魔女達のアフリカ戦線―食後のデザートアイ―   作:ここの色。

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――砂漠に挑み、砂地に井戸――

 灼度の熱風を撫でるように大空に翼は羽ばたく。気の遠くなりそうなほどの速度で。

 ……マルセイユたち一行は最寄りの集落を目指して飛行していた。

 ウィッチがウィッチたる所以の動力機関、『魔導エンジン』の少しけたたましい音が鳴り渡る。

 最寄りといっても、ここは広大な砂漠である。どれくらいのものか距離感はイマイチ掴めない。

 さらに、こうして高速で飛んでいてもほとんど変わらない周りの景色。

 これが何よりも面倒だった。自分と、大地との相対速度を簡単に見失ってしまうというわけだ。

 そして。

「いやっはー!」

 ……完全に自身をも見失っているウィッチがいた。

 空戦を行うウィッチのための航空用ストライカーユニット『P-51』を駆るリベリオン国の出自<リベリアン>、シャーリーだった。

「……遅いよマルセイユ!!」

 かろうじてそういう声がマルセイユの耳に届いたのであったが、実際、彼女は『固有魔法』である『超加速』の素養を持っているのだ。

 いうならば、遅いことに我慢ができない性質。

 シャーリーはスピード狂でもある。

「いいだろう」

 マルセイユも速さには多少の心得がある。それでいてマルセイユのウィッチとしての『使い魔』は鷲である。

 ウィッチたちは使い魔と契約を結ぶことにより、魔力を借りて運用することができる。

 そしてその状況により、使い魔に合わせた『耳』と『尾』がそれぞれ身体の特定の部位に生えてくるのだった。

 ただ、マルセイユのものはウィッチの象徴としては珍しい鳥類のそれなのだ。

 耳の位置に鷲の翼のそれがくっきりと備わっているのがその証拠だ。

「お……来たか」

 一気にシャーリーとの距離を縮め、マルセイユは彼女を出し抜く寸前にまで追い詰める。

 だが。

「残念だったねー!!」

 シャーリーはまるで歯車のレシオを切り替えるかのように多段的に強くなるその加速で、マルセイユをあしらっていく。

 まるで脱兎のような。そんなウサギを使い魔に持つシャーリーの速さもまた並大抵のものではない。

「……どうやら本気を出さなければならないようだな」

 そんな拍子に思わず、マルセイユのストライカーユニット『BF-109F/trop』黄の14号機が小刻みにほくそ笑んだ気がした。

 ……面白い。

 ストライカーの魔導エンジンにぎりぎり、と軋むような力が篭ってくるのがわかる。

「待ってよぉぉぉぉぉ!!」

 突如として起こった甲高い叫び。

 遠くの方でシャーリーの推進が止まっていた。

 マルセイユが振り返ると、砂の粒のように小さくなったルッキーニたちが望めた。

 ……私たちは少しばかり先走ってしまったのだろうか、そう感じるマルセイユだったが。

「確か集落はこの辺だと言っていたよ、ティナ」

 後方からライーサが、やっとこさ追いついたような風体でマルセイユの肩に手を置く。

「詳しい地図はケイが持っているから、ちゃんと待たないと」

 何分前に通りすぎたような遙か彼方から、ケイたちの装甲車がこちらに向かっているのが見えた。

 

   *

 

