう」

「令呪、ですか。確かに脱出する為の力を引き出す手段としては有効ですが……」

 

セイバーはそこまで乗り気ではない。

俺の令呪は前にアーチャーごと遠坂を倒すの止める為に使って今は2画。

数少ないものだから、撤退という消極的な理由で使うのは憚られるのはだろう。

確かに、使うなら倒す為に使いたいものだ。

けど。

 

「バーサーカーの宝具。あれは蘇生するものだ。本気で戦うとなったら相当な長期戦で全てを出し切らないといけない。それを相手の本拠地ですることは出来ないだろ」

「……そうですね。その策を取りましょう。ですが、それはあくまで最後の手段。なるべくは令呪を使わずに撤退するように心がけましょう」

「ああ、そうだな」

 

俺たちは互いに頷きあった。

 

***

 

支度を終えて、家を出る。

学校には風邪が長引いているので休むと伝えてある。

こうなると朝に藤ねぇが居なかったのが学校を休みやすくなる。

まあ、夜に家に来たら根掘り葉掘りと聞かれそうだが。

その時はその時だ。

あと気になると言ったら桜のことだけど。

………。

でも、すぐさまどうこうとなるような事は起きないだろう。

セイバーと共にタクシーに乗って森の前まで来て、後は徒歩で森の中を歩く。

セイバーは森の中では武装は纏っていないものの、警戒した様子だった。

前に私の庭だと言っていたし、恐らくはイリヤには俺たちが森の中に入ってきてることは筒抜けかもしれない。

なら、セイバーの様子が正しい。

俺も少し警戒をしながら進んでいく。

 

「?」

 

木々が騒がしい。

前に見たときは静かで落ち着いた様子だったのに。

何かが起きているのか。

 

「セイバー」

「はい。少し急ぎましょう」

 

***

 

そうして着いたイリヤの城。

だが、その城からは外からでも聞こえる破壊音がしていた。

急いで城の中に入り、破壊音のする方へ向かう。

そうして大広間らしき場所に着き、隠れながら破壊音のする方を眺める。

そこには、まさに神話と言うような様相が繰り広げられていた。

まるで際限がないかのように無数の武器を打ち出す金髪の男。

その武器を弾きながらも前に進もうとするバーサーカー。

そして、その背に守られているイリヤの姿があった。

 

「なっ!?何故、アーチャーがいるのですか!」

「アーチャー?でも、あれは……」

「いえ、リンの所に居るアーチャーではなく前回の聖杯戦争。それに参加していたアーチャーです」

「なんだって…!」

 

前回の聖杯戦争、それに参加していたサーヴァントの一角がここに居るなんて!

それはとんでもないことだ。

聖杯戦争のルールが歪む位に。

 

「でも、なんでそんな奴がイリヤを」

 

戦いの様子は一方的だった。

イリヤを背にしている以上はバーサーカーは全てを弾き飛ばして進む以外の方法がない。

だが、金髪の男は容赦なく無数の武器を打ち出す。

いや、あれは武器というよりは宝具だ。

通常はサーヴァントに多くとも3つと言われる宝具。

その宝具をあの金髪の男は無数に所持している。

そんなものを真正面からぶつけ続ければ、いくらバーサーカーと言えども耐えきれる訳がない。

あのバーサーカーが何も出来ずに蹂躙される。

 

「どうしたヘラクレス。同じ半神と期待していたがその程度か」

 

金髪の男は更に宝具を打ち出す砲門を増やし、更に射出量を増やす。

バーサーカーはそれを弾こうとするが弾ききれずにいくつかが突き刺さる。

その中で射出されようとするある一本。

どのような宝具だかは判らないが、その一本は確実にバーサーカーでは弾くのが間に合わない。

そして、それはバーサーカーを通り越し、確実にイリヤに当たる!