「オアシスはこの辺りにはない……だって!?」

 集落に着いたマルセイユ達を待っていたのは。意外な一言だった。

「あぁ、そうだよ」

 これがまた実に簡単に答えられてしまった。

「……つまり、地図に描かれたオアシスは移動性のそれで、今はもうなくなっちゃってるってことですか?」

 黒髪に扶桑特有の装束を来た少女、まだ日の浅い曹長であるウィッチ……稲垣真美が砂漠の民に食いついていた。

「想定外だね」

 シャーリーは頭をぽりぽり、と掻きながら残った左手で「まいったね」のジェスチャーをとった。

「そのようだな」

 これはマルセイユたちにとって全くの想定外だった。だが、よく考えてもみれば水源がなくなることなど、ここでは予測の範疇に収まる話だったのかもしれない。

「えぇー! どーゆーこと!」

「結局……ここにも水はないってことよ、ルッキーニ」

 ケイもまた、呆れた顔で肩を落としている。

 ……仕方がない。

「何か各自、君たちから提案はあるか?」

「……ないね」

「ない」

 反応を特に期待してはいなかったが。こう言われてしまっては厳しいものがある。

「うぇぇぇ、どうすんのさ~!」

 軽く絶望したのかルッキーニがしゃがみ込んで地面をばしばし、と掘るように叩きはじめた。

「!?」

 それを見たマルセイユの頭にひとつ、閃くものがあった。

 ……どうしてすぐに気づかなかったのか。

「考えてもみれば、オアシスがなくても井戸さえあればいいじゃないか!!」

『!!』

 ウィッチたちに動揺が走った。

 いつも物資を補給に頼っているウィッチである。現地の様式を理解してなかっただけなのだ。

 コロンブスの卵……というか、ただ思いつかなかっただけの。

「そうだ……水が出るならばなんでもいい、生活井戸のようなものくらいあるはずだよ」

 シャーリーが飛び跳ねるような勢いで住人を問い詰め始めた。

 まさに水を得た魚である。もしや相当に喉でも乾いていたのか。

 そして。

「……聞かれなかったから答えなかっただけってなんだよ!」

 どうやら井戸ならちゃんとこの地に現存していたようだ。

 

   *

 

「で。……その井戸はこうして枯れているわけだ」

 もう勘弁してくれといった感じで、ライーサはぐったりとした目つきだった。

 気持ちはわかる。

「あんんんんの野郎っ!! あたしたちを騙したなー!!」

 沈み始めた夕日の方向を向いてシャーリーが、お湯もないのに沸騰していた。

 ……気持ちはわかる。

「しかし騙したというのは語弊があるな。これは『一杯食わされた』といったところだよ」

 マルセイユたちは既に干からびてしまっている井戸の跡を眼前にしている。

 周りを焼きレンガでご丁寧にも囲ってあったが、しかしそこには水はない。

「え、ごはん? どこに?」

 キョロキョロ、と周囲を見渡すルッキーニ。だが当然のようにそんなものなど用意されてはいない。

「なあ聞いてくれマルセイユ」

「なんだシャーリー」

「ぶっぱなしていいか? ……これ」

 張り詰めた面持ちのシャーリーの右掌に握られていたのは、手榴弾。そしてさらに足元に転がっているのが、爆薬の類。

 ケイの乗りつけた装甲車から引っ張ってきたようだ。

「やめなよ」

「いやだってさ……ごめん、悪かった」

 全く、シャーリーときたら……。

 それにしても危険なことをやろうとするものだ。だが、そんなことを許してしまったら今度は大変なことになるのだ。

 ウィッチとしての最低限のマナーとしては。

 マルセイユはしばらくそんなことを思っていたのだが。

「どーん!」

 激震。

 ……急に、また突然に、かなりの広大な範囲で爆音が鳴り響いた。

 地面が揺れるほどの激しい『何か』が起こったのだ。

 衝撃によりウィッチたちの足がすくんでしまっている。

「なんだ!? 敵襲か!!」

「いや……違うわ」

 ケイの指差す先。

 もくもく、とした砂煙でぼやけていて視認はできないが、そこには笑いながらぽいぽいと何かを井戸に放り込むルッキーニのシルエットがあった。

 投げ込んでいるのは……さっきの爆薬か。

 

   *

 

「よしきたっ!」

「何も来ないよ!」

 シャーリーの高い位置からの素早い手刀が、ピンポイントでルッキーニのつむじ辺りへ正確に振り下ろされた。

 

 

 

 ……高低差である。

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