 

「つっっ……!」

「シロウ!」

 

セイバーの制止の声も聞こえない。

このままじゃ、イリヤが死ぬ。

そうして咄嗟に飛び出す。

 

「イリヤーーー!」

「シロウ…!?」

 

伏せさせるのも間に合わない。

驚くイリヤを咄嗟に庇う。

 

「………」

「………?」

 

体を突き刺す筈の宝具が刺さらない。

 

「はぁぁ。シロウ、勝手に出ないでください」

「セイバー」

 

どうやらセイバーがその宝具を弾いたようだった。

 

「ほう、セイバーか。よもや、ここで会うとはな」

「アーチャー。何故あなたがここに居る」

「決まっている。前回の戦いが終わった後、(オレ)は消えずにこの世に留まった。(オレ)は聖杯を浴びたただ一人のサーヴァントだ。この時代における受肉など10年前に済ませている」

「……っ」

「■■■■■■■■■■~~~~!」

 

バーサーカーは雄叫びを上げて、こちらに迫ってくる。

イリヤの近くに居るから、俺がイリヤを狙ったと思ってっ……!

 

「バーサーカー!」

 

イリヤの叫び声でバーサーカーは動きを止める。

イリヤの体は震えている。

怯えと恐怖が混じり合っている。

それでも、マスターとして戦おうとしている。

 

「バーサーカー、私は大丈夫だから。行って!」

 

バーサーカーは僅かに頷いたように見えると、敵を見据える。

狂戦士(バーサーカー)である以上、理性などない筈なのに。

それは正しく大英雄の背中だった。

 

「セイバー、飛んでくる宝具の迎撃を頼む」

「分かりました」

「やっちゃえバーサーカー!」

「■■■■■■■■■■~~~~!」

 

バーサーカーは金髪の男に向かって、飛びかかる。

無数に飛んでくる宝具。

理性が失われているのにも関わらず、その全ての軌道を読んでいるかのように避け、弾く。

 

「いよいよ子守の必要がなくなったか大英雄!」

 

バーサーカーに至近距離で宝具の雨を浴びせる。

バーサーカーはその殆どを撃ち落とすが、いくつかを受けてしまう。

その一撃は動きを鈍らせ、やがて殺される。

だが。

 

「■■■■■■■■■■~~~~!」

 

その度に蘇る。

そして、さらなる攻撃を繰り出していく。

すんでの所、金髪の男は回避する。

だが、その男の頬から血が流れる。

 

「この俺に傷をつけるとはな。だが、お前の命も残り2つ。最大の試練をもって終わりにしてやろう!」

「なっ!」

 

360°。

逃げようのない砲門に囲まれ、それは一斉に放たれる。

逃げようはなく、防ぎきれる訳もない。

 

「■■■■■■■■■■~~~~!」

 

だが、バーサーカーは前へと進む。

臆することも止まることもなく、

幾度の傷を受け、

幾度の死を受けても。

しかし、その英雄は突き進み、その一撃が届くその一瞬。

金色の鎖がバーサーカーを捉えた。

 

「そんな……!」

「よもやこの試練も越えようとはな。確かに貴様は大英雄に相応しかった。最後の命、貰うぞ」

 

その言葉と共にランサーの槍のようなものでバーサーカーの心臓を貫いた。

 

「バーサーカー!」

「さて、セイバー。お前の相手もしてやりたい所ではあるが、今用があるのはそこの人形だ」

「イリヤスフィールに何をするつもりだ」

「そいつ自身に用はない。必要なのはそいつの心臓だ」

 

そうして、一歩一歩金髪の男は近づいてくる。

明確な死が迫ってくる。

その事に体が震える。

その中で腕の中に居るイリヤは震えて、泣いていた。

 

「いやだ、いやだよ、バーサーカー。バーサーカー…。バーサーカー……」

 

何を考えてるんだ俺は。

俺が震えている場合じゃあ、ないじゃないか。

イリヤを守らないと。

 

「セイバー」

「タイミングを合わせられればどうにか。ですが、今の背中を見せれば打ち抜かれてしまいます。注意が別方向に向かえば別ですが」

 

それも難しいだろう。

バーサーカーでさえ捌ききれなかったあの攻撃。

俺が未熟なマスターであるが故にパスも十分に通っていないセイバーでは受けきれない。

もっと言えば、背中には俺とイリヤが居る。

それを守りながら無理だ。

俺が前に出ても1秒を稼げるかどうか。

それに加えて、マスター不在のセイバーだけが残っても意味がない。

クソッ!

どうすれば……。

 

「バーサーカー。バーサーカー!!」

「■■■■■■■■■■~~~~!」

「なにっ!」

 

バーサーカーは再び目覚め、鎖を引き裂き、そしてその金髪の男を引き裂いた。

 

「おっっ、の、れ!」

 

しかし、その金髪の男は再び宝具の雨を降らした。

バーサーカーは抵抗することも出来ずにただその攻撃を身に浴びた。

やがて、バーサーカーは徐々にその肉体が消えていった。

 

「バー、サー、カー……」

 

イリヤはその最後の英雄の姿を見送った。

 

「セイバー、あの男は」

「まだ生きています。ですが、アレでは助からない」

 

あの金髪の男は愉快そうな笑みを浮かべると。

 

「己が逸話も、我が友さえ乗り越え、(オレ)を倒すか。ほとほと呆れた男よ。しかし、俺にもまだ生きようは…!」

「っっ!」

「っっ!」

 

瞬間、背筋が凍りつくような感覚に襲われた。

黒い影は突如として、金髪の男の近くに現れた。

 

「き、きさ……!」

 

金髪の男は何をすることも出来ずに飲み込まれた。

そして、黒い影は徐々に自身を膨らませていく……!

アレは不味い!

 

「セイバー!令呪を持って命じる……

 

 

それは黒くて眩しい

 

 

俺とイリヤを連れて、ここから逃げろ!」

 

 

閃光だった。

 

 

***

 

「うっ、うう、ん、ぁ」

 

目が覚める。

霞む目を開くと、そこにはセイバーとイリヤの姿があった。

って、頭の後ろに枕とは違う柔らかい感触……って。

 

「うわぁぁぁっ!」

「目が覚めたのね、シロウ」

「おはようございます、シロウ」

「ああ、おはようって、何故にこんなことに?」

 

ええと、俺たちはイリヤの城に向かって?

そこでイリヤたちと金髪の男が戦ってるのを見て?

それで俺が飛び出して、セイバーが助けてくれて?

で何があったんだっけ?

どうして、こんな道沿いの所でイリヤの膝で寝てるんだ?

 

「ちょっと混乱してるわね、シロウ。深呼吸しなさい」

「え?うん。ス~~はーーーー、ス~~はーーーーー」

「どう?落ち着いた?」

「あ、ああ」

 

そうだ、思い出した。

あの二人の戦いの後に、突然黒い影が現れて金髪の男が飲み込まれたんだ。

それであの黒い影が爆発しそうになって、セイバーに令呪で命じたんだ。

そこから先は本当に記憶にない。

っていうことは、そこで俺は気を失ったのか。

でも、俺もセイバーもイリヤも生きてるってことは。

 

「無事に全員逃げ切れたんだな」

「結果的には、ですが」

「?へ、へっ、ヘックション!なんか、寒いな、ってあれ?」

 

服が右腕の部分がちぎれている。

でも、特に傷がある様子がない。

どういうことだ?

 

「??」

「シロウ、疑問の前にいいかしら?」

「どうしたイリヤ?」

「助けてくれて、ありがとう」

「……ふ。どういたしまして」

 

俺がそう言うとイリヤははにかんだ笑顔を見せてくれた。

 

「それでシロウ。この後はどうするのですか?イリヤスフィールは通例なら教会に引き渡すべきですが」

「いや、それは止めた方が良い。俺は前にあの金髪の男に会ったことがある」

「アーチャーにですか?」

「ああ、あいつは言峰の教会で会った。目的は言峰に話を聞くことだったからそこまで気にしなかったけど」

「サーヴァントが入るのを実際に聖杯が貰うまでは止める教会にサーヴァントが居る、ということは」

「言峰が聖杯戦争に参加している可能性がある」

 

中立である場所とは言えない以上、そこにイリヤを引き渡すのは危険だ。

まして、そこに居たサーヴァントがイリヤを狙ったのだから。

 

「だから、俺の家に連れて行こうと思う。今のイリヤはバーサーカーがいない。危険はないと思う」

「そうですね。それで大丈夫でしょう」

「イリヤはそれでいいか?」

「それでいいわ。ちょっと形は違うけど、約束通りね」

「ああ、そうだったな」

 

***

 

どうやら、俺は一時間位眠っていたらしい。

あれよあれよと歩いていく。

途中で歩き疲れたのか、はたまた精神的な疲労も溜まっていたのかイリヤが眠ってしまったのを背負って。

 

「そう言えば、セイバーは傷とかは大丈夫か?」

「はい。アーチャーとバーサーカーの戦いの流れ弾をいくつか食らいはしましたが、今は回復しています」

「ってことは魔力も」

「前のバーサーカー戦ほどは消費していません。貴方のお陰で消費も少しは軽減しましたし」

「?よく判らないけど、それなら良かった」

 

イリヤを背負いながらだとどうしても進みが遅くなって、家に着いたのは日も大分暮れた頃だった。

セイバーに玄関の鍵を開けてもらって、扉を開く。

 

「士郎!今日もまた風邪で学校を休むと言って、心配だからと早めに帰宅したらセイバーちゃんと一緒に居ないとはどういうことだーーー!」

「ふ、藤ねぇ……」

「しかも何!?子ども背負ってるって何!?何かヤバい連中とのやり合いとかしてるのかーーー!」

「落ち着いてくれ藤ねぇ!」

 

***

 

「ふむふむ。つまり、士郎が風邪というのはウソで急遽来日したセイバーちゃんの遠い親戚で切嗣さんとも知り合いのこの子を出迎えた、と」

「うん」

「それでこの町を案内してたら、はしゃいで遊んで、だから背負って帰ってきた、と」

「うん」

「なーんか、ウソ臭い気もするけど、こんな小さい子を疑っても仕方ないか」

 

居間にて、取り敢えずはイリヤが起きて、ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる藤ねぇに耳を抑えつつどうにか宥め。

お茶と菓子を用意して、どうにかイリヤがどういう立ち位置なのかを偽装まみれで説明した。

と、イリヤがこちらの肘を小突いてくる。

 

「どうしたイリヤ」

「彼女は誰?」

「ああ、俺の高校の担任で、よくここに遊びに来る人だよ。切嗣(じーさん)とも俺がここに暮らし始めたときには知り合いなんだ」

「そうなんだ」

 

藤ねぇはこちらを見ると、改めての自己紹介をした。

 

「どうも、藤原大河でーす。冬木市一の美人教師よ」

「おい、藤ねぇ」

「初めまして。私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンです。よろしくねタイガ」

「お、おう。いきなり名前呼びとは。でも、気にしない!」

「そう言えば、藤ねぇ。桜の様子はどうだった?」

「ん?桜ちゃん?う~~ん、調子は悪そうだったよ?結構、ぼぅーとしているというか、フラフラしてるというか。あまりにも危なっかしいからさっさと帰したわよ」

「そっか」

 

やっぱり、風邪が治ってないのかな。

でも、流石の慎二も病気で弱っているような妹に手を出すようなことはしないだろうし。

けど、心配だな。

とは言え、家を尋ねる訳にもいかないし。

兎も角今は。

 

「取り敢えず、夕食を作るよ」

「シロウのご飯!」

「あ、後、藤ねぇ。イリヤもこの家に泊めたいんだけど……」

「それは良いわ。士郎がまさかこんな小さい子に手を出す訳ないし、それにセイバーちゃんと同室すれば良いわよね」

「セイバーと一緒か……。まぁ、それで良いわ。セイバーもそれで大丈夫よね」

「私は問題ありません」

「じゃあイリヤちゃん!部屋を見るついでにこの家を案内するわー!」

 

***

 

夕食が完成する位にイリヤと藤ねぇは居間に戻ってきたが、イリヤは寂しそうな顔をしていた。

夕食に関してはイリヤは美味しそうに食べていたから、それは良かったけど。

……あの影に関して訊きたいこともあったけど、藤ねぇも居る手前訊くにきけなかった。

しばらくは皿洗いもしながら、イリヤと藤ねぇの打ち解けている様子を眺めていた。

そうして、藤ねぇが帰った後。

 

「セイバー、今日の見回りはなしにしよう」

「それが良いと思います。シロウも疲労していますし、私も少し体を休めたいところですから」

「分かった。ゆっくり休めよ、セイバー」

「はい」

 

夜も深まった頃、いつもの土蔵で鍛錬をする。

魔力回路を作り、強化を行う。

頭の中にあの黒い影が頭をよぎる。

余計なことを考えたせいで、木刀は弾けてしまった。

 

「ああ、クソッ!こんなんじゃあ、まともに戦えないぞ……」

 

今日、あのサーヴァントを飲み込んだ黒い影。

今日のアレは、あのサーヴァントが弱りきっていたことと完全に不意をつかれたことが理由だけれど。

しかし、それでもアレだけのサーヴァントさえ、アレは飲み込んだ。

俺はどうやってアレと対峙すればいい?

 

コンコン

土蔵の扉を叩く音がする。

 

「シロウ?」

「イリヤ?入っていいぞ」

 

イリヤは城で会った時の服装のままだった。

この冬空の中、その格好は寒いだろう。

 

「クシュン」

「大丈夫か、イリヤ?今、ストーブ付けるから」

 

最近直したストーブに火を点ける。

 

「わぁぁぁ」

「これでちょっとは暖かくなるか」

「うん」

「明日はさ、ちょっと服を買ってこよう。流石に藤ねぇの家に子ども向けの服はないだろうし」

「シロウ。私は貴方が思っているような年齢じゃないわよ」

「そうなのか?てっきり10歳位なんだと思ってた」

「18歳よ」

「えっ……」

 

俺よりも年上なのか。

お兄ちゃんなんて呼ぶから年下だと思ってた。

なんか、これで18歳って凄い違和感があるな。

 

「まぁ、肉体的な成長は10歳位で止まってるからシロウがそう思うのは間違いとは言えないけど」

「そ、そうなのか。………この家はどうだ」

「一応、結界の類はあるけど魔術師の家とは思えない。色々な人が行き来した温かみを感じる。でも、その中でキリツグの影は感じられなかったな」

「…………」

「アレだけ恨んできたのに、その相手がいないなんて寂しいね」

 

何も言えなかった。

何を言えるわけもなかった。

何を言った所でそれは慰めにはならないし、きっとそれはイリヤだけのものだ。

 

「イリヤはこれからどうするんだ?」

「バーサーカーが居ない以上はアインツベルンは敗退よ。私自身は、することもないかな。シロウを殺す気もなくなっちゃったし」

「そうなのか?」

「こうして令呪まで使って助けられた以上、そんな気なんて起きないわ」

 

自然と静かになる。

どことなく、あの影のことを聞くような雰囲気ではなくなったし。

 

「シロウはどんな魔術を使えるの?私が使う魔術のことは教えたけど、シロウの魔術は聞いてなかったから」

「俺は対して魔術は使えないよ。強化と、後は切嗣に意味がないから止められた投影位だな。その強化もまともに成功しないし」

「ふ~ん。少し見せてみて」

「ん?まぁ、良いけど」

 

また木刀を持って魔術回路を作っていく。

回路を作った後、強化に入っていく。

 

同調(トレース)開始(オン)

「基本骨子、解明」

「構成材質、解明」

「基本骨子、変更」

「構成材質、変更」

全行程(トレース)完了(オフ)

 

そうして木刀を強化した。

だが、すぐに元の材質に戻ってしまった。

 

「あちゃあーー。また失敗したか」

「ねぇ、シロウ」

「なんだ?」

 

イリヤは今まで見なかった、怒った顔をしていた。

 

「毎回、魔術回路を作ってるの。それはキリツグにそうしろと言われたの?」

「あ、ああ。そうだけど」

「そう」

 

声には怒りが滲み出ていた。

どこか声がかけづらい。

 

「な、なぁイリヤ……」

「シロウ。今日は休みなさい。明日からは私がちゃんとした魔術を教えるわ」

「え?でも、イリヤ」

「シロウ、私も今日は疲れたから眠るわ」

 

イリヤはそう言って、土蔵を去っていった。

 




因みに学校に行った場合
屋上で話そうと言われて、屋上に行った所で不意打ち食らって聖杯戦争の記憶をぶっこ抜かれます。
理由は妹の為。
